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リアクション
第2章 華美達、夜空へ!
「アレナさん、お似合いですよ」
「そ、そうですか。良かったです」
アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は、ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)の勧めで、浴衣に着替え、下駄をはいていた。
色違いの朝顔の浴衣で、アレナはピンクの生地に赤・紫系のもの。
ユニコルノは白地に青系の浴衣を纏っていた。
「……」
そしてもう一人、黒地に、青・紫系の朝顔の浴衣を纏った長身の女性がいる。
彼女はアレナの姿を見て、優しく首を縦に振った。
だけどアレナには近づかず、ユニコルノに隠れるような位置に立っている。
「あの……呼」
「あ、彼女はツァンダでお友達になったスノちゃんです。誰かに似ているのは他人の空似です」
ユニコルノがアレナに女性を紹介する。
「スノ、ちゃんですか」
アレナは不思議そうな顔をした。
スノちゃんは、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)にそっくりだったから。
……エクステで長髪にし、薄化粧で女装化した呼雪自身なのだが。
ちなみに、呼雪の女装化は留守番している誰かさんの陰謀ともいえる。
「アレナさん、髪の毛結いますね」
ユニコルノはアレナの髪を結ってあげる。
アップにして、自分とお揃いの可愛い簪をつけた。
「はい、出来上がりです」
「ありがとうございます」
それから2人は微笑みあって、シートに腰かけた。
スノちゃんは、ユニコルノの影に隠れながら(といっても体格の違いからはみ出まくり)、腰かける。
「彼女達、一緒に飲もうぜ」
「花火やんない?」
何組もの男子のグループが近づいて、可愛らしい3輪の華に声をかけてくるが、全てユニコルノがぴしゃりと断った。
そしてリーア・エルレン(りーあ・えるれん)の屋台でもらってきたジュースをそれぞれ飲みながら、3人は花火と星を観賞していく――。
「……アレナ、さん!」
突如、コカ茶を飲み終えたユニコルノがふわりとした笑みを浮かべた。
「打上げ華美やってみませんか?」
「え?」
「大丈夫です、ちゃんと受け止めますから」
「は、はい……」
「行きましょう!」
ユニコルノはアレナの腕をぐいっと引っ張って立たせると、ずんずん発射台に向かって歩いていく。
「……なんだか、変な感覚が……」
スノちゃんこと呼雪は片手で顔を押さえていた。
ミックスジュースを飲んでから、妙な高揚感と、ユニコルノとアレナが可愛くて可愛くて仕方がないという感情が湧いてしまっていた。こんな姿だから、大人しくしていたいのに。
「薬が混入されていたのか……?」
とはいえ、アレナが打ち上げられると聞いては、放ってはおけない。
呼雪は赤らんだ顔を隠しながら、2人の後を追うのだった。
「アレナちゃんを打ち上げるためのパラシュートは、ロリちゃんの『波羅蜜多実業高等学校裁縫部』で鍛えた特技、裁縫で心をこめて作ったよ」
発射台の側にはローリー・スポルティーフ(ろーりー・すぽるてぃーふ)が待ち構えており、アレナは彼女お手製のパラシュートを背負わされた。
「譲れない「想い」な人が他にいるみたいだけど、アレナちゃんが「重い」わけじゃないからパラシュートは大丈夫! きっと、たぶん……」
ローリーの言葉はアレナには意味が分からなかった。
「アレナ・ミセファヌスちゃんだ。お前等、上玉打ち上げるぞー!」
パラ実生が声を上げる。
「ささ、こっちだこっち」
「は、はい?」
何が何だかよく分からないうちに、アレナは発射台に入れられてしまった。
「大丈夫、優子さんにも招待状を送っておいたから、アレナちゃんは安心して空に舞うといいよ♪」
「は、はい……」
アレナは不安そうな顔で、筒の中で自分を抱きしめていた。
「アレナちゃん、ファイトぉー」
「こら!」
応援するローリーの頭がぽんと叩かれた。
「アレナを山分けってどういう意味だ?」
振り向くと、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)が立っていた。
「パラ実生が山分けしそうだよ。ちゃんとキャッチしないとね!」
ローリーはそう優子に答えた。
彼女はお菓子を握らせて子供に手紙を託していた。
優子に渡ったその手紙には『「はんこーせーめー」「優子さんがこないならアレナちゃんはみんなでやまわけだー、ひゃっはー♪」』と書いてあったのだ。
「キャッチといってもこれはちょっと……」
話を聞いて集まった男達がアレナをキャッチすべく集まっているのだ。凄い人数だった。
ポンッ
打ち上げられたアレナが、空に舞った。
パラ実生達が調整したのか、そう高くはない。
パラシュートも問題なく開き、ゆっくりと落ちてくる。
「大丈夫そうだな」
と、優子は静かに眺めていた。
彼女のことを沢山の少年達がキャッチしようとしている。
「変な男の手に渡ったら、その時話をつければいいことだ」
そんな優子の言葉に、何故かゾクリとしたものを感じて、ローリーはぶるっと震えた。
「……拳で話をするってやつだね。ロリちゃん、観戦しちゃうよ♪ がんばれぇ、おとすなぁ、アレナちゃんに何かあったら、お祭りが血祭りになるよ〜♪」
ローリーは集まった人達を応援する。
(これはキャッチされない方が安全か。きちんと着地できるかどうかは、心配だが)
呼雪は状況を見て、そう思った。
そして、【捕らわれざるもの】の技能で、集まった者達を畏怖に陥らせる。
「アレナさん〜」
ユニコルノが素早い身のこなしで、男達を退けてアレナの元へ。
彼女が着地する前に、ジャンプして抱きとめた。
「……はあ……び、っくりしました……」
「ふふ」
心臓を高鳴らせているアレナを抱きしめながら、ユニコルノは笑みを浮かべた。
凄く、凄く幸せな感情が浮かび上がってくる。
ふわふわして、空に浮いているようで、楽しくて仕方がない。
「大好きですよ」
と、ぎゅーっとユニコルノはアレナを抱きしめた。
「俺も君達が大好きだー」
「オレも―」
「アレナちゃーん」
パラ実生達がわらわら近づいて、抱き着いてくる。
「……! す、すみませんっ。ごめんなさい、ああ、すみません」
呼雪が転んだ振りをして、近くの男の足を踏み、手を伸ばしてズボンをおろし、足を払い、偶然を装いながら、倒して。
「2人とも、しっかり……」
そうして発掘したアレナと幸福感でふわふわしているユニコルノを連れて、シートに戻る。
「アレナさん……ふふ」
「ユノさん、どうしたのですか?」
アレナに抱き着いて幸福そうな顔をしているユニコルノと、ユニコルノの頭を撫でているアレナの姿を見た呼雪にも、幸福感が湧き上がる。そして、2人を抱きしめたい衝動に襲われた。
(それじゃ、あのパラ実生達と同じじゃないか)
「……星が綺麗です」
呼雪は薬の効果が切れるまで、空を見て心を落ち着かせていようと、思った。
巨大笹飾りの側で、永井 託(ながい・たく)は友人を待っていた。
「本当に人が打ち上げられてるんだね」
打上げ華美で人々が打ち上げられる様子に、託は驚きながらも、楽しそうだとも思っていた。
「さっきの子はすごい人気だったね。面白いなぁ」
誰かと誰かの仲が一歩近づく。
そのお節介を託もしたいと考えた。
「琴乃さんも、来れれば良かったのだけれど」
今日誕生日の大切な人のことを想う。
自分が彼女と一緒にいられたら嬉しいように。
他の皆も、大切な人と一緒にいられたら……楽しめたら凄く嬉しいだろうから。
「手伝うよぉ。君達も、キャッチしに行きたいでしょ?」
託は打上げを担当している人達に声をかけた。
「おお、ホントか! それじゃ頼むぜ」
ブラヌ・ラスダーと少年達に打ち上げ方を教わって、託は1時間ほどの打上げを任される。
「うん、任せてぇ」
歩き回って、託は女の子達の様子を探り、華美に誘ってあった。
意中の相手に、キャッチしてもらえるよう、手助けをしたいと思っていた。
「ブラヌー、ボクを打ち上げてよー」
そこに現れたのは、学校のジャージ姿の鳥丘 ヨル(とりおか・よる)。ブラヌと仲の良い百合園生だ。
「おー、ヨルか。でもお前、大丈夫か?」
「勿論! はいこれ、参加費」
ヨルは動物ビスケットをブラヌに渡すと、発射台の方へ歩いていく。
「このデジカメに夜空をキャッチしてくるよ。ブラヌ達はボクのキャッチよろしく!」
「そっか、よーし、必ずキャッチしてやるから、行って来い!」
「らじゃー! 織姫と彦星の方に飛ばしてね」
ヨルは発射台の側で、空を指差す。
「あそこだよ。天の川を挟んで、あっちが織姫、少し下にあるのが彦星」
「なるほど、了解、任せておけ〜。けど、出来れば俺はヨルのキャッチに集中したいから。打上げ頼めるか?」
ブラヌが託に言う。
「うん、頑張ってぇ」
託は習ったように、打上げ機を操作する。
「ドキドキするよ」
ヨルは緊張しながら待機。
「行くよぉ〜」
ブラヌが落下地点に向かったことを確認すると、託はヨルを空へと発射する。
「うっ……わあ……」
ぐんぐん空へと近づいていく。
最初はスピードが速くて、ちゃんと目を開けてはいられなかったけれど。
何とか、デジカメを空に向けてヨルは迫る夜空を撮影する。
その後、急降下。
「わーっ」
「ヨルー!」
落ちてくるヨルをブラヌと友人達が一緒に、大事にキャッチする。
「楽しかったか〜?」
「ふうっ」
ヨルは地に足を付けると、笑顔を浮かべて「うん」と首を縦に振った。
「そりゃ良かった」
ブラヌがヨルの頭をくしゃりと撫でた。
「それじゃ、次はブラヌの番だね」
「……え゛!?」
「ブラヌの仲間とボクとでしっかり受け止めるから、安心して行ってこーい」
言って、ヨルはドーンとブラヌの背を押した。
「え……えええ? そ、それはちょっとな……」
「……怖いなんて言わないよね?」
「うーん……だってさ、わざと落として笑いを誘うだろ、お前等」
そうブラヌが言うと、仲間達はげらげら笑いだす。
「落とさないよ、ちゃんと受け止めるって」
でも、ヨルが真っ直ぐな目でそう言うと。
「わかった、飛ばせてもらうぜっ」
ブラヌはヨルを信じて、発射台に向かった。
「行くよぉ〜」
託は、皆がキャッチしやすい位置に落ちるよう、調整をして打ち上げる。
「う、おおおおおおおおーーーーっ」
そして、彼も空を泳いだ。
「さー、キャッチするよ!!」
ヨルに促されて、ブラヌの友人達も協力をして。
彼は仲間と、ヨルの腕の中に落ちてきた。
「……す、すげぇスリル感、楽しかったぜ。サンキュー、ヨル〜」
「出し抜き厳禁!」
「泉に捨てるぞ」
興奮してヨルに抱き着いたブラヌは、すぐに仲間達に引き離された。
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