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リアクション
『死闘! シャンバラ宮殿』
「今の自分たちで勝てる確率は……。0.8%です」
シャンバラ宮殿前。
眼鏡を押し上げながら、険しい表情で小暮が言った。
「外部からのサポートなしで勝利は難しい。ですが、今は戦うしかありません」
彼の言葉を聞いたメンバーは、深刻な顔でうなずいた。
「なんだか、周りが騒がしいね」
見渡すルカルカ・ルー(るかるか・るー)へ、ナビゲーターの美女が説明する。
「宮殿の裏側に列車が突っ込んできたんです」
「えー!」
「でも、直前で食い止められたようですわ」
「それならよかった」
ホっと胸をなでおろすルカルカだが、怪訝な顔を浮かべる者もいた。
「列車といえば。たしかカル・カルカーさんも搭乗していましたわ」
城 観月季(じょう・みつき)が、破壊的なまでに大きな乳房をゆらしている。
「カルさんがやらかしたとしたら、あとでお仕置きしなくちゃね」
ぺろりと舌なめずりする城 紅月(じょう・こうげつ)。
彼の表情は、官能と嗜虐に歪んでいた。
「ところで。宮殿への侵入だが」
場を取り持ったダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、厳かな口調で告げる。
「外から侵入するのは不可能だ。宮殿の防御は甘くないからな」
「なら、ルカに任せて!」
入口へと走っていくルカルカ。
彼女は【ロイヤルガードエンブレム】を取り出すと、護衛に掲げながら言った。
「公務で登殿します。彼等は同行者よ」
軍人モードになったルカルカは勇ましい。
「お勤めご苦労様です!」
敬礼し道をゆずる護衛たちの横を、一同が駆け抜けていく。
「さすがはルカ殿」
「お安いご用だよ!」
小暮の賞賛に、ルカルカは胸を張った。
「ここからは俺に任せてくれ。宮殿は庭みたいなもんだ」
慣れた足取りでダリルが向かった先は、エレベータの前。彼はルカルカへ【空飛ぶ魔法↑↑】を使うよう指示した。
「シャフト内を飛んで、一気に上へ行くぞ」
「俺は宮廷楽団員だから、宮殿内のことは知ってるよ」
シャフト内を上昇しながら紅月が言う。
「初めてのMMOで閉じ込められて、とても怖いですけれど。紅月と一緒なら安心ですわ」
微笑む観月季の魔乳が、風圧で激しく揺れていた。
200階まで到達した彼らは、三人目のハッカーを発見した。
まず飛びかかったのはトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)である。
「四天王のリーダーを倒す仲間達には、体力を温存しておいてもらわないとね」
彼のすぐ後を、パートナーのミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が追う。
「私たちの主義は『殺さず』です。しかし、ここはゲームのなか。心置きなく戦わせていただきます」
ミカエラは【バーストダッシュ】で勢いをつける。ハッカーを蹴り上げ宙に浮かせると、そのまま空中戦へもつれ込んだ。
「立ちふさがるだけ無駄無駄無駄!」
全力でぶつかるミカエラに容赦はない。彼女の攻撃を全身に浴び、能面Cは後方へふっとばされる。
「……ゲームには、現実を先取りする面白さがある」
【氷術】を使いながらトマスはつづけた。
「なのに現実の死を再現したら、ゲームにする意味が無いだろう。君たちは超えてはいけない一線を超えた。自ら用意した死の重みを感じ、反省するがいい」
トマス、ミカエラの攻撃は完璧だった。
だが。
能面Cは何事もなかったかのように、のっそりと立ち上がる。
「ダメージが……効いてない」
小暮が息を飲んだ。
「奴のチート能力は、『ダメージを無効化』するみたいだな」
冷静にダリルが分析する。
「どうすればいいの?」
「ルカ殿。落ち着いてください。なにか……なにか策があるはずです!」
「チート相手に、まともに戦う必要ないわ」
ルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)が美しい顔立ちを向けて言った。
彼女の口調には、どこか相手をアジテートする響きがある。
「まったく、どこまで迷惑かけさせれば気が済むのかしら。どうせ貴方、匿名掲示板で他人の悪口書いたり、違法ダウンロードばかりするしか能がないんでしょう。仕事も自宅警備員ってとこかしら。ほんと残念な人。ゲームのなかでさえ、改造アバター使わなきゃ戦えないんだものね!」
ずばずばと罵倒するルゥ。
だが、発言している本人の方が辛そうな顔をしていた。
「ルゥさん……」
心配そうにメルティナ・バーンブレス(めるてぃな・ばーんぶれす)が見つめている。
彼女は気づいていた。ハッカーを反省させるために、ルゥは敢えて厳しいことを言っているのだ。
(口ではああ言ってるけど、ハッカーの甘えた考えが許せないだけ。普通に接するならお友達になってくれるはず。ルゥさんは、私みたいなダメダメとも契約してくれる、優しい人だから)
ルゥの精神攻撃は効果があるようだ。
罵倒されるたび、ハッカーの体がわなわなと震える。能面を上げて彼は叫んだ。
「モット……モット罵ッテクレ!」
能面Cはマゾだった。
「悪いやつはお仕置きしないといけませんわ」
観月季が持ち前の魔乳を見せびらかし、ハッカーに迫る。
相手がマゾなら、お色気で落とす作戦だ。
「今ならあなたが望むかたちでお仕置きしてあげます。私の身体の、どこで責められたいのかしら?」
しかし、ハッカーは不満そうに怒鳴った。
「幼女以外、オ断リダ!」
能面Cはロリコンだった。
ハッカーは立ち上がるなり、観月季へ殴りかかっていく。
「危ない!」
メルティナがとっさに庇う。倒れこんだ彼女の背後を、ハッカーの拳が空振りした。
「マダダ!」
追撃するハッカーの拳。
防いだのは、ルカルカだった。
「ここはルカが時間を稼ぐから! ダリルと小暮は、敵の分析に専念して!」
しなやかに【百獣拳】を叩き込む。ダメージはないが、牽制にはじゅうぶんだ。
俊敏な動きで回し蹴りを放つと、相手はピンポン玉のようにはじけ飛ぶ。
壁にめり込んだハッカー。ゆらりと体を起こしたとき。
「ルカ、能面を取れ!」
銃を構えたダリルが叫んだ。
仲間たちから送られたデータを解析した結果。
「あの能面がチートの元凶でした! 能面さえはずせば、この戦いの確率は99.8%です!」
小暮が言い終わると同時に、ダリルは銃を乱射した。
激しい弾幕のなか。
接近したルカルカが、ハッカーの能面を奪う。
「クッ……」
素顔が見られないよう、ハッカーは両腕で顔を覆った。
がら空きになったボディへ、ルカルカの容赦ない百獣拳が叩きこまれた。
問答無用の、ノックダウンである。
顔を覆ったまま倒れこむハッカーに。
「さあて。お仕置きはここからが本番だよ」
紅月が、黒い笑みで歩み寄る。
「無意味に傷つけるのは趣味じゃないんだ。優しく、じっくりお仕置きしてあげるよ」
唇を蠱惑的に舐めながら、彼は【吸精幻夜】を発動させた。
「アッ……アァァ!」
痛みと快楽がもつれ合う。
血を吸われる虚脱感に悶えるハッカーへ、紅月が甘く囁く。
「こういうキャラって、意外と可愛い顔してるんだよね。ほら。素顔を見せてよ……」
しかし、覆っていた腕をほどく前に、ハッカーは自力でログアウトした。
「残念だなぁ。お愉しみはこれからだったのに」
200階を制圧した彼らの元へ。
びっしょりと汗を掻いた人物がひとり、駆け上がってきた。
その人物は――。
匿名某である。
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