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猛女の恋

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猛女の恋

リアクション

 騒がしい原因は、学校外に密かに集まる「百合バラ共同団」にある。
 百合園からは、高潮津波とナトレア・アトレア、神楽坂有栖とミルフィ・ガレット、ジュリエット・デスリンクとジュスティーヌ・デスリンク、リセリナ・エルセリートとクリスティーナ・ブラウン、如月日奈々、加賀見はるなとアンレフィン・ムーンフィルシア、プレナ・アップルトンとマグ・アップルトンの13名。
教導団からは皇甫 伽羅とうんちょうタン、ルカルカ・ルーとダリル・ガイザックの4名が参加している。

 女性は小声で話しているが、うんちょうやダリルの声は大きい。現在留守2名を除く総勢15名が、カノン=亜津子を巡って議論を続けている。それなりに騒がしくなるのは当然だろう。
 そこに、「魔法使い探し」に疲れて戻ってきたジュリエット・デスリンクとジュスティーヌ・デスリンクも加わった。
「駄目だったわ、名のある魔法使いはバカンスで遠くにいるか、大きな仕事に関わっていて動けないって」
 だが、ジュリエットが手ぶらで返って来たわけではない。外で噂される新しいオウムの歌を覚えてきていた。
 プレナ・アップルトンとマグ・アップルトンは図書館で探した情報から、魔女とカノンとの契約には、破棄する方法が必ずあるはずだと力説する。
 ルカルカが、それぞれの情報をつなぎ合わせてみる。
「やっぱり亜津子はカノンだと思うんだよね、恋の相手は桜井静香、魔女との期限はあと2日。魔女の名前は、まだ不明ってとこかな」
 残りの期限は2日しかない。期限に向けてそれぞれが対策を話し合う。

 津波とナトレアは「かわいそうな学友、亜津子が誰であっても最後まで付き合おうと思っています」という。倒れる瞬間を目撃した津波は亜津子を友人のように感じ始めていた。
 
 有栖とミルフィは「魔女の狙いが校長先生としたら、いずれ魔女は何らかの形で校長先生の前に現れるのではないでしょうか?」との考えから、静香の護衛につく予定だ。

 はるなとアンは、魔女が学院を襲ってきたら戦う決意をしていた。それまで、はるなは亜津子の学院生活のサポートをしようと思っている。
「こんなことをする魔女ってどんな人なんでしょうね。静香さんがすきなのかしら?だったらひねくれずに、素直にそういえばよいのに」
「あたし、魔女も校長を好きなんだと思うんだよね。でも、誰かと話したかったら、まずは友達からだよね。友達にもなってないのに恋人にしろなんて、都合が良すぎるよ。だって、静香さん、競争率激しいもん」


 ジュリエットは大魔女には会えなかったが、他の魔女たちと話し合うなかである奇策を考えていた。
「私は、魔女を論破してやりたいわ。ベニスの商人方式です。魔女が奪ったのは瞳(眼球)ではなく視力です。『契約では、まずカノンさんの瞳を奪う筈…でも、この通り瞳は付いているわ。お前は瞳ではなく視力を奪った、これは歴とした契約違反、だからこの契約はもともと無効なのよ!』って愚か者!って叫んでやりたいですわ」
「お姉様のご指摘はもっともですけど、悪い魔女にそんな議論が通じるのでしょうか」
皆が黙ってしまったので、妹のジュスティーヌが答える。

 沈黙のあと、日奈々が搾り出すように語る。
「今…好きな人が、見えなくて…思いを、自分で、伝えられなくて…カノンさん、つらいんじゃないですかぁ…?見えないって・・・」
 日奈々は自分の頬を撫ぜる。
「見えないって・・・なんで・・・」
 盲目を受け入れて、人生を過している日奈々は言葉につまる。

 皇甫は「軍人は要領を旨とすべしですぅ、一旦教導団に戻って、カノンさんが戻っていないか、確かめてきますぅ。」
「それがよかろう、行動はその後でも間に合うであろう。それがしは義姉者(あねじゃ)に同行するでござる」
 うんちょうも同意した。ルカルカは、
「私個人としては、カノンさんの意思を確認したいんだ。累が静香さんに及ぶのは望んでないと思うから、きっと魔女と戦う決意をしてくれると信じてるの。ルカルカはここに残って、カノンさんを護ろうとおもってるんだ。ダリルは男性だから中には入れないよ。外で見守って」
 同じ教導団だが、二人の行動は分かれた。皇甫とルカルカ、取る道は違っても、どちらもカノンに対する愛情が源にある。

 プレナとマグは引き続き、図書館で情報を探すことにした。マグのプリーストとしての知識と図書室で調べた文献を付き合わせながら情報を探せば、まだ何か出てくるかもしれない。
「カノンさんの恋を応援したいってみんな一生懸命頑張ってるんだよね。プレナもマグも、そんな皆に確かな情報をきっちり伝えなきゃ」
「もしいい情報があったら、プレナが知らせるね。通りすがりの掃除当番のふりをしてるから、モップをもったプレナを見かけたら来て!情報を書いた紙を持って待ってる!」


 その夜、別の場所にも深夜の訪問があった。
誰もが探し出せなかった魔女マルハレータの居宅。ランプの炎だけが照らす薄暗い室内に桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がいる。黒いゴス服の円は、暗闇に溶け込み赤い瞳だけが光っている。
楽しむことが大好きで快楽主義の魔女・オリヴィアと人の心を弄ぶマルハレータは共通の嗜好を持っている。蛇の道は蛇(じゃのみちはへび)、住処を捜し当てるのにそう時間もかからなかった
「なぜ来た。わしのところにはお前の望む楽しいものはないぞ」
 マルハレータの言葉にオリヴィアが答える。
「美しいものを持っていると聞いたのだわぁ」
「これか」
 マルハレータは小瓶を手に取り、瞳と声の結晶をランプにかざす。
「こんなもの、わしは興味がない。全てが終わったら道楽者のお前たちにやるよ・・ただし、オリヴィア、わしに魔法をつかうなよ、お前はわしには敵わん」
「お前よりマスターの方が強いぞ」
 怒りをあらわにする円をオリヴィアがたしなめる。
「いいのよぉ、そんなことどちらでも〜。しばらくここの生活を楽しみむのだわぁ」
二人はカノンの契約が完了するまで、ここに留まるらしい。