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リアクション
第一章「困り顔の美女発見」
「ど、どうしましょう」
長く白い髪と眉に、透き通るほど白い肌、白い和服を着た儚げな美女がおろおろとしていた。幾度もすれ違う人に声をかけようとしているのだが、人が苦手なのか。ひどく緊張した様子で、きちんと説明もできずにいた。
そんな女性を発見してしまった新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は、
「(何だあのいかにもな困り顔……気になる)」
女性を放って置けなかった。
別に、ザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)が持ってきてくれた弁当箱が何故か焦げていて、湯気というより煙が出ている現実から目を背けるためではない。
ちなみに何故焦げているのかというと、ザーフィアが火術で弁当を温めたからだ。温かいお弁当の方がいいだろうという、親心ならぬパートナー心である。
「どうしたんだ?」
とにかく燕馬(えんま)が話しかけると、女性はやたらとびくついた様子で振り返った。よほど人が苦手らしい。しかし苦手にもかかわらず声をかけようとしていたのなら、相当困っているのだろう。
再び口を開いた燕馬の声を遮るように元気な声が響く。
「ツバメちゃーん。クライベイビーやっと発見したですぅ」
「わ、私は焼き芋が買いたかっただけで迷子になったわけでは……喧嘩なら買うぞぺたんぽぽ」
フィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)に手を引っ張られたサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)が、手に袋を抱えてやってきた。サツキの目は若干涙目だ。
2人の外見年齢で言うと明らかにフィーアの方が幼く見えるため、どうもちぐはぐな光景だ。
「あ、燕馬くん。こちらの女性がお子さんを探しているらしいよ」
ザーフィアが女性から事情を聞き燕馬たちに伝え、彼らは子供の捜索を手伝うことにした。
「燕馬、その前に温かい焼き芋はどうですか?」
「ん、じゃあもら」
「燕馬君、おやつの前にお弁当が先であろう」
「じゃフィーアはお茶入れるね……このお茶、ボコボコ言っない? うーん。ツバメちゃんどうぞ」
「……とりあえず今はご飯より前に子供を捜そう」
燕馬は話を切り上げて女性の方を向いた。決して沸騰しているお茶から目をそむ(以下略)。
「子供を捜す?」
「え、誰か迷子なの?」
そう首をかしげて話しに入ってきたのは、樹月 刀真(きづき・とうま)と彼のパートナーである漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)だ。
「なるほど。あなたのお子さんがいなくなったと。それは心配でしょうね。俺も手伝いましょう」
刀真が女性を振り返って言うと、月夜が頬を膨らませた。月夜も手伝いすること自体には賛成だが、白い女性が綺麗であることが気になった。
「(まさか美人だから手伝う、とかじゃないよね)」
月夜自身、綺麗な髪を持つ儚げな美人といった容姿をしているが、乙女心というのは複雑なのだ。
「そう怒るな」
「む、別に怒っているわけじゃ」
むくれている月夜の様子に気づいた刀真が彼女の頭を撫でれば、怒っていないといいつつ、先ほどより明らかに機嫌がよくなってしまうのもまた乙女心である。
「それではお子さんの特徴をお聞きしても」
「特徴、ですか?」
「そうそう。名前とか服装とか、身長とかさ」
「あの子の名前はグラートです……あ。すみません。私はメチェーリと言います」
女性、メチェーリは名乗ってからグラートについて説明を始めた。
「(5歳前後で白い着物姿、ですか。それならすぐに見つかりそうですね)」
密かに一行の話を聞いていた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が、行動を開始する。すぅっと一行から離れていく唯斗と、刀真の目が一瞬交差した。
「(お願いします)」
「(ま、やるだけやりますよ)」
その後、唯斗は人ごみの中にまぎれていく。違和感なく、人の中に紛れ込み情報を集めるのだ。
じっと見ていたはずの刀真でさえ、すぐに唯斗の姿を見失ってしまう。
「固まっててもしょうがないし、俺たちは別のところを探す」
「分かりました」
燕馬たちが別の場所を探しに行った。
「刀真(とうま)。これからどうするの?」
「そうだな。とりあえず人手が欲しいところだが」
「おや、もしかしてあなたは」
「ん? 何かお困りか」
「寒い寒い〜。ハーティオン、どうし……その方たちは?」
まるで刀真の台詞を待っていたかのように声をかけてきたのは、学園を襲った事象の解決をしようと情報を集めていたシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)と、突然の雪に困っている人がいるかもしれないと自主的に見回りをしていたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)にパートナーの高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)である。鈿女(うずめ)はしきりに身体をこすり寒さをアピールしている。
メチェーリは突然現れた3人――中でも287cmもあるハーティオン――に驚いた様子で、目を大きく見開いていた。
「まあ、人の中にはこのように大きなお方までおられるのですね」
何やらしきりと感心しているメチェーリに、シャーロットの目が輝いた。
「人の中、とおっしゃいましたか。まるであなたは人でないかのような言い方ですね」
「えっあ! その」
シャーロットの指摘にメチェーリは口を慌てて抑えたが、もう遅い。シャーロットは少し考えるそぶりを見せてから、尋ねた。
「間違っていたら申し訳ありませんが、学園に突如降り注いだこの雪について、あなたは何かご存知なのでは?」
メチェーリはしばし沈黙してから口を開く。
「……黙っていてすみません! 私は雪女のメチェーリ。子供は雪ん子のグラートと言います。こ、この度はうちの子が大変なご迷惑を」
このまま土下座するのではないか。そんな勢いで頭を下げるメチェーリに、ハーティオンが声をかける。
「そう気にすることはない。我が蒼空学園の生徒たちは、むしろ雪が降った現状を楽しんでいる」
「ほら見て。みんな楽しそうに遊んでるでしょ(私は寒くてたまらないけれど)」
彼らに言われて周りを見渡したメチェーリは、たしかに楽しそうな生徒たちを見て少し肩から力を抜いた。
「よし。では私も子供探しを手伝おう。これでも蒼空学園の生徒だ。案内は任せるといい。鈿女(うずめ)構わないだろう?」
「……(じっとしているよりはマシね)ええ、いいわよ」
「ありがとうございます」
「さて。子供の好きなところか。グラートはどういうものが好きなのだろうか」
「そうですね。えと、お花が好きです」
「ならば中庭にいるかもしれないな。我が学園の中庭は私が言うのもなんだが、中々すばらしい」
「雪だらけになってそうだけどね」
歩き出したハーティオンの後について一行は歩く。シャーロットが一つ提案をした。
「歩き回るだけでは中々見つけられないと思います。なので噂を広めませんか?」
噂、というものは広がるのが早い。とはいえ、その噂が回るのはあまりにも早かった。
「この雪は雪男の仕業だ。住むところを失って人里に下りてきたに違いない」
「あれ、雪男って雪降らせられたっけ?」
「誰かがのろわれたアイテムを使用したんだ」
「この雪は雪女の仕業らしい」
「迷子を捜している美女がいて、見つけたらお礼がもらえるかもしれない」
根も葉もないものも、あるが真実もある。まあ噂というものはそういうものだ。
「雪女、いるなら会ってみたいねぇ」
「マリリン! 雪、雪だよ。遊ぼうよう」
「待ちなって。雪女の噂を確認するのが先だよ」
「むぅ。は〜い」
噂が奇妙であることに気づいたマリリン・フリート(まりりん・ふりーと)と、メイ・カンター(めい・かんたー)は校内を歩いていた。
「(雪女の噂が本当なら会っていろいろ話を聞いてみたいし、仲良くなりたいもんだけども)」
マリリンが思考に没頭しかけた時、
「あっ雪女さんっぽい人発見!」
メイが元気よく駆け抜けて行き、マリリンは慌てて追いかける。メイが向かっていった先には、いかにも『雪女』な雰囲気の女性がいた。マリリンの目が輝く。
「でかしたメイ!」
「えへへ〜」
「きゃっ」
しかしメイは勢いが良すぎたのか。そのまま女性にダイブしてしまう。女性、メチェーリはふらついたものの、なんとかこらえた。
「ご、ごめんなさい。大丈夫?」
しゅんとしたメイだったがメチェーリが柔らかく微笑んだのでほっとし、垂れていた尻尾が元気良く左右に揺れた。
「すまないな。うちのメイが迷惑かけたみたいで」
「いえいえ。怪我がなくてよかったです」
追いついたマリリンは、早速雪女らしきメチェーリに話を聞こうと口を開き、
「さっさと元に戻るんだよーー!」
別の大声に遮られた。声の方を向くと、外で行われている雪合戦の掛け声らしい。
先ほどの声の持ち主は、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)だ。随分変わった掛け声である。
「正気に戻るアル」
レキの近くで巨体を俊敏に動かして壁走りを披露しているゆる族のチムチム・リー(ちむちむ・りー)もまた、レキと同じ変わった掛け声で雪玉を投げている。
窓からその様子を見たメイはパッと顔を輝かせ、
「ボクもやるー」
「ちょっメイ! ったくしょうがないねぇ。すまないけど話はまた後で」
楽しそうな光景を見てメイは我慢できなくなったらしい。いってしまった。パートナーを放っておくわけにも行かない。マリリンは苦笑しつつ、メイの後を追いかけていった。
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