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廃墟の子供たち

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廃墟の子供たち

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3追跡者

「人のいない廃墟だと思っていましたが…」
 廃墟を見張るエリュシオンの兵は、続々と人が集まっていることをパイオンに報告した。
「中に何かありそうです」
「これ以上待つと、面倒なことになるぞ」
「ふむ。反乱分子が潜んでいるようですね」
「……であれば、圧倒的な兵力で、完膚なきまで叩き潰す!」
 パイオンのパートナー、地球化兵のエントマは既に戦闘準備を始めている。


 隊長機の格闘性能を上げたヤークトヴァラヌスと10機のヴァラヌスが戦闘準備に入る。
「まずは偵察だな、相手の人数を調べよう」
 エントマにやにや薄ら笑いを浮かべ、廃墟に向かい一機のヴァラヌスを走らせた。
「脅かしてこい!」




 廃墟に弾丸が飛んでくる。弾は、廃墟すれすれの大木に当たり裂けた枝が廃墟にぶつかる。
 廃墟に伝わる衝撃に、
「始まったか」
 駆けつけた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、早速イコンに向かう。

 乗り込みながら。
「勝っても負けても此処を早々に引き払って別の場所へ越さないといけないだろう。戦闘が始まれば、やつらはここをつぶしに来る」
 同じく戦闘準備をしているナガンに大声を上げる。
「ああ、ここから脱出する手段も考えねーとなぁ」
 爆音が響くこの戦地から、どうやって子ども達を安全に移動させるのか。
「いまさらジョーンズを差し出しても口封じで一緒に消されるのは目に見えている。エリュシオンを倒すしか生き残る道はないのか」
 小次郎は、パートナーのリース・バーロット(りーす・ばーろっと)と共に龍神丸を発動させる。



 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、子どもたちを廃墟奥の強固な場所に誘導していた。
「また戦争か!」
 孤児の一人、アキラが吐き捨てるようにいう。
「早く終わらせる努力をしましょう」
 ロザリンドは大きな紙を広げる。
「ここの周辺の地図や地形、目印なんかを記入してください。相手の進行ルート、もしものときに退避に役立つと役立つと思うのです」
 チエが心配そうにロザリンドを見つめる。
「また、逃げるの?」
「もしものときのためです、心配しないでください」
 ロザリンドは笑顔でチエを励ますが、内心は違う。戦闘が激化すればここにはいられない。
 エアロがいつも身につけているバッグから色鉛筆を取り出した。かつて貰った色鉛筆は短くなっている。
「地図、書けるよ、ね?」
 エアロは器用に地図の真ん中に自分たちの村を書いた。
「あたしたちが知ってるのは、本当に少しなんだ。」
 レッテはその紙に、大岩や潅木を書き込む。

 ルカルカは、そっとロザリンドに目配せした。ロザリンドは、レッテとアキラに小さく折った紙を渡す。それを見て立ち上がる二人。
 地図作りに熱中する子どもたちから、二人は離れ、部屋の隅にきた。ルカルカも一緒だ。
「ここにはもう住めないと思うの。つらい決断だけど、避難する必要があるわ」
 二人の子どもはぎゅっと唇を噛む。
「分かってる」
 小声でレッテが呟く。
 頷くルカルカ。

 ルカルカは、そのまま、この孤児院の管理人であるナガンのところに行った。
「避難する必要があると思うの。私はここを抜け出して、避難先と食料を確保に行くわ」


 アキラは、狼煙を上げた。
 王や契約者に差し迫った危機を知らせる暗号だ。


4戦い

 最初に向かった偵察機から、エリュシオンの隊長、パイオンに連絡が入る。
「現存の戦力でまず奴らの力を確かめる。遺跡を攻撃せよ」
 残った9機と隊長機が、一斉に発進しようとしたとき、一本の無線が入る。
「天御柱学院の笹井という男からです。緊急の用件だそうで」
 エリュシオンからの無線だ。
 「流せ!」
 笹井 昇(ささい・のぼる)の声が、隊長パイオンのヤークトヴァラヌスに転送される。
「隊長が鏖殺寺院の残党を追って、古王国時代の巨大な建築物を破壊するという情報が流れています。逸れについて私のほうで情報を持っています」
「よし、話せ」
「遺跡内に未成年の民間人がおります。鏖殺寺院の残党は、テロリストであり、憎むべき犯罪者です。追撃するのは当然だと。しかし、民間人の安全の確保してもらいたい。遺跡内を戦場とするのはやめていただきたい。武人として誇りある対応をお願いする」
「遺跡についての情報はあるのか」
「言えば、民間人を殺傷しないと約束しますか」
「当然だ」
「廃墟の深層には光が届き、広大な土地が…」
「分かった」
 パイオンは言葉を切った。
「無駄に遺跡を壊したりはしない。約束する」
 ここで通信は途絶えた。

 デビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)は、天御柱学院内で昇の会話を聞いていた。
「一安心だ」
 安堵する昇をせきたてるように、
「よし、行くぞ!」
と立ち上がる。
「どこに」
「大荒野だよ、まったく大人の喧嘩にガキまで巻き込んでんじゃねぇ。寺院の屑どもが、遺跡に逃げ込んだことだろう。世事に疎いガキの心情に漬け込むような真似しやがって…調子のいいこと言ってんじゃねぇよ」
 怒りで言葉尻がきつくなる。
「ぶっとばしてやらなきゃ気がすまねぇ。エリシュオン機も寺院機も、イーグリットのIFF(敵味方識別装置)では、どっちも識別はエネミーだからな。両方まとめて、ぶっ飛ばす」
「落ち着け。私がエリシュオン機を撃墜したら、先ほどの約束も反故になる。まずは、寺院の残党が廃墟を出るよう祈るだけだ」


「隊長、遺跡の襲撃は中止ですか?」
「古王国時代の巨大な建築物…わざわざ壊すこともないでしょう。民間人を巻き込めば後々禍根になる…攻撃を仕掛けて奴らをおびき出すのが得策です。」
 隊長の言葉に、エントマはさも楽しそうに指示をだした。
「さあ、一斉に攻撃だ!」

 イコンが一斉に動き出す。
 突然、前方に文字が浮かび上がった。隊長機は既に前方に進んでいる。後方にいた1機が文字に気がつき、速度を落とす。
『威崑四天王参上!』
 メモリープロジェクターで投射されたらしい文字だ。
 と、同時に、離偉漸屠キャノンがヴァラヌスに向かってやってくる。
 からくも逃げるヴァラヌス。敵機に向かってゆく。
 前方にいたのは、御弾 知恵子(みたま・ちえこ)フォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)が乗る號弩璃暴流破だ。
 再び知恵子は、離偉漸屠キャノンを撃つ。
 しかし、当たらない。弾は全く異なる方向へと飛んでいる。
 號弩璃暴流破は、ズリ、ズリッと後退する。動きがおかしい。
「照準が壊れてるのか、馬鹿な奴だ。何が参上だ!」
 ヴァラヌスに乗る兵はせせら笑い、隊列から離れて、號弩璃暴流破を目指す。
「一気に片付けてやる!」
 ヴァラヌスが接近して砲弾を撃ち込もうとしたとき、號弩璃暴流破は、一気に敵の懐に飛び込んで機龍の爪を仕込んだ歯で噛み付く。
 鈍い機械音と共に、ヴァラヌスの機体が傾く。機体が爆発する瞬間、號弩璃暴流破は後方に飛び去った。
「どうする、孤児院に行くか?ナガンや泉がいるぞ」
 小さくガッツポーズのフォルテュナは、知恵子に話しかける。
「いや、孤児院のことを気にかけてるのは内緒だよ!あたいらはただの帝国狩りさ!」
 パラ実が帝国に支配された後、知恵子は、反帝国ゲリラとして戦い続けている。
「だが、最後まで戦い抜いて、寺院の連中も生きてたら、鉄屑を持ちきれないって理由で見逃すよ」
 さあ、次だよ。
 號弩璃暴流破は、ゆっくり、前方を行く隊長機の後を追う。


 既に隊長機は廃墟近くに到達している。
 駆けつけた水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)は、魔王尊鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)と共に搭乗している。魔王尊の側にいるシュメッターリングに搭乗しているのは、ロシア人のモロゾフ、パートナーは強化人間のゴンチャロフだ。彼らは他の仲間に告げずに遺恨に搭乗し、戦闘に参加している。飛行機能が低下しているため、地上を移動している。そのシュメッターリングに敵のヴァラヌスが攻撃を仕掛ける。
「あぶない!」
 隊長機を狙っていた睡蓮は、格闘戦特化機体に接近戦は不利と少しはなれた場所から、モロゾフと共に射程ギリギリからガトリングガンを使用していた。
 シュメッターリングは打ち込まれる弾丸を避ける。が、傷ついた機体は機動力に欠け、僅かに弾丸を受けてしまう。地中にのめりこむシュメッターリング。
「チクショー!!」
 モロゾフが起き上がり、再び攻撃を仕掛けるヴァラヌスに体当たりをしようと身構えたとき、睡蓮のイコン魔王尊が、二人の間に現れた。シールドとバリアーを展開し一時的に姿を消したイコン魔王尊から、九頭切丸が敵に標準を合わせショットガンを撃つ。命中したヴァラヌスは地上に落下した。しかし、すぐに援軍が空から来る。
「モロゾフ、ここは一時撤退です」
 睡蓮は、モロゾフとゴンチャロフを援護しながら、基地に後退する。
「でも、一体何故エリュシオンはあなたたちを執拗に追うのですか?彼らも理不尽な暴力を振るうような人ではないと思いますが…」
 攻撃を仕掛けながらも、致命傷を負わせないエリュシオン、睡蓮は戦闘で感じた疑問をモロゾフにぶつける。
「助けてくれたことは感謝する。だがそれ以上の詮索は無用だ!」
 モロゾフの表情は硬い。


「もう始まったのか!」
 和泉 猛(いずみ・たける)は、前方に起こる爆風と土煙に愕然とする。
 孤児院に物資を送るつもりでへヴィーガードに乗り、孤児院に向かっていたがエリシュオンのイコン部隊が孤児院を襲おうとしていると言う情報を耳にした。
 メインパイロット、ルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)はへヴィーガードを旋回させ、爆風の中に隠れるよう、前に進む。
「どうしよう、猛さん。彼らと私達の力の差は歴然…正面から攻めても…」
 イコン同士、戦う姿が見える。
 そのなかで、地上の傷ついたイコンが集中砲火を浴びていた。
「ちきしょー、助けにいくぞ!」
「はい!」
「被弾しないよう、いいか慎重に…ってか、奴らをかき回してやる!」
 へヴィーガードは速度を上げ、イコン救出に向かう。
 間近で展開される迫力ある戦闘に、ルネの操縦桿を握る手が少し震えている。
「やっぱり怖いよ…だけど…」
 ルネの震えが止まった。
 へヴィーガードは、爆風に身を隠しながら、傷ついたイコン――モロゾフの乗るシュメッターリングを目指す。
「突っ込むぞ!」
 猛は、エリュシオンのイコン部隊の機と機の攻撃を縫うように駆け抜けた。
 一瞬の間だ。
 エリュシオンのイコン部隊との接触は紙一重で避けられた。
 下を見ると、傷ついたシュメッターリングは姿を消している。
「離れるぞ!」
 猛は、前方を見る。
 雷火がシュメッターリングを救出している。
「彼らを援護する!」
「はい!」
 ルネは、へヴィーガードを加速させた。


 モロゾフを救ったのは、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)と共に乗る荒人だ。
 狼煙を見て駆けつけた唯斗が見たのは、攻撃されるシュメッターリングだ。
「あれは、鏖殺寺院のイコン…逃げ込んだ残党のか?」
 先に駆けつけたイコンが戦闘しているなか、鏖殺寺院のイコンは集中的に攻撃を受けていた。
「来るぞ!」
 エクスが叫ぶ。
 前方の粉塵の中からイコンが飛び出し、エリュシオンのイコン部隊を割った。
 その瞬間、攻撃がやむ。
「いまだ!」
 唯斗の荒人は、近接戦闘重視のチューニングがされており、機動性、運動性、反応速度を伸ばした能力で、一気に、シュメッターリングを抱え、潅木の密集地に隠す。
「急いでくれ!」
 疾走するバイクがくる。運転するのは、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)。その後ろには、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が乗っている。
 シュメッターリングが消えた潅木地まで一気に走ってくる。
 後部シートの睡蓮が飛び降りて、コックピットを開ける。プラチナムと共に操縦桿を握ったまま動かない、パイロット、モロゾフを救出する。
 回復スキルを使う睡蓮。モロゾフの意識が戻る。
「乗ってください!」
 プラチナムは後部シートにモロゾフをのせ、睡蓮は身体が落ちないよう二人を紐で結びつけた。
 そのまま、走り去るバイク。
 唯斗は、ハッチを開けて睡蓮を載せる。
 搭乗者が三人になると、機動力にマイナスが生じる。
「いったん撤退です」
 唯斗は一連の作業が終わるまで、援護してくれたへヴィーガードに礼をすると、バイクの後を追った。



 シャンバラ教導団志方 綾乃(しかた・あやの)は、敵隊長機が孤立する瞬間を狙っていた。隊長は龍騎士のパイオン、ヤークトヴァラヌスに搭乗している。
 綾乃は、パイオンの側面が手薄になった瞬間に、
「いまです!」
 共に搭乗しているラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)に命を下した。
 ヴァラヌスの残骸3機を組み合わせて開発した三頭四足のツェルベルスは、バーストダッシュを使い、ヤークトヴァラヌスの後方に回り込む。
 綾乃は、ガトリングガンを使い弾幕を貼った。
「こんな無意味な戦い、終わらせます!」
 必殺の間合いまでつめて、攻撃を仕掛けようとしたとき、側面にパイオンの乗るヤークトヴァラヌスが見えた。
「私を倒せると思うとは」
 パイオンは、砲弾を綾乃のイコン、ツェルベルス目掛けて打つ。
 一瞬の判断で、綾乃はイコン、ツェルベルスを走らせていた。
 放たれた弾丸は、ツェルベルスをかすめ、地上に大きな砂埃を上げる。
「あははっ、死ぬかと思いましたよー …志方ないね」
「俺たちは殺してもいいんだな、お前ら」
 先ほどからの戦いで、エリュシオンは鏖殺寺院残党であるジョーンズたちを生け捕りにしようとしているように感じていた。
 先ほどのモロゾフに対する攻撃もイコンごと破壊することもできたはずだ。
「何かある。エリュシオンには鏖殺寺院残党を殺せない事情がある、それに、シャンバラに鏖殺寺院残党を渡したくない事情も!」、
「なんにせよ、戦うのみです!」
 ヤークトヴァラヌスの姿は消えている。ツェルベルスを取り囲んでいるのは、ヴァラヌスだ。


 小次郎とリースが搭乗しているイコン龍神丸は、空と地上をトリッキーに動き、相手を廃墟から遠ざけるようアサルトライフルで攻撃を繰り返している。
「これじゃ、おにごっこみたいだ」
 小次郎は現れては消える敵機に少し苛立っている。
「仕方ありませんわ。とにかく子ども達を守るために、少しでも相手のエネルギー切れを狙わないと」
「何も考えずにドンパチするのも好きなんですけれどもね」
 2機のヴァラヌスが龍神丸の周りをうろつき、攻撃をしかけていた。
 小次郎は、廃墟を背中になるよう、ヴァラヌスに回り込み、アサルトライフルを撃つ。
「消えましたわ」
 ヴァラヌスは、ライフルの煙幕が消えた場所にはいなかった。既に、遠方へと走り去っている。
「撤退ですか?」
「まさか。戦いはこれからだろう」
 小次郎はこれでエリュシオンが引き下がるとは考えていない。
「エリュシオンが本気を出す前に、子ども達を逃がさないと…」




 そのころ。
 吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は、再び攻撃がくると睨み、廃墟手前の大岩にいた。
 ここは見渡す限りのゴツゴツとした岩地で岩の間には短い潅木が生えている。
 しかしある場所は広く開けている。かつては道だったのかもしれない。
 竜司は、そこにトラッパーと破壊工作を使って機晶爆弾を仕掛けていた。
「敵が来れば面白い、こなくてもまあ…」
 竜司は岩陰にイコンを隠すと、その近くで昼寝を決め込む。