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【2019修学旅行】舞妓姿で京都を学ぶ

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【2019修学旅行】舞妓姿で京都を学ぶ

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 老女が優子に耳打ちする。
「まず簡単な『祇園小唄』を練習しましょう」

  ♪月はおぼろに東山
   霞む夜毎(よごと)のかがり火に
   夢もいざよう紅桜
   しのぶ思いを振袖に
   祇園恋しや だらりの帯よ
   老女がこのときだけ声を張って唄う。

「まずは座ってご挨拶・・・」

 二人組で顔を見合わせて踊るため、美雪子はマルシャリンと練習している。
 美雪子はそつなく、所作をこなしている。
「着物の袖をくるっと手に掛けて・・・」
 老女のお手本を見て、優子の指示を聞くだけですぐに出来る。
 問題なのは、マルシャリンだ。
「おーおーワカリマシタ」と答えるが何もわかっていない。
 ぶんぶんぶんぶん、そでを振り回している。
 ラズィーヤから、扇子が飛んできた。
 マルシャリンの腕に当たる。
「マルシャリンさん、おいたが過ぎますわ」

 リアンマリー・パレットの踊りもマルシャリンといい勝負だ。
 どうしても体がくねくねしてしまう。
 ラズィーヤから、扇子が飛んできた。
 腰に当たる。
「もっと優雅にお願いしたいわ、せっかくのお姿だもの」」
「ああっ。なんて素敵なの…。もっと、もっと厳しく指導してください!・・・いたっ!」
 今度は、ラズィーヤの扇子が口に飛んできた。
 よしの なんちょうくんの踊りは様になっている。
 さすが、元奈良県の観光マスコットである。
「すてきですわ。その調子で」
 ズィーヤは機嫌よく褒めている。
 よしのは気になっていたことを聞いてみる。
「ゆる族のわたしが、みやこ踊りをしていいのか?習っていいのか?権利はあっても許されるのか?舞妓の衣装を着ていいのか、悩んでいるのですっ!」
「何を細かいことを!」
 ラズィーヤは口元を扇で隠しながら、にこやかにいう。
「わたくしには、そんな狭い心はございませんのよ」

 メリナ・キャンベルは踊っているうちにすぐに夢中になった。
 簡単なようでいて奥が深く、足の運び1つにしても思っていたよりも体力を使う。
 見ていた老女が優子に話しかける。
「筋が言いそうです。入門しませんかと誘っています」
 老女が鉄漿の歯をニッと見せて笑う。
「まあぁ、すてきだわ。あなただけ京に残そうかしら。短期留学でもよくてよ」
 ラズィーヤはますますご機嫌だ。

 1人だけ踊っていない舞妓がいる。
 ロザリンド・セリナだ。
「踊らないのかしら?なぜ?」
 ラズィーヤの問いに、
 月に向って飛ぶ蝶をあしらった自前の扇子を広げて踊り始める。
 その顔は真剣そのものだ。

  ♪しのぶ思いを振袖に

 袖を顔の前に持って、切なく頭を傾けるロザリンド。
 すぐに、お手本の老女を見なくても踊れるようになった。

 「みなさん、素敵だわ。気兼ねなくわたくしは次の場所へいけますわ」
 ラズィーヤが椅子から席を立ったとき、ロザリンドが小声で歌を読む。
「香具山は 畝傍ををしと 耳成と 相争ひき 神代より かくにあるらし 古も しかにあれこそ うつせみも つまを 争ふらしき」
 じっとラズィーヤを見つめるロザリンド。
 三角関係の恋の歌を使って静香さんへの恋心を・・・勇気を振り絞って、ロザリンドは自分の心をラズィーヤに伝えようとしている。
 しばしの、ちょっとだけ怖い間がある。
 ホホホッと笑って意味ありげにロザリンドを見やるラズィーヤ。
「すてきね歌ですわね。それにしても、今日はなんて楽しい日なのかしら。みなさま、ごきげんよう」
 ラズィーヤは優子を引き連れて去ってゆく。

 ラズィーヤが消えると緊張していた場の空気がふわっと緩む。

 一同がホッとしたとき、ガラっと再び襖が開いた。
 ギョッとする一同。
 しかし立っていたのは、蒼空学園の高崎 しずる(たかさき・しずる)だ。

 しずるは、自由時間を利用して、京都の町をぶらり1人で歩いていた。
 時折、人力車に乗った舞妓の姿を目にしている。
「おお。あれが舞妓というものなのか。噂に違わず美しいな、日本の伝統文化だしな。しかし、見知った顔もあるような、白塗りで良く分からんが。百合園学園の皆が舞妓体験をしているようだし、彼女らかもしれないな」
 などと考えながら歩いているとき、ラズィーヤに出会った。
 ラズィーヤはしずるが着ている蒼空学園の制服を見て、
「ここでうちの生徒さんたちが踊りを習っているんですのよ。観客がいないと寂しいかもしれませんね」
 とこの場所を教えてくれたのだ。

「うむ、なんか居心地がわるいぞ」
 しずるは、襖は開けたもののズルズル後ずさりをしている。
 マルシャリンが、くるくる、まるでバレエのように回りながらやってきて、しずるの腕を掴んだ。
「ラッキーですわ、あなた。たった一人の観客ですわ」

 しずるを観客にみんなで踊る。
 ラズィーヤがいなくなって、気が楽になったのか、みんなの踊りはゆったりとしていて、テンポも気持ちいい。
 しずるは持っていたカメラで、彼女たちを撮る。

 まだ緊張が解けないロザリンドも、踊っているうちに心が軽くなってきた。

 よしのが踊りながら、声をかけた。
「せっかくだから一緒に踊りましょう」
 しずるも踊りの列に加わる。
「む、難しいな。おとと・・・」

 もう、老女は踊っていない。
 しずるのお手本は、メリナである。