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4・変装



 「ダーくん、手伝いに来たよ」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、洞窟の中を覗いた。大鋸は、ナガンが作ったベッドで相変わらず不貞寝している。
「なんだ、元気ないね」
 美羽のパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は手に大きな袋を持っている。
「ダーくん、どうしたぁ?」
「ほっとけ」
「あの・・・王さん、これ持って来ました」
 ベアトリーチェは、袋から中身を取り出す。
 出てきたのは、黒と白のぶち柄の、牛の着ぐるみだ。
 ごろっと振り返った大鋸は、その着ぐるみを見て、再び背中を向ける。
「だって、隠れて参加するんだろ、変装しないと」
「いいかぁ、オレはぁ、四天王を目指す男なんだぞぉ、誰がそんな・・・」

「うわぁぁぁぁ・・」
 突然、大鋸の上に大量のモヒカンが降ってきた。
 飛び起きる大鋸。
 晃月 蒼(あきつき・あお)が洞窟に中に走りこんできて、転びそうになっていた。
 パートナーのレイ・コンラッド(れい・こんらっど)が、どうにか蒼の体を支えている。
「ワンちゃん、変装用具、持ってきよ〜」
「なんだぁ、モヒカンか。もうあるぜ」
「でもさ、1つじゃワンちゃんってわかっちゃうけど、たくさんつければ、別人っぽくなるよ」
 蒼は、大鋸の背中に毛布のように置かれた着ぐるみに気が付く。
「あれ、かわいい!そっか、ワンちゃんは、変装は決めてるんだね〜、じゃぁ・・・」
 蒼の目配せで、大鋸の体の上に散らばるモヒカンを拾い集めるレイ。
「これはシー・イーちゃんにあげます〜」
「シーは、どんなに変装してもシーだろ!ドラゴニュートだぞ?!」
 大鋸は大声でわめくと、また寝てしまう。
「ワンちゃん、お熱、あるのかなぁ〜風邪かも〜」
 蒼は心配そうだ。
「さっきからずっとこうなんだよね」
 美羽も困った様子で、大鋸を見ている。

 レイだけが大鋸の心に気が付いたようだ。
「こういうときもあります。そっとしておきましょう」
 皆に目配せをすると、そっと洞窟を出てゆく。


5・警護の計画{



 かなり大掛かりなフリーマーケットとなっている。
 広場は出展者で埋め尽くされ、特設の簡易ステージもある。
 全てボランティアで設営された。
「孤児院設立基金」を集めるという趣旨に、地球人観光客向けのイベントを求めていた観光業者が協力を申し出たことも大きい。
 メイベル・ポーターは、この日を迎えるまで、会場を借り受けたり様々な許可を受けたりと大忙しだった。
 メイベルの顔色は冴えない。
 闇組織が襲撃してくるとの噂を聞いたのだ。
「襲撃を恐れて、お客様が減らなければいいのですが」

 会場周辺では、警護を名乗り出た者たちが相談している。
 この日のために、事前の打ち合わせも済ませている。場内を巡回して警護にあたるもの、入り口付近を見張るもの、それぞれが自分の持ち場を確認している。

 シャンバラ教導団の大岡 永谷(おおおか・とと)はパートナーのファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)熊猫 福(くまねこ・はっぴー)と共に入り口付近の警護を行う。
 「フリーマーケット」と大きなアーチ型の入り口に向かう通路がある。
 今回の会場で、車の進入できる道はここだけだ。
 ファイディアスと福は、通路の両側に風船の飾り付けをしている。
 色とりどりの風船の1つが、紐から外れて地面に落ちた。
 弾ける水滴。
 地面にも飾られた風船が風に飛ばされないことも見ると、全ての風船に水が入っているようだ。
「トラックが来れば、この風船が割れだろ、その音を聞いたら敵が襲撃してきたと思ってくれ」
永谷は、他の警護隊に告げる。
「お客さんを驚かさないで、トラックを撃墜したいんだ。みな、協力してくれ!」

「我も同じ意見です。交戦時の音でフリマ参加者を不安にさせてはいけません。攻撃は出来るだけ自粛しましょう」
 同じ教導団の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、永谷の方針に同調しているが、本心は別のところにある。トラックを横取りし、それを売って孤児院に寄付しようと考えているのだ。
「皆さんがフリーマーケットで楽しんでいるのに無粋な音で不安にさせてはいけませんわ」
 パートナーのリース・バーロット(りーす・ばーろっと)も、戦闘回避をやんわりと主張する。トラックが壊れてしまっては、売り物にならない。

 比島 真紀(ひしま・まき)は、小次郎の意見に基本的に同調だが、戦闘の回避ばかりを主張する小次郎に何か作為を感じている。
 真紀は、パートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)と共に、会場の外を警護することを決めた。
 噂にあるようにトラックが乗り込んでくるのなら、出来るだけ会場から離れた場所で捕獲したいと考えている。

 鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)天槻 真士(あまつき・まこと)は、外の警備は仲間に任せて、会場内を見回ることを希望した。

 教導団の警護担当メンバーは9名。
 入り口付近5名、会場内の警備2名、会場外2名と役割を分担している。

 蒼空学園の村雨 焔(むらさめ・ほむら)も会場内の警備を手伝うことにした。パートナーのアリシア・ノース(ありしあ・のーす)ルナ・エンシェント(るな・えんしぇんと)は、警備というよりフリマに興味があるようだが。

 百合園の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、教導団の打ち合わせを聞いてはいたが、いっしょに行動しなくてもよいかとも考えている。
「連絡だけは、いたしましょう。誰がどこに襲ってくるのかわからないのですから」


6・襲撃側



 同じ頃、フリーマーケット会場からそう遠くない場所。小さなカフェに、痩せて小柄な男アグゥーニンがいた。
 傍らには、カーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)が立っている。
「だからよぉ、俺を信用しろよぉ」
 カーシュは、どんと空いているアグゥーニンの向かいの席に腰を下ろす。
「とりあえず、ガキでもさらうかねぇ?、どうだい?」
 それまで黙っていたアグゥーニンが、クックッと笑い出した。
「子どもは、用済みだ」
「そうかぁ?攫えば売れるぞ?」
「誰に?」
「・・・お前、ほんとにやな奴だな、分かってて聞いてやがる。王にだよッ、決まってんだろッ!」
 アグゥーニンが傍らにいた手下になにやら耳打ちする。
「トラックで暴れる・・・か、妙な噂を流した奴がいるらしいな、お前か?」
 アグゥーニンがカーシュを見る。
 カーシュは何も答えない。というか本当に何も知らない。

 いつの間にか、レン・オズワルド(れん・おずわるど)がカーシュの横にきている。
「オズワルド、お前に任せる。いいか、ひとつ覚えておけ!俺はお前たちを信用してるわけじゃない。それに、やっつけるのは、王と仲間だけだ。観光客を傷つけるな。地球からの客はウチの店の上客だからな、忘れるな!」
 アグゥーニンは手下を呼び寄せる。
「こいつらは適当に使え、トラックは一台やる、好きに使え!」
 そのまま歩き去るアグゥーニン。
 残されるオズワルドとカーシュ。
「お前といっしょはいやだなぁ」
「俺もだ」
 しばしの沈黙のあと、
「実はいい奴だったとか、止めてくれよ」
 どちらかが呟いた。