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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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波乱


「……だるい」
 床に寝そべった高崎 悠司がこぼす。彼はある考えがあって、遺跡調査に怪しい人物がついてきていないかずっと観察していた。だが、今のところそれらしき人物は見当たらない。
 こんなことなら俺も弁当分けてもらいたかったぜ。そう後悔する悠司の肩を、パートナーのイル・ブランフォード(いる・ぶらんふぉーど)が叩いた。
「おい」
「んー」
「いたぞ、怪しいの」
「なんだって?」
 悠司がイルの指さす方を見る。そこにはこの上なく挙動不審な人物――というか神代 正義(とフィルテシア)――がいた。今さっき遺跡にやってきたところらしい。
「あ、怪しすぎる……イル、頼んだ」
「分かった」
 獣人であるイルはオオカミに姿を変えると、気配を消しつつ正義たちの後ろに回り込む。そして威嚇のうなり声を上げた。
「きゃっ」
「うお、なんだこのオオカミは!」
 二人が驚いて振り返る。イルのことを侮る様子はないが、攻撃的な反応を見せることもない。イルは一旦人間の姿に戻り、二人に言った。
「……お前たちの目的は何だ」
「私たちぃ? 私たちはねぇ、クイーン・ヴァンガード襲撃犯を追ってやって来た正義の味方なのだ〜」
「その通り!」
「何だと? リフルを疑っているクイーン・ヴァンガードか? お前の方は、とてもそう見えない格好だが」
 イルがヒーローお面に赤いマフラーをつけた正義をまじまじと見つめる。
「リフル? 誰だそれは。……はっ! あやつはっ!」
 イルに尋問を受けている最中、正義が目の端で目的の人物を発見する。そう、国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。正義は武尊に向かってまっしぐらに駆け出す。
「あ、待て!」
「正義ちゃ〜ん、頑張って〜。その人は多分、襲撃事件にまーったく関係もないけどぉ」
 フィルテシアは手を振って正義を見送った。
 武尊の方はまだ正義の存在に気がついていない。
「くそ、武ヶ原のやつ一体どこに行ったんだ。リフルを監視するんじゃなかったのかよ」
 小隊長クラスの隆がもつハンドヘルドコンピューター(HC)には、特殊な機能なんかがあるかもしれない。そう考えた武尊は、隆がリフルに因縁をつけたら憤慨したように見せて喧嘩をふっかけ、彼のHCを奪おうと考えていたのだ。
「ちっ」
 武尊が小石を蹴飛ばす。すると、隆とリニカが広場に入ってくるのが見えた。
「予定より長く休んでしまった。さっさと監視に戻るぞ」
「やっぱり外の空気は気持ちいい」
「いた! 今のところオレがやつに喧嘩を売る動機はねえが……目的のためにゃあ、細けぇこたぁいいんだよ!!」
 武尊は右手を大きく振り上げて隆に向かっていく。
「いたいけな少女にあらぬ容疑をかけるたあ、ヴァンガードがパラ実のモヒカン以下ってのは本当だったんだな! 覚悟しやがれええ」
(我ながら滅茶苦茶な上になんと似合わないセリフ)
「なんだ貴様は」
 隆が身構える。が、
「とうとう見つけたぞ! とうっ!」
 正義が武尊に飛びついた。
「ぐお、何しやがる! ……って、またテメェか! 一体なんなんだよお前は! 
恨みでもあんのか!? オレの疫病神か!?」
「正義のヒーローに決まっているだろう!」
 もつれ合う二人。
「……ん? おいアル、あれってもしかしてお前がファンのヒーローじゃないか? 『パラミタ刑事ションボリン』だっけ」
 正義の存在に気がついたアーサー・カーディフが、アルフレッド・テイラーに教えてやる。
「え? わ、シャンバランだ!」
 アルフレッドはデジタルカメラを抱えて飛び出した。
「はーなーれーろー!」
「大人しくしろ悪党め!」
「すごい! かっこいい!」
 遺跡の床を転がってゆく武尊と正義。そしてそれを追いかけてシャッターを切るアルフレッド。
「……隆、何あれ?」
「分からん……」
 なんとも間の抜けた空気が生徒たちの間に広がっていく。そのとき、
「うわ!」
「な、なんだ!?」
 突如辺りが煙幕に包み込まれた。次いでまばゆい光が放たれる。虚を突かれた生徒たちは錯乱し、無数の叫び声が飛び交った。

 ――その中で。
「ふふ、あたしと遊ぼうよ」
「……!」
「それ」
「うっ……」

 遺跡の中で煙幕は抜群の効力を発揮する。周囲が見えるようになるまでにはかなりの時間がかかった。
「げほっごほっ! リニカ、大丈夫か!?」
「目が痛いぃ」
「ふう、無事のようだな。くそ、なんだったんだ今のは。……え? あれ? 俺のハンドヘルドコンピューターがない!?」
 隆は、いつの間にか自分のHCが綺麗さっぱりなくなっていることに気がついて慌て始める。だが、更なる衝撃の事実を告げる声が聞こえた。

「大変! リフルさんがいない!!」