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リアクション
☆ ☆ ☆
畑では、スプリンクラーのスイッチがようやく切られ、スライムの噴出はなんとか止めることができた。だが、飛び出したスライムは、畑のあちこちで蠢いている。
悠久ノカナタは、やっとのことで緋桜ケイを畑の中から救い出すと、負傷者を保護している風紀委員の所に連れていってあずけた。つつむ物がなかったので、自分の着物を着せている。そのため、今のカナタは白い襦袢姿だ。
「仇はとってやるぞ」
ウィルネスト・アーカイヴスの隣に寝かされたケイを、自分が戻るまで絶対着替えなどさせないようにと風紀委員に言いつけると、カナタは箒に乗って畑の方に戻っていった。
襲われないように高度をとりながら飛んでいくと、トウモロコシをかき分けながら進む佐倉留美とラムール・エリスティアの姿があった。立ち塞がるスライムをラムールが焼き払って進んでいく。
「進入路がスプリンクラーなどが繋がっている上水道だとしますと、この先にある貯水タンクも怪しいですわね」
そう言って、留美がラムールをうながした。うなずくラムールの背後に、トウモロコシをかき分けるようにしてスライムが近づいてきている。
「こそこそと……」
カナタは躊躇することなく、地上のスライムに対して怒りを込めて火球を叩きつけた。
爆風が、スライムを倒すと同時に、留美のスカートをばたばたとはためかせてめくりあげた。それを見て、パートナーのラムールが何やら大あわてで騒いでいる。キョロキョロと周りを見回した後、誰もいないのを確認して、ラムールはほっと安堵の溜め息をついた。
それから、ラムールが、お礼の意味を込めて上空にいるカナタに手を振った。
「ありました、貯水タンクです。見てください、中にいるスライムが見えますよ」
留美は巨大なタンクに駆けよると、タンクの給水弁をしっかりと閉めてスライムを中に閉じこめた。タンクについたのぞき窓から、中で四匹ほどのスライムが蠢いているのが見える。
「大元は、上水道の起点であるポンプ室でしょうけれど、ここのスライムは、これで他の場所へは動けないでしょう」
留美がほっとしたのも束の間、タンクの外にいたスライムが襲ってきた。すかさずラムールが撃破する。
「そこの魔女さん、よろしかったら、風紀委員さんを呼んできていただけませんでしょうか」
留美に頼まれてカナタは少し躊躇したが、その頼みを聞いてやることにした。時間を惜しんでスライムを殲滅したいところだが、あせれば隙が増える。
カナタは戻ると、和原とフォルクスに守られつつ畑の中を進んでいる風紀委員を見つけた。
「末端の水道関係の調査は、俺が風紀委員さんを守りながらやるよ。おっと、さっそく現れたか」
言うなり、和原が目の前のスライムをメイスで叩いた。飛び散ったスライムが、三つに分裂する。
「増やしてしまってはダメであろうが!」
フォルクスが、非難の声をあげた。すぐにパートナーの失態を償うべく、火術でスライムを攻撃する。
「おうい」
カナタは、風紀委員に貯水タンクのことを告げるために高度を落とした。とたん、分裂したスライムの一匹が、ジャンプしてカナタに飛びかかろうとした。
「よっと……御苦労さん」
名誉挽回とばかりに、そのスライムを和原がバケツで受けとめた。そのまま地面に伏せて捕獲する。
「ええい、邪魔なのだ」
カナタが、火球でスライムを灰にした。さらにもう一匹をやっつける。残ったスライムは、風紀委員の周りから逃げていった。
「この先の貯水タンクに、スライムを捕まえてある」
カナタが説明する間に、和原がもう一匹スライムをバケツで捕まえた。このまま残してはいけないと、和原の捕まえたスライムは、風紀委員が焼き殺した。
そのまま、風紀委員たちは、貯水タンクの方にむかった。
「こっちである」
カナタが、邪魔なスライムを焼き払いながら風紀委員を案内していった。
「お待ちしていました」
カナタが戻ってくる間にバケツでスライムを一匹捕まえた留美が、風紀委員を出迎えた。
☆ ☆ ☆
箒で飛び回りながら、如月は、畑から這い出してきたスライムだけを確実に仕留めていた。
「シェスターはどうしているだ」
さらに一匹仕留めた如月は、パートナーが心配になって様子を見にいった。本来なら、敵を罠に集めたら連絡が来るはずなのだ。
そのころ、シェスター・ニグラスは途方に暮れていた。禁猟区をかけた石を、落とし穴として掘った穴に入れても、スライムたちはいっこうに引っかからなかったのである。
「やっぱり、この餌じゃ効果なかったのでしようか。だったら、もっといい餌にしましょう」
そう言うと、シェスターは、自ら穴の中に入ってスライムを待ちかまえた。
「シェスター、大丈夫かい」
ちょうど如月がやってきたとき、シェスターにひかれた二匹のスライムが襲いかかろうとしていた。
「陽平、頼みます」
タイミングを見計らって、シェスターが穴から飛び出した。入れ替わるようにして、スライムたちが穴に落ちる。如月は、そこへ火球を叩き込んだ。
「では、次行きます」
シェスターが、また穴に入ろうとした。
「いや、それは危ないからもうやめてくれ」
リスクが大きすぎるからと、如月がシェスターを止めた。だが、言うそばからスライムたちがよってくる。あわてて、如月は火球を放ってスライムを倒した。
「うまくいっているのですから、続けてください。僕も、役にたちたいんです」
シェスターにそうまで言われてはしかたない、如月は、しかたなく彼を餌にして近づいてきたスライムを倒していった。
☆ ☆ ☆
「誰か、スライムにやられた人はいないか」
高月芳樹は、他の学生たちを援護するためにアメリアと一緒に農場の中を回っていた。だが、こうトウモロコシが生い茂っていては、なかなか他の人と出会うことも難しい。むしろ、出会うのは敵であるスライムばっかりだ。
「アメリア、無事か」
スライムを火球で倒しながら、芳樹が訊ねた。
「もちろん、大丈夫だよ。芳樹こそ、気をつけて!」
そう答えると、アメリアが、爆炎波で芳樹の背後に迫っていたスライムを倒した。
「悪いな、とっておきを使わせちまった」
「気にしないでいいよ。なんだか、みんな無事みたいだね」
アメリアがそう言ったとき、トウモロコシの一部が吹っ飛んで、スライムを倒したばかりの姫北星次郎が現れた。
「おお。迷ったと思ったら、こんな所でお仲間と会えるとはな。ちょうどいい、手を組まないか。まとまった方が、やられにくいだろう」
星次郎が、芳樹たちに持ちかけた。なにしろ、星次郎のパートナーのシャールは早々とスライムの餌食になってしまったため、ずっと単独行動を強いられていて困っていたのだ。
「いいだろう。僕たちは、なるべくサポートに回ろう。攻撃は任せた」
「おう、任されたぜ」
言葉通りに、スライムを星次郎が倒して見せた。
「これなら、安全にいけそうだ」
「ああ、そう思うぜ」
芳樹と星次郎が、ガッチリと握手した。だが、そう言うことをするから隙が生まれる。二人が互いを見つめ合った隙に、死角からスライムが襲いかかってきた。握手した手が離れ離れになり、星次郎がすっぽんぽんになって倒れた。いや、気絶してもなんとかメガネだけは死守していたが。
あわてて飛びすさった芳樹が、火球を放ったが、スライムは素早く逃げた後だった。
「彼は任せたぞ」
芳樹は、逃げたスライムを追っていった。
「大丈夫?」
駆けつけたアメリアが、倒れている星次郎の姿を見て、さすがに「キャッ」と小さな悲鳴をあげた。形だけでもそっぽをむいてみせる。
「もう。男性は芳樹の担当のはずなのに……」
アメリアは苦労して星次郎の腰にタオルを巻いた。その後で、よいしょとばかりにかかえると、安全な場所をめざして逃げていった。
☆ ☆ ☆
「やっと着いたか、ここの侵入経路を探すとしようぜ」
ディアス・アルジェントは、農場にやってきた他の三人を見回して言った。広場からの移動組だが、ここはちょっとくるのが遅すぎたようでもある。
「もとから、そのつもりだがな」
「そうですぅ」
魔楔テッカとマリオン・キッスが、ディアスに答えた。ディアスのパートナーのルナリィス・ロベリアは無言でうなずいただけである。いや、光条兵器の大鎌を手にした彼女は、露払いとして、四人の前に立ち塞がるスライムを一刀両断にしていった。
そのまま、管理小屋まで無事に辿り着く。途中で、ルナリィスがもう一匹スライムを倒したが、ちょっと拍子抜けしたと言ってもいいだろう。
事実、管理小屋の風紀委員に聞いてみると、すでにこの場所のスライムはほぼ駆逐され、進入路も判明したので閉鎖中とのことだった。
「それよりも、大浴場の方はかなりまずいらしいですよ」
「よし、すぐにそっちへ移動だ」
風紀委員の言葉を聞いて、まだ頑張れる者は大浴場にむかうことになった。
高月芳樹、魔楔テッカ、佐倉留美、ラムール・エリスティア、ブレイズ・カーマイクル、リリサイズ・エプシマティオ、マリオン・キッス、アメリア・ストークス、ロージー・テレジアが農場から大浴場へとむかった。
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