リアクション
* 騎狼舎では、騎狼を管理する、グロリアーナ・イルランド十四世(ぐろりあーな・いるらんどじゅうよんせい)。 彼女のもとを訪れる者があった。 「わしは龍雷連隊が隊長、岩造殿の部下武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)でござる」 「同じく。ナイン・カロッサ(ないん・かろっさ)よ」 前線にある彼らの隊長、岩造のもとへ駆けつけようとしている二人だ。弁慶は、旧オークスバレーにいる草薙 真矢(くさなぎ・まや)にもすでに援助を依頼している。 「騎狼ですか……残念ながら、騎狼部隊もホイホイ貸し出しはできないのです(騎狼がないのでお金がないので)。 パルボン殿からの御達しもありまして」 「そうなのね……」 「ええ。ですけど御安心ください。 その代わりに、騎オーク。すなわち、オークシリーズで捕えたオークを騎乗用に調教されたものを貸し出し可能になっていますの」 「騎オーク……!」 「これは、イレブン・オーヴィルと一条アリーセによる発案でもあるのです」 「オォォォク。ナイン様……(オレニ乗ッテ乗ッテ)」 「仕方ないわね。じゃあ、これを借りるわ」 「ああそうじゃ。それから、船のことはどこで聞けばよいでござろう? わしは岩造殿に一刻も早く物資を届けねばならぬ、それには船が要りようでござる」 「船? 船でしたら、おそらく……」 弁慶は、沼人マーケットの方面へ向かうこととなる。 1-04 バンダロハムの思惑 バンダロハム貴族館を再び訪れているこの女魔法使い。 そう、メニエス・レイン(めにえす・れいん)だ。 そこには、まさに出撃せんとするドリヒテガら傭兵勢が集っている。 「北も南も敵しかいない場所に陣取るなんて、まさに袋のネズミよ」 メニエスは、黒羊軍と傭兵連とで境界に陣取る龍雷連隊の挟撃を持ちかけた。(メニエスは、すでに黒羊側との接触を持っていることになる。ということは、つまり黒羊軍は……) 「ふむ。きゃつらの位置はここか……メゾカーラ」 貴族は、メゾカーラ・ブリヒヤを呼び寄せると、何か耳打ちした。メゾカーラは一足先、館を出て行く。 「メニエス殿。ではそういうことで黒羊側にも連絡をお願いする」 メニエスも、退出する。 それらを見届け、システィーナ・プレイスが貴族に近付く。 「システィーナ。如何した?」 「失礼ですが一つ。 私には、教導団がこちらに先に手を出させ、我々バンダロハムを攻め落す口実を得ようとしているように見えます。それに乗るべきでない、と思うのですが」 「黒羊側の使者とも話を着けた手前、戦いは避けられぬ。 教導団がバンダロハムに軍勢を引き入れた以上は、その時点で打ち払う理由ともなろう。バンダロハムに非はない」 「ですが、その龍雷連隊とは、食い詰めをにわかに集めたという点が……」 「いずれにしても、教導団の本隊も間もなくやって来よう。 奴等には痛い目を見てもらう。システィーナ、西の上空がにわかに紅く染まることがあれば、傭兵どもを一時下がらせるように。ふふふふ」 「……ええ、わかりました。では。 それからもう一つ、あの戦いを煽る女魔法使い。もしかしたら工作員の可能性もあります」 「ふむ。少し気を付けておこう」 こうして傭兵勢は、システィーナ、その従妹カチュアに、メニエスも加わり境界の戦線へと急行する。 1-05 ジャトとタカムラ バンダロハムの片隅。ここに、貴族館へ戻らなかった傭兵。バンダロハム傭兵の首領格、ギズム・ジャト。 そして酒場での出来事で、どこか意気投合するところがあったのか、一緒にいることになった鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)。 「何だ……まだ教導団のことを言うのか?」 「いずれ本隊が来れば、バンダロハムが敵対すれば街への被害が出る」 鷹村の本心は……バンダロハムの街一つでは教導団に勝ち目がないと思っているのだが、それはジャトや傭兵らのプライドと傷つけることになるだろうから、それには触れない。 「それに、貴族は自身の保身しか考えていないなら、旗色が悪くなれば傭兵だって切り捨てるかもしれない。奴らは、鏖殺寺院とつながっている可能性もある。寺院をよく思っていない者は、多いのだ。 あんたは何故、そこまで貴族に従う?」 「さあな。たまたま、俺のやりたいことと一致してきただけだろ。今までは。 貴族が気に入らなくなれば貴族も切るし、教導団も同じだ。今は教導はどうでもいい」 「……」「……」無言の二人。 「真一郎……」見守る、松本 可奈(まつもと・かな)。 鷹村は……やはり、自分は教導団の一員であるという意識は固い。鷹村は、あくまで教導団と傭兵との間で協力関係が結べないか、ジャトに問うたのだが。 もちろん、またそこには、情に厚い鷹村が、ジャトのことを思って言ったということもあったのだろうが。 しかしジャトもまた、個人的に協力してくれないかという鷹村の義憤めいたところに惹かれるものがあったのだろう、それでこそあれ、教導団ということには全く関心を示さないのだった。 鷹村は思う。どうすれば、傭兵たちと敵対関係にならずに済むか。 少なくともそうだ俺は、傭兵たちと絶対に戦闘は行わない。たとえ向こうから仕掛けてきても、一方的に無抵抗でいるつもりだ、と。 しかし……すでに鷹村の思惑とは無関係に、バンダロハムでは傭兵と教導団の戦いがすでに始まっているのだった……そこへ、 「くけけっ。おいジャトじゃねえか」「まだこんなところにいたのか。他の奴らは皆、ドリヒテガと一緒に境界へ行ったぜ」「俺達は今から、教導の本営を急襲して、大将首獲ってやるつもりよ」 通りがかったのは、酒場でジャトといた傭兵達であった。 「くけけっ。こいつ……」「おい誰かと思えば、さっきの教導の野郎じゃねえか! まだこいつといたのか、ジャト」「なあ、最初の手柄にもらっちまおうか。武官かそこそこの位じゃね?」 「待て。俺はあんたらと戦うつもりはない」 「くけけっ。いいぜじゃあ大人しくやられちゃってくんな」 傭兵は鳥銃を取り出した。 「ジャトいいのか。ははは、お友達なんじゃねえの?」 「……」ジャトは無言だ。 鷹村は、剣を抜かない。 「おい、こいつほんとにこのまま無抵抗か? ……よしお前ら、こいつの首は俺がもらう。首級第一号頂きだぜ。くけけっ」 「真一郎! 私が、そうはさせないよ」 可奈が、前に出る。 「お、恐い嫁もいやがるぜ」「でもきゃわいいーっ」「ほらお前らは行きな」 「どうしても、教導団と戦うの?」 「教導だろうが何だろうが殺れっつわれた奴を殺るだけよ」 「……」 ……傭兵への説得は試みるだけ無駄だというのか。 迷う、鷹村。 「真一郎……?」 傭兵のうち二人はウルレミラの方角へ走った。 可奈が動こうとするが。 残る一人の銃口が向く。 「……くっ」 ヘキサハンマーを取る可奈。 「おっと。距離は取らせねえ」 傭兵は後ろに飛んで、距離を取り再び銃を向ける。 「ちっ。タカムラ。とにかく俺は境界に行くぜ。俺の邪魔をするやつがいれば教導団だろうと黒羊だろうと斬るだけだ」 ジャトはその緊迫した状況を、全く顧りも見ない様子で、北へ向く。 「おいおいジャト。加勢もしてくれねえのか。くけけっ、行っちまったよ。 ……まあ、あいつは、ああいう奴だからな。さて」 1-06 執拗な追跡者 更にバンダロハムの込み入った雑居区の一角で、繰り広げられる逃走劇…… 「こんな所でやられるわけにはいかないであります。何としても生還するでありますよ」 薄暗くなりつつある雑居区を走る、金住 健勝(かなずみ・けんしょう)。 まさか、こんなところで命を狙われることになるとは。しかも、相手は執拗だ。 おそらく、かなりの距離から狙ってきている。 狙撃手らしい。 金住には、疲れが見える。 レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が、見えない相手に問う。 「あなたは一体誰なんです?!」 ひっそりとしたビルが佇むばかり。返事はない。 「私達はあなた達と戦いに来たんじゃないんです! そちらから見れば教導団が、……っ!」 教導団の単語に反応したかのように、射撃が来る。 「……勝手に、立ち入ったのかもしれませんけど……!」 ひた、ひた、…… 「レジーナ、どうやら話の通じる相手ではないようであります」 「私達を討ったらここは本当の戦場になってしまいますよ!」 辺りを見渡す金住。 金住は、逃げる間に、注意深く相手の狙撃の癖を見極めていた。 「レジーナ、次はあの倉の影まで走るであります……!」 「健勝さん……。はい……!」 いささか距離がある。 健勝は、スプレーショットをばら撒いた。 走る。 「あっ」 「レジーナ!?」 「だ、大丈夫です、健勝さん早くそこまで……!」 がらくたの積み上げてある後ろに飛び込んだ。 倉庫の壁に銃弾が来る。 「レジーナ、本当に何ともないでありますか?!」 「は、はい。大丈夫です。ごめんなさい、つまずきそうになって」 ひた、ひた、…… そのまま、点在する物陰を縫って走る。 「ざわめきが戻ってきたであります!」 家の窓に明かりが見え、バーらしい建物からは、人の談笑も聞こえてくる。 「ここまでくれば……」 そこも速やかに抜けて、通りらしいところまで達した。 二人は、見えない狙撃手の追撃を逃れた。 「一旦、本営に戻るであります……!」 ……ひた、ひた、ひた。 |
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