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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

リアクション

「ったく、思ったとおり教導団の面子はハンパねえな。まともにやり合って勝てる気がしねえぜ。やっぱ逃げだ逃げ」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は【新星】フェルマーンの連携を見てつぶやく。彼は競技終了まで逃げ回るつもりだった。
 そんな武尊に巫丞 伊月(ふじょう・いつき)が近寄ってくる。
「奇遇ねぇ〜、あなたも逃げ回るつもりなの? やっぱそれよねぇ。でもただ逃げ回るより、大人数を引き連れて逃げ回る方がチームにとって効果的だと思わない?」
「ん、まあそりゃそうかもしれねえが」
「というわけで私ちょっと行って敵を挑発してくるわぁ。頑張って一緒に逃げましょ」
「挑発って、おい。余計なことしねえほうがいいんじゃないか? 教導団の連中は手強いぜ。……聞いてねえな」
 伊月は武尊の言葉をよそに、パートナーのエレノア・レイロード(えれのあ・れいろーど)をしてクレーメックのところに行くよう指示する。
「さあエレノアちゃん、あのすました顔したお兄さんの元へ」
「仕方ない、言うとおりにしてやるです」
 エレノアは面倒くさそうに返事をする。
「本当なら最後まで大人しく逃げ回っていたいところですが、下等生物の案でも大して変わらなそうですからね。それに、多少は戦っているように見える分、脳筋番長の心証も悪くなさそうなのです」
 いよいよクレーメックの目の前にやってくると、伊月は早速挑発を始めた。
「はあい。さっきから見てればあなた、一人じゃないと何もできない臆病者なのねぇ。自分では戦おうともしないし」
 これに本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)がくってかかる。
「何よあんた、藪から棒に! いい? これは立派な作戦なの。あんたたちみたいに何も考えてない人とは違うんだから!」
「あらら言い訳ぇ? 余計見苦しくなるだけよぉ」
「何をー!」
「うふふ、悔しかったら私と彼とを捕まえてごらんなさい」
 伊月が武尊を指さす。武尊は遠くで嫌な予感を感じながら、「え、俺が何か?」という表情をしていた。
「それじゃね〜。バーイ」
 伊月は武尊と反対方向に逃げ出す。
「あれだけ言われて黙ってられないよ! とっちめてやろう!」
 いきり立つ飛鳥を、クレーメックは落ち着いて諭した。
「まあそう慌てるな。それこそやつらの思うつぼだ。三号車と四号車がいるんだから、追いかけるのはそちらに任せておけばいい。今そう指示しよう」
 レーメックは三号車と四号車に素早く通信を行う。
『二つのチャリオットが逃げ回っている。ロングヘアーで前髪がぱっつんの女が乗ったのと、三毛猫の姿をしたゆる族が御者をしているのだ。三号車は猫の方を、四号車は女の方を追いかけてくれ』
「相手が二騎で逃げ回っているのなら、私たちや二号車も追いかけるのを手伝ったほうがいいんじゃない?」
 通信を終えたクレーメックに、アム・ブランド(あむ・ぶらんど)が尋ねる。
「いや、ただ逃げ回るだけの相手なら何も挟撃するまでのことはないし、囮にひっかかるわけもないだろう。それよりも、私たちはスタジアム全体の様子をできるだけ正確に把握するようにしたほうが得策だ。いつ新手が現れるとも限らないからな」
「なるほどね。オッケー、あなたがそう言うなら従うわ」

「司令官から通信が入りましたわ。前髪ぱっつんロングの女がスタジアム内を逃げ回っているようです。捕まえろとのことです」
 こちらは四号車。麗子がクレーメックからの指示を伽羅に伝える。
「追いかけっこですか? それはそれで面白そうですねぇ。嵩、頼みますぅ。あ、駄洒落じゃないですよぉ」
「承知いたしました。ぱっつんロングの女……あれでございますな。それでは追跡を開始いたします」
 伽羅の命を受けて皇甫 嵩(こうほ・すう)が馬を出す。しばらくすれば、伊月たちにある程度の距離まで迫ることができた。
「逃げ回るしか脳のないひよっこ共が! 侮るでないぞ。それがしが手並み、その目でとくと見るがいい!」
 本来そういう性格ではないのだが、嵩は戦場ということで威嚇を行う。
「その息ですよ、嵩。チャリオットごと吹っ飛ばしてしまっても構いません。思いっきりやっちゃってくださいなぁ」
「は。お言葉に甘えて、遠慮なくやらせていただきます」
 嵩は馬のスピードを引き上げる。伊月のチャリオットが少しずつ近づいてきた。
「あの女、とぼけた顔して凄いこと言うわねぇ。エレノアちゃん、こっちもスピードアップよ」
「あまり危険なことはしたくないのですが……」
 伊月たちも相手を引き離しにかかる。二騎のチャリオットは一定の距離を保って走り続けた。
「ふーむ、あまり気乗りはしないが相手も逃げ回っているだけ。ここは一つやってみるでござるか」
 進展しない状況に、うんちょうがつぶやく。そして一つ頷くと、伊月たちに向かって大きな声で言った。
「おーい、お前たちの仲間はもう捕まってしまったでござるよ!」
 思わず振り向く伊月とエレノア。だが、嘘だと気がついたときにはもう遅かった。嵩が全速力で馬を走らせる。
「隙ありですぅ。食らってくださぁい」
 伽羅が伊月を射程圏内に捉える。
「エレノアちゃん、なんとかしてぇ〜」
「かくなる上は、です」
 最大のピンチに、エレノアは覚悟を決め――
 白旗を振った。
 エレノア以外の全員がずっこける。
「エレノアちゃん、どういうことよ!」
「これ以上バカ共に付き合って怪我でもしてはたまりません。というわけでこのぱっつんのハチマキはもっていくがいいです」
「お、同じ降参にしても魅世瑠さんたちとは随分違いますねぇ」
 これには伽羅も呆れ顔を見せる。
「まあ、形はどうあれ勝ちは勝ちですぅ。ありがたくいただくとしましょう。ただ、今日は相手がみんな降参しちゃってつまらないですぅ。華麗にフィニッシュを決めたかったのに」
「そこは我慢してくださいませ。十分活躍なさってましたわよ。私の護衛など全く必要がないくらいに。それでは、私は任務完了の旨を司令官に伝えて参りますわ」
 挑発がよほど頭に来ていたのだろう。伊月撃破の知らせを聞き、飛鳥は大はしゃぎ。
「やったやったー! なあんだ、あれだけ大きな口を叩いてた割には大したことないじゃない。思い知ったか!」
 えへんと胸を張る飛鳥を見て、アムが言う。
「別にあなたがやっつけたわけじゃないでしょ。それに、うまくいったのは各チームが密に連絡をとっていたからってことを忘れちゃいけないわ。これを機会に、飛鳥にはチームプレーの大切さを知ってほしいものね」

「御者を仕留めてしまえば、当然逃げ回ることなどできない。作戦は今までどおりでいくぞ」
 ハインリヒの指示に、同乗するクリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)麻生 優子(あそう・ゆうこ)アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)が頷き合う。三号車も武尊たちを追いかけていた。
「あの女何言いやがったんだ? 余計なことしやがってよ。又吉、全力で飛ばせ!」
 逃げる武尊は御者の猫井 又吉(ねこい・またきち)に言う。
「逃げるが勝ち! 逃げるが勝ち! 逃げるが勝ち! 逃げるが勝ちだぁぁぁぁ!!」
 武尊の声が聞こえているのかいないのか、又吉は必死で馬を走らせる。
「その調子だ又吉。さて、俺は足止めでもするかね。――おらあっ!」
 武尊は後ろを振り向くと、三号車の馬に向かって鬼眼を放った。馬はこれに驚き暴れ始める。手綱を決して放さないよう、手で持つのではなく胴体に巻きつけていたアンゲロの体が、馬に引っ張られて大きく揺れた。
「これしきのことでうろたえるな!」
 アンゲロはなんとか馬をコントロールしようとする。
「大丈夫ですか!」
 アンゲロの護衛役であるクリストバル ヴァリアは、必死でアンゲロにしがみつく。
「落ち着け! 落ち着けって! フンガァァァッ!!!!」
 アンゲロは無理矢理馬を大人しくさせる。
「凄い! アンゲロさんお見事ですわ」
 クリストバル ヴァリアが感嘆の声を上げた。
「ち、そうやすやすとはいかねえか」
 武尊が舌打ちする。と、隣のシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が言った。
「今度は私がやってみます」
 シーリルは二つの『光精の指輪』から二体の人工精霊を呼び出し、馬とアンゲロの周囲を浮遊させて嫌がらせを試みる。
「うお、なんだこいつらは! 邪魔で前が見えねえ!」
「こ、こらあなた方! アンゲロさんから離れてくださいまし!」
 慌てるアンゲロとクリストバル ヴァリア。その背後からハインリヒの声が聞こえた。
「二人とも伏せろ」
 ハインリヒは二体の人工精霊に素早くチェインスマイトを放つ。ダメージを受けた人工精霊たちは、シーリルの元へ帰って行った。
「助かったぜ」
「ありがとうございます。さすがは車長、頼りになりますわ」
「あの程度の小細工、なんということはないさないさ」
 妨害をすり抜けて接近してくる三号車を見て、シーリルは精霊を指輪にしまいながら考える。
「うーん、なかなかの強敵ね。一体どうしたものかしら……そうだ、これならどう? 気持ちよく眠っちゃってちょーだーい」
 シーリルは三号車に向けて子守歌を歌った。乗員たちがまどろみ始める。
「注意一秒 怪我一生。脇見居眠り危ないですよ〜」
 しかし、この危機をまたもハインリヒが救う。彼はランスで突っつき、他の三人を起こす。
「ふ、ふあ……あれ、私……? そうだ、子守歌を聞いて! ハインリヒさんはなんともなかったの?」
「あいにく俺は寝付きが悪くてな」
 不思議そうな顔をする優子に、ハインリヒはそう答えた。
「うーん、もうお手上げだわ。あとは二人に任せる」
 万策尽きたシーリルはギブアップ宣言をする。
「うおおおおお! 捕まりたくねえ! 捕まりたくねえ! 俺はお前らを盾にしてでも逃げるぜえええ!」
「おい又吉、やけになるんじゃねえ!」
 武尊の言葉もむなしく、又吉は一層目を血走らせた。
「向こうも策が尽きてきたようだな。そろそろ終わりにしよう」
 武尊たちの様子を見て、ハインリヒが決着をつけようとする。だが、優子が何かに気がついた。
「ちょっと待って。あの方向……大変! 早くクレーメックさんに知らせなくっちゃ!」
 そう、又吉が猪突猛進する先には一号車の姿があったのだ。一号車はまだそのことに気がついていない。優子は急いで通信を始めた。
『クレーメックさん! 三毛猫のチャリオットがものすごい勢いでそちらに向かっています。このままでは衝突は避けられません。今すぐに回避してください! 敵の場所は――』
『何、分かった。感謝するぞ』
「敵があちらから突進してきているようだ。マーゼン、避けてくれ」
「了解ですな」
 チャリオットは急停車が難しく、転倒の危険も常について回る。そこで御者のマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)は、まず必死に目をこらして敵だけでなく味方のチャリオットの位置も確認した上で、全てのチャリオットの位置を念頭に置いた。
「ここですな!」
 そしてスピードの出し過ぎや急な方向転換は行わず、必要最小限の動きで絶妙に自チャリオットを移動させた。
「おらおらおら邪魔だ邪魔だああ! 怪我したくなかったらそこをどけえ!」
 間一髪、一号車のすぐ脇を又吉が猛スピードで駆け抜ける。
「よくやった、マーゼン」
「ふう、なんとも無茶な操縦をするやつですな」
 結局、又吉の異常なまでの逃げに対する執念で、武尊チームは競技終了まで【新星】フェルマーンから逃げ切った。