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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

リアクション

「願ってもないチャンスだ。神代、正々堂々一騎打ちといこうじゃないか!」
「望むところだ。どちらが優れたヒーローか決めよう!」
 五条 武(ごじょう・たける)神代 正義(かみしろ・まさよし)の間では、今まさにヒーロー対決が幕を開けようとしていた。
「いくぜ、パラミアント・ナギナタフォルム!」
「瞬着! パラミタ刑事シャンバラン!!」
 武が改造人間『パラミアント』に、正義がお面を被って『パラミタ刑事シャンバラン』にそれぞれ変身する。
「さあ愛、お前も変身だ!」
「ぷりてぃ〜らぶり〜しゃんばらら〜ん……たっ太陽戦士ラブリーアイちゃんです……! うう、恥ずかしい」
 神代に押されて、愛も嫌々変身ポーズをとる。
「よし……このマシンの名は『シャンバリアン』だ!」
 正義は馬を操り、武の乗るチャリオットの中心目がけて突貫していく。
「チャリオットごとぶつかってくる気か! イビー、予定変更だ。最初から並走するぞ」
 武の指示でパートナーのイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)は、正義のチャリオットにぶつかられる前に迂回し、相手に並走しようと試みた。が、その瞬間に愛がバニッシュを撃ち込み、武たちの馬を怯ませる。このアシストを受けて、正義は相手に自身のチャリオットごとタックルをかました。
「よーし正義、壁際に追い詰める最短コースはあっちだぜ」
 事前にスタジアムについて調べていた源次郎が、正義に助言する。源次郎は光学迷彩を用いた状態でチャリオットに乗り込んでいた。
 正義は源次郎に言われたコースを進み、武たちを壁際へと押し込む。そしてその状態を維持したまま愛と御者を交代すると、敵チャリオットに乗り込んだ。
「とう!」
「わしも、っと」
 正義の後に続いた源次郎は、まっしぐらにイビーの元に向かう。だが、イビーは片手剣でチェインスマイトを繰り出し、これを返り討ちにした。
「ぐ……なぜ分かった」
「臭いですよ。あなたいつもタバコを吸っているでしょう。タバコの臭いが体に染みついています。姿なんか見えなくたって、どこにいるか手に取るように分かりますよ」
 イビーはそう言うと、速やかに馬の操縦に専念する。片手を離している場合ではなかった。
「来たなシャンバラン。ド派手なことをやってくれる」
 武は壁際に押し込まれながらも、薙刀の中程を持ち、棒術のように扱って刃先と柄の先端とで正義を牽制していく。薙刀はあくまでも補助で、格闘、既によるハチマキの奪取が本命だった。
 対する正義は女王の加護で危険を察知、スウェーを駆使し、紙一重のところで武の攻撃をかわしていく。体勢の悪い武は十分な攻撃を放つことができないのだ。 
「どうやらこちらの作戦勝ちのようだな。そろそろ決めさせてもらうぞ!」
 正義が渾身のチェインスマイトを放つ。壁を背にした武には逃げ場がない。武は薙刀で必死に攻撃を受け止めた。
「まだまだあ!」
「粘るなパラミアント。だが時間の問題だぞ」
 正義は武のガードの上から次々と攻撃を浴びせる。武の体は着実にダメージを受けていった。
「それ以上は無茶です。もう降参してください」
 イビーが声をかけるが、武はギブアップしようとしない。やがて彼の手から薙刀が滑り落ちた。
「ふう、ようやく終わったか。さすがは我がライバル。見上げた根性だったぞ」
 正義が武に歩みより、ハチマキを取ろうとする。だがそのとき、武がぽつりとつぶやいた。
「ヒーローは……」
「なに!?」
「ヒーローは……決して最後まで諦めないんだ!」
「しまっ……!」
 武が正義のハチマキをつかみにかかる。正義は完全に虚を突かれた。だが、ハチマキまであと一歩というところで、武の手が力を失う。倒れ込む武を、正義はしっかりと抱き留めた。
「どうやらパラミアントとは、俺が思っている以上の男だったようだな」
「ち、負けちまったか……。だけど楽しかったぜ、ガチンコヒーローバトル。また、やろうな……。そのときは絶対……俺が勝つ、ぜ……」
「俺だって負けんさ」

「正々堂々スポーツで勝負、でありますか。パラ実の方々も皆こんな風に友好的なら、戦争にはならないでありますが。今日をきっかけに少しでも歩み寄ってみたいであります。さて、それはいいのでありますが……」
 金住 健勝(かなずみ・けんしょう)は、困ったように自チームの御者に目をやる。
「ひたすら逃げ回りましょう。怪我をしてはたまりません」
 同じチャリオットに乗ることとなったクロス・クロノス(くろす・くろのす)に、戦う意思がないからだ。
「何を言っているでありますか。それでは競技に参加する意味がないであります」
「逃げ回ってハチマキを取られないようにすれば、きっとチームに貢献することになりますよ」
「そんな消極的なことではダメであります」
 譲らない健勝に、クロスは一騎のチャリオットを指さしてみせる。
「ほら、あそこにも逃げている人がいるではないですか」
 クロスが指さしたのは弐識 太郎(にしき・たろう)だった。ただ、速くありたい。そう願った彼は、体重の軽いスポーツ番長の子分をチャリオットに乗せ、パラ実の風となって教導団陣営をかき乱している。
「馬を速く走らせる方法なんて、昔から決まっているぜ」
 太郎は、馬の鼻先にニンジンを吊していた。原始的な方法だが、効果は絶大だ。
「ちょうどいい、あの人と戦うであります。おあつらえ向きにこんなものもあるでありますし」
 太郎を見た健勝がそう言って取り上げたのは、やはり釣り竿にニンジンを吊したものだった。いざというときに思い通りの方向に逃げられるよう、クロスが用意しておいたのだ。
「そ、それは!」
「そおれっ、であります」
 健勝が馬の鼻先にニンジンを出す。馬は太郎に向かって猛然と走り出した。
「もう、仕方ありませんね……」
 クロスは健勝から手渡された釣り竿を渋々握る。
「む、何者だ?」
 ぐんぐんと迫ってくるクロスたちに、太郎が気付く。
「俺と速さ比べしようってか? 面白い。それ、もっと早くだ!」
 太郎は馬に活を入れた。二騎のチャリオットがデッドヒートを見せる。
「ひゃっはぁー! わざわざ俺様にやられにくるとは、哀れなやつだぁ!」
 スポーツ番長の子分が、健勝に斬りかかる。健勝はこれを受け止めた。
「なかなかすばしっこいでありますね。でもその分、攻撃に重さが足りないであります。今度はこちらからいくでありますよ!」
 子分の攻撃を凌いだ健勝が、攻勢に転じようとする。そのとき、パートナーのレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が叫んだ。
「大変です、後ろから敵が来ています!」
 健勝たちを狙っているのはヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)とそのパートナーたちだ。
「とりあえずひっかき回しときゃいいのよ、体育祭なんだから♪」
 ヴェルチェはドラゴンアーツの構えを見せる。ドサクサに紛れて敵のチャリオットを制御不能にしようという魂胆だ。ヴェルチェは味方の支援に徹するのが目的で、よほどの隙がなければ自分からハチマキを取りにいくつもりはなかった。
「あの人、遠距離からドラゴンアーツで攻撃してくるつもりです!」
 レジーナがクロスに状況を説明する。
「なんですって。レジーナさん、攻撃のくるタイミングを教えてください」
「分かりました」
「心配しなくても、命(タマ)まで取りゃしないわよ♪ さあクリス、操縦しっかり頼んだわよ」
「は、はい」
(馬の扱いなんて分かりませんわ。ああ馬さん、お願いですからどうか暴れないでください)
 クリスティは口で返事をしながら、内心必死で馬に祈る。ヴェルチェは攻撃態勢に入った。
「三……二……一……今です!」
 レジーナの合図に合わせてクロスがチャリオットを大きくドリフトさせ、ヴェルチェの攻撃をかわす。ドラゴンアーツが直撃したスタジアムの地面には穴が空いた。
「おお。クロス殿、なかなかやるであります。見直したでありますよ」
 クロスのテクニックに健勝も感心する。
「そんなこと言っている場合ではありませんよ。次の攻撃がきます」
 レジーナの言うとおり、ヴェルチェは再び攻撃態勢に入っている。そこに、教導団の助っ人が駆けつけた。
「ジーナ、洪庵、久々に暴れるぞ」
 チームメイトに気合いを入れる林田 樹(はやしだ・いつき)は、光学迷彩を使用していて姿が見えない。その代わり、パートナーのジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)緒方 章(おがた・あきら)は大層目立っていた。
 ジーナはシャチの形をしたフロートを振り回しながら「やあやあ、遠からん者は音にも聞けぃ、なのです!!」と、御者の章は「近らば寄って目にも見よ、だね〜」とそれぞれ言いながら、ヴェルチェたちに突進していく。
 やがてヴェルチェの目前までやってくると、ジーナが大きく宙に飛び上がった。
「せいっ」
「何をする気?」
 ヴェルチェは思わずジーナに注目する。このタイミングで樹が空気入り風船(水風船程度の小さなものを風呂敷に包んでいる)をまき散らし、目くらましを行った。ヴェルチェたちは視界を奪われる。
「クリス、なんとかこの目くらましから逃れてちょうだい!」
 ヴェルチェが御者を務めるクリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)に指示する。
「わ、分かりました」
(お馬さんお馬さん、どうにかしてください!)
 クリスティはやはり馬に祈る。しかし馬は目くらましに驚いて言うことを聞いてくれない。
「はっはっは、大分お困りのようだね。どうだい? 僕たちお手製の目くらまし風船は。なかなかよくできているだろう」
 章はヴェルチェたちをあざ笑うかのように風船の外側から言った。
「つまらない真似を……一体どこよ」
 ヴェルチェは苛立った様子で辺りを見回す。
「ここなのですよー」
「今度はこっちなのでしたー」
 ジーナは風船の間からあちこち顔を出し、そんなヴェルチェの注意を引きつける。そうしているうちに樹がヴェルチェの後ろへと回り込んだ。
(ふふ、どっちを向いてるんだ。いただきだな)
 樹がヴェルチェのハチマキに手を伸ばす。
 だが、ヴェルチェのもう一人のパートナークレオパトラ・フィロパトル(くれおぱとら・ふぃろぱとる)が、ヴェルチェの背後で不自然に風船が動いたのに気がついた。
「ヴェルチェ、危ない!」
 クレオパトラは咄嗟にヴェルチェに飛びつく。
「ちょっとクレオ、どうしたの?」
「今確かに風船が動いたのじゃ。何者かがおるぞ」
「姿を消してるってこと? 厄介ね。……そうだ、この障害物の中なら!」
 ヴェルチェは何かを思いついて立ち上がる。そして、隠れ身のスキルを使った。
「ふふ、これならどうよ♪」
(しまった! これじゃあ私も相手の姿が見えないじゃないか。まさか自分の作戦が仇になるなんてな……。仕方ない、あっちを狙うとするか)
 樹は標的をクレオパトラに変え、静かに忍び寄る。そして今度は風船に触れないよう気をつけ、一気にハチマキを引っ張った。
「あいたたたた!」
 しかしハチマキは取れない。クレオパトラが苦痛の声を上げる。
「どういうことだこれは! 取れないぞ!」 
 予想外の出来事に、樹は思わず声を出してしまった。
「あたたたた、ヴェルチェ、そこじゃ!」
 樹の居場所を特定したクレオパトラは、ヴェルチェを呼び寄せる。ヴェルチェはすぐさま樹に飛びかかった。
 樹とヴェルチェがもつれあって地面に落ち、その勢いでようやくクレオパトラのハチマキが外れる。姿が露わになった二人は、互いのハチマキをつかみ合っていた。
「林田様! 大丈夫ですか!」
「ちょっと、樹ちゃんに何するんだよ!」
 ジーナと章が樹の元に駆け寄る。
「ハチマキをヘアピンで止めて取られにくくしてたんだな! 卑怯だ!」
 クレオパトラのハチマキが簡単に外れなかった理由に気がつき、樹はヴェルチェに文句を言う。
「何よ、こんなの常套手段じゃない。そっちこそ目くらましなんてせこい手使って」
「何だと、あれは立派な作戦であってだな――!」
「まあまあ、お二人ともその辺でおやめになってください。もう勝負はつきましたわ」
 クリスティがクレオパトラの頭にヒールをかけながらなだめても、二人は言い争いをやめない。結局、それは二人がフィールドから出るまで続いた。

「ちい、どうやらこれ以上は走れないようだな」
 ヴェルチェたちと樹たちが戦っている間も、太郎は馬を全力疾走させ続けていた。大騒ぎの中でストレスもかなりあっただろう。馬が疲れて足を止めてしまうのも無理のないことだ。それはクロスの馬にも同じことだった。
「はあ、やっと落ち着きました」
 お互いもう馬が走れない以上、競技の続行は不可能、引き分けだ。ようやく危険から離れられる。そう思ってほっと胸をなで下ろすクロスに、太郎が横目で言う。
「しかし、俺のスピードについてこられるやつがいるとはな。正直驚いたぜ」
「私はそんなつもりでは……」
「逃げ回るだけではもったいないであります」
「パラ実って本当に色々な人がいるんですね」
 クロスの言い分をよそに、皆思い思いの言葉を口にした。

「うーむ、どこかに手頃な相手はいないものであろうか」
 【銀騎馬】のレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)は、御者のルースにチャリオットを走り回らせてもらい、スタジアムを見渡していた。彼は味方と戦っている相手に背後から忍び寄り、ハチマキを奪い去るつもりなのだ。
「おや、あれは?」
 やがてレーゼマンは何かを見つける。
「よし決めた。ルース、あちらの方向にチャリオットを向かわせてくれたまえ。何、急ぐ必要はない。気付かれないようゆっくり慎重に、だ」
「はいはい、分かりました。ゆっくり慎重に、ね。チャリオットの操縦は任せてください。オレは操縦だけに専念しますから。あ、決して戦闘が面倒くさいとか思ってるわけじゃないですからね……」
「レーゼ、どの相手と戦うつもりなのですか?」
 パートナーのイライザ・エリスン(いらいざ・えりすん)がレーゼマンに尋ねる。
「それは、そのときになってからのお楽しみなのだよ」
「……了解しました、レーゼ。誰が相手でもレーゼは私が守ります。あなたはハチマキを奪うことに集中してください」
「その必要はないであろうがな」
 レーゼマンの言葉に、イライザは不思議そうな顔をした。
 やがてレーゼマンはターゲットの背後にやってくる。レーゼマンが標的に選んだのは太郎だった。
「悪いな……これは貰っていくぞ」
 レーゼマンは、馬が動けなくなってクロスと立ち話をしている太郎から、いとも簡単にハチマキを奪い取る。
「え? あ、お前! 待てこら!」
「さあルース、今度は全速力で逃げるのだ!」
「さあ、頼みましたよ。思い切り走ってください」
 ルースが馬を急発進させる。
「ちくしょう! この!」
 馬で追いかけることはできない。太郎はルースの操る馬にニンジンを投げつけた。
「おっと、これを馬に見せたら興奮しちゃいますね。もうすこし右へ」
 馬はルースの指示通り、速やかに動く。ルースは左手で飛んできたニンジンを受け止めた。
「いやあ、あなたは本当にいい馬ですね。競技前にスキンシップをしておいたかいがありました。このニンジンは後であげますからね」
 まんまとハチマキを奪取したレーゼマンたちだったが、イライザは少々納得がいかないという顔をしていた。
「……こんなことでよかったのでしょうか。そもそも戦ってさえいない相手でしたし……」
「いいのだよ。ぼさっと突っ立っている方が悪いのだ。勝ちは確実に拾っておきたいからな」
「そうですよ、楽できてよかったじゃないですか」
 つい本音が出るルース。
「分かりました、レーゼがそう言うのなら」
 ちょうどそのとき、昼休憩を告げるアナウンスが場内に流れた。