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リアクション
「それにしても、随分と吊るしたものね」
崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、笹飾りで神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)と会って、共に屋台を回っていた。
「互いの事を願い合うといった提案があってな。1人に対してじゃなんだか不平等な気がして、仲間や友、全員への願い事を吊るさせてもらったんだ」
「そっちじゃなくて、まあ、そっちもだけど。ほら、パラ実生を吊るしてたでしょ?」
願い事の短冊の代わりに、手を出してきたパラ実生を吊るしに笹飾りに向かった亜璃珠は、そこで約束の時間より早く、優子に会ったのだ。
「パラ実生かどうかは知らないが、アレナに意味もなく抱き着いた者達がいたんで、とりあえず吊るしておいた」
「ふーん……。随分と過保護なのね」
「こういうことに関しては、だな。彼女は異性に対しての警戒心がないから。ま、亜璃珠もないんだろうけど」
「優子さんもでしょ」
軽く笑い合って。
2人はリーアの屋台の前の、ベンチに腰かけた。
「それにしても、何なのその格好。浴衣で行くから、それなりの格好でお願いって言ったでしょ?」
「浴衣を着たいとも思ったんだけど、髪が足りなくて結べなかったんだよ」
誰のせいだと言わんばかりに、優子は亜璃珠を軽く睨む。
優子はワインレッドのポロシャツに紺のデニム。ベルトは赤い石のついたバックルでとめている。
亜璃珠はあでやかな浴衣姿だった。
「ところで、何だそれは」
優子が亜璃珠の持っている飲み物に、眉を顰める。
「何って……甘い、苺ミルクよ」
「体重、気にしてるんじゃなかったのか? 特訓も出来ない、甘いものも止められないんじゃ、増える一方じゃないか」
ため息をつきつつ、優子は自分が購入した(安らかな気持ちになれる)ハーブティーと、強制的に交換をしてごくごく飲み始める。
「こんな時くらい、いいじゃない。久しぶりに一緒に遊びに出れたんだし」
亜璃珠は、強引に優子から奪おうとも考えたが、優子に隙はなかった。
「……まあ、そうだけどな」
苺ミルクを飲んだ後、そう答えた優子はいつもと少し雰囲気が変わっていた。亜璃珠を直視しようとしない。
「これ、甘すぎて口に合わない。捨てるのはもったいないし」
何故か亜璃珠と目を合わせずに言って、優子は少し残っている苺ミルクを亜璃珠に返したのだった。
そして、ハーブティーを受け取って、口直しとばかりに飲んだ。
(何か変。私の事、意識しているように見えるのは、気のせい? ……そんなことはないか、この人恋愛敬遠しているようなところ、あるし)
勘違いをしては虚しいだけだと、亜璃珠はそと息をついて。
「そうそう」
鞄の中から、紺色のリボンを結んだ、袋を取り出した。
「はい。誕生日プレゼント」
優子の手の上に置くと、彼女はちょっと頬を染めて、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう」
中に入っていたのは、ガラスでできた、百合の花だった。ヴァイシャリーのガラス工房でつくったものだ。
「誕生花のつもりだったんだけど……結局百合なのよね、こんなのでよかったかしら?」
「勿論、嬉しいよ。凄く嬉しい」
優子は大切そうに、亜璃珠からのプレゼントを両手で包み込んだ。
「今年もおめでとう、ちゃんと一緒に歳取れそうね」
「うん」
優子がまるでアレナのような、柔らかな微笑みを見せた。
(やっぱり何か変よね。反応が普段と随分違う。……でもなんか、こんな優子さん、以前にも見たことがある気が……)
「亜璃珠……悪い、なんだか調子がおかしい。思考が正常に働かないというか……眠い」
優子が片手で自分の顔を擦りだした。
「疲れてるのかしらね。どこかで休んでいく?」
亜璃珠の言葉に、優子は首を縦に振った。
それじゃ行きましょうと、亜璃珠が優子の腕を掴むと、彼女の腕が一瞬びくっと震えた。
(そうそう、空京から吸精幻夜を使って、強制的に連れて帰った時、こんな感じだった気が)
そして、亜璃珠は手の中の甘い苺ミルクと、屋台でにこにこ笑みを浮かべているリーアに気付く。
「……2人でこれを飲んだら甘い時間が送れるのかしらね」
「なんだ?」
優子がちらりと亜璃珠に目を向けた。
「何でもないわ。肩を貸しましょうか?」
「大丈夫、自分で歩ける」
言って、優子は歩き出す。
「楽しい夜になるのか、もどかしい夜になるのか……」
呟きながら、亜璃珠は優子と共に歩き出した。
浴衣のある宿に行きたいな、と思う。
男性用の浴衣を着せてしまおうと。
「日奈々、もしかして体調悪い?」
「え……? そうじゃないんですけど〜……」
リーアの店で買った飲み物を飲みながら、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)と冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)は、屋台を回ったり、花火や星を観賞して楽しんでいた。
日奈々は本当は人混みは苦手なのだけれど、祭りに興味を示した千百合に付き合って訪れていた。
(無理させちゃったかな……)
千百合は日奈々を心配そうに見つめる。
暗くて良くはわからないのだけれど、彼女の顔は少し赤くて、多少足がおぼつかない様子だった。
「疲れてるのかな?」
「そうかもしれないですぅ。何だか体がぽっぽっしてますぅ……」
「そっか、それじゃ辺にシートを敷いて、休もうか」
「はい、休みますぅ」
頷いた日奈々の肩に腕を回して、千百合は彼女を支えるように外れの水辺に連れて行った。
「日奈々、大丈夫? 息が上がってるようだけど……。横になる? 膝枕するよ」
「ありがとうございますぅ、千百合ちゃん……」
日奈々はふわふわしとした、笑みを浮かべている。
千百合はシートを敷くと、日奈々を膝枕してあげる。
「千百合ちゃん……」
日奈々は体を横に向けた。
頬が、千百合の太腿に当たって……心地良かった。
(頭がぼーっとしますぅ……柔らかくて、いい匂い……)
「日奈々、無理させちゃってごめんね。ゆっくり休んでね」
千百合は日奈々を扇子で仰いであげる。
「千百合ちゃん……千、百合、ちゃん……ふぅ……」
苦しそうとは少し違うのだけれど、日奈々の息遣いが荒かった。
(冷たいものでも買ってこようかな? でも、日奈々さっき、アイスティー飲んだばかりだし)
リーアの店で、日奈々はアイスティー、千百合はアイスコーヒーを注文して、飲んだばかりだ。
「やわらか、ですぅ……ふふ」
日奈々は横に向けていた顔を、下に……千百合の足に向ける。
「日奈々?」
「気持ちがいいですぅ」
「ちょ、くすぐったい……あっ、日奈々!? なにして……んッ」
「いい匂い」
日奈々の顔は上へ上へと。千百合のお腹の方へと進んでいく。
「そ、そんなとこかいじゃダメぇ」
日奈々以上に赤くなり、千百合は日奈々を離そうとするけれど。
「やっ、ひ、日奈々〜ッ」
「ん……っ もっと、もっと……」
日奈々は両手を伸ばして千百合に抱き着いて。
「はあ……ふふ……っ」
千百合の柔らかさと、匂いを夢見心地の表情で、堪能し続けた。
「人間華美、凄かったね」
ブルックス・アマング(ぶるっくす・あまんぐ)は、笑顔でリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)を見上げた。
ブルックスは小さい方ではないのだが、リュースとは30cm以上の身長差がある。
歩きながら会話する為には、ちょっと見上げる必要があった。
「……凄かったですね」
リュースは微笑してそう答えてくれた。
だけど、彼の顔からはぎこちなさも感じて。
ブルックスは少し、落ち込んでしまう。
思い切ってデートに誘ってみたけれど……やっぱり、迷惑だったんじゃないかと思ってしまって。
(私と一緒で楽しく、ないのかな)
リュースはブルックスから目を逸らし、難しい顔に戻っていた。
(こんな顔するの、2人きりの時だけだから、私の気持ちバレてるのかも)
並んで少し歩いて。
泉の辺、人があまりいない場所に着いた時。
ブルックスは思い切って、口を開いた。
「リュー兄、好きだよ」
天の川の下で、ブルックスはリュースに告白をした。
それが、兄や家族として慕っている言葉ではなく、恋愛的な意味であることに、リュースは気付いていた。
(ブルックスは本気でオレを好いている。……でも、オレは……)
彼女をまだ妹だと思っているため、リュースはどう答えればいいか分からなった。
ブルックスの緊張した視線を、まっすぐ受け止めながら。
リュースは聞いてみる。
「どうして、オレが好きなんですか? オレである必要があったのですか?」
「だって、リュー兄はいつだって優しくてかっこ良くて……花と歌が好きで……それに」
ブルックスはリュースの問いに、真剣に答えていく。
「孤児だった私を助けてくれた」
まっすぐに嘘偽りなく、本当の気持ちを伝える。
「リュー兄以外考えられない位大好き」
「……」
そんな彼女の強い気持ちを聞いたリュースは、先ほどより難しい顔になってしまう。
ブルックスは大事なパートナーでもある。
悲しませたくない。
泣かせたく、ない。
でも……。
リュースは彼女と同じ想いを、彼女に対して抱いてはいなかった。
(オレは、どうすれば……いいのでしょうか)
戸惑っている彼を真剣に見続けていたブルックスが突如、背伸びをした。
リュースが「ん?」と思った瞬間に。
彼女はリュースの唇に、自分の唇を重ねてきた。急くように勢いよく。
ガチッ。
2人の、歯と歯がぶつかった。
「っ、リュー兄、私本気だよ!」
真剣な顔。迷いのない瞳。
(お子様のキス……でも、必死だということが、わかります)
無碍には出来なかった。
だけれど、恋愛感情を持っていないことは……変えられなくて。
好きという事も。抱きしめる事も出来ずに。
リュースは視線と手をわずかに彷徨わせた後、彼女の頭に置いた。
「ありがとう、ブルックス」
今は、それしか言えなかった。
「うん。……ちゃんとした返事、待ってるからね」
切なげに、ブルックスがリュースを見つめる。
リュースは無言で、ただ、頷いた。
「それじゃ、お祭り楽しもう! 輪投げやってみたいな」
ブルックスがリュースを屋台の方へと引っ張っていく。
(せっかくのデートだもん。楽しまなくちゃ……楽しんで、もらえるかな)
ブルックスは不安な気持ちを隠して、明るく振る舞い続ける。
そんな彼女の姿に、リュースはやるせなさを感じていた。
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