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アタック・オブ・ザ・メガディエーター!

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アタック・オブ・ザ・メガディエーター!

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【十 迫り来る歯列】

 空中展望塔の最上層では、テノーリオとミカエラが発見した、工事用の作業員通路への避難誘導が始まっていた。
 この避難誘導作業には、最上層に居たコントラクターが全員参加しているのだが、矢張り司令塔となっているのは、作業員通路の全貌を把握しているトマスであった。
 塔の外からは、立て続けに爆音が鳴り響いてきている。空中戦を挑んでいるコントラクター達が、決死の思いでメガディエーターの接近を阻んでくれているのだろう。
 であれば、塔内部で避難誘導を勧めるトマス達も、最大限に努力して、人々を安全且つ迅速に脱出させるのが務めであった。
 作業員通路へは、貫島エレベータホール脇の従業員通路から入ることが出来る。トマスは、その貫島エレベータホールに陣取って指揮していた。
 と、そこへ鴉とサクラが若干困った様子で近づいてきた。
「すまんトマス、ちょっと良いか?」
「ん? 何か問題かい?」
「問題っちゃあ問題かな」
 曰く、一部の子供達がすっかりサクラになついてしまっており、どうしてもサクラと一緒に脱出したいといって聞かないそうである。
 少々仲良くなり過ぎたかな、と頭を掻くサクラだったが、地球の一般人とコントラクターが垣根を越えて親しくなること自体は、決して問題ではない。むしろ歓迎されるべき絆の誕生といって良い。
 ただ今回に限っていえば、その新たな友情の芽生えが障害になりつつあるという、皮肉な状況であった。
 どうしたものかと思案しているトマスだが、子敬がにこにこと機嫌良さそうに口を挟む。
「良いじゃありませんか、サクラさんにはそのお子さん達を連れて行って頂きましょう」
 ここで鴉が心配していたのは、サクラが抜けることで人手不足になるのでは、という危惧であったが、誘導の為にこれから作業員通路に入ろうとしていたテノーリオが大きく笑って、その不安を一蹴した。
「大丈夫だって。トマスと先生がしっかり人員割り振りやってくれっから、サクラさんにはお子さん達を無事に地上まで連れて行ってもらえば良いさ。それも立派な、コントラクターとしての役目だろう」
 このテノーリオの台詞が決め手となった。
 かくしてサクラは、なついている子供達を連れて、先に展望塔から脱出する運びとなった。

 一方、上部第二層でも、あれだけ酷く混乱していた観光客達が、再び落ち着きを取り戻し始めていた。
 矢張り現実的な脱出路が確保出来、既に避難誘導が始まっている事実が周知されたのが、大きな威力を発揮したと見るべきであろう。
 明日香と永太はほっと胸を撫で下ろしていた。あのまま大パニックが続けば、脱出もままならなくなるのではないかという不安が強かったからだ。
 誘導の方も、白竜、キリエ、セラータ、そして翔太といった面々が、手際良く進めてくれている。このまま順調にいけば、三十分もしないうちに、上部第二層内のほぼ全員が地上に出ることが出来るだろう。
 するとそこへ、リカインが観光客達とすれ違う格好で、非常階段を駆け下りてきた。
「あぁ、居た居た。探してたんだ」
 リカインに声をかけられた明日香と永太は、思わず互いの顔を見合わせた。わざわざ自分達を探しに来た意図が理解出来ないのである。
 だが、その疑問はすぐに解消された。
「ちょっと人手が足りないのよ。作業員通路の話は、聞いてるでしょ?」
 曰く、暗くて長い作業員通路の中は、一般人たる観光客達にとっては非常に大きな不安を煽るらしく、中には恐怖で立ち止まり、そのままうずくまってしまう子供やお年寄りなども多く見られるという。
 そういう人々の為に、支えになれそうなコントラクターを投入する必要がある、というのが、トマスがリカインに伝えた指示の内容であった。
 なるほど、と明日香は頷いた。そういう役目なら、自分には適切であると思ったのだ。
「それではぁ、早速参りましょう〜」
 メイド服のスカートの裾を翻しながら、明日香は妙に張り切った調子で非常階段方向に駆けてゆく。その後を永太が慌てて追った。
「あぁ〜、ちょっと待ってください〜。私も行きますから〜」
 走り去る明日香と永太を見送ってから、リカインは次に避難誘導に当たっている白竜の元へと走った。
「ね、下との非常階段は、もう使えるんでしょ?」
「えぇ、既に避難誘導が始まっています」
「ありがと、ちょっと下に向かうわね」
 どういう意図でリカインが下部第三層に向かおうとしているのか理解出来ない白竜に、リカインは僅かに苦笑を漏らしながら説明を加えた。
 つまり、未だ大混乱が収まらない最下層に赴き、自らの声を張り上げて、観光客達の意識をメガディエーターの恐怖から、リカイン自身に向けさせようというのである。
 成功するかどうかは分からないが、何もしないよりは遥かにマシであろう。
 そこへ、リカインの台詞を小耳に挟んでいたキリエが顔を突っ込んできた。
「そういうことでしたら、私もご一緒しましょう。下の状況は相当に酷いと聞いています。ここはもう、白竜さん達にお任せしておけば大丈夫でしょうからね」
 かくして、キリエがリカインに同行することとなった。

     * * *

 一方、雲海を遥か下方に望む大空では、メガディエーターがいよいよその巨大な顎を上下に開いて、今にも空中展望塔に第二の攻撃を加えようとしているところであった。
「えぇい、畜生! 全然進路を変えようとしやがらねぇ!」
 マイアの操縦する小型飛空艇のタンデムシートで、昌毅は面に苛立ちの色を浮かべて悪態をついた。
 傍らを併走する宵一とヨルディアのペアも、一向に効果をあげない陽動攻撃に、落胆と疲れを見せるようになっていた。
「俺達の攻撃力じゃまるで効き目が無いってことか……」
「そう……ですわね。イコンを撃墜し得るというヴォルケーノ搭載の火器ですら、致命傷を与えるには至らない程ですから」
 ヨルディアが悔しそうに応じる。
 ひとことでいえば、完全に火力不足だったのだ。あれだけの巨大な怪物を相手に回すのであれば、少なくともイコンと対等に戦い得るだけの戦闘力を用意しなければ、どうにもならないというのが現実であった。
 だが、諦める訳にはいかない。戦う意志を失った瞬間に、ひとは、敗北者となるのだ。
「そう……まだ、戦いは終わっていないわ」
 不意に、後方から声をかけられた。四人が慌てて振り向くと、そこに二頭のペガサスが大きな翼をはためかせて飛翔している。
 その二頭の鞍上では、リネンとフェイミィの精悍なる美貌が、厳しい表情で背筋を伸ばしていた。
 鋭い目つきでメガディエーターを凝視するリネンだが、傍らのフェイミィはやれやれと小さく肩を竦める。
「あのなリネン……もう分かってると思うが、さっきみてぇな特攻はもう通用しないと思っておけよ」
「……分かってる」
 これまで多くのコントラクター達が仕掛けてきた攻撃の結果を見れば、その理論は一目瞭然である。
 リネンとて、ただの突撃馬鹿ではない。相手に合わせた戦法を取るのも、対イコン戦では必須の技量であると考えていた。
 実際のところ、リネンは既に何名かのコントラクターに声をかけていた。彼女の呼びかけに応じて参集したのは、満夜、ミハエル、クリアンサ、レイチェルといった面々であった。
「それで……どのような作戦でいくつもりですか?」
 満夜の問いかけに、リネンは手にした魔剣ユーベルキャリバーの切っ先を、とある一点に向けて差し出した。その延長線上にあるのは、メガディエーターの無機質な程に感情の色が見られない、漆黒の眼球であった。
「なるほど、どんな巨大な化け物でも、目をやれば動きを封じることが出来るかも知れない……という訳ですわね?」
 クリアンサの悪戯っぽい笑みに、リネンは無表情のまま小さく頷いた。
 そうと決まれば、話は早い。
 直後、総勢十名にも及ぶコントラクター集団は全速力で天空を駆け抜け、メガディエーターの右側眼球に向けて、一直線に突撃を開始した。