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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

リアクション

 四 チャリオット騎馬戦、再開!

「今度はチアガールとして頑張ります!」
 綾乃は弁当を作るという使命を終え、ここからは応援に加わるつもりだ。
「いい心構えだね。よし、応援団長はボクだ。ボクに合わせて美しく応援してくれよ」
 どこからもってきたのか、ソルはいつの間にか学ランに着替えていた。鏡で自分の姿を見ながら「あぁ、ボクはどうしてこんなにも美しいんだろうか」などと言っている。
「さて、そろそろ始めようかな。いくぞ――フレー! フレー! 教・導・団!」
 ソルがかけ声と共に応援の動作を始める。それは意外にもしっかりとしたものだった。
「ソル、なんか凄い! さすがは目立つためと美しさのためなら努力を惜しまない男ね。よーし、私も負けてられないわ。――フレ、フレ、教導団! 頑張れ頑張れ教導団!」
 綾乃もソルに続いて元気よくチアリーディングを始める。
「よーし、いいぞ。もっと美しくだ!」
「負けるな負けるな教導団!」
 二人は一層応援に気合いを入れた。

 後半戦最初に飛び出したのは、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)の三人を乗せたチャリオットだった。
「お馬サン、友達。ラズ、仲良クできルヨ!」
 御者は自然児のラズが務める。魅世瑠は車上に仁王立ちしていた。
「それそれー!」
 魅世瑠は裏町で購入した男性用女性型空気人形を振り回す。当然皆の視線が彼女に集まった。誰もが近寄りたくないと感じたはずだ。
「目立ってる目立ってる。フル、ラズ、いくよ!」
 三人が頷き合う。
「これがあたしたちの秘密兵器さ!」
 魅世瑠が大声で叫ぶと、三人が同時にマントを脱ぎ捨てる。肌色のマイクロビキニを身につけて裸同然の三人は、自分たちで勝ってきたハチマキをつなぎ合わせてふんどしにしていた。
「な、なんと下品な……意表を突く作戦なのか?」
 一〜四号車で形成される【新星】フェルマーンの司令塔クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は、それを見て眉をひそめる。
「ケーニッヒ、大げさにびっくりしてみろ」
「しゃあねぇ、チームの勝利のためなら、オレ個人の主義なんかは問題じゃねぇからな。分かったぜ」
 二号車を率いるケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は、クレーメックに言われたとおり派手なリアクションをとる。
「うおお! なんだあいつはっ! はしたない!」
「ふふ、効果覿面だな。ラズ、あのチャリオットに向かえ!」
「りょーかい、魅世瑠!」
 魅世瑠は見事にこれに食いつき、チャリオットを二号車に向かわせる。ところが二号車の役目は囮。魅世瑠たちはクレーメックの術中にまんまとハマったというわけだ。ちなみにクレーメックは、各車に配置したパートナーと通信できるようにしてあるという徹底ぶりだ。
「せりゃああ!」
 魅世瑠は空気人形でケーニッヒのハチマキを狙う。ケーニッヒはスウェーでこれをかわした。
「おいおいどこ狙ってんだよ。貴様ただのイロモノかあ?」
「この! くそ!」 
 ケーニッヒは魅世瑠を挑発しつつ、もう少しでハチマキが取れるという印象を与えるよう、ギリギリのところで攻撃をかわし続けていく。表面上は余裕を見せているが、こんな格好の魅世瑠を前にして動揺していないと言えば嘘になる。チームの足は引っ張れないという気持ちが彼を支えていた。
 ケーニッヒが魅世瑠の注意を引きつけている間、御者のゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)は、クレーメックと通信するクリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)の情報を元に、魅世瑠たちのチャリオットを少しずつ三号車と四号車の待ち受けるエリアへと誘い込んでいた。
「あーら、純情そうなコじゃーん」
 そのゴットリープに、フローレンスの魔の手が迫る。これを妨げたのはレナ・ブランド(れな・ぶらんど)だった。
「この破廉恥女! 私のかわいい弟分に近寄らないでよね。ゴットリープ、こっちは私に任せて、あなたは操縦に専念してちょうだい」
「何キミ、失礼だね。この格好にどこか問題が? 本当ならビキニも脱ぎたいところだ。産まれたままの姿であるのは至極自然なこと。ごちゃごちゃ着込むキミたちのほうがおかしいんだよ」
「訳の分からないことを。大体どこにハチマキ巻いてるのよ……」
「ふふん。悔しかったら取ってみな」
 レナは負けず嫌いな性格だ。売り言葉に買い言葉でフローレンスの下半身に手を伸ばす。と、
「きゃー! 暴行魔ぁー!」
 突然フローレンスが金切り声を上げた。周りの注目がレナに集まる。
「ちょ、この期に及んで何を!」
 そのとき、クレーメックの連絡を受けたクリストバルが言った。
「ケーニッヒ様、そろそろだそうですわ」
「よし、撤退だ」
 ケーニッヒの合図でゴットリープは離脱の準備をする。
「怪我をしたら元も子もないですからね。安全第一で、っと」
 ゴットリープはまず周囲に敵がいないことを確認す。そして、手綱さばきに細心の注意を払ながらスピードを落とし、旋回半径をなるべく大きくとって方向転換した。
「逃げる、させナイ」
 ラズは馬にケーニッヒたちを追わせようとする。しかし、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)率いる三号車と皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)率いる四号車が挟撃によってこれを阻止した。
「ちょっと、あいつら行っちゃうじゃん! ラズ、どうにかならないの?」
「完全に、挾まれテル。ココから抜けだすノ、ムリ。お馬サンも、怖がってルヨ」
 ラズはなんとか馬を落ち着かせようとする。しかし、ハインリヒが彼女に襲いかかった。
「お取り込み中のところ悪いが、攻撃させてもらうぞ」
 挟撃組の中でも、三号車の役割は敵チャリオットの機動力を奪うことだ。そのためには御者を無力化するのが一番いい。ハインリヒはランスによるチェインスマイトをラズにお見舞いした。
「いた、いたイヨ」
「これでは操縦に専念できないだろう。このままだと車体がバランスを崩して倒れるぞ。怪我をしたくなかったら、潔く降参しろ」
「イヤだ。魅世瑠とフローレンス、仲間。ラズが諦めタら、二人モ負けちゃう」
 ラズは頭を防御していた片手を再び手綱に戻す。
「ふん、強情なやつだ。まあいい、すぐに音を上げるさ」
 ハインリヒは攻撃を続ける。
「このおっ」
「あなたの相手は私ですう」
 ラズの救助に向かおうとした魅世瑠の鼻先を、伽羅の攻撃がかすめる。そののんびりとした口調と柔和な顔からは想像もできないほど素早い一撃だった。
「魅世瑠!」
 フローレンスが魅世瑠の助けに入ろうとする。が、伽羅のパートナーうんちょう タン(うんちょう・たん)がそうはさせない。
「女性、しかもこのような格好の者を相手にするのは本意ではない。だが、義姉者(あねじゃ)に仇なす者には、このうんちょう、容赦せぬ!」
 伽羅とうんちょうは、ためらいのない攻撃を魅世瑠たちに加えていく。早々と勝負を決めるつもりだ。
「くそ、こいつら……これじゃラズを助けに行けな――うわっ」
 不意に魅世瑠が転びそうになる。ハインリヒの攻撃に、ラズがとうとう馬をコントロールしきれなくなってきたのだ。
「頃合いのようですわ」
 桐島 麗子(きりしま・れいこ)が状況を伽羅に伝える。
「分かりましたぁ。うんちょう、とどめですぅ」
「うんちょう、参る!」
 二人は最後の一撃を加えようとする。避けきれない、魅世瑠が目を閉じたそのときだった。
「マイッタ、降参するヨ!」
 ラズが言った。魅世瑠は驚いた顔をする。
「どうしたんだラズ! まだ負けてないよ!」
「ゴメンね魅世瑠。でもラズ、二人が危ないメにあうの見てらレないヨ」
「ラズ……。そっか、心配させて悪かった。どうやらあたしたちの負けのようだな」
 フローレンスも「もう十分暴れたしねー」と笑う。
 こうして決着が付いた。
「ほら、もってきな」
 魅世瑠は整髪料で固めた髪の下につけ、更に上からウィッグを被って隠していたハチマキを外し、フローレンスの分と合わせて伽羅に渡す。
「あらぁ、目立つ方のハチマキはダミーだったんですねぇ」
「そりゃそうだ。冷静に考えれば、長さが足りないことくらい分かるだろ」
「言われてみればそうですぅ」
 伽羅はぽんと手を打った。

「いい気味ね。全く、とんだ目にあったわ。ゴットリープに何かあったらただじゃおかないところよ」
 レナが魅世瑠たちを横目でみる。その隣で、クリストバル ヴァルナがケーニッヒに言った。
「ケーニッヒ様、うまく連携をとることができましたわね」
「ああ、なかなかに見応えのある戦いだったな」
「わたくしは何もしていないので、ちょっぴり肩身が狭いですわ」
「そんなことはない。怒号と声援が飛び交い、砂煙で視界も遮られるスタジアムの中、正確な情報を伝達するのは重要な役割だ。よくやってくれたさ」
「ケーニッヒ様……ありがとうございます」
 クリストバル ヴァルナは、クレーメックと同じチャリオットに乗る機会を諦めねばならないことを内心とても残念に感じていたが、ケーニッヒのこの言葉で救われた。
「ところでどうなさったのですか? さきほどからずっとあちらを見ていらっしゃるようですが」
 話しながらずっと三号車と四号車の方を見ているケーニッヒに、クリストバル ヴァルナが尋ねる。
「いやあ、チームのためだし自分の役割に不満はないんだが、やっぱり戦いを見てるとうずうずしちまってな」
「ふふ、ケーニッヒ様らしいですわね」