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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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 さて、自由行動ということで多くの生徒は壁画を見たり古代の遺物を探したりしているのだが……。
「お宝……なさそですね」
 宝に目のない藤原 すいかは、爪先立ちで鼻をくんくんさせながらトレジャーセンスを使用していた。
「む、あれは?」
 すいかは柱の陰で何かが動いたのに気がつく。
「もしやお宝では!」
 すいかはてけてけと柱に向かって駆けてゆく。すいかが心躍らせながら柱の向こうを覗くと、突然目の前に骸骨が現れた。
「きゃああっ!」
 思わず尻餅をつくすいか。すると骸骨が大声で笑い出した。
「あははははは! 君恐がりすぎ!」
 骸骨の後ろから顔をだしたのは大野木 市井(おおのぎ・いちい)。彼は遺跡で見つけた骸骨を使ってすいかを驚かせたのだ。
「ほれほれほれー」
「いやー!」
 市井は逃げ惑うすいかを追いかけ回す。
「やめなさい!」
「ぶべっ!」
 そこにマリオン・クーラーズ(まりおん・くーらーず)の一撃が炸裂した。市井の頭にメイスがめり込む。
「う……おう……」
 悶絶する市井にリフルが注目する。マリオンはこれをきっかけにリフルに話しかけた。
「ごめんなさい、これでも一応監視に来たんですけど……あ、監視と言っても身構えないでくださいね。ただ級友として、個人的にリフルさんに興味があるんです。私もリフルさんと同じで古代シャンバラ史を専攻しているんですよ」
「おう、俺もだぜ。ただし俺は職業騎士としてだがな! しかしマリオン、この目はちゃんと君を追ってるから安心しろ! 主に尻をぐぶっ!」
 いつのまにか回復していた市井に、再びマリオンのツッコミが入る。
「すみません、この濃いのは無視しておいてください。全く、恥ずかしい……」
「なんだよマリオン、真面目ぶっちゃって。こんなこと言ってるけど、マリオンの本当の目当ては遺跡なんだぜ。どうしても今回の調査に行きたいってさんざんゴネてさ……ごめんなさいうそです。メイスは勘弁してください。先端はやめてください」
 市井はメイスを振りかぶったマリオンを止めると、リフルに向き直る。
「……おふざけはこれくらいにして、と。今回君にかけられた疑いの件、俺としては強引過ぎると思ったんだわ。それで君がどんな娘なのか直接会って知りたいと思ったわけ。てなわけでまあ、よろしく頼むよ」
 市井がにかっと笑う。そこに伏見 明子(ふしみ・めいこ)が近寄ってきた。
「楽しそうね。私も混ぜてくれないかしら? 自分もこんな格好してるけど、ひとつよろしく」
 明子は籠手型HCとヴァンガードエンブレムをリフルに見せる。
「……あなたには悪いけど、私にもやりたいことがあるからねー。当分はやめらんないわ、この仕事。ま、中にゃホントに威張ってるだけのやつもいると思うけどさ、みんな色々考えがあると思うんだ。だからクイーン・ヴァンガードのこと、あんまり嫌わないでやってくれないかな?」
「別に嫌ってはいない」
 気さくに話しかける明子に、リフルはそう答えた。
「そっか、ありがと。そういえばあなたは古代シャンバラ女王を高く評価してるみたいだけど、ミルザムさんについてはどう思ってるの?」
「彼女は――」
 リフルが口を開こうとする。だがリフルの言葉は五条 武の叫びによって遮られた。
「ミルザム!? ミルザム・ツァンダと言ったのか!?」
「え、ええ。そうだけど、彼女が何か?」
 その剣幕に、明子が驚いた顔で武を見る。
「何かもくそもない! 俺は朱雀鉞(すざくえつ)を勝手に自らの女王候補宣言の道具としたあいつが許せないんだ! リフルの話によれば古代シャンバラ女王は人々に慕われていたとのこと。この情報を使い、どうにかしてミルザムに対抗することはできないものか……」
 武は拳を震わせて悔しさを露わにする。そんな武に明子が言った。
「私にミルザムさんの思惑を知る術はないけど、シャンバラ王国復興はシャンバラ人にとって長年の悲願だったのよ。彼女だって自分の利益のためだけに女王候補宣言をしたんじゃないと思うわ。あれだけの行動をとるのって大変なことよ?」
 帰る国のないパートナーをもつ明子にとって、パラミタ建国は喜ばしいことだ。そして今のところ、建国達成への一番の近道がミルザムを後押しすることであるのは間違いない。
 だが、武の怒りはそう簡単に収まるものではないようだ。
「ミルザムがどう考えて女王候補宣言をしたにせよ、俺たちの気持ちが踏みにじられたことに変わりはない……俺はこの遺跡で古代シャンバラ女王についてもう少し調べるぜ」
 武は噛みしめるようにそう言い、引き返していった。果たして彼の気持ちに変化が訪れるときは来るのであろうか。
「う、ううむ……ここからだと何を話しているのか聞こえん……!」
 岩の陰からひょこひょこと何かが顔を出す。それは明子の様子を盗み見るフラムベルク・伏見(ふらむべるく・ふしみ)だった。彼女はマスターである明子のことが心配なのだが、「お前が出てくるとややこしくなるからついてくるな」と明子に釘をさされているのだ。2メートルに迫ろうかというその身長では無理もない。
「…………フラム。君、隠密行動をするなら自分の図体を考えた方が良いよ……?」
 明子のもう一人のパートナーサーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)が隣でフラムベルクにツッコむ。
「これは静佳が正解だったかもしれないねえ」
 留守番をしている九條 静佳(くじょう・しずか)の姿を思い浮かべながら、サーシャはそんなことを言った。

「ふむ、なかなかそれらしいそぶりを見せないな。このまま何事もなければいいのだが……」
 リフルが本当にゲイルスリッターなのかどうかを確かめたい虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)は、遺跡に入ると他とは別行動をとり、リフルの挙動を観察していた。彼女が一人になって怪しい仕草をするようであれば、隠れ身を使用して近づくつもりだ。
「疑っていない……というわけではない。が、確証もなく疑われている者を放ってはおけないんだよ。例えそれがいらぬ世話であってもな」
 涼としては勿論、リフルがゲイルスリッターではないことを望んでいる。
 しばらく観察を続けているうちに、リフルを取り囲む生徒が一人、また一人と消えていく。やがて一人になったかと思うと、リフルはふらふらと隅の方へ歩いて行き、その場にしゃがみ込んだ。
「……! きちまったか?」
 涼は予定通り隠れ身を使い、気付かれないよう慎重にリフルとの距離を縮めてゆく。
(しかしこれ、リフルをストーキングしているようで全くいい気がしないな……)
 そうしてついに、涼はリフルの真後ろまでやってきた。
(一体何を隠している。ええい、ここまできたら迷うことはない!)
 涼が思い切って背後からリフルを覗き込む。すると――
 ぐ〜
 リフルのお腹が鳴った。
「って、腹が減ってただけかよ!」
 思わず出た声にリフルが勢いよく振り返る。
「あ、いや、これはだな……」
 涼はうまく取り繕えずに言いよどんでしまう。そこに都合よくアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)が来てくれた。
「あらリフルさん、お腹が減ったのですか? そういえばもう結構な時間ですね。よろしければお昼にしましょう。クロワッサンサンドをお分けしますよ」
 リフルは、涼のことを見なかったかのようにアイシスの後をついていった。