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11・フリマ盛況



 巌流島の戦いなどで有名な「宮本武蔵」は、日本人の大好きな「剣豪」である。剣の道のみならず、書・文・画・彫刻にも非凡な才能を見せた武蔵の作品には熱烈なコレクターが多く存在している。
 フリマの話を聞いた九条 風天(くじょう・ふうてん)は、英霊宮本 武蔵(みやもと・むさし)の部屋を訪れた。武蔵は英霊として蘇った後も兵法書や絵を描き続けている。
 フリマ当日。
 風天のブースは多くの日本人で溢れかえっていた。
 武蔵に会うために、わざわざ日本から来た客もいるのだ。
 英霊として蘇ったものの、武蔵はかつての力も失っており、今は坂崎 今宵(さかざき・こよい)に頭の上がらない、ただの陽気なオッサンだ。
 武蔵の書画を目当てに集まった観光客に、気をよくしている。
 やけに露出の多いゴスロリ服に身を包む売り子の今宵は、愛想よく客をさばいているが、武蔵には容赦がない。
「これから、武蔵殿が書画を書いてお見せいたします。ご所望のお客様は、どうぞ金額を提示くださいますよう、お願い申し上げます」
 丁寧な今宵の挨拶に、観客の視線が武蔵に集まる。
「えっ?嬢ちゃん、さすがにちょいと疲れたんで休んでいいですかね?」
 今宵が周囲に気付かれないよう、武蔵を蹴る。
「いや、休みをね・・・」
「ご所望のかたは、前にお越しくだされ」
 今宵は、顔は笑っているが、足は容赦がない。また武蔵を蹴り上げた。
 武蔵が手にした筆で、見事な書画を書き上げる。
「購入者には、お名前をお入れいたします」
 にっこり今宵がささやく。
「×××!」
 一人の観客が値段を提示する。
 かなりの額だ。
「倍、出そう」
 価格が跳ね上がってゆく。
 今宵の顔が、緩む。
「では、売るのは止すか」
 武蔵がボソッと呟く。
「何を今更いうのです」
 今宵が武蔵の袖を引っ張る。
「だが、嬢ちゃん、そんな高値がつくのなら、ココで売らなくてもいいんじゃないっすか」
 ここで得た金額は孤児院建設に寄付することになっている。
 後で売れば、その金は自分のものだ。お金があれば、お腹いっぱい食べられる。
「さもしいことを!そんなことを考えていたのですか。メシ抜きですね♪」
 復活してから空腹で荒野を彷徨っていた武蔵は、ご飯が食べられないのは悲しい。
「マジでごめんなさい、俺が悪かった!」
 ぼそぼそ呟く二人、客は不思議そうにみている。
「武蔵・・・女に弱いのか・・・・」
 客の中から声が聞こえる。
 禁欲的、女好きと、生前の武蔵には様々な説があったのが思い出される。

 風天は、ブースの外で様子をみている。
「ドーナツ、食べますか?」
 父親と共にブースを訪れた子どもが外で退屈している。
 先ほど風天は、ミルディアのブースでマドレーヌを買っていた。
 1つを子どもに渡す風天。
「迷子も多そうですね」
 フリマ会場は、時間を追うごとに人が増えて、人気ブースの脇は歩くのも困難だ。
「ここは、あの二人に任せましょう」
 風天はマドレーヌを食べる子どもを父親の元に戻すと、少し離れた場所で泣いている子どもを見つけて走っていった。

 古着とマドレーヌと紅茶を売るミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)のブースは、賑わっていた。
 すぐ隣には、手持ちの古着やちょっとした小物類を出品した菅野 葉月(すがの・はづき)のブースがある。
 早めに会場にきて、設営から手伝った葉月は、主催者であるメイベル・ポーターに頼まれて、彼女たちの持ち寄った品物も売っている。
 メイベルは着古したりサイズの合わなくなった私服を提供している。
 ユニセックスな葉月の古着と、メイベルたちの上質な古着、どちらも大人気であっとゆうまに無くなってゆく。
 葉月のブースで小物類を購入した観光客は、そのままミルディアのブースで洋服を見て一休みという流れが出来ている。客が手にしているのは、ミルディア自慢のマドレーヌとミスド直伝のドーナツだ。
 温かい紅茶やハーブティを飲んでいる客もいる。
 出展準備を手伝ったミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、他のブースの準備も見ていた。
「欲しいものがいっぱいあったんだよね、絶対買いに行こう!」
 葉月に話していたミーナだが、慌しく接客をしているうちに忘れてしまった。といいながらも、ミルディアの古着はゲットしていた、ミーナはミルディアより少し小さいので、彼女の去年の服がぴったりなのだ。
「すっごくいいものだよね」
 ミーナはミルディアにお礼をいう。
 二人のブースの品物が早々に売り切れそうで、客数も減ってきている。
「葉月、ワタシちょっと他も見てくるね!」
「いいですよ。いってらっしゃい」
 残った葉月に、
「座ってお茶飲もうよ」
 勧めるミルディア。
 先ほどコウのブースにいた芳樹アメリアも、両手いっぱいの品物を手にマドレーヌを頬張っている。
 アメリアは芳樹とおそろいのマフラーを見ている。子どもたちのブースで買い求めた手作りの品だ。
「楽しいですわ」
 紅茶を飲みながら、アメリアが空を見上げる。雲ひとつ無い晴天だ。
 ミルディアが、アメリアに自分の洋服を持ってくる。
「これ、もう着られなくなっちゃった服だけど、気に入ってたんだ」
 アメリアもひと目見て、その服が気に入った。
「芳樹・・・」
「いいよ、もしかしてすっごく高い?」
 財布を出した芳樹が、笑ってミルディアを見る。
 葉月のブースにお客が来ている。
「もうひと働きしますか」
 立ち上がる葉月。
「そうだね、ここはフリマの休憩所だよ〜♪ 足を休めていっぷくしてってくださいよ〜♪」
 ミルディアも声を上げる。


12・里親探し



 ステージと子どもたちのブースの反対側に、もうひとつブースがある。
 ここでは表立っては何も売っていない。
 品物はないが、ひっきりなしに大人が訪れている。
 接客しているのは、弁天屋 菊(べんてんや・きく)ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)だ。
 ここで売っているのは、言葉がわるいが「孤児」そのものだ。

 王大鋸が子どもを連れ帰った話は、パラ実で広まっている。
 時々行われる青空教室で話を聞いた菊は、隣にいたヴェルチェと意気投合する。
「幽霊電車から連れてきた孤児の数は20人だよ、王のことだから、放っておくとそこら中から孤児を拾ってきかねないよ。大丈夫なのかね」
「孤児20人養える稼ぎなんてそうそうないわよ、分かってると思うけど」
 ヴェルチェも孤児の行く末を心配している。
「洞窟での生活なんて、人間の子どもには無理だろ」
 菊のパートナーはドラゴニュートのガガ・ギギ(がが・ぎぎ)だ。シャンバラ大荒野での生活の過酷さは身にしみている。
「とにかく、子どもたちに愛情のある暖かな生活をさせてあげたいですわ」
 クリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)の言葉が心を打つ。
「よし決めた!フリマがあるんだよね、よし、あたしたちは孤児を売ろう。里親を探すんだよっ」

 そして今日までにヴェルチェは、孤児の特徴や年齢など詳細を載せたホームページを作成している。ページを見た何人からはメールが来ている。
 今日、このブースにやってくるはずだ。
「まだ、誰も来ぬなぁ」
 クレオパトラ・フィロパトル(くれおぱとら・ふぃろぱとる)は、立ち上がって外を見る。
 そのとき、顔中を涙に濡らした若い夫婦が飛び込んできた。
「ありがとうございますっ・・・」
 夫は泣きながら、菊の両手を掴む。
「なんだぁ、急に」
「アキネです、アキネなんです」
 指差す先には、あゆみに抱きついている痩せた女の子がいて、こっちを見ている。
「こちらのご夫婦がご自分のお子さんだとおっしゃって」
 あゆみも困惑している。
「とりあえず、今、メイベルさんに来てもらいますが」
 2年前3歳の娘と空京に来ていたこの夫婦は、買い物途中で娘を見失ってしまった。それ以来、空京に住み着いて娘を探し続けていたのだ。
「とにかく、座ってよ。疑うわけじゃないけどよ、悪い奴もいるからさ」
 菊は慎重だ。
「奥様とあの子、そっくりですわ。実の親子ですわ」
 クリスティが呟く。

 その後も何人かの孤児が、実の親が名乗り出てきた。
「信じてあげたいですけど、戸籍や血液を検査してみようと思いますぅ。宜しいでしょうかぁ」
 駆けつけてきたメイベルの提案で、親子と思われるものたちは、ヴァイシャリーの病院で検査できるよう手配がされた。
 英霊で生前は英国ガーター騎士団所属のフィリッパが、安全のため道中の付き添いをする。
「わたくしが、病院までおつれしますわ」
 子どもたちの中には、突然現われた「親」に戸惑っている子もいた。
「メイベル、僕も行っていい?この子たちも不安だとおもうんだよね」
 頷くメイベル。
 イメクラに居そうなエセ修道女
 菊やヴェルチェは、「里親」希望者の対応に忙しい。
「これは、あたしらの仕事だったね」
 人が途切れたときに、菊がヴェルチェに話しかける。孤児といえば修道院、修道院といえ・・・と連想して修道女姿をしている。ただかなり色っぽいので、本物には見えていない。
「そうよね、こんなに胡散臭い人がおおいだなんて」
 一見すると良家の師弟風、一見すると堅実な銀行員、しかし実はという輩が大挙してきている。
 スキルの「博識」を活用しているが、菊やヴェルチェ、クリスティは苦労しているだけに、変な奴がすぐに見える。
 子どもを貰うまで帰らないとすごむ男さえいる。
「ガガはあんなやつ許せない!」
 ガガは先ほどの男を思い出して憤怒している。
 ふと前を見ると、クレオパトラがその男に絡まれている。
「あわわ、わらわは違うのじゃ。アレの友人で、同居しておる身故、引き取られるわけにはいかぬのじゃ」
 ガガが助けに行った。
 勿論、真面目に里親になろうとやってくる夫婦もいた。
 これから身元を調査したり、子どもとの相性を確かめたり、孤児が里親に引き取られるまでには、いくつかの条件が満たされなくてはならない。
「大変なこと、始めちゃったかもな」
 菊は言葉とは裏腹に明るい声でいう。
「みな、幸せな家庭に引き取られるといいですわ」
 何度か離婚を経験しているクリスティは少し寂しそうだ。
 ガガがレッテを連れてくる。
「大丈夫だよ、レッテ。いいかんじの人だよ」
「いやなんだよぉ」
 レッテは、嫌々やってきた。
「あなたを引き取りたいというご夫婦がいるのですわ」
 クリスティの前に座っているのは、品のいい夫婦だ。
「あたしがお前を推薦したんだ。絶対合うと思ってね」
 夫婦はレッテの輝く瞳をすぐに気に入った。
「駄目だッ!俺はあっちいる」
「なんだ、幸せになるチャンスだぞ」
「俺はワンの近くにいるっ!」
 レッテは、菊の腕を振り払うと走っていった。