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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

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【2019体育祭】チャリオット騎馬戦

リアクション

「さすがはラルク、なかなかやるな。仲間が一人減ったとはいえ、やはりやつのチャリオットをマークすべきか」
 【レグルスの檻】を率いるレオンハルトは、ラルクたちのチャリオットをじっと見つめていた。狙うは大物。彼はしばらくの間スタジアムの壁際で全体を眺め、パラ実勢の中で特に活躍するチャリオットを探していたのだ。
「さて、そろそろ狩りを始めるとしよう。イリーナは右翼、ルカルカは左翼へ回れ、挟撃するぞ!」
「分かったぜ!」
「了解だよ」
 レオンハルトの号令で、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)のチャリオットも出撃した。
「おいラルク、誰か近づいてくるぞ」
 悠司が、自分たちに接近するチャリオットに気がつく。
「何? ありゃイリーナか。左からルカルカも来てやがる。ち、面倒なのに目をつけられたな」
「後ろからも来てるみたいだぜ」
 二人の背後からは、御者を務めるレオンハルトがパートナーのシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)を乗せて迫っていた。
「くそ、囲まれたか。さすがに分が悪いな。悠司、一旦退避だ!」
「オッケー」
 悠司がイリーナたちを振り切ろうとする。
「逃がすかっ」
 イリーナは御者のトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)にスピードを上げるよう指示すると、ラルクに向かって大きな声で叫んだ。
「あ、砕音先生が観客席に!」
「何いっ!? 悠司ストップ! ストップだ!」
「え? ちょ、何なんだよ!」
「ど、どこだ?」
 自分の恋人である砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)の名を聞き、ラルクは必死で辺りを見回す。
「もらった!」
 無防備なラルクの背後から、イリーナがハチマキを奪いにかかる。
「ラルク、避けろ!」
 悠司の声で、ラルクは間一髪これをかわした。
「イリーナ、騙しやがったな!」
「あんなのにひっかかるほうが悪いんだよ」
「ルカルカのことも忘れないでよね! 『獅子の牙』ルカルカ、参る!」
 イリーナと交戦するラルクに、今度はルカルカが剣を振るう。
「くっ」
 イリーナと戦っているときはルカルカが、ルカルカと戦っているときはイリーナがハチマキを狙ってくる。ラルクはやむなく二人の攻撃を同時に受けることにした。しかし、さすがのラルクも二人の絶妙なコンビネーションに押され始める。
「まずいな。もう一騎のチャリオットにもじきに追いつかれる。……やってみるか」
 ラルクのピンチに、悠司は身を乗り出し、
「はあっ!」
 鬼眼を放った。
「ヒヒイイインッ!」
「ブルルルルッ」
「おい、何をしている!」
「わわ、お馬さんどうしちゃったの?」
 敵の馬は悠司の鬼眼におびえ、暴れ出す。悠司はこの隙にイリーナたちを振り切った。
「ウチの大将の邪魔すんなって。怪我じゃ済まねえぞ!」
「悠司、ナイスだぜ!」
 危機を乗り切った二人に、同じパラ実チームのレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)たちが合流する。
「大丈夫? 敵に囲まれてたみたいだけド。よかったら協力するネ」
「おう悪いな、頼むぜ。よし悠司、引き返して反撃だ!」
「はいよ。ラルクらしいな」
 レベッカたちは敵に挟撃されないよう、スタジアムの外周を旋回する。ラルクと悠司は向きを変えて再び【レグルスの檻】に向かっていった。
「懲りずに向かってくるか。何か策があるのかもしれないが、ラルクのやつはここで討ち取っておきたいものだな。イリーナ、ルカルカ、さっきと同じ作戦でいくぞ!」
 レオンハルトの指示でイリーナたちはUターンし、ラルクと並走する体勢に入る。レオンハルトは大きく迂回して標的の背後へと回った。
「今度は逃がさないぜ!」
 イリーナが自分に注意を引きつけてレオンハルトたちにハチマキを取らせようと、空気剣でラルクに殴りかかる。ラルクはこれを正面から受け止めた。
「よし、もういっちょ」
 悠司は再度イリーナたちの馬に鬼眼を放とうとする。しかし、御者のトゥルペがそうはさせなかった。
「同じ手は二度もくわないであります!」
 トゥルペは馬を前に出し、悠司と馬が目を合わせないようにする。次いでいきなりチューリップの花を開いたかと思うと、踊り始めた。
「今度はこっちの番でありますよ。さーいたーさーいたートゥルペが咲いた〜♪」
 悠司の乗った馬はトゥルペに気を取られ、走りが安定しない。その影響で、ラルクがバランスを崩した。
「トゥルペ、やるじゃない。ルカルカも負けてられないね! ダリル、淵、行くよ!」
 これまでチャンスをうかがっていたルカルカは、ここを勝機と見て攻勢に出る。
「ああ、任せろ!」
 御者役のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、ルカルカと彼女のもう一人のパートナー夏侯 淵(かこう・えん)にパワーブレスをかけ、ラルクとの距離を一気に詰める。淵は攻撃範囲の広い長槍で素早い突きを繰り出す。誰もいない空間にも攻撃をしているのは、光学迷彩で潜んでいる者を警戒してのことだ。
「ええええええいっ!」
 ドラゴンアーツで攻撃力を、ヒロイックアサルト『疾風』で瞬発力を上げたルカルカが、ダリルの操縦と淵の打撃に合わせてラルクを攻撃する。
 勝った――ルカルカがそう確信したとき、ダリルが何かに気がついた。
「ルカルカ危ない! 左だ!」
 スタジアムの外周で戦況を見守っていたレベッカが、トップスピードのまま緩やかに旋回しつつ接近してきたのだ。
「やらせないネー!」
 レベッカははち切れんばかりの胸を揺らしながら、すれ違いざまに槍でルカルカに横殴りの一撃を加える。ルカルカは咄嗟に剣で攻撃をはねのけたが、勢いに押されてチャリオットに尻餅をついた。
「体ががら空きだぜ!」
 淵は槍を振り回して隙だらけになったレベッカに向けて突きを放つ。しかし、そこはレベッカのパートナーアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)がしっかりとカバーしていた。二刀流の彼女は、防御用の剣で淵の攻撃を受け止める。
「次はそっちネー」
 ルカルカたちのチャリオットの横を通り過ぎると、レベッカはレオンハルトのチャリオットへと向かっていった。
「一対一なら勝てると思っているのか。獅子もなめられたものだな。シルヴァ、やってしまえ!」
「任せてください。……梅琳少尉やスポーツ番長は見てませんね」
 レオンハルトの合図で、パートナーのシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)が氷術を唱え始める。
「くす……これは遊びじゃなくて軍事訓練です。どうせ氷は競技中に割れて水になってしまいますから、バレませんしね。それっ」
 シルヴァは拳大の氷塊を生み出すと、レベッカが乗るチャリオットの車輪目がけて発車する。氷塊を車輪で踏みつけたチャリオットは、大きくバランスを崩した。
「わ、何事ネー!」
 チャリオットとともにレベッカの胸も大きく上下する。
「そう簡単にはいかないわよ」
 レベッカチームの御者を務める明智 ミツ子(あけち・みつこ)は、冷静に馬をコントロールし、咄嗟にチャリオットの体勢を立て直した。戦国時代の英霊であり白馬も所持している彼女にとって、馬の扱いはお手の物なのだ。
「チャリオットの操縦は任せて。安心して戦ってちょうだい」
「さすがです、助かりました」
 レベッカチーム四人目のメンバーオーコ・スパンク(おーこ・すぱんく)は、ミツ子を頼もしく思うと同時にシルヴァに対して憤りを感じていた。
「小癪な真似をしてくれますね。今度は私からいきますよ」
 オーコはシルヴァをきっと見据えると、両手にもった剣のうちの片方で、すれ違いざまにチェインスマイトを放つ。
 シルヴァはオーコの初撃を危なげなくかわした。最初の一手は回避に専念しようと決めていたのだ。だが、オーコが続けざまに二発目を放とうとしたのは予想外だった。
「シルヴァ様、危ない!」
 自らが崇拝するシルヴァの危機に、ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)は、刃の部分を消して隠し持っていた光条兵器の出力を最大にし、目つぶしを敢行する。目がくらんだオーコは手元がわずかに狂い、彼女の放った攻撃はシルヴァのハチマキをかすめた。
「これは危ない。ルインがいなかったらハチマキを取られているところでしたよ」
「きゃあ、シルヴァ様に褒められちゃった!」
 ルインは子犬のように大はしゃぎする。それとは対照的に、オーコは目を押さえながら悔しそうな声を漏らした。
「く、どこまでも卑劣な……」
「オーコ、平気? なかなか油断できない相手ネ。でもワタシ負けないヨ。ミツ子、レッツゴー!」
 ミツ子はチャリオットをドリフトさせると、方向転換して再びレオンハルトたちに向かって行った。 

「今まともに戦えるのはわたくしたちだけ。トゥルペちゃんも頑張っているのに、わたくしが何もしないわけにはいきませんわ」
 ルカルカが体勢を崩されたため、彼女のチャリオットはダリルの判断でラルクと距離を取っている。レオンハルトたちはレベッカチームの相手で手一杯だ。この状況見て、イリーナのパートナーエレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)が決意する。
「いきますわよ。心を込めたわたくしの子守歌、お聞きになってください!」
 エレーナは、ラルクに向かって全身全霊で子守歌を歌った。
「おりゃあ! む、なんだこの歌は? あれ、なんだか気持ちよく……」
 エレーナの子守歌を聞き、イリーナと一進一退の攻防を繰り広げていたラルクの動きが鈍くなる。イリーナはこのチャンスを見逃さなかった。
「よくやったぞエレーナ! 今度こそもらったぜえ!」
 イリーナが剣で切り上げ、不意を突かれたラルクは武器をはじき飛ばされる。イリーナは勢いそのままに飛び上がると、ラルクのハチマキをつかみ取った。
「よっしゃあ! 討ち取ったりいっ!」
「すごいのです〜」
「やりましたわ!」
 勝ち誇るイリーナに、トゥルペとエレーナも自然と駆け寄る。
「ふ、やられちまった……な。だが、楽しかった……ぜ……ぐー」
 子守歌の効果が行き渡ったラルクは、完全に意識を失ってイリーナたちの上に倒れ込んでいく。
「わ、こ、こっちに来るな、このでかぶつ! うわあ!」
 ラルクの巨体に押され、イリーナたち三人はチャリオットの上から地面へと落っこちた。
「きゅー、なのです……」
「きゃあ、トゥルペちゃん大丈夫!?」
「いてててて……ああ! チャリオットから落っこちちまったら、私たちも脱落じゃねえか! このやろう……てか重い! はやくどけ! この、この」
 イリーナに頭をポカポカ叩かれても、ラルクは一向に起きる気配がない。
「ふう。俺らはここまで、か。まさかパラ実生と組んで戦う時が来るとはねぇ」
 そんな彼のすがすがしい寝顔を見て、悠司は大きく息を吐いた。
「……負けたくねえなあ」