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リアクション
第四章 相対する
研究室には同一周期の電子音が響いていた。
ノーム教諭は魔同調融離ポッドのモニターをじっと見つめた後に、息を吐きながら椅子に腰を落としたが、直ぐに思い直して資料を手に取り、頭を掻きながらページをめくった。
「教諭、何か手伝える事はありませんか?」
研究室に入ってきたエーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)は控えめに言ったが、パートナーの峰谷 恵(みねたに・けい)は魔同調融離ポッドに駆け寄ると、モニターを覗き込んで教諭に訊いた。
「ねぇ先生、この機械で何が分かるの?」
「ちょっとケイ、先生の邪魔をしては、」
「いいよぅ、迂闊にも一息つきかけてしまった所だったからねぇ、タイミングとしては悪くない」
教諭は椅子に腰を下すと、目頭を押さえながらに言った。
「全身が水晶化していても、生きているというデータが出たんだ」
「本当ですか?」
「あぁ、時間が止まっているという状態に近いんだ。最も、脳が水晶化した場合に、本人に意識があるかどうかは、水晶化を解除してから本人に訊いてみないと分からないけどねぇ」
「でも凄いですわ、この結果は、体の一部が水晶化した生徒も、そのパートナーにとっても良い知らせになります」
「うんっ! 先生がんばって! 水晶化の謎を解いちゃえば、女王器を渡す必要がなくなるもん、それってボクたちの勝ちって事だよね!」
教諭は笑みを隠すように、手の平で頬を潰し揉んだ。少し凝っている、そんな気がした。
「そう言えば、女王器って見た目は普通だったんだね。ボク、もっとゴツイのを想像してた」
「青龍の鱗1枚の形…でしたよね? とてもシンプルな形の」
「そうそう、女王様が渡した武器って割には普通の盾とあまり変わらないように見えたもんね。わざとなのかな」
ノーム教諭が頬を揉む手を止めた。いや、止められたのだ、恵の言葉が止めさせたのだ。
シャンバラ女王が渡した武器…… 普通の盾と変わらない…… 本当に女王の武器であるなら……。
「そうか…… なるほど……」
教諭はゆっくりと立ち上がると、研究室の本棚から幾つかの本を抜いてから隣の大講義室へと顔を出すと、レベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)たちを呼び寄せた。
「急にどうしたネ」
「教諭? 一体どうしたの?」
「青龍鱗についても調べてみようか。女王器は元々はシャンバラ女王の武器だったと言われているんだが、そんな武器が、女王に何の益ももたらさない「ただの盾」なんて事は、ないと思わないかぃ」
疲れきった顔に、いつもの不気味な笑みが浮かんでいた。
「わかったヨ。みんなに伝えてくるネ」
「青龍鱗、それからヴァジュアラ湾について、ですね。行ってきます」
恵とレベッカはパートナーと共に図書館へと駆け出した。
夜明けの時は、すぐそこまで迫っていた。
イルミンスールの森の中を駆けている。女王器を運ぶ一行は神代 正義(かみしろ・まさよし)と大神 愛(おおかみ・あい)を先頭に、また上空から監視している葉月 ショウ(はづき・しょう)と葉月 アクア(はづき・あくあ)を乗せた小型飛空艇を殿に小隊を結成して「毒苺のなる巨樹の下」を目指していた。
冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)はパートナーの如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)の手を握りながらに駆けていた。
「日奈々、大丈夫?」
「うん… 変な感じは… しないですぅ」
日奈々は超感覚を使って周囲に神経を張りながらに駆けていた。過去に事故で両目の視力を失っていたが、超感覚によって生えた「リスの耳としっぽ」が、恐らく千百合に見える視界よりも多くの、そして正確な情報を日奈々に与えていた。
「千百合ちゃん… こそ、ドレス… 走りにくくない… ですか?」
「大丈夫だよ、何かあったら、すぐに言ってね」
「うん… そうする」
日奈々は、同じく超感覚によって周囲を警戒しているミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)へと顔を向けた。
「ミューレリアちゃん… この先に…」
「あぁ、居るな」
ミューレリアは猫耳が音を拾ったのを感じて、一行に止まるよう命じた。進行方向、木々の上に幾つかの気配を感じていた。
「あれ? バレちゃってるみたいだよ」
「うーん、すっごく敏感な娘が居るのかしらねぇ」
桐生 円(きりゅう・まどか)とオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が前方の木の枝上に姿を見せて一行を見下ろした。後方にはミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)、マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)、シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)の姿も見えていた。
ショウと樹月 刀真(きづき・とうま)は円の姿に目を見開いた。
「桐生!」
「あなた、どうして」
「あれぇ〜、教諭が来ないって言うから来たのに…… バレちゃったね」
「「特選隊」でありながら、十二星華の味方をするというのですか」
「それとこれとは話が違うだろ? それにボクは師匠の味方だよ、十二星華じゃない」
「そんな…」
「待て、どうして教諭が来ないって事を知ってるんだ」
「さぁ? どうしてだろうね?」
人質交換と女王器の運搬に向かった生徒は「16名」。
少しの前に遡る。
トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)に電話をかけさせた。正確にはトライブが唯乃の首に綾刀を突き付けている間に、唯乃のパートナーであるエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)にかけさせたのだが。電話の相手はクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)。エラノールの異常に震えた声を聞いたクロセルは「16名だ」と告げた。
マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)がかけた相手は風森 巽(かぜもり・たつみ)。パートナーの水晶化を一気に全身レベルにされたくなれれば、と脅しをかけた上で「人質交換と女王器の運搬に向かった生徒の数」を訊いた。情報は、右足首が水晶化したティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)を看病している巽に代わり、愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)と何れ 水海(いずれ・みずうみ)が集めたものだった。そして答えは「16名」であり「ノーム教諭は同行しない」との事であった。
2つの情報が一致したことで、採用が決まったのだった。
「そんな事より、女王器は誰が持っているんだい?」
高周波ブレードを握り上げた円に対して、一行は一斉に構えを見せた。
「師匠の意向でね、人質交換に来るのは「女王器を持った者が1人いれば良い」って事になったんだ、だから」
「楽しませてもらうぜ」
マッシュの言葉と共に、シャノンとミネルバが続いて飛び出した。
リターニングダガーによるマッシュの斬撃を、緋山 政敏(ひやま・まさとし)が雅刀で受け止めたが、圧されてしまった。飛び出した勢いが加わっていた為だが、僅かに体勢を崩した政敏に、シャノンが火術による追撃を放っていた。
「任せよ」
パラミタ刑事シャンバランこと神代 正義(かみしろ・まさよし)が高周波ブレードによる爆炎波で火術を退けた。
ミネルバが放った毒虫の群れが日奈々と千百合を襲ったが、姫宮 和希(ひめみや・かずき)のウォーハンマーとミューレリアのダークネスウィップが次々に毒虫を叩き潰していった。
「あんた達は私が守るわ」
「ミューレリアちゃん…… 後ろっ」
「えっ」
ミューレリアの背後からミネルバが高周波ブレードを振り下ろしていたが、ショウのライトブレードがこれを受け弾いた。
「刀真、今のうちに行け! ここは俺たちが」
「しかし」
「行きましょう刀真さん! ここで女王器を奪われたら、終わってしまいます」
刀真はロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の言葉にも躊躇いを見せたが、テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)に手を引かれて駆け出した。
ノーム教諭から、女王器「青龍鱗」を受け取った葉月 ショウ(はづき・しょう)であったが、パッフェルと面識がある事やパートナーであるアクアが水晶化していた事から、同じく【ノーム教諭の特選隊】である樹月 刀真(きづき・とうま)に女王器を託していた。
女王器を運ぶメンバーは、光学迷彩で姿を隠しているナナ・ノルデン(なな・のるでん)を含めて6名となってしまった。
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