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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第2回/全3回)

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「まあ、焦らなくともまた機会はあるでしょう。ヴァンガードにもゲイルスリッターにも、まだまだ喜劇を続けてもらわなくては困ります。……私のためにね」
 ゲイルスリッターが去った現場。リースは緊張の糸が解けて道路の上にへたり込んでいた。
「……私は間違っているのでしょうか」
 俯いたリースに、リフルが黙って手をさしのべる。礼を言うのでもなく、咎めるのでもなく。
「リフルさん……」
 立ち上がったリースに、隆はそっぽを向いたまま言った。
「……俺は自分が正しいと信じたことをやっている。お前もそうしたんだろう。なら後悔するな。だが、一つだけ言っておきたいことがある。お前が俺を嫌うのは勝手だが、クイーン・ヴァンガードをひとくくりにされては迷惑だ。隊員にだって色々なやつがいる。みんなそれぞれ自分の考えをもって行動しているんだ」
「……」
 リースが隆を見つめる。その近くで、源 紗那が思いっきり脱力した。
「はあぁ〜」
「なんだ、情けない声を出して。ゲイルスリッターを見てビビったか? ほら、こんなヴァンガードもいるんだぜ。一緒にされては困る」
 隆は紗那を指さしてリースを見る。
「あなたは本っ当に失礼な人ですね! 武ヶ原さんだって、偉そうにしていた割には何もできなかったじゃないですか。見当違いの憶測でリフルさんに迷惑をかけるわ、ゲイルスリッターをみすみす取り逃がすわ……こちらこそ一緒にされたくないです」
「ぐ……」
「ま、リフルさんの無実が証明されたのですから、とりあえず私はそれだけで十分です。これでもう、リフルさんを監視する理由はなくなりましたよね?」
 紗那の問いかけに、隆は腕組みをして答える。
「確かにリフルに対する認識は改める必要があるだろう。だが、監視は続ける」
「な、何でですか!」
「ゲイルスリッターが捕まるまで、念には念を入れる。これは決定事項だ」
「この分からず屋!」
「なんとでも言うがいいさ」

「ふう、またカナタが危ない目に遭うんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたぜ」
 興奮冷めやらぬ現場を眺めながら、緋桜 ケイが言った。
「あやつ、今回はヴァンガードエンブレムを見せても襲ってこなかった」
 悠久ノ カナタは何かがひっかかるといった顔をしている。
「そうだな、随分消極的に見えた」
「それに、あの巨大な鎌をもっていなかったであろう」
「言われてみれば……。リフルに決定的なアリバイができたことばかりに頭がいって、全然気がつかなかったぜ」
「これはやはり……」
 今回の件で、カナタは自分の予想が間違っていないことを確信する。
「ケイ、話したいことがある」
「どうしたんだ? 急に改まって」
「大切なことだ。ソアやベアも呼んでくれないか」
 ケイはカナタの表情からただならぬものを感じた。
「……分かった。すぐに呼ぶよ」

「ほう、何やら面白いことになっていますね」
 パソコンのディスプレイを覗いて、湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)がそう呟いた。
「あら、なあにぃ?」
 パートナーのセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)が興味津々で彼に近づく。
「数時間前、リフルさんの目の前で武ヶ原 隆その人がゲイルスリッターを目撃した、という情報がネットに載っています。しかも捕り逃がしたらしいですよ。他にも多くの人間が現場に居合わせたとのことです」
「もうそんなことが分かっちゃうの。ネットって恐いわねぇ」
「これはまたとないチャンスが巡ってきましたよ。よーし……」
 凶司は高速でキーボードを叩き始めると、

『疑いをかけられていた少女は無実だった!』
『クイーン・ヴァンガードは女王の権力を笠に着た無法者』
『ゲイルスリッターは義賊だ』
 
 このような噂をあっという間にネットに流してしまった。
「さあ、どんどん広まってゆけ。今こそネットの力を見せてやるのだ!」
「凶司ちゃん陰湿ぅ」
「失礼ですね。聡明だと言ってください。うまくいけば、今後クイーン・ヴァンガード内で僕が暗躍する足がかりになるかもしれないんですよ。……そうだ、セラフにも協力してもらいましょうか」
「何? あたしもクイーン・ヴァンガードのよくない噂を流せばいいわけぇ? あたし自身がヴァンガード隊員だから、変な目で見られると思うけど」
「違います。その逆ですよ」
 凶司はにやりと笑うと、セラフに自らの策を伝えた。

 深夜。リフルの家の周りに立つヴァンガード隊員たちを見て、百々目鬼 迅(どどめき・じん)が言う。
「昼間蒼学に潜入して調べた限り、リフルは悪いやつじゃあない。おまけに、さっき目の前でこれ以上ないアリバイができたばかりじゃねえか。それだってのに自宅までついてきて監視とは、あいつらストーカーなんじゃねーのか?」
「怪しさなら、夜中に軍用バイクに乗って張り込みしてるウチらも負けてないと思うぜ?」
 サイドカーに乗ったシータ・ゼフィランサス(しーた・ぜふぃらんさす)が笑いながら答えた。
「さてさて、リフルはどうしてるかな。ズーム、イン」
 シータが携帯のカメラをズームさせる。
「どうだ、何か見えるか?」
「うん、ちょうど着替えてるとこだ。わお、見かけによらずきわどい下着」
「ぶっ!!」
 途端、迅が鼻血を吹き出す。
「あはは、冗談だよ。カーテンが閉まってて中は見えない。迅は不良のくせに純情だねえ」
「シータ、この野郎……」
「夜は長いんだ。こんくらいのテンションでいかないと、退屈で朝までやってられないぜ」
「確かにそうかもしれんが、この調子でいくと朝になる前に俺が出血多量で死ぬぞ。――ところでシータ、お前そんな格好で寒くないのか? これから更に寒くなるぜ」
 シータの服装を眺めて、迅が尋ねる。シータはどこのアマゾネスだと言いたくなるような軽装だった。
「この熱々おでんがあれば大丈夫! さあ、朝まで頑張るぞー。睡魔に負けるんじゃないぜ」
「それはこっちのセリフだ」
 ――翌日。
「すかー」
「ふごー」
 当然のように爆睡している二人。昼近くになってようやく迅が目を覚ます。
「ふあーあ……。――あ?」
 時計を確認する迅。すぐには状況が飲み込めない。
「うお!? しまった、おでんによる至高の満腹感で寝ちまったぜ! あれ、クイーン・ヴァンガードたちがいねえ。……そうか、今日はリフルが遺跡に行くって言ってたな。おいシータ、起きろ! 遺跡に行くぞ」
「んあー?」
 迅はシータをたたき起こすと、大急ぎでバイクを発進させた。