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廃墟の子供たち

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廃墟の子供たち

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5つかの間の休戦


「損傷は何機だ?」
「2機が行方不明です」
「偵察で思わぬ損失だが、」
 だが、パイオンは言葉と裏腹に上機嫌だ。
「援軍を待って叩き潰す良い名目ができました」
 エリュシオン側は待っていた。援軍を。



 叶 白竜(よう・ぱいろん)は、アンズーでの地域復興に出ていたところでエリュシオンのイコン部隊と鏖殺寺院の不穏な動きを関知した。
 多くの部隊が戦闘の準備をしている。
 地図と銃型HCのデータと照らし合わせ、廃墟の確認する白竜。
 すぐさま、世 羅儀(せい・らぎ)に連絡する。
「いきなりイコンで廃墟に駆けつけたりせず、少し離れた場所で様子を見た方がいいな…羅儀、廃墟を探ってくれないか」
 白竜は、子供達を守りたいと思う一方でエリュシオンとここで大きな戦闘も起こせないと思っている。
「子供達の恨みを買ってでも寺院関係者をエリュシオンに引き渡して撤退してもらうことも仕方がないと考える。そういう役目も国軍が負うべき役割と考えている」
 羅儀を廃墟に送った白竜はエリュシオンを目指す。


 国頭 武尊(くにがみ・たける)は、トラック型イコン、出魂斗羅を走らせている。はるか前方に、孤児たちのいる廃墟が見えてきた。
「まだ、無事だな!」
 武尊の乗ったトラックは大きく右に方向をかえた。前にあるのは、パイオンのいる陣営地だ。
「撃つなよ!話し合いに来ただけだ!」
 陣営地から打ち出される砲弾を右に左に避けながら、武尊は叫んだ。
 銃撃が止まる。
 パイオンが銃撃を制したのだ。
「隊長、信じるのですか」
 訝しがる退院に、
「話し合いで済むのなら、我々も望むところです。これ以上、むやみに戦う意味もありません。我々の目的は異なるのですから」
 武尊の乗るトラックは、陣営テント前で停止し、降りてきた武尊はそのままパイオンのもとに通された。
「ちょっと聞きたいんだ」
 武尊は、歩きながらパイオンに詰め寄る。
「オレの記憶が確かなら、キマクや大荒野の治安維持担当は恐竜騎士団(パラ実風紀委員会)だった筈。勝手な真似をされるのはちょっと面白くないんだよ。何か理由あんのか?」
「もちろんです」
「廃墟には孤児院が有るだけで、子供と管理人ぐらいしか住んでいない。攻撃するような場所じゃないんだ。なんか穏便にできないのか」
 パイオンは腕組みをして、武尊の顔を暫く眺めてから、はっきりとした口調で返答した。
「出来ます。彼らを引き渡してください。攻撃はやめます」
 今度は武尊が、パイオンの顔を凝視した。
「で、やつらは何を持ってるんだ?」

 この情報は、同じパラ実風紀委員会のナガンにテレパシーで伝えられた。
「何を持ってるんだ?」
 ナガンの顔が険しく歪む。


 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)がエリュシオン軍にやってきたのは、そのすぐ後だ。
 出雲 カズマ(いずも・かずま)と共に、イコン、アイオリアに搭乗している。
「今日は客人が多いな」
 地球化兵のエントマは、苦笑いをする。
「情報戦なら我々も得意だよ、やつがどんな話を持ってきたのか」
 エントマは兵に指図をする。
「通せ」
 レオがやってきた。
 華奢なレオは怯えている…ようにパイオンにはみえた。
 しかし。
「間違ってるよ!」
 レオはパイオンを見るなり叫ぶ。重ねて、
「エリュシオン帝国の横暴、鏖殺寺院の勝手で無関係の人間が巻き込まれるのはゴメンだ。ここはシャンバラだ。出ていってもらうよ」
「犯罪者を追っているだけです」
 パイオンはレオの剣幕を面白がっているようだ。
「我々の目的は、犯罪者を捕らえることだけです。引き渡してくれれば交戦はしません」
「そんなの、領土侵犯した言い訳になってないよ」
「領土侵犯ではありません」
 いつのまにか、兵がレオを取り囲んでいる。
「戻って仲間に伝えてください。鏖殺寺院の残党を引き渡さない限りどこまでも追うと」


「行くぞレオ、とっとと指揮官潰してケリをつけようぜ!」
 カズマがアイオリアで駆けつける。乗り込むレオ。
 しかし、アイオリアの周囲をヴァラヌスが囲んでいる。

 廃墟から、ジョーンズとイングヴァルのシュメッターリングが飛び出してくる。
「駄目だ!」
 イーグリットで廃墟を守るように、近づいてくるヴァラヌスに射撃を繰り返していたアンヴァルに搭乗する黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)は叫ぶ。
 シュメッターリングがあぶり出てくることを予測してたかのように、これまでとは違う集中攻撃を仕掛けてくる。
 「出てきちゃ駄目だ!」、
 竜斗は叫再び叫ぶ。
 サブパイロットユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)は、高速移動を繰り返し、ヴァラヌスの攻撃がシュメッターリングに当たらないよう援護する。
 向かってくる敵に、改造ビームキャノンを撃つイングヴァル。
 しかし、簡単に避けられてしまう。
「自殺行為だ!」
「ユリナ、援護だ」
 竜斗はイングヴァルを狙うヴァラヌスを狙って、攻撃を繰り返す。
 地上に土煙が起こる。
 バイクが疾走してくる。運転しているのはプラチナム。後部にいるのは、モロゾフだ。
「援護を!」
 プラチナムの言葉に、竜斗はバイクを追ってくるヴァラヌスに標的を合わせる。
「モロゾフ!生きていたのか!」
 イーグリットは絞り出すように声をあげた。
「戻ってくれ!」
 三人の追われる兵が一箇所に集まってしまうことに竜斗は恐ろしさを感じている。
 そのとき、廃墟から一斉にイコンが飛び出した。
 ヴァラヌスは、その姿を見て、雲が割れるように一瞬で後方の砂塵のなかに姿を消す。
「一時撤退!」
 命令が下ったのだ。