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アタック・オブ・ザ・メガディエーター!

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アタック・オブ・ザ・メガディエーター!

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【七 不可視の衝撃】

 クラウデッドカーテンだ、と誰かが叫んだ。
 孝明が定期的に発信してくる情報によれば、メガディエーターは体表から霧状の水蒸気を発散し、自ら巨大な雲を作り上げ、それをカムフラージュに利用して獲物との距離を詰める能力がある、との話であった。
 つまり、浮島地上部で急激な霧の発生に首を傾げていたマクスウェルの疑問は即ち、このクラウデッドカーテンがその原因だったのである。
 いい換えれば、不自然な霧や雲の発生はメガディエーターの接近を意味する、ということになる。
 勿論、接近してきている事実は分かっても、これだけ濃度の高い乳白色のカーテンの中では、どの方角、どの距離から迫ってくるのかについては、まるで予測が立たない。
 唯一逃げ延びる方法があるとすれば、メガディエーターに発見される前に、この人工の雲或いは霧の中から脱出する以外に無い。
 しかし、塔内に足止めを喰らっている人々にとっては、最早どうにもならない段階であった。メガディエーターが接近してきたところで、逃げ場が無いのである。
「ええい、クソ! 結局ここまで接近させちまったのかよ!」
 小型飛空艇のタンデムシートで、斎賀 昌毅(さいが・まさき)は悔しそうに悪態をついた。操縦するのはパートナーのマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)
 昌毅は攻撃に専念する為、小型飛空艇の操縦は全てマイアに任せ切りにしていた。そのマイアは、浮島の南側を旋回するコースを辿りながら、メガディエーターの進路を慎重に見極めようとしている。
 ふたりは、なるべくメガディエーターを浮島から引き離し、空中展望塔に被害が及ばない空域で戦闘を仕掛けようと考えていたのだが、思いのほかメガディエーター捜索に手間を要し、結局、敵を浮島に近づけさせてしまったのである。
 だが、こればっかりは遭遇しないことにはどうしようもない。ましてやメガディエーターにはクラウデッドカーテンというカムフラージュ能力までが搭載されていたのである。そうそうこちらの思うようにばかり、事は運ばないと考えるしか無かった。
「マイア、とにかく奴に近づこう。展望塔から引き離すにしても、こう遠くちゃ陽動も出来ん」
「了解!」
 操縦桿を徐々に切り、機首を浮島に向ける。だがこのふたりよりも早く、メガディエーターに接近する姿があった。
 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)のペアである。
 このふたりも昌毅達と同様、一台の小型飛空艇にタンデム機乗しているのだが、宵一達の場合、攻撃はヨルディアが担当し、宵一が操縦を担当していた。
「お先!」
 宵一が左手でサムアップの仕草を見せて、マイアの小型飛空艇の前を猛スピードで横切っていった。さすがにマイアもすぐに転進出来ず、宵一の後ろにつくしか方法が無かったものの、前方を行く宵一のタンデムシートから、ヨルディアが上体を捻って手を振ってきた。
「恐らく、わたくし達の攻撃だけでは火力不足です! 恐れ入りますが、波状攻撃の程、宜しくお願い致しますわ!」
 なるほど、と昌毅は小さく頷いた。
 あれだけの巨躯を誇る化け物である。単体での攻撃では連続性に乏しく、ほとんど焼け石に水のようなものであろう。
 だが、二台の小型飛空艇による波状攻撃ともなれば、幾ばくかの効果は得られそうである。
 昌毅がオーケーの合図を手信号で送ると、バックミラーでその様子を眺めていたのだろう、宵一が再び左腕を大きく伸ばして、サムアップの仕草を見せた。宜しく頼む、という意味であろう。

 一方、空中展望塔側では、接近する巨影を認めた直後から外壁付近の動きが慌ただしくなってきている。
 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)はコントラクターにしては珍しく、空中展望塔のスタッフとして働いていた。スタッフとはいっても警備員であるから、この手の不測の事態に対処する役柄としては、うってつけといえなくもない。
 マーゼンは他のコントラクター達によるメガディエーター迎撃が不首尾に終わった場合に備え、パートナーである早見 涼子(はやみ・りょうこ)の小型飛空艇ヘリファルテを空中魚雷に見立てて、メガディエーターにぶつける作戦を考えていた。
 ヘリファルテに爆弾と時限装置を取り付けるのは、本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)の役目である。
 マーゼンとしては、このヘリファルテ突撃自爆攻撃は最終防衛ラインであると位置づけていたのであるが、こうも早く、メガディエーターが接近してきたとあっては、最早猶予は無いといって良い。
「……もうこれ以上の接近は、致命的な一撃を浴びる可能性が高いですかな」
 空飛ぶ箒の上で直立不動の姿勢のまま、さほど表情を変えずに、マーゼンは左手を高々と掲げた。
 すると、その脇からヘリファルテに搭乗した涼子が決死の覚悟を決めた面持ちで、マーゼンの前へと進み出てきた。同じく反対側からは飛鳥が空飛ぶ箒に跨って、丁度涼子とはマーゼンを挟んで反対側の位置につけた。
 マーゼンが、左手を前方に押し出す。するとその仕草を合図として、涼子と飛鳥が同時に滑空を開始した。その直後に、マーゼン自身も箒を操ってふたりの後をぴたりと追走する。
 三人が狙うのは、メガディエーターの口腔内部。あの巨大な牙の列の間に、爆弾を仕掛けたヘリファルテを自動操縦で送り込もうというのだ。
 マーゼンと飛鳥はやや上方に軌道を修正し、涼子はそのまま正面へと突っ込む。後はこのまま、マーゼンと飛鳥が攻撃を続けて注意を引きつけ、涼子が離脱したヘリファルテがメガディエーターの口腔内で爆発を起こせば仕留められる、という筋書きだった。
 ところが、マーゼンが描いていたシナリオはその直後、完全に瓦解した。

 突然、三人の全身が粉々に砕け散るのではないかという程の目に見えない凄まじい衝撃が、正面から襲ってきたのである。
 後で知ったことだが、メガディエーターは鼻先に当たる部位から、鯨と同じ原理で超音波を発する機能をそなえていたらしい。もちろん、ホホジロザメやメガロドンにはそのような超音波機能はない。恐らくは、メガディエーターの開発者が独自に組み込んだのであろう。
 この鯨式超音波は、通常ではソナーとしての役割を果たすのであるが、射出範囲を極端に狭めてビーム状に収束させることで、強大な破壊力を誇る衝撃波にもなる。
 実際、現実のマッコウクジラやシャチなどといった海洋生物は、この超音波による衝撃波で獲物を気絶させて食事にありつく、という生態が観測されている。
 そしてメガディエーターも、全く同じ攻撃方法で正面に迫るマーゼン達に手痛い一撃を食らわせてきた、というのである。
 迂闊であった、といわざるを得ない。
 よくよく考えれば、鮫の鼻先部分は通常では弱点と呼ばれている箇所なのである。その鼻先を空中展望塔にぶつけて、あれだけの破壊力で外壁を叩き割るなど、普通に考えればあり得ない話であった。
 むしろ、それ以外の物理的な攻撃方法があってしかるべき、と考えなければならなかったのである。だがその攻撃方法が、鯨式超音波であろうなどとは、さすがに誰も思いつきはしなかったであろう。
 そういう意味では、マーゼンの失敗は情状酌量の余地がある。
 いずれにせよ、マーゼン達三人は膨大なまでの破壊力を秘めた超音波を全身に喰らい、自分ではどうにもならない程のダメージを受けて、箒や飛空艇ごと宙空をまっさかさまに堕ちてゆく。
 そのまま放っておけば、三人は遥か数千メートル下の海面に叩きつけられ、哀れ海の藻屑と化すところであったが、ここが対メガディエーター戦の戦場であることが幸いした。
 メガディエーターを追って空中展望塔付近に引き返してきていたクリアンサ・エスパーニャン(くりあんさ・えすぱーにゃん)レイチェル・スターリング(れいちぇる・すたーりんぐ)が、落下中の三人を上手く拾い上げてくれたのである。
 厳密にいえば、レイチェルの駆るガーゴイルの巨体が、マーゼン達を受け止めたというのが正解であろう。
「た、助かりました……礼をいいます」
「こういう時はお互い様ですわ……それよりも、良いものを見させて頂きましたわ。まさかあの鮫、あんな飛び道具を使うなんて、予想外でしたわね」
 光る箒の上で上品に座るクリアンサだが、その渋い表情は優雅という印象とは随分かけ離れている。
「でもよくよく考えたら、鮫の鼻先に分厚い外壁を貫くだけの破壊力なんて、ありっこないよね……ってことはさぁ、下手に顔近くには寄ってはいけないってことになるかなぁ」
 レイチェルの冷静な分析に、傍らのマーゼンは面目ないとばかりに頭を掻いた。

 マーゼン達の失敗を見ていたのかどうか。
 同じく空中展望塔防衛組のひとりである銀星 七緒(ぎんせい・ななお)は、ヘリファルテ上からパートナー達の出撃の様子を、若干緊張した様子で眺めていた。
 だが、直接メガディエーターと対する七緒のパートナー達はといえば、気合十分で戦闘態勢に入ろうとしている。
「敵機確認、『ビクティムナンバーズ』は直ちに戦闘態勢に移行せよ!」
 ビクティム・ヴァイパー(びくてぃむ・う゛ぁいぱー)の指示を受け、浮島地上部にて竜型の大型パワーローダーを駆って待機していたルーライル・グルーオン(るーらいる・ぐるーおん)が、カタパルトから戦闘パーツを射出した。
 これを受けて、パルフィオ・フォトン(ぱるふぃお・ふぉとん)が剥がれ落ちた外壁の穴の中から飛び出してきた。
「バトルッ! コンッバアァァァァッジョンッ!!」
 合体の態勢に入る。パルフィオはルーライルが射出したふたつの戦闘用パーツを装着して、初めて戦闘可能になるよう設計されているらしい。
 だが、この時ばかりはその設計が凶と出た。
 相手は闘争本能と反射神経の塊のような怪物なのである。パルフィオが合体を完了するまで呑気に待ってくれるような隙は与えてくれない。
 矢張り、マーゼン達の時と同様、ビーム状に放たれた衝撃波が音速で飛来し、一瞬でパルフィオの意識が消し飛んでしまった。
「あぁ! パルフィオ!」
 七緒が悲鳴をあげて、ヘリファルテの機首を落下してゆくパルフィオへと向ける。追いつくのに多少の時間がかかったが、何とかパルフィオの海面への激突を未然に防ぐことが出来た。
 その一方で、ビクティムが悔しそうに奥歯をぎりりと慣らした。
「むむ……我ら最後の砦がこうもあっさり崩されるとは。どうやら、まだ改良の余地があるみたいですね」
 いや、この場合、単純に相手が悪かっただけであろう。