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リアクション
4・楽しい踊り
京おどりを希望したグループは、それぞれに用意された人力車に乗って、練習場に向かう。
普段は制服を着崩し、男子っぽい源内侍 美雪子(みなもとないし・みゆきこ)は、
「かーっ。修学旅行にきてまで着物かよ〜。これだからお嬢様学校っていうのは度し難いんだよ」
歩きながら文句を言っている。
しかし、生粋のお嬢様である。
「霞花車」の赤い総柄の着物を見事に着こなし、白塗りの舞妓の化粧が違和感なく似合っている。
パートナーのマルシャリン・ヴェルテンベルク(まるしゃりん・べるてんべるく)は、着付けのときから大騒ぎだった。
「まーっ!まーっ!素敵ですわ!わんだほーですわ!わたくしも美雪子についてきたかいがあったというものですわ!」
美雪子が用意した「蛍に百合」を裾柄とした水色の着物を着ている。
外国人旅行者のようなはしゃぎっぷりで、人力車まで歩いている。
「あれに乗るのですね!素敵ですわ!わんだほーですわ!」
メリナ・キャンベル(めりな・きゃんべる)は普段は白い髪だが、ショートカットで結うことができないので、黒髪の鬘を着用した。
「べつになんでもいいよ」
と着物にこだわりも見せなかったので、着付けを担当した係りの趣味に染まっている。
山吹色の着物に色とりどりの花や蝶が飛び交う総柄の着物で、あわせた帯も愛らしく、なんとも可愛い舞妓姿に仕上がっている。
歩き方こそ優雅さにかけるものの、おぼこ(靴)もすぐに履きこなした。
車夫の手をかりずに、人力車に飛び乗る。
隣には、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が座った。
着物は学院に合わせたのか、百合の花をあしらったものだ。大輪の花が咲き誇るような総柄ではなく、裾から葉をつけた百合が2〜3本がすっと可憐に描かれている。
「どこかで会ってますか。始めましてとあいさつしたほうがいいのか迷っています」
正直に告げるロザリンドに、
「よろしく、メリナだ」
答えるメリナ。
ともに愛らしく、清らかだ。
鏡を取り出すと、舞妓にしては質素な赤い珠飾りが一つだけ付いたかんざしを確かめるロザリンド。
「踊りのコースって、誰が来ると思います。静香さんかな、それとも・・・」
ロザリンドはある決意をもって、修学旅行に参加している。
マリアンマリー・パレット(まりあんまりー・ぱれっと)は事前に着物の柄をオーダーしていた。
「黒地にウサギと三日月の柄で」
名家令嬢の集まる百合園女学院からの依頼だ。
着物を揃えた日本の呉服屋は、どんな無理な要求にも対応している。
薄闇色にほのかに浮かぶ三日月、見上げるウサギは闇に浮き立ち幻想的だ。
舞妓の着物としては、大人っぽい柄だが、マリアンマリーはとても満足している。
髪にも月のかんざしに星のだらだらをつけている。
パートナーのよしの なんちょうくん(よしの・なんちょうくん)がオーダーしたのは、「タイヤキと戦う今川焼き」のポップな現代アート着物だ。
こちらの出来も素晴らしかった。
ゆる族で、奈良県の観光マスコット「吉野朝廷パビリオン」のマスコットキャラクターをしていたよしのは、頭髪はない。
鬘をつけるか随分迷ったが、ラズィーヤの「そのままが素敵ですわ」の一言で、かんざしも鬘もなしのいでたちとなった。
舞妓には見えないが、味はある。
車夫が人力車を引く。
京都の街並みをみて、マリアンマリーとよしのは興奮している。
「ひさしぶりだねー!日本!」
よしのが頷く。
「ボクがキミと契約して以来かな」
「うん。でも京都の町並みは全然変わらないね!」
マルシャリンは、ひたすらはしゃいでいる。
1台、2台、3台と、人力車が祇園の新橋通で停まる。
それぞれが車から降りてくる。
後方にもう1台の人力車があることに気が付く。特別誂えの人力車だ。
降りてくるのは、ラズィーヤだ。
「追いつきましたわ。私も都おとりを体験しようと思いまして」
にっこり笑うラズィーヤは、黒髪の鬘をかぶり、目もカラーコンタクトで黒に変えている。
衣装はこの日のために誂えた最高級の西陣織、輝くような金糸銀糸を百合の柄に織り込んだ帯をたらしている。
「さあ、参りましょう」
ラズィーヤの隣には、百合園女学院生徒会執行部『白百合団』副団長の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)がいる。舞妓姿ではないが着物を着ている。
「皆さん、せっかくの記念ですから、まずは記念写真を撮りたいと思います」
祇園の人気撮影スポット、白川の清流にかかる巽橋まで来たときに、優子が声をかけた。
ラズィーヤがメリナとロザリンドの間に割って入る。
マリアンマリーとよしの、美雪子とマルシャリンも並び、優子が端に立った。
車夫がカメラを構える。
と、同時に周囲の観光客もシャッターを押す。
本物の舞妓と間違えたわけではない。
「吉野朝廷パビリオン」のキャラクターだったよしのを見知っている人たちがいたのだ。
「何かの撮影かしら」
そんなざわめきが聞こえる。
いよいよ練習が始まった。
練習場所には、物凄い老女が待っていた。
ささやくような声で
「楽にしておくんなはれ。作法やらなんやら気にへんといて踊りを楽しんでおくんなはれ」
そういわれてもラズィーヤがいる。
老女に優子が寄り添う。
老女が優子に耳打ちする。
「それではお稽古を始めます。先生は高齢のため大きな声がでません。指示は私がします」
皆が一列に並ぶ。
ラズィーヤは特別に持ち込んだ籐の椅子に腰掛けている。
「さぁ、みなさん、はじめてくださいね。わたくしのことは気にしないで結構よ」
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