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転・スピード解決
 
 
「え? もう来たの?」
 ぴくりと耳を欹てた真深が、小声で呟いた。
「……そうね。この人知らないみたいだし」
 直後、窓が、壁ごと破壊された。
 彼等は勿論、「窓を破って突入」の予定だったのだが、此処に、多少の規模のズレを指摘する者などはいない。
 ニキータや美羽らの援護で、ナージャが先頭を切って内部に進入する。
 室内には、驚いた顔のハデスと、横たわるヨシュア。共犯者、真深の姿は既に無かった。
 ナージャは正面から、ハデスを睨んだ。
「身代金とやらを、払いに来てやったぞ。物理で、だが」
「敵襲だとっ!?
 くっ、どうしてこのアジトがバレたのだっ!」
 人数が多い。
 単身の自分は、一瞬の判断を誤れば、敵に拘束される。ハデスは瞬時に、戦略的撤退の戦術を選んだ。
 近くにあったドアから、隣の部屋に転がり出、すぐさま、窓から外へ飛び出す。
 屋根から様子を伺っていたダリルが、ハルマゲドンの構えを見せて、ルカルカは慌てて止めた。
「殺しちゃう、ダメー!」
「博士の助手は、俺にも重要だ。
 軍務でもないし、幸い目撃者もいない」
 生命の危機には生命の危機で対処する。ダリルは冷静に言う。
「いるって。ダリル、潰すと決めた相手に容赦なさすぎよ」
「……冗談だ」
 というやりとりをしている間に、二人はハデスの姿を見失った。


「ヨシュアか? ナージャ・カリーニンだ」
 ヨシュアの拘束を解きながら、ナージャが自己紹介する。
 この人が、と、ヨシュアはナージャを見上げた。
「……ヨシュア・マーブルリングです。こんな有様ですみません」
 助けてくれてありがとうございました、と、ヨシュアは周囲の人々にも頭を下げる。
「友人の為に動くのは当然よ。気にしないで」
 リネンが、軽くそう流した。ふふ、とナージャは笑う。
「全く、面白い出会いだな。
 どうだろう、こんなに色々なものがお膳立てしてくれたのだから」
 ナージャは笑いながら、ヨシュアに手を差し出した。その意味が、解らないヨシュアではない。
 そうですね、とヨシュアも苦笑し、その手を取った。
「よろしくお願いします」



「あの男の逃げ足の速さはSS級だな」
 メシエが呆れて言った。
 エースが、ヒプノシスを使って眠らせる暇すらなかった。
 伊達に磨き上げられた撤退技術ではないのだろう。
「犯人を国軍に引き渡したかったが……」
「ヨシュアが無事だったのだからよしとしましょうよ」
 悔しそうなメシエに、リリアが言い、
「そうだな」
と渋々頷いた。
 全くリリアには甘いな、とエースは思うが、本当に、ヨシュアが無事で安心した。
 待ち合わせ場所に送り届ける必要も、なくなったようだ。



 何とかハルカを見つけることが出来たコハクとベアトリーチェは、美羽からのテレパシーを受け取って場所を教えて貰い、彼女達と合流する為に向かったが、誘拐事件に関しては、美羽達を信じているので、その足取りはのんびりしたものだった。
「何だか、出会った頃のことを思い出すなあ……」
 初めて会った時、美羽は、コハクが休んでいる部屋に飛び込んで、ドーナツを差し入れてくれた。
 ……パラミタから遠く離れ、今は渡ることも出来ない浮島、セレスタイン。
 あの場所で、契約者としてのコハクと、今のハルカは始まったのだ。
 ボロボロになってシャンバラに渡った時、疲れて、辛くて、苦しくて。助けられ、皆の優しさに触れ、甘いものを食べてほっとして……。
 好きな食べ物は、と美羽に訊かれた時、思わず、目の前にあったドーナツと答えた。
 けれど、その後、美羽はコハクの為に何度もドーナツを差し入れてくれて、今では本当に、コハクの好物になっている。
 そして、美羽のことも、コハクにとって、とても大切な存在になっていた。
「コハクもハルカさんも、あの頃と違って、随分成長しましたよね」
 ベアトリーチェも、懐かしく思い出した。
 ひ弱だったあの頃と比べ、今やコハクは、最強クラスと言っていい、歴戦の契約者だ。
「そうかな」
 美羽と共に、沢山の冒険を経験した。
 今、とても幸せだし、充実していると、そう思う。
 少年、少女だったあの頃と比べたら、随分大人びた、とベアトリーチェは思う。
 コハクも、美羽も。それだけの年月が過ぎた。
 けれど、それはとても素敵な変化だと、ベアトリーチェは微笑んだ。

 そうして、三人が現場に到着した時、事件はあらかた終わっていた。
「遅いよー!」
 コハク達を見つけた美羽が手を振る。
 その表情から、無事に解決したのだと解り、やっぱりね、と三人は顔を見合わせて笑った。