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リアクション
「キャッチよろしくなんだよ〜」
女の子をキャッチすべく待機している少年達に、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は手を振った。
「任せとけっ!」
「俺が、俺が掴んでやるぜぇ」
「レキちゃーん! 俺の胸に飛び込んでおいでぇ!」
手をグーパーグーパーしたり、変なことを考えていそうな少年も混ざってはいるが、レキは気にせず発射台へと向かって行った。
「チムチムは見学するアルよ。これはプレゼントアル」
パートナーの チムチム・リー(ちむちむ・りー)は、体が大きいため、飛んでもキャッチしてもらうのは難しいと考えて、飛ばずに近くで見学をすることにした。
託に渡した打上げ用のプレゼントは、金平糖や星形グミなどの甘いお菓子の詰め合わせ。
「頑張るアルよ〜!」
そう発射台の中に入ったレキに声をかけると。
「うん、楽しんでくるね〜!」
と、元気な声が返ってきた。
ポンッ
「ひゃっはー!!」
打上げと同時に、レキが叫んだ。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハー!!」
キャッチに集まった少年達も声を上げて、それから落下予想地点へと走る。
(んー、気持ちイイ!)
風を切りながら、レキは上昇し、夜空の中に入り込む。
「高く、高く、もっと高く」
レキは手をばたばたして、もっと高く、誰よりも高く飛ぼうとする。
「ふわ……綺麗だね」
そして、満天の星空をわずかな時間、観賞した後。彼女の体は地上へと落ちていく。
「うおおおおっ」
「レキちゃん!」
「俺のものだーっ!」
少年達は喧嘩をしながら、落ちてくるレキを掴もうとする。
彼女は、泉の方へと落ちていく。
「まて、濡れた彼女を俺達で乾かすってのはどうだ!」
「そ、それも捨てがたいが、俺がキャッチするぜェ!」
突き飛ばし合いながら、泉に入り、結局少年3人の差し出した手が、レキの身体を受け止めたのだった。
「ありがとね♪」
レキは受け止めてくれた少年達にお礼を言う。
「でも、そういうサービスはしてないんだよ〜」
だけど、べたべた体に触ってくるので……結局、3人の手を振り払ってお別れして、1人でチムチムの元に戻った。
「お疲れアル。高く飛び過ぎて、見えなかったアルよ」
「ホント? 一番高く飛べたかな〜」
それから、一緒に冷たい飲み物を飲みながら、2人で華美を観賞する。
ちむちむが提供したお菓子も打ち上げられて、空から落ちてくる。
それは、夜空の星を乗せて落ちてきたかのようだ。
レキも一つキャッチして、金平糖を口にポンと入れた。
「あ、また誰か飛ぶ」
「普通の花火観賞とはだいぶ違うアルけど、何が起こるのか分からない楽しみがあるアル」
「楽しいよね! やっぱ祭りはこうじゃなくちゃ」
ふふっとレキとチムチムは顔を合せて笑った。
「小さい頃に行った花火大会で見た花火のように」
五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、草原の精 パラサ・パック(そうげんのせい・ぱらさぱっく)と並んで、シートに腰かけていた。
「花火が空に上がるように、ああいう風に打ち上げられて飛びあがったら、夜空の星に手が届くかなと思っていた事があるんだよ、となりの」
夜空と花火を観ながら、終夏は懐かしむように穏やかに語った。
「夜空の星ではないけれど星に似た色のキラキラしたもの――『妖精の国の金貨』なら、光か何かに当たれば、星に見えるかなって思ってね」
そんな彼女の言葉に、パラサ・パックはにかっと笑みを浮かべる。
「なるほど、そっちだったかぎゃー。 パラサ・パックはてっきり、参加費無料につられたかと思ったよ」
「落ちてきた時に頭に当たったら、ちょっと痛いかもしれないけれどね」
と、終夏もちょっと笑った。
2人で、大量の妖精の国の金貨を持って、発射台に行き、参加費代わりに預けてきた。
それから、荷物の置いていあるシートに戻ってきて、飲み物を飲みながら、華美を観賞していた。
――そろそろ、自分達の贈り物も打ち上げられるはずだ。
「七夕かー」
パラサ・パックは地球の七夕伝説を思い浮かべる。
「金貨がカササギみたいになってくれると良いぎゃー」
「そうだね。うまく行くかな」
飲み物を飲みながら、2人はのんびり、空や人々を眺めて待っていた。
そして。
何かが空へと打ち上げられる。
それは、空中でぱっと広がって。
パラパラと、空から降ってきた。
月と、地上の光が反射して、キラキラと煌めきながら。
「綺麗……」
と、誰かがいう声が耳に入った。
「星の欠片が落ちてきたみたいだね」
近くにいたカップルの元に、ひとつ金貨が落ちてきて。
拾い上げた男性が、女性にプレゼントをする。
「ありがとう。今日の記念にとっておくね」
女性の嬉しそうな笑顔を見て。
終夏とパラサ・パックは顔を合せて微笑み合った。
その金貨はお祭りに訪れた人々への、2人と天の川にいる織姫と彦星からの贈り物となった。
「夏に花火はわかりますが、バレンタインは確か2月では……。増えたのですかね?」
そんな疑問を抱きながらも、コルネリア・バンデグリフト(こるねりあ・ばんでぐりふと)は、バレンタインというからには、やっぱりチョコレートを配るべきなのだろうと考えて、森田 美奈子(もりた・みなこ)と共に、チョコレートを用意してきた。
「箱へ詰めてください。それを打ち上げてもらいましょう」
「わかりました」
美奈子は素直に頷くと、打上げ用に用意されている箱の中に、チョコレートを詰めていく。
(しかしこのイベント……打ち上げで、男にキャッチされるとか、考えただけで鳥肌が立ちますよ。
可愛い女の子が相手だったら、いいですけど。だいたい、女の子から男なんかにバレンタインにチョコを送るとか菓子メーカーの卑劣な陰謀だと思いますけど……)
心の中では、そんな風に考えながら。
「どなたの手に渡るかわからないですけど、空からチョコレートが降ってくるとかちょっと楽しいですね」
コルネリアは、純粋な笑みを浮かべた。
「そういえば、地球人の偉人でも、昔、友達を誘って街にチョコの雨を降らせた方がいると聞いたような気がします」
コルネリアが上げた偉人の名前は、有名なギャングの名だった。
「それは……降らせたのはチョコじゃなくて、鉛の弾ですけど、些事にこだわらないお嬢様のそういうところも素敵です」
ふふっと美奈子は笑う。
「『チョコの雨を降らずぜ』ですね」
にこにこ微笑むコルネリアは分かってるのか、分かっていないのか。
「さて、詰め終わりましたよ。打ち上げていただきましょう」
「ええ」
美奈子が箱を運んで、打上げを担当している託に預ける。
それから二人は、ちょっと高い位置に移動して、花火と祭りを楽しむ人々を眺めることに。
「やっぱり夏はいいですね。可愛い女の子が薄着になりますし、私の秘密のコレクションも充実するというものです」
隠してはいるが、ガチユリ乙女である美奈子は、薄着の女の子ばかり見ている。
女の子が打ち上げられた時には、キャッチに走りたくなってしまうが……主であるコルネリアと一緒なので、勝手な行動はできない。
「秘密のコレクション?」
じっとコルネリアに見詰められ、美奈子は「景色のです、景色の」と、取り繕う。
「あ、何かが打ち上がりましたよ」
美奈子はデジカメを空へと向ける。
上空で散らばったそれは――コルネリアが用意したチョコレートだった。
「えー。これって」
「結構高価なチョコだよね」
落ちてきたチョコを、驚きながら人々は受け取っていく。
「喜んでいただけているようですね」
コルネリアは、驚きや喜びの表情を見せる人々を見て、微笑を浮かべ。
「良かったですね、お嬢様」
言いながら、美奈子は喜ぶ女の子の姿と。
隣で、美しく微笑んでいるパートナーの姿をデジカメに収めたのだった。
「私を受け止めて下さる彦星様は、一体どなたかしら」
「ちょっと待って、リン!」
シェリル・アルメスト(しぇりる・あるめすと)の制止を聞かず、「藤崎 凛(ふじさき・りん)は発射台の方へと向かっていく。
「素敵な企画です!」
(なんだかリン、アイスティーを飲んでから妙に明るくなったような)
シェリルは自分の心も高揚していることに気付く。
凛は目をキラキラ輝かせて、発射台に入ってしまう。
「キャッチするぞぉぉ!」
「うおーーっ!」
凛を誘ったブラヌと若葉分校生が雄叫びのような声を上げている。
白に水色の水の波紋と赤い金魚模様の浴衣を纏った凛は、本当に可愛らしく、パラ実生達の注目の的、本日の目玉だった。
「危ないから止めた方がいいよ、リン!」
「大丈夫よ。ふふ、私、彦星様にお会いします!」
呼びかけても、彼女は出てこなかった。
仕方なく、シェリルは落下予測地点へと走ることに。
ブラヌと若葉分校生だけじゃない。
彼女を受け止めようと、沢山のパラ実生が落下予想地点へと集まっていた。
「彼女を猛獣どもの中に落とす訳には……!」
シェリルは必死に走るが、パラ実生達は厚い柱や壁のように立ち塞がっており、掻き分けることも出来なかった。
そうしている間に、凛は打ち上げられて、落下してくる。
「うおおおおー」
「うひゃーーーっ」
「あっ、ああっ」
シェリルはガクリと膝をつく。
凛はパラ実生達の沢山の手に、受け止められてしまった。
「お父様、お母様、申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに……」
シェリルが凛の両親に懺悔をしている間。
「ありがとうございます。ちょっと怖かったけれど……楽しかったですわ」
凛は受け止めてくれた人達1人1人の頬に、お礼のキスをして微笑んでいた。
「ひゃーっ」
「ヒャッハー!」
「……シェリル?」
狂乱している彼らの元から離れて、凛はうなだれているシェリルの元へと戻ってきた。
「お待たせしてすみません。楽しかったですわ! シェリルも打ち上げられてみれば分かりますよ」
「いえ、私は……」
断ろうとした途端、彼女の腕が左右から掴まれる。
凛に着せられて、菖蒲柄の浴衣を纏っていたシェリルはとても美しく、彼女もパラ実生にとって絶好のお宝なのだ。
「キミも打上げ決定!」
「さー、行こう」
「ほっぺにチュー予約♪」
「えっ? ちょ、待っ……」
そうして、シェリルもパラ実生達に引っ張られて。
筒の中に入れられてしまった。
「え……ええーーーーーーっ!」
叫び声を上げながら打ち上げられた彼女は、空を綺麗に舞って。
「うおおおお〜」
「美人ゲットだぜェ!」
パラ実生の海へと落ちていく。
「ああ、とても楽しそうですわ」
凛はほんわり笑みを浮かべて見守っていた。
……その後、キスのお礼までさせられたシェリルはげっそりした表情で、凛の元へ戻ってきた。
「あら、随分と乱れてしまいましたね」
凛はシェリルの着くずれを直してあげる。
普段、身の回りの世話をしているのはシェリルの方であり、こういった凛の姿を見ることはあまりない。
「ありがとう。なんだか足元がスースーする服だよな」
直してもらっているうちに、シェリルは落ち着きを取り戻していく。
だが、次の凛の提案は全力で拒否した。
「さて、今度は一緒にもっと高く飛びましょう」
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