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列車からお宝を盗み出せ!

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列車からお宝を盗み出せ!

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 シー・イー(しー・いー)は、最後まで抵抗していた。
「ダージュ、やっぱり嫌だヨ、泥棒は!」
「うっせんだよぉ〜!俺らは泥簿じゃねぇ、俺らは義賊だっ!悪い奴らの金だぜっ?分捕っていいことに使おうぜ!!!」
 壊れた校舎の壁に腰掛けてた大鋸がまくし立てる。
「深夜、列車が運行しない時間に古代の列車が走っている」
 シー・イーから幽霊列車の話を聞いていらい、王 大鋸(わん・だーじゅ)は夢ばかり語るようになっている。
「でよぉ、図書館を作るんだよっ!俺らにも本が読めるってことをやつらに分からせてやるぜぇ!」
 横には、小柄な体を波羅蜜多ツナギに包んだ川村 まりあ(かわむら・ )がいる。
「うん、分かるよぉ、応援するね」
 キャバ嬢を目指すまりあの夢は、自分の店を出すことだ。
「馬鹿だとなれないので、授業を受けたいのですよ。図書館、いいなぁ」
 授業の再開を熱望しているまりあは、大鋸の夢を聞いて目を潤ませている。
「おうっ、任せておけ!」
 どぉーんと胸を叩く大鋸。
 大鋸は語り続ける。
「学食も作ってやるぜっ!唐アゲとかよぉ、カツどんとかよぉ、カレーとかよぉ、どんなご馳走も食べ放題だぜっ!」
 よだれがたれそうな勢いで、壊れた校舎の跡地で学校再建の夢を語っている。
「オレにはよぉ、見えるんだぜ・・・立派に再建された学校がよぉ・・・」
 大鋸、今度は男泣きである。

 幽霊電車は、実はお宝を積んだ闇の組織にものに違いない!大鋸はそう確信している。
 なぜ?
「ユウレイが電車に乗るかよっ!やつらは消えたり出たり勝手に動けるんだぜっ!ずるがしこいやつが考えそうなこった!」
 幽霊電車に実体があるとする根拠は、実に解りやすい。
 大鋸の頭には、相手の顔も浮かんでいる。
「きっとやつだ!」


「ワンちゃん、楽しそうだねぇ」
 羽高 魅世瑠(はだか・みせる)がひょいっと顔を出す。パートナーのフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)も一緒だ。
「おうっ!」
 大鋸が魅世瑠の肩を叩く。
「お前らにも、服買ってやんぞ。いつまでも裸じゃぁな、風邪ひくしなッ」
「大きなお世話だよ」
 魅世瑠たちは三人とも裸同然の格好である。顔つきや髪の色は三者三様だが、服装はほぼ同じだ。好きでしているのである。
 大鋸も見慣れているのか、三人の格好に特に照れることもない。
 最小限の衣類で身を隠した魅世瑠に熱く夢を語る大鋸。
「わかったよ。ワンちゃん、いやいやキング様の力になるよ。あたしたちに任せてよ」
 女三人は手を振りながら、去っていく。

 さて、張り紙を出したわけでもなく、誰かを誘ったわけではないのに、大鋸の下には続々と人が集まっている。
「王大鋸が列車強盗をするらしい」
 噂は他校にも広がった。魅世瑠が赴く先々で話題にしてるようだ。さすが、女のクチコミである。

 一応、襲撃会議らしきものをすることになった。
「相手は組織ダヨ、計画立てるヨ」
 シー・イーの進言だ。

「ワンちゃん〜、久しぶりだねぇ!きたよ〜」
 空飛ぶ箒でイルミンスール魔法学校から晃月 蒼(あきつき・あお)が駆けつけてきた。大鋸と蒼はザンスカールフェスタでデートした間柄だ。
「わんちゃんと一緒にお仕事したいよ〜」
「おうっ!」
 仕事といっても列車強盗だ。
「蒼に向いていると思えんぞぉ・・・どうなんだぁ?強盗だぞぉ?」
「子供扱いしないでよ〜!」
 蒼はふくれっつらだ。
 その顔が、より幼さを強調している。
「ワタシ、もう大人なんだからね!列車強盗??何でもいいよ。ワンちゃんと一緒ならねぇ!」

「ダーくん、久しぶりっ!」
 頭上の小型飛行艇から声がする。
「きたよ〜」
 蒼空学園の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。飛行艇を着地させると、ツインテールを束ねている大きなリボンを揺らして、ミニスカート姿で掛けてくる。
「楽しそうだからね、手伝いに来たよっ!」
「おうっ!」
 楽しそうといっても列車強盗だ。
「美羽に向いていると思えんぞぉ・・・どうなんだぁ?強盗だぞぉ?」
「ダーくんが悪いことなんかするはずないもん。私、信じてるから!パーッと頑張ろうねっ!」

 大鋸の右腕には蒼、左腕には美羽が抱きついている。
 もてるのか?

 少し離れた場所で高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が溜め息をついている。
「強盗とか、内緒でするもんだろっ!仲間集めるたって、こんな大っぴらにしてちゃ、運んでる方にもばれちまうんじゃねーの?」
 悠司は乗り気ではなかった。
 しかし、パートナーのレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)は、
「シー・イーさん〜」
 と走り出している。バレーボールとかで一緒に遊んでくれたシー・イーと共に行動したいのだという。
「めんどいけど、しかたねえ。やるか」
 悠司の心は決まった。

 さて、何人で、列車を襲うのか?
 大鋸にもよく分かっていない。
「なんか結構いるんじゃないかぁ」
 が大鋸の感想である。


1 潜入・大人のクラブ

 一攫千金を夢見て、空京には様々な人が集まっている。わずかな所持金を持って夢を見に来る若者も多い。
 その殆どが挫折してゆく。しかし突如出現したラッキーボーイーがいる。名前をという。
 見かけは色白に細い目、メガネ・・・どこかで見たような格好だが、かなり華奢で小柄。慎重は150センチあるかないかだ。
 空京にやってきたとき彼が持っていたのは、わずかな現金だけだった。シャツと色落ちしたスラックス、擦り切れた靴、そして手にはネクタイを持っていた。
 まるでチャップリンのようないでたちで、彼が訪れ戦ったのはアングラカジノである。
 ドレスコードをどうにかクリアし潜り込んだカジノで、アグゥーニンは大儲けした。
 現在は、薄暗いクラブのソファーで、ふんぞり返って座っている。じゃらじゃらと金目のものを大量に身につけて解りやすい成金である。
 隣に座っているのは、潜入しているヴィンセント・ラングレイブ(う゛ぃんせんと・らんぐれいぶ)
 大鋸の会議から数日しかたっていないのに、既に信頼を得て、アグゥーニンの側にいる。
 小柄なアグゥーニンは背の高い男を回りに置いている。
 自分をより小柄に見せることで、周囲を威圧しているのだ。
 186センチと長身のヴィンセントは、アグゥーニンの護衛にもってこいだった。

 凝った内装の薄暗い室内には、けたたましい音楽が流れ、半裸の女たちが踊ったり、席について酒を注いだりしている。
 客層は裕福そうだ。あちこちのテーブルで日本でも高価な酒類が景気よく飲まれている。

 音楽が変わり、豊かな胸を最小限の衣装で覆った二人の女が出てきた。リネン・エルフト(りねん・えるふと)
 ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)である。見事なポールダンスを披露している。
「いいね」
 アグゥーニンの顔が高潮している。
 踊り終えたリネンとユーベルは、ソファーにくると跪き、アグゥーニンの足に手を添える。
「男に騙され、お金も職も失ってしまいました。どうか雇っていただけませんか?雇っていただけるなら・・」
 甘く囁くリネンの声。
「・・・どのような事でもいたします」
「どのような事も、か・・・」
 細い目をより細めたアグゥーニンが、指一本でボーイを呼ぶ。
「お前が世話しろ!新人同士で気があうだろ」
 呼ばれたのはレン・オズワルド(れん・おずわるど)だ。プラチナを思わせる白金色の髪に死人めいた蒼ざめた顔。室内なのにサングラスをしている。
 レンが二人を奥に連れてゆく。
 ユーベルが小声で呟く。
「仲間?」
「かもな」
 意味ありげに笑うレン。
「いろんなやつが入り込んでいる。オレやお前たちだけじゃない、よぉ」
 すれ違ったのは、アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)だ。ゆる族のアインは店の表には出ず、裏方に徹して働いている。
「アイン、女の世話を頼む」
 レンは、アインにリネンたちを預けると、また店に戻っていった。
「よろしくですわ」
 ユーベルが胸を強調して、挨拶する。


 ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)クリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)は、客として遊びに来ている。勿論、アグゥーニンに近づくためだ。
 ヴェルチェはその美貌を武器にアグゥーニンに近づいてゆく。
「困ったことが起っているの。二人きりで話がしたいのよね♪」
 にっこり笑うヴェルチェ。
 アグゥーニンはにやけたまま、ヴェルチェの顔を覗き込む。
「なぜ急に美女が次から次へと、オレを頼りにするのか。面白いね。あんたたちもオレの店で働きたいのか」

 店は朝まで開いている。
 アグゥーニンは、夜通しの馬鹿騒ぎを楽しんで店の外に出てきた。酒と享楽の匂いがアグゥーニンにまとわりついている。
 早朝の光の中、1人の少女が店の前に立っている。
 夜薙 綾香(やなぎ・あやか)だ。また10代半ばに見える少女は可憐で、場違いだ。
「子供の来る場所じゃないぞ」
 傍らで護衛しているヴィンセントが、冷たい視線を投げかける。
「お前、百合園の生徒じゃないのか」
 アグゥーニンが値踏みするように、綾香の顔を覗き込む。
「面白い噂を聞いたので来たんです、ここで幽霊電車のチケットを売っているって」
 綾香がにっこり微笑む。
「乗りたいのか?」
 アグゥーニンが笑って聞く。
 頷く綾香。
「子供だが。・・・いいだろ、特別だ。乗せてやるよ。出発は今夜だ。遅れずに来い!」