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リアクション
5・楽しい生け花
生け花体験を希望したグループは、それぞれに用意された人力車に乗って、お教室に向かう。
マリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)は、淡いピンクの古典柄の着物を選んだ。髪型もお化粧も化粧師さんに特に注文をつけないでお任せしたので、本格的ないでたちとなった。立ち姿は本物の舞妓のように見える。
問題は歩き方。
着物の裾裁きは申し分ないのだが、柔道三昧の日々を過してきたマリカの歩き方は、舞妓にしてはどこか猛々しい。
パートナーのテレサ・カーライル(てれさ・かーらいる)は、白地にモミジの散った少し大人っぽい舞妓姿に変わっている。髪形も若い舞妓さんがする割れしのぶではなく、おふくだ。
人力車に乗るときのマリカの裾捌きをテレサはたしなめる。
「足が見えすぎですよ、マリカ」
結局子供用の裾でリスが跳ねる着物を着た桐生 円(きりゅう・まどか)は、パートナーのオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)と人力車に乗るつもりでいた。
サイズの合わない大き目の鼻緒のおぼこ(靴)をまるで、竹馬のようにポコポコあるく円。
しかし、高務 野々(たかつかさ・のの)にそっと腕をつかまれる。
「円さんは私と一緒に乗るんです」
「え、ボクが?」
「そうです。いろいろありましたし・・・お目付け役を仰せ使いました」
イタズラっぽく笑う野々。
車夫の手を借りずにひょいっと車に乗り込む円。
「なんだかボクたち良く会うよね」
「縁があるんですね。楽しくなりそうです」
微笑む野々に、
「キミ、うそつきだろ?よーく、わかってる・・・いいよっ、一緒に行こう」
「嬉しいです」
野々はにっこり笑って心にも無いことを言う。
ほっそりとした体に、淡い水色の着物を着て、品のいい帯を締めた野々は、どこからどう見ても
本物の舞妓のようだ。おぼこの運びも手馴れている。
車夫の手を借りて、人力車に乗り込む野々。
「胸がないのも、気に入ったよ」
「ありがとうございます、変わった褒め言葉ですね」
円の言葉を軽く受け流す野々。
アダっぽく白地に銀糸の着物を着こなしたオリヴィアは、舞妓の装いをしているが、どうみても舞妓には見えない。おぼこ(靴)が面倒なのか、自前の鼻緒を履いている。
共に歩くミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は、もっと舞妓に見えない。一度綺麗に結った髪が気になって、ぐちゃぐちゃに崩してしまった。真っ赤な着物と少し崩れた髪は、それなりの情緒があるといえないこともないが。
「花なんてわかんないよ」
「いいのよぉ〜すきにすれば〜藝術だものぉ」
オリヴィアは気の無い返事をする。
「円が、楽しそうなのが、ちょっとしゃくなのだわぁ」
人力車は三台で出発した。京都の町を車夫が引く人力車が駆け抜ける。
先頭のマリカは楽しくて仕方が無い。
「まるで遊園地の乗り物みたいだね」
身を乗り出して、カメラを向ける観光客に手を振るマリカを
「はしゃぎすぎです」
テレサがたしなめる。
人力車がついたのは、一軒の町屋の前。
野々が引き戸を開けると、中には路地が続き、奥へと誘う。
路地の先には、背中の曲がった老女が待っていた。見るからに芸事を極めたオーラが漂っている。
通された和室には、老女が選んだ秋の草花が用意してあった。
「楽にしておくんなはれ。作法やらなんやら気にへんといてお花を楽しんでおくんなはれ」
老女はそういうが、みんな膝を崩すことは出来ない。
ミネルバもかしこまって正座している。
老女は、傍らのモミジをパチンと切ると、剣山に置く。
「楽しんでおくんなはれ」
ニコリともしない老女の言葉に、それぞれ緊張した面持ちで花を手に取る。
「花には向きがあるんですよね、こちらかしら」
野々は手にとったリンドウを眺めながら、くるくる回して考えている。
マリカは、考えに考えて、モミジの枝に手を伸ばした。マリカの腕と同じぐらいの枝だ。
一体これをどうすればいいのか、一度は手にしたものの悩んでいる。
テレサは、器用に秋の草花を手際よく剣山に入れ、形を整えている。
「そんな花材を選ぶなんて。難しい技は上級者向けですよ、マリカ」
ミネルバはほんの少しの正座で、足がしびれてしまった。
といって足を崩すわけにも行かないので、中腰になって、花器にそのまま花を投げ入れることにした。
一本投げてみると、なかなか面白い。
ずるずるっと後ろに下がり、少し離れて、再び、花を投げ入れる。
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