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【2022七夕】荒野の打上げ華美

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【2022七夕】荒野の打上げ華美

リアクション

「そろそろ代わろうか」
 見回りをしていた姫宮 和希(ひめみや・かずき)が、打上げを担当していた託にジュースを差し出れする。
「大丈夫だけど、少しだけ休憩取らせてもらおうかな」
「そうだな、そろそろ代わるぜ!」
「ありがとな〜」
 そこに、ブラヌ達が戻ってくる。
 彼女はゲット出来なかったが、ちゅーしてもらったり、ヨルと楽しく遊んだり、降ってきた金貨やチョコを沢山ゲットして、一応満足したようだった。
「それじゃ、次は何かプレゼントを打ち上げるかー」
「それならば、これを。是非に! パラシュート装着も装着済であります!」
 何を打ち上げるか迷っている彼に、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が押し付けるように袋を渡す。
「よーし、打上げさせてもらうぜ!」
 ブラヌは受け取ったプレゼントを、よく確かめもせず発射台に入れようとする。
「くくく……くくくく……っ」
「ん?」
 見回りに戻りかけようとした和希は、吹雪がなにやら怪しげな笑みを浮かべていることに気付く。
「ちょっと待って」
 不審に思い、ブラヌが持つ袋の中に手を突っ込んで、中身を取り出してみた。
「……!?」
 入っていたのは、機晶爆弾だった。
「くっ、リア充爆発しろ!!」
 そう叫ぶと、吹雪は逃げ出した。
「それ、打ち上げんなよ! 待てッ」
 和希はブラヌに言った後、吹雪を追う。
 パラ実の生徒会長――顔役として、祭りを妨害する者は放ってはおけない。
「せめて、せめてリア充を1組だけでも爆発させるであります!」
 吹雪の手の中には、もう一つ機晶爆弾があった。
 仲睦まじそうなカップルに突撃していく。
「させるか! 皆、そいつから離れろ」
 和希がドラゴンアーツで、吹雪の足を攻撃。
「なに?」
「爆発!?」
 カップル達が離れていく。
 その直後。
 ドーン
 転んだ拍子に機晶爆弾が爆発してしまった。
「け、けふ……」
「お前、パラ実生じゃねぇよな。なんか哀れな奴……」
「五月蠅いであります……けふっ」
「ほら、立て!」
 和希はロープで手を縛ると、ボロボロの吹雪を立たせる。
「自分で終わりではないぞ同志達が必ず!!」
 吹雪は勇ましい?言葉を残して、連れていかれた。

「我はいま流行りのポータラカ人、ンガイ・ウッド(んがい・うっど)である!」
「そうかそうか」
 ブラヌ達の腕の中に、銀色の猫がいた。
「呼び難ければシロと呼ぶが良い!」
「シロシロ〜♪」
 ブラヌはなでなでぎゅーっとンガイを可愛がる。
「それ以上は、無礼であろう!」
 などと言いながらも、ンガイもブラヌにすり寄ったりしている。
「……ところで」
 一頻り可愛がられた後、ンガイは語りだす。
「……ところで、我がエージェントが、ようやく若者らしくなってきたのである。ずばり、恋をしてみたいとつぶやいていたのである! 余生を送る老人のように達観していた、あの我がエージェントが!」
「恋か、恋はいいよな、両想いならな」
 ブラヌ達は遠い目をする。
「そういうわけで、我は代わりに飛ぶのである」
 言って、ンガイはブラヌ達の腕の中から降りて、発射台の方へと走っていく。
 エーシェント……パートナーの五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)は体が弱いこともあり、打上げは危険とンガイは考えた。
「我を受け止めた者こそ、我がエージェントの彦星である!」
 ちなみに、東雲は男の子だ。
 女性に受け止められるはずがない。だから、彦星と出会うのだと、東雲の彼氏をゲットするつもりで、ンガイは発射台の中で発射を待っていた。
「シロ!」
 ようやく、東雲も発射台に到着した。
「俺の代わりってどういうこと? それに彦星??」
「心配無用である。必ず彦星を捕まえてくるのである!」
「何の話!?」
 戸惑う東雲が見守る中。
 ポンッ
「うわー」
 打ち上げられたと思ったら、一瞬で東雲の視界からンガイが消えた。
 そのまま、何も起こらない。
「シロが星になっちゃった……」
 東雲には、シロが夜空に吸い込まれて、星の一つになってしまったかのような気がしていた。
「天の川まで行って、彦星を連れてくるのかな?」
 不安げに夜空を眺めていた東雲だが……何かが回転しながら落ちてくることに気付く。
「……なに、あれ。猫!?」
 そう猫である。ンガイである。
「よーし、番外編だ。俺がゲットするぜ」
「いや、俺ももふりたい」
「俺だって!」
「か、かわいい……」
 若者達がゲットに走る。
 ポスッ。
「ん、んんんん?」
 結局、ンガイをゲットしたのは彦星ではなかった。
「可愛い〜。この仔はあたしがもらっていくよ」
 落ちてきたンガイに魅かれて駆け寄ってきた熾月 瑛菜(しづき・えいな)が、パラ実生をかき分けてンガイをキャッチしたのだ。
「あ、ありがとう」
 東雲が駆け寄ってきて、瑛菜にお礼を言った。
「彦星に会えたかな?」
 そう東雲が尋ねると。
「いや、これは織姫である。そうか、我を彦星と間違えたのか」
 真面目な声で言っているが、ンガイは瑛菜ともふもふ中だった。
「?」
 東雲は結局ンガイが何をしたかたのか、よく分からなかった。

「あたしも飛ぶ飛ぶー!」
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が、目を輝かせて走ってきた。
「飛ぶのには慣れてるけど、やっぱり星空の中を吹っ飛んでいくのはロマンだよね」
 なんてすばらしい企画なの! とネージュは思う。
 どこかの地祇にラリアットで吹っ飛ばされたりしてるし、翼はないけど、勢いよく飛んだり、夜空のお星さまになったりするのは慣れている。
 ……なんかちょっと違う気もするが、とにかくネージュは慣れているのだ。
「いいぞー。ま、誰かキャッチしてくれるだろ」
 外見7歳のネージュには、ブラヌは興味がないようであった。
「ありがとう。どっかーーーーんと、とーーーーくに飛ばしてね。遠慮はいらないよ! 慣れてるんだから」
 ネージュはキラキラ輝いていた。
「そっか、りょーかい。任せておけ」
 要望に応じて、打上げ機のエネルギーの量を増やしてあげた。
「ダメ、この向きじゃ……」
 そして。
 ボンッ
 ネージュは高く高く、飛んだ。
「あたしは、天の川のお星さまになるの!」
 打ち上げられる直前に、砲身の方向を自ら変えて。
 高く高く飛んだ後は――。
 着地予定箇所とは全く別の方向へと落ちていく。
 誰も彼女を捕まえられない。
 なぜなら彼女は、もう人ではないから。輝く夜空の星だから。
「七夕の流れ星になったのーーーーー!」
 ネージュは大声を上げる。
 そうして、彼女は皆の願いを叶える流れ星になった。

「きゃっほー!」
 神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)は、浴衣姿で舞飛んで、美しい華となった。
 落下中もパラシュートも魔法も準備していなかったが、楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「危ねーぞ」
 そう言って、空中で授受をキャッチした彦星は、知り合いのゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)だった。
「わーい、受け止めてくれてありがとう!」
 言って、授受はゼスタの頬にキスをする。
「このままデートする?」
 ゼスタの誘いに「ごめん」と授受は答える。
「連れがいるの。今日はまたね、彦星!」
 ゼスタに降ろしてもらうと、手を振って彼と別れて。
 共に祭りに訪れていたエマ・ルビィ(えま・るびぃ)の元に走って戻る。
「あははー楽しかった! ただいまエマ!」
「おかえりなさいですわ。楽しかったですか?」
 エマは潤んだ瞳で、授受を見つめた。
 彼女の手の中には、屋台で購入した甘い苺ミルクがあった。
「ん? エマどうかした?」
 授受は怪訝そうにエマを見る。
 浴衣の襟元が緩めてあり、頬は赤く染まっている。
 熱でもあるのだろうか?
「大丈夫?」
「何がでしょうか」
 授受の言葉にエマはほわっとした笑みを浮かべる。
「大丈夫ならいいけど……」
 そして、並んでシートに腰かけてのんびり夜空を観ようとするが……。
「七夕の夜空って、キレイですわね……ジュジュの黒髪もキレイですよね」
 エマの目は、授受に向けられており、髪から頬へと手が伸ばされる。
「ジュジュ……」
 とろんとした目でエマは授受を見つめる。
「え、ちょっ……エマ、どしたの!?」
 ちらりと見える胸元。綺麗な鎖骨。
 桜色に染まった頬。甘い声。
 色っぽいパートナーの様子に、授受は困惑する。
「さては何かヘンな物食べたわね!?」
 なんだかやはり変だ。身を引こうとする授受だが、エマにぎゅっと抱き着かれてしまう。
「ひっ!?」
「うふふ」
 妖艶に笑って、エマは授受の首筋にすり寄った。
「ぎゃーちょっと待って! あたしそっちの趣味ないってば!」
「ジュ、ジュ……くすっ」
 エマの唇が授受の首に触れた。
「ふぎゃー、旦那さんに殺されるー!!」
 エマは既婚者だ。
 彼女の旦那に、こんなところを見られたら……。
 ただでは済まされない!
 想像して青くなり、冷や汗をかきながら、授受はじたばた暴れるが、エマは放してはくれなかった。
「大丈夫ですわ、ジュジュ。楽しい夜にしましょうね。うふふ……」
 エマの手が授受の服に伸びた。
「な、なにしてんのよー!」
 抵抗する授受の手により、エマの服がさらに身だれてしまって。
「おー」
「すげえな」
 いつの間にか、視線が集まっていた。
「な、何見てんのよ! エ、エマ、お願い。やめて、ね、ね?」
「ジュジュが悪いのですわ。キレイすぎるあなたが……」
「やめてって言ってんでしょうがー!」
 懇願してみても、突き放してもエマは授受にすり寄り続ける。
「さあ、ジュジュ……私を楽しませてくださいませ。うふっ」
「た、楽しみたいのなら、エマも飛んでくればいいじゃなーい! ぎゃー、離れてーっ」
 ……薬の効果が切れて、エマが眠りにつくまで。
 2人の攻防は続くのだった。

「うん、浴衣でも飛んでる人沢山いるね。大丈夫そうだ」
 桐生 理知(きりゅう・りち)はわくわくしながら、発射台に向かっていた。
「いや、そうだけど……ちょっと心配だな」
 恋人の辻永 翔(つじなが・しょう)は共に歩きながら、心配そうだった。
「翔くんはここで待っててね! よーし、頑張ろうっと!」
 楽しそうな彼女を止めることはできず、翔は「無理するなよ」と言葉をかけて、地上で理知を待つことにした。
「準備OKだよっ」
 ボンッ
 理知が言った途端、彼女の体は空へと打ち上げられる。
「んー……っ」
 イコンの発進時よりも強い抵抗に、最初理知は目をつぶってしまうが。
 速度は次第に落ちていき、空を見る余裕が出来る。
「すっごく綺麗……」
 それはモニターに写された映像でも、写真でもない、地上の光が一切届かない夜空。
 見惚れながら観賞できたのは、僅かな時間で。
 すぐに、理知の身体は地上へと引っ張られる。
「ん〜、翔くん見えるかな」
 ぐんぐん近づく地上の、僅かな光の中にいる、彼を探す。
「……あっ」
 ぴかぴかライトが光っている。規則的な信号のような光の発信源は、姿が見えなくても分かる。
 理知は手を広げて、彼に自分の存在を知らせる。
「あの娘は、俺の彼女なんだ」
 キャッチしようと、群がっているパラ実生を払って。
「理知!」
 翔は落ちてくる理知を、上空に両腕を広げて抱き留めた。
 理知の落下の勢いは凄まじく、そのまま翔は後方に倒れてしまう。
「理知……無茶しすぎ。せめて飛行具ぐらいつけていけよ」
 倒れたまま、翔は理知を抱きしめていた。
「ご、ゴメンねっ!」
 無茶なことをしたということよりも。
 翔を押し倒すような形になってしまったことに、理知は申し訳なさと、恥ずかしさを感じていて。
「ったく。ほら行くぞ。普通に天の川見よう、普通にな」
 起き上がって、翔が手を差し出して。
 彼の手を握り、一緒に歩き出した時。
 彼の目が他に向いた瞬間に。
 理知は背伸びをして、翔の頬にキスをした。
「受け止めてくれたお礼だよ」
 赤くなりながら、理知は翔に微笑んだ。
「それじゃ、これは無事、俺のところに戻ってきてくれた礼だ」
 翔は理知をぐいっと引き寄せて、彼女の肩を抱いて、ぽんぽんと優しく愛しそうに頭に触れた。