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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

リアクション

「クイーン・ヴァンガード襲撃とは面白いじゃない。やってやるわ!」
 リフルを囲む生徒たちがラーメンを味わっているころ、イーヴィ・ブラウン(いーびー・ぶらうん)はゲイルスリッターを誘き出すために一人町を歩いていた。
 そのイーヴィの背後から、不意に冷たい声が聞こえる。
「……どうやってくれるのかしら」
「!」
 イーヴィは咄嗟に反転すると後ろに飛び退き、光精の指輪をかざした。
「現れたわねゲイルスリッター! これでもくらいなさい!」
 指輪から放たれた光でゲイルスリッターが一瞬怯む。イーヴィは一気に勝負を決めるべく雷術をお見舞いしようとした。が、直後急停止する。足下に銃弾を撃ち込まれたのだ。
「何!?」
 慌てて辺りを見回すイーヴィ。
「へ、悪いが手出しさせてもらうぜ」
 ゲイルスリッターを援護したのはトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だ。彼は少し離れた高台でスナイパーライフルを構えていた。
「誰よ今邪魔したのは! 出てきなさい! (未来の)大魔法使いイーヴィ・ブラウンが成敗してあげるわ!」
 イーヴィは闇雲に火術を放ちまくる。
「落ち着けって」
 そこに、イーヴィと同じくゲイルスリッター撃退のために動いている葉月 ショウ(はづき・しょう)がやってきた。
「狙撃してきたってことは、邪魔したやつは見通しのいいところにいるはずだ。弾の飛んできた方角を予測すると、あの高台で間違いないだろう。死角に入って戦うぞ」
 ショウはそう言いながら、敵の攻撃に備えてラウンドシールドを構える。
「さあ来い、ゲイルスリッター!」
 しかし、相手は様子を窺っているだけで攻撃をしかけてこない。
(……どうしたんだ? 俺がヴァンガードエンブレムをつけていないからか? いや、あの人に襲いかかる様子もない)
 ショウがイーヴィに一瞥をくれる。彼女は確かにエンブレムをつけていた。
(せっかく、ガードしたら雷術が発動するよう盾に仕掛けをしたのにな。まあしょうがないか)
「来ないならこちらから行くぞ」
 剣を構えてショウが詰め寄る。と、ゲイルスリッターは後退して距離をとった。
「話に聞いてたより大分逃げ腰だな。俺はあんたと戦うのを楽しみにしてたんだぜ」
 ショウがさらに前に出る。そのとき、どこからかたくさんの足音が重なりあって近づいてくるのに、彼は気がついた。
「……あれは武ヶ原 隆? って、なんだあの人数」
 足音の聞こえる方向に顔を向けたショウは、隆を先頭に駆け寄ってくる大勢の生徒を見て目を丸くする。『神竜軒』にいた面子に加えて、途中で合流した生徒の姿もあった。
「どこだ?」
 隆は現場に到着するやいなや、仲間である一人のクイーン・ヴァンガードに話しかける。ゲイルスリッターの出没に居合わせたこの男が、隆に連絡をとったのだ。
「早かったな、武ヶ原。あそこだ」
「あれが……」
 隆がゲイルスリッターをまじまじと見つめる。
 彼に続いて、他の生徒たちも続々とやって来た。
「イーヴィちゃん、怪我はありませんか!」
 すいかは真っ先にイーヴィの元へと駆け寄る。
「大丈夫よ。この私があんなやつに負けるわけないでしょう」
 イーヴィはすいかをしっかりと抱きとめた。
「はっきりとは見えませんけど、マントに……仮面でしょうか? ゲイルスリッターの目撃証言と一致しますよね。リフルさんはここにいて、襲撃犯はあそこにいます。ということはつまり……」
「うん、めでたくリフルの無実が証明されたってことだね! やった!」
 手を取り合って喜ぶノエルとアニエス。その横で、ルクスが再び隆に食ってかかった。
「同時に、おぬしらが間違っていたということが証明されたわけじゃ。これに懲りたら、今後はもう少し思慮深くなってほしいものじゃな」
「ふん……」
 火花を散らすルクスと隆の間に、黎次が割って入る。
「まあまあ、無事リフルさんの身が潔白であるということが分かったのですから、いいではありませんか。それにこんなことをしている場合ではありません。俺たちは今、あのゲイルスリッターと対峙しているのですよ」
 黎次に言われて、隆たちはゲイルスリッターに向き直った。
 グレン・アディールはガードラインを使用しつつリフルの前に立つと、ハンドガンを抜く。
「これで嫌疑をかけられることはなくなったかもしれないが、俺たちはシルヴェリアを護ると決めた……ソニア、ナタク、役目は最後まできっちりと果たすぞ……シルヴェリア、危険だから下がっていろ……」
 ソニア・アディールと李 ナタも彼に続いて前に出る。
「はい。リフルさん、あなたには私たちが傷一つつけさせません。ですから、どうか安心していてくださいね」
 ソニアがライトブレードを構えて言う。
「あれが噂のゲイルスリッターか。やっとお目にかかれたぜ。またとない強敵……俺としちゃあ是非ともお手合わせ願いたいところだが、今回ばかりはリフルを護衛するのが先決だな」
 ナタははやる気持ちを抑えて防御よりの体勢をとった。
 改めて生徒たちの注目がゲイルスリッターに集まる。すると、ゲイルスリッターは感情の感じられない声で言った。
「……私は十二星華の一人、乙女座(ヴァルゴ)の名を冠する者……」
 この発言に、樹月 刀真は自分の耳を疑った。
「十二星華ですって!?」
「ゲイルスリッターが十二星華……」
 漆髪 月夜も動揺を隠せない。無理もないことだ。ミルザム・ツァンダの女王候補宣言が妨害されたあの事件。その張本人である十二星華の一人が自分の目の前にいるのだから。それもゲイルスリッターとして。
 生徒たちが困惑して立ち尽くす中、リース・アルフィンがゲイルスリッターの方に歩いて行く。それに気付いた黎次が、慌てて彼女を呼び止めた。
「ちょっとあなた、どこに行こうというのですか。危ないですよ!」
 リースは振り返って答える。
「リフルさんに対するクイーン・ヴァンガードのあの仕打ち。リフルさんの疑いは晴れたみたいですけど、やっぱりヴァンガードを許すことはできません。私はゲイルスリッターの味方をします!」
「な……! 自分が何を言っているか分かっているのですか! いくらなんでもそれは飛躍しすぎです!」
 黎次の叫び声で、ゲイルスリッターに注目していた九条 風天がリースの行動に気がつく。
「リースさん、一体どうしたというのですか! 戻ってきてください!」
「風天さん……で、でも決めたんです!」
 風天の言葉もむなしく、リースは遠ざかっていく。風天はその後を追った。
「……事がややこしくなる前にけりをつける必要があるな……ゲイルスリッターは非常に素早い……リョフはやつの動きを止めてくれ……無論あの少女は傷つけずにな……今回は最初から全力で行くぞ……」
 状況を見て、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)はパートナーのリョフ・アシャンティ(りょふ・あしゃんてぃ)に言う。
「任せて! クルードが苦戦した相手なんでしょ? わくわくするなあ。久しぶりに楽しく遊べそうだよ!」
 リョフが武器を構える。
「おい待て、軽率な行動をとるな!」
 隆がそう言ったときには、リョフはもう飛び出していた。
「……ここは俺たちに任せてほしい……一部始終を見届けるのが隆の役目だろう……」
 そう言ってクルードもリョフに続く。
「いっくよ〜! あたしの一撃は大地を砕く!」
 ゲイルスリッターへと突進していくリョフ。彼女の進路上に立ちはだかったリースは、リョフに手を向けて言う。
「こ、来ないでください! 魔法を撃ちますよ!」
 どんどん迫ってくるリョフ。震えるリースの手。そして――
「ううっ……」
 リースの横をリョフが通り過ぎてゆく。リースにはできなかった。仲間を傷つけようとすることなど。震えるリースに風天が駆け寄る。
「どうした、逃げてばっかじゃないか!」
 リョフの怒濤の攻撃を受け、ゲイルスリッターは回避、防御に専念する。しばらくこの状態が続くと、リョフはしびれを切らせた。
「ええい、まどろっこしい! もう決めちゃえ!」
「……リョフ、目的はあくまで捉えることだ……完全に倒してしまっては駄目だぞ……」
「分かってる、ちゃんと手加減するって!」
「……よし、いくぞ……」
 クルードとリョフがヒロイックアサルト『天下無双』の構えをとる。クルードの抜刀術と真空刃をまとったリョフの武器がゲイルスリッターを追い詰めてゆく。
「……この間はこんなものじゃなかったはずだ……今更迷いでも生じたか……だが見逃すわけにはいかん……真相解明のためにも……そしてユニとラミの借りを返すためにもな……」
 とうとうゲイルスリッターに逃げ場はなくなった。
「おいおい、このままじゃゲイルスリッターのやつやられちまうぜ! この角度じゃ攻撃が届かねえ、ベルナデット、俺も乗せてくれ!」
 トライブ・ロックスターは、空飛ぶ箒に乗って空中で待機しているベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)を呼び寄せる。
「くそ、駄目だ! 間に合わねえ!」
 しかし、高所から戦況を見つめていたのはトライブだけではなかった。
「ふーむ、どうやら襲撃者さんがピンチのようですねえ。とてもお強いと聞いていたのですが、少々がっかりです」
 スナイパーライフルのスコープを覗き込みながら、朱 黎明(しゅ・れいめい)が呟く。
「まあ、ゲイルスリッターとクイーン・ヴァンガード、どちらが危なくなっても結局邪魔するんですけどね」
 黎明は引き金に手をかけた。
「これで全て終わりだ……ゲイルスリッター……」
 地上では、今まさにクルードがゲイルスリッターに最後の一撃を加えようとしているところだ。これでこの事件もようやく幕を下ろす。生徒たちがそう確信した刹那――
「……! ……なんだと……」
 クルードの周りに無数の弾丸が降り注いだ。
「さっきとは逆の方向!?」
 ショウが慌てて後ろを振り返る。
「よっしゃ! 何か分からねえがチャンスだ。こっちも派手にいくぜえ! おらおらおら!」
「わわ! トライブ、もうちょっと落ち着いて撃つのじゃ。落っこちる!」
 トライブも箒の上から銃を乱射する。ベルナデットは、その反動で揺れる箒を必死でコントロールした。
「……余計な真似を……」
 執拗な攻撃に後退するクルード。ゲイルスリッターはその隙を見て逃走の体勢に入る。
「待て! ――くそっ!」
 隆はゲイルスリッターを追おうと走り出したが、弾幕が彼の行く手を阻む。
「よし、もういいだろう。ベルナデット、後を追うぞ!」
「了解なのじゃ」
 射撃を止め、今度はトライブたちがゲイルスリッターの方へ向かおうとする。しかし、黎明がこれを許さなかった。
「それは野暮というものですよ」
 トライブの鼻先を狙ってライフルを撃つ。
「おわ!」
「トライブ!」
 トライブが箒の上で大きくよろめく。彼が体勢を立て直したときには、ゲイルスリッターの姿は消えていた。
「っぶね! ちくしょう、どこのどいつだ! 見失っちまったじゃねえか。あいつには聞きてえことが山ほどあったのによ……」
「でもあいつ恐いから、ちょっぴりほっとしたのじゃ」
「喜ぶなよ」
「これも無駄になってしまったな」
 ベルナデットが荷物から何やら取り出す。それは、ゲイルスリッターとの交渉のためにわざわざ空京で買ってきたケーキだった。
「あーあ、ぐちゃぐちゃじゃねえか。まああれだけ動いたら当然か。しゃーない、帰って俺たちで食おうぜ」
「やったのじゃ!」
「だから喜ぶなって」
 目的を果たした今、長居は無用。黎明は痕跡を残さないよう、スパイクバイクで素早く撤退している。
「武ヶ原 隆、そしてクイーン・ヴァンガードの実力がどれほどのものか調べたかったのですが……今回だけでは測りかねますね。それにゲイルスリッターも期待はずれでしたし、少し残念です」
 バイクの上でそう独り言を言ったあと、黎明は不適な笑みを浮かべた。