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リアクション
9別れ
さて。
廃墟に不時着した3機のうち1機は陽動作戦で爆破され、もう1機はモロゾフが乗り打ち落とされた。
もう1機残っている。
れは、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が讃岐院 顕仁と共に整備をしている。
「私も、マニュアルは入手して大まかには構造を頭に入れてますけど、鏖殺寺院のイコンの実物に触るのは初めてになります。イコン乗り兼整備士ですから、力にはなれましてよ」
ミカエラの申し出を顕仁は快く受けた。
その上で。
「このままここにおいては陽動作戦がばれてしまいます。迷彩塗装で我がトラックで運び出します」
ミカエラは既に外にいる魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)と連絡を取り隠し場所を用意しておいた。
「そのうえで、分解して汎用部品以外はトラックに収納することができるが、どうだろう。ピエロさんたち」
テノーリオは、傍らにいるピエロの一行に話しかける。
「我々には、もう不要なものだ」
「後始末は、この戦いが落ち着いてから、また考えよう。では逃げ延びてくれ」
トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)はピエロと固い握手をする。
「じゃ、行くぞ!」
声をかけたのは、ナガンだ。
化粧道具でピエロメイクさせて素顔隠しているのは、ジョーンズたちだ。
「集団でいればこそ逆に旅芸人っぽくなるだろうよ。あとは弁天屋のトラックにこっそり7人で乗り込む。ナガンも一緒だよ、ナガンいないとジャグラーとかできないだろ」
「ナガンが消えて、子ども達はどうする。誰が逃がすんだ」
トマスは、戦闘が始まってしまった以上、子ども達を逃がすことが大切だと考えている。
「大丈夫、大丈夫!ここは人材が豊富なんだよ」
「子ども達を先に逃がして欲しい」
ピエロの一人がいう。
「馬鹿言うな、最初が一番リスキーだ。いいか、ここから3台のトラックが出る。一台にはピエロの旅役者、もう一台にはピクニックに行く子ども達、もう一台には壊れたイコンがのる」
森のなかには、テノーリオのトラックを含め、三台のトラックが用意されている。
もう一台が弁天屋 菊のトラックだ。
「運転は、あたいだよ」
親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)は、ピエロに負けないド派手で既に準備を終えている。
「移動劇場に鏖殺寺院の残党を匿って出発とはねぇ、気合入れて運ぶから安心しな」
卑弥呼はピエロの顔を一人一人見ている。
「ところで芸は出来るのかい?」
ピエロの一人が、世羅儀を見つけて歩み寄った。
「あなたを信用する」
世羅儀は、自分のパートナー、白竜がエリュシオンに留まって攻撃をやめるよう話し合いをしていることを話していた。
「これをもっていけば戦闘は終わる」
鉱物の入った袋を渡す。
そこに、ジャジラッド・ボゴルがぬっと顔を出した。
「俺のに乗っていけ!あの指揮官は戦うために戦う男だ。持って行くなら本部だ」
ボゴルは羅儀を連れて姿を消す。
「トラックが逃げ落ちるまでの援護は任せてください」
ティー・ティー(てぃー・てぃー)だ。
「鉄心さんが既に大荒野に潜入して敵の動向を偵察中です。包囲の穴を見つけたら、報告があることになってます」
「逃げ延びた後は、三郎さんが住まいを用意しています。皆さん、元気で」
ティーは一人一人と握手する。
ピエロの一団は移動劇場に乗り込む。
ティーはレガートに搭乗すると、鉄心からの連絡を待った。
「ティー、南側が戦闘が激しくなっている。大鋸が頑張ってるんだ。飛行部隊はそっちに向かっている。北がチャンスだ」
源 鉄心(みなもと・てっしん)の言葉を卑弥呼に伝える。
「では、いきましょう」
「ああ、あたいの車はゆれねーよ、みんな楽しくいこう」
卑弥呼と菊が搭乗する。トラックの荷台が占められた。
「♪ 暗闇に星粒を 迷宮に導きを…」
戦場にティの歌声が響く。トリケラトプスはティの歌声が聞こえると怯えたように足を止めた。
「今です!」
トラックは全速力で走りぬける。
孤児達は、泉 椿のトラック・特攻天女に乗っている。地図を持ったロザリンド・セリナが一緒だ。
「これからピクニックに行くよ」
「ああ!」
それぞれリックサックを背負い、お握りや水筒も持っている。
「トラックの援護はあたいらがやるよ」
名乗りを上げたのは、狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)だ。
「…別に愛とか人情とかそんなんじゃねえ。大勢で弱い者をいじめる帝国のやり方が気に入らないだけだよ」
乱世のバイラヴァには、他に、グレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)が乗る。
「わたくしもトラックに載せてください」
乱世のパートナー、英霊アン・ブーリン(あん・ぶーりん)は英国王ヘンリー8世の2番目の妃だ。
「わたくしも生前は、幼い娘を残して死んだ身の上。同じような子供たちの危機とあっては黙ってはおれません。彼らが怯えないよう勇気づけながら、避難誘導のお手伝いをいたしましょう」
「お願いします」
ロザリンドと共に子ども達の手を取る。
子ども達は、この移動がピクニックでないことは分かっている。
「地図があります。ここからルカルカさんが用意してくれた一時避難の場所に行きます」
乱世とグレアムはバイラヴァを起動させる。
既に、アーティフィサーのスキルで機体に迷彩塗装と強化装甲を施している。
「先に出て、前方から援護するよ。その地図の右上にある大木の側で待機している。多分、そこが一番狙撃に適している」
バイラヴァが飛び立った後、トラックは、斎賀昌毅が作った防衛陣地で身を隠しながら、戦闘地域ではない、森の裏側まで進む。
森を出ると、大荒野が広がる。
ここは一気に走るしかない。大岩まで行けば岩と潅木の道で再びトラックを木々のなかに隠して進むことも出来る。
森を出るとき、アンは銃声を聞いた。
「乱世のスナイパーライフルだわ」
バイラヴァは高所から、狙ってくるワイバーンライダー達を打ち落としている。
トラックの幌が揺れる。
上に誰かいる。
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、トラックの幌の上にいた。
「なんでそんなとこにいるんだよ」
泉が叫ぶ。
「気にすんな。高いとこが好きなんだよ!」
トラックの姿を見た、トリケラトプスライダーが追ってくる。
「まかせろ!トラックに向かってくる弾丸と流れ弾を龍の波動でどんどん相殺していくな!」
トラックは速度を上げている。
疾風のなか、ラルクは、右に左に、銃弾を跳ね返す。
「上は頼むぞ!」
「任せて!」
乱世は、今、トラックに並走する形で、上から襲ってくるワイバーンを狙撃する。
「ガキ共!おっさんが守るからなぁ、いい大人になれよ」
ラルクは錬気を使って回復しながら、攻撃をかわす。
そして。
最後のテノーリオのトラックも廃墟を後にした。
孤児たちは、逃げだせたようだ。
その合図を見て、朝霧垂は、つかのまの味方だったエリュシオン側の隙をついて、広範囲攻撃「機晶ビームキャノン」を撃ち放つ。
思わぬ襲撃に、不意を疲れたヴァラヌスが倒れる。
その隙に、夜霧朔はイコンを村から離れる方向に走らせる。片腕を失ったエリュシオン側のヴァラヌス、一機が後を追った。
垂のイコン、光龍は振り返ると、クローで掴んで片腕のヴァラヌスを放り投げ、大型ビームキャノンを撃ち抜く。
垂の内部からの切り崩しで、混乱する部隊は、ヤークトヴァラヌスが孤立する格好になっている。
10そして
「今だ!」
天御柱学院のパイロット柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は、イクスシュラウドでエリュシオンの部隊に攻撃を仕掛ける。
アサルトライフルで牽制しながら加速力を生かして、中央突破でヤークトヴァラヌスに接近する。
「危ない、真司、右!」
ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)は、精神感応で意思を飛ばす。
サブパイロットのヴェルリアは、EN管理やレーダーや目視で味方と敵との位置を把握している。
真司は、イクスシュラウドの方向を変化させずに、ビームサーベルを右側の敵に向ける。
体当たりしてきたトリケラトプスライダーの身体がふたつに割れる。
今度は空からヴァラヌスが来る。
「真司、上!」
真司が向きをかえようと動いたとき、ヴァラヌスの前に煙幕が出る。
「助っ人よ」
アウグスト・ロストプーチン(あうぐすと・ろすとぷーちん)だ。彼女はパンテール・ド・シャッスを加速させた。
「悪いけど、この戦闘。利用させてもらうわね〜 別に残党なんかには興味ないけど、機体制御システム(AMBAC)を確立させなくちゃいけないのよ」
急降下で目前に迫るワイバーンライダー。
「反射回避で敵の攻撃をかっこよく避けてやらぁー、心配すんじゃねーよ!俺様の腕だって捨てたもんじゃねえんだぜ!!」
高速の動きで回避するのは、サブパイロットの伴 長信(ともの・ながのぶ)だ。
イクスシュラウドは再び、ヤークトヴァラヌスに接近し、ビームサーベルで斬りかかる。
刹那、逃げるヤークトヴァラヌス。
「子バエのようなやつだな」
戦況がやや不利になったうえに、執拗な攻撃にエントマは、砲弾を撃つ。
そのときを待っていたかのようにはるか頭上で、爆風がした。
「ブリュンヒルデ、ターゲットを確認。これより目標を駆逐する!」
リーゼロッテ・フォン・ファウスト(りーぜろって・ふぉんふぁうすと)の乗るイコンが、射程圏外の高空から、隊長機のヤークトヴァラヌスに奇襲をかける。
フルスロットルで急降下してくるブリュンヒルデは、ビームサーベルをヤークトヴァラヌスに向ける。
パイオンは自らが体勢が崩れつつあることに気がついていた。
足元に、アウグストのパンテール・ド・シャッスが高速移動しながら打ち込んだ・アサルトライフルを被弾している。
「敵機接近…大丈夫…当たらない。」
フィア・シュヴェスター(ふぃあ・しゅう゛ぇすたー)は、隊長機の危機を救おうと、ワイパーンが攻撃を仕掛けてきたことをリーゼロッテに伝達する。
「このままターゲットに接近する!」
二人の乗るブリュンヒルデはイーグリットをベースに高速・高機動戦用として開発された試作機だ。
スピードに乗ったままブリュンヒルデは、ビームサイズでヤークトヴァラヌスの首を一撃した。
そのまま急旋回で空中に戻る。
イクスシュラウドのビームサーベルが残った胴体部を中心から切断した。
それでも、ヴァラヌスも、増援のワイバーンライダーとトリケラトプスライダーも数を減らしたとは言え、残っている。
しかし、潮が引くように、皆、一斉に、一目散に戻っていく。
退避命令が出たのだ。
あの、鉱物が無事に本部にわたり、皆の交渉が身を結んだ。
尋人はイコンで村に残り、呀 雷號と共に遅れた子どもがいないか見て回っている。
一時避難の場所では、ルカルカが水や食料などを準備して子ども達を待っている。外でトラックの止まる音がした。
ルカルカは慌てて外に飛び出す。
王大鋸は廃墟に佇んでいる。
「まあ、出番少なかったけどよ、皆無事でよかったよ。なあ」
側にいる美羽に、結局よお、と、話しかけている。
「子どもら、大きくなったよな、いつまでも孤児でもないよなぁ」
シャンバラ教導団の一室ではイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が鉄心とティーの戻ってくるのを待っている。
微かな足音と共にティーの歌声が聞こえる。
優しく力強い歌声だ。
「良かった」
イコナは歌声から全ての作戦が無事終了したことを悟った。
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