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リアクション
「まぁまぁだろう。……よし、厨房に行くか!」
運ばれてきたオムライスを食べた万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)は職人の料理を教えるべく席を立った。
「あぁ、そうだ。しっかり手伝うんだぞ」
「了解でございます」
万願はアマゾン・ファルーティ(あまぞん・ふぁるーてぃ)に一言告げてから厨房に消えていく。
だが次の瞬間、アマゾンは客席に座って奉公される側に回っていた。
「いいか。オムライスっていうのはだな……」
厨房に入った万願はオムライスを実演して見せていた。
ふと気づくと、セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)が食い入るような目でその様子を見つめていた。
「おい、オムライスつくりたんだろう? やってみるか?」
「え? あ、はい。お願いいたしますわ」
万願は真剣な眼差しで望むセレアにオムライムのコツを教えた。
そして、出来上がったオムライスをメイド服に着替えたセレアが健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)の元に持って行く。
「あ、あの……健闘様」
勇刃の目の前にオムライスが置かれる。
「……これセレアが作ったのか?」
「は、はい……」
置かれたオムライスは多少形が崩れていたが、一生懸命さが伝わってくるものだった。
セレアが緊張した面持ちで見守る中。勇刃はスプーンを手に取り、ゆっくりとオムライスを口に運んだ。
「……おいしいぜ」
セレアは嬉しくて泣いていた。
「やっぱりかき氷がおいしいぜ!」
金目の物は見つけられなかったが、とりあえず一仕事やり遂げたロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)は山盛りのかき氷を食べていた。
「で、喫茶店に来てなんでかき氷?」
「いいだろ、どうせタダなんだし、それに最近暑い日が続いてただろう」
「そういうものかな」
かき氷をガツガツと口に運ぶロアの横でイルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)はのんびりと【ティータイム】を楽しんでいた。
すると、ロア目の前に山盛りのかき氷を抱えたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が座った。
「いや、本当に暑いわね。こういう時はかき氷に限るよ」
「……女、俺の目の前でかき氷食うなんて、挑戦してるのか?」
「別に〜。ただ、店が狭いから詰めて座ったらこうなっただけよ」
「そうか」
「……」
「……」
ロアとセレンフィリティはお互いにこれが単なる偶然だと自覚していても、目の前の相手に自然と対抗意識を持ってしまう。そして二人はかき氷を食べる早さと量を競い始めていた。
セレンフィリティの横に座り、様子を見ていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が注意する。
「そんなに急いで食べたら身体壊すわよ」
ロアとセレンフィリティはまったく聞いていない。
諦めてセレアナは向かい側に座るイルベルリと、一緒に【ティータイム】を楽しむことにした。
「いい香りね」
「ありがとうございます」
すると、セレンフィリティとロアが苦痛の声を上げた。
「かぁぁぁぁ!! あ、頭がいたい」
「俺もガンガンする」
だから注意したのにと呆れるイルベルリとセレアナ。
そこでロアとセレンフィリティの視線がイルベルリとセレアナの手元を見た。
「その、紅茶くれ!」
「私も!」
冷たい物には暖かい物で中和できると考えたらしい。
イルベルリとセレアナが顔を見合わせ、そして言った
「「お腹を壊します!!」」
「元気だしなよ、ルーク」
ルーク・ヤン(るーく・やん)を励ます夏野 夢見(なつの・ゆめみ)。
ルークは先ほどまで女性恐怖症が治ったと、嬉しさの絶頂に立っていた。
しかし、ルークが接したメイドさんは【ちぎのたくらみ】でハルカになった緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)であり、つまり勘違いだったのだ。
ルークががっくりと肩を落とした。
店内ではお揃いのメイド服に身を包んだハルカと紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)が楽しそうに働いている。
「落ち込むのはいいが、あまりパートナーに迷惑をかけない方がいい」
すやすやと壁に寄りかかって眠るアシュリー・クインテット(あしゅりー・くいんてっと)を起こさぬよう、静かな声で神無月 桔夜(かんなづき・きつや)が告げた。
桔夜は今、アシュリーが飽きて脱ぎ捨てたメイド服を畳んでいた。
「心から嫌ってるわけではないんだ。いつかは乗り越えられるさ」
「そう……ですね」
ルークが隣を見ると、夢見が優しく微笑んでいた。
「あ、ショウ様。今、お暇ですか?」
店内を動き回るメイドさん達をぼんやり眺めていた葉月 ショウ(はづき・しょう)は、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)に声をかけられ我に返った。
「あ、何か用ですか?」
「実を先ほどお食事を作ってみたのですが、試食してくださる方がいらっしゃらなくて……」
セシルは少し悲しげな表情をしていた。
その姿にどうにかしてあげたいと思ったショウは、自分の腹の様子を確かめてから答えた。
「……いいよ。ちょうどお腹もすいるみたいだし、頂くよ」
「あ、ありがとうございます。少々お待ちください!」
セシルは嬉しそうに笑うと、急いで厨房に向かって行った。
「可愛いメイドさんの手料理かぁ。いいね〜」
なんだかんだで嬉しいショウだった。
すると、セシルが手作りの料理を持って帰ってきた。
「お待たせしました!」
トンと小さな音を立ててセシルがテーブルに料理を乗せた皿を置く。
それを見たショウは――頬をひきつらせた。
「こ、これは……」
「オムライスです」
万願の技術をまねてセシルが作ったふんわりとろとろのオムライスだ。見た目はすごくおいしそうだ。
だけど、ショウには黄色くてふわふわしたものに、ちょっとしたトラウマがあったのだった。
これは違うと思っても頭のどこかでそれを連想してしまう。
「あの、ショウ様……」
なかなか手を付けないショウを見て、セシルが不安げな表情をしていた。
これはまずいと思い、ショウはパートナーのリタ・アルジェント(りた・あるじぇんと)に助けを求めようとするが、彼女は麻木 優(あさぎ・ゆう)と何やらコスプレの話で盛り上がっていた。
視線をオムライスに向けると、そこには感謝を込めてか、ハートマークの中に「ショウ様」と書かれている。
「あの、ご無理にとはいいませんので……」
セシルがそっと皿を下げようとする。これ以上は待たせられない。
ショウは意を決した。
「ごめん。ケチャップ頂戴」
「え、はい」
ショウはセシルからケチャップを受け取ると、オムライスが見えなくなるまでぶっかけた。
戸惑うセシルにショウは言う。
「俺、オムライスにはケチャップをたっぷりつけないとだめなんだよ」
ショウの言葉に妙に納得するセシル。
オムライスは赤一色となった。
「じゃあ、いただきます」
「はい、召し上がれ」
ショウはセシルがせっかく書いてくれた文字が見えなくなってしまったことを残念に思いながら、オムライスをすくって口に運んだ。
ふわりと柔らかい感触が口の中に広がる。
「すごくおいしいよ」
「ありがとうございます!」
それはケチャップがなければの味さえなければ、本当においしいオムライスだった。