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8・ステージにて



 突然、大音響が広場に響いた。
「『パラミタ刑事シャンバラン』ショーが始まるよ♪良い子のみんなは、広場奥の階段ステージに集合!」
 今回のフリーマーケットは営利目的ではないので、大体の要望は通っている。
 急ごしらえのステージだが、後方が石壁になった半円スペースは舞台として申し分なく、ステージ上にある石段も舞台装置のように見える。
 あゆみが垂を見ている。
「見てこいよ」
 垂は大きな声であゆみに叫ぶ。
 観客席前にはロープがひかれている。
 ショー最前列には、レッテたち孤児が陣取った。モリーとライゼがお目付け役だ。
 あゆみは売り場に戻っている。
「ありがとうございます」
 真士は軽く手を振ると、また警護の仕事に戻っていった。

「みんな、こんにちは!」
 ステージに飛び出てきたのは、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)だ。
 マイクを子どもたちに向けて、
「元気が無いよ!こ・ん・に・ち・は!」
「こーんーにーちーは!」
 大声で答える子どもたち。どんどんステージ前に人が集まってくる。
「今日は『パラミタ刑事シャンバラン』ショーに来てくれてありがとう!みんなシャンバランを応援してね!」
 突然。
「イィーッ!」
 と叫びながら奇妙な格好の三人が舞台に出てくる。
 二人は、サファリスーツに怪しいプロレスマスクを付けている。
 中央に立つ一人は、トウモロコシの髭で作った付け毛とお面に、トウモロコシの芯や葉を貼り付けて、おどろおどろしく格好だ。
「大変!女怪人、モロコシ仮面だわ!みんな気をつけて!」
 司会役の皇甫が、怪人の姿を見て、後ろに飛び去る。仰々しく怯える皇甫に観客の子どもたちも緊張する。
「イィーッ!」
「イィーッ!」
 脇を固める二人は、アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)だ。
 ノリノリで怪しいタコ動きを披露しているアクィラと比べると、クリスティーナの動きは硬い。
「クリス、照れちゃ駄目だよ」
 小声で呟くアクィラ。
 女怪人「モロコシ仮面」役は、アリスアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)だ。
「お前たち、トウモロコシは嫌いかい?」
「好き!うめーぞ!」
 観客の子どもから声が出る。
「お前はどうだい!」
 一人の大きなお兄さんに目を留めるアカリ。
 お兄さんは、首を振る。
「そうかい、嫌いかい。ならばお前たちに粗末にされた仲間の恨み、思い知るがよい!私の呪いでこのパラミタの大地に二度とトウモロコシが実らぬようにしてやろう」
「ええーーーーーーーーーーーー」
 子どもたちから悲鳴が上がる。
 アカリは先ほど答えてくれたお兄さんを拉致して、壇上に上げた。
 警護で会場を見回っていた真一郎だ。
「なんで俺なのだ」
「同じ教導団として協力して」
「何に?」
「教導団財政が好転しないと戦車が・・・」
 アカリが答えようとしたとき、
「大変、お兄さんを助けなきゃ!さあみんな、大きな声でシャンバランを呼ぼう!せーの、しゃんばらーん!」
 皇甫が大声で叫ぶ、その言葉を合図に大音響で音楽が流れ始めた。
「ゆけ!シャンバラン!」作詞作曲歌は、もちろん、神代 正義(かみしろ・まさよし)
 バン!
 ステージ上に突然煙幕がたかれ、煙が消えると男が立っていた、もちろん、神代だ。
 赤いマフラーをなびかせての登場だ。
「何者だ、貴様!」
 アカリのお約束の問いに、
「俺は太陽の子!パラミタ刑事シャンバラン!!貴様らの悪事断じてゆるさん!」
 変身ポーズをとる神代。
 その後、ステージ上では、シャンバランと女怪人「モロコシ仮面」たちの大乱闘が起こっている。
 大変だ!ステージに上げられたお兄さんがピンチ。
 そこで登場するのは、神代のパートナー、大神 愛(おおかみ・あい)。神代と同じマスクをかぶっている。
「えぇ…と太陽戦士ラブリーアイちゃん…ただ今さんじょ〜…!」
 よろよろ、キックをすると、戦闘員のアクィラが大袈裟に後ろにひっくり返る。
「ぷりちーらぶりーしゃんばらら〜ん!」
 決めのポーズをする愛。
「うぅ・・・恥ずかしいです・・・」
「俺も同じだ、早くここから戻してくれ」
 真一郎が小声で答えた。
 愛がキックの真似事をすると。残った戦闘員クリスティーナが横飛びになり、ステージから転げ落ちた。
「ごくろうさまです」
 倒れながら、小さな声で真一郎に挨拶している。

 さて、ステージ脇ではうんちょう タン(うんちょう・たん)皇甫 嵩(こうほ・すう)が、販売グッズを並べている。
 並ぶ商品は次の通り。
 ・シャンバラン主題歌『ゆけ!シャンバラン』CD
 ・シャンバラン魚肉ソーセージ(シール入り)
 ・お面をつければ君もシャンバランだ!なりきりセット
 ・キーホルダー
 ・フィギュア
 ・トレーディングカード類
 ・「劇場版シャンバラン(仮)」制作快調(公開時期未定)チラシ

「本当に売れるのでござるか」
 うんちょうは商品を並べながらも懐疑的だ。
「教導団の印刷・調理技術を駆使して作ったのでございます。売れないなどと口走ってはなりませぬ」
 嵩は軍人らしい几帳面さで、全ての品をまっすぐに並べてゆく。

 ステージ上では、シャンバランと女怪人「モロコシ仮面」の一騎打ちが行われている。
「頑張れ!シャンバラン!もろこし粥をまもれ!」
 子どもたちは大騒ぎだ。
「くらえー!シャンバランダイナミィィック!!」
 神代は、最小限まで出力抑えた【爆炎波】で爆破演出する。
 見事、「モロコシ仮面」は退治された。
「皆ありがとう・・・!皆の応援のおかげで悪は滅び去った・・・。だが第二、第三の敵が現れるかもしれない・・・。その時にパラミタを守れるのは君達だ!さあ!このヒーローグッズを買って君も強くなろう!」
 ポーズをとって去ってゆくシャンバラン。
「シャンバランの活躍により、悪は倒されました!ありがとうシャンバラン!・・・シャンバラングッズはステージ横で販売しています。皆さん宜しくね」
 皇甫 伽羅も宣伝を忘れない。
 急に人が訪れたグッズ販売所では、商品を手にしたままそっと逃げるものもいる。
 そんな輩を成敗するために、うんちょうタンは、光学迷彩を使い売店の監視役をしている。
 ゆる族のうんちょうタンに、万引きをとがめられると多くの地球人は驚きのあまり固まってしまう。
 しかし、まあ、善意のフリマである。
「いいよ、持っていきなよ」
 シャンバランのとりなしで、なんとなく場が丸く収まっている。

「全く何をしているんだ!」
 混雑したフリマ会場の通りが、二つに割れて、全裸にマントの変熊 仮面(へんくま・かめん)が走ってくる。地球では捕まってしまう格好だ、変熊が歩くと観光客は関わらないように、道の両側にさっと避けていく。
「シャンバラン、CDなんか売ってないで恵まれない子の為に何か買ってやれ!ヒーローなら断れんよな?」
 どこからか拾ってきたポケットティシュを神代に押し付ける変熊。
「幾ら払っていいぞ、後で子どもたちに寄付してくれ」
「おっと・・・」
 何かを見つけたらしく、マントを翻して走ってゆく変熊。

「ありがとうございましたぁ」
 ステージから降りた愛は、後方でショーの行方を見守っていたメイベルにお礼を言っている。
「そんなぁ、愛さんが頑張ったからですぅ」
「苦労は多いわね、あなたも」
 フィリッパは、ショーの許可から設営準備までを一手に担った愛に、多少同情?した。
「でも、ほら、とうもろこし粥、大人気だよ。ショーの効果じゃない?」
 セシリアが指差す先には、とうもろこし粥のブースがある。先ほどまでまばらだった人影が急速に増えている。