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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第2回/全3回)

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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第2回/全3回)

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第六章 正しさの価値

「真実の報道を目指し、危険な場所にも即参上! 空京のみんなこんにちはっ。さて、空京のみんなの関心事と言えばなんと言っても『剣の花嫁による美術品破壊事件』だと思うけど……実はボク、さっきまで光条兵器を振り回していたっていう剣の花嫁達のインタビューしてるんだっ! え? 危なくないのかって? それは、見てもらった方が早いかもね」
 熱のこもった口調で、羽入 勇(はにゅう・いさみ)は一気にまくし立ててから一呼吸。
「ねえ、どうして暴れたりしたの?」
 そこに集まった人影の一人に、マイクを差し出した。

「許してなんて言えないけど……何も、覚えていないんです」
 先ほど我に返ったところらしい葵は顔を俯かせ、
「ごめんなさい、うちのスヴェンが……ごめんなさいっ!!」
 ティエリーティアはスヴェンの腰にしがみつきながらひたすら頭を下げる。
「お姉ちゃんは悪くないっ!」
「ティティ、あなたが謝らないでください。私が迂闊だったんです」
 それぞれのパートナーである玲奈、スヴェンがそこへ割って入った。
『でも……』
「でも、じゃないっ!」
「でも、ではありませんっ」

「えーと、ね、ほら、ボクは全然危なくない」
 勇は肩をすくめて、ゆっくりと一歩。
 次のインタビューに移る。

「とにかく、剣の花嫁はティセラに気をつけろ」
「そうだね……悲しいのは、もうたくさんだよね」
 隼人とアイナの言葉に、勇は怪訝な表情を浮かべる。

「急に十二星華の話が出てきたけど……」

「これだよ」
 誠一からポイッと放られたものをキャッチ。
「これ、機晶石だよね?」
 勇は手の平を広げ、自分の手の先にあるものにまじまじと確認をさせるようにてそれを突き出した。
「ティセラの仕業なのだよっ! それを付けられると洗脳されるのだよっ!」
 オフィーリアが力強く言い切った。
「……洗脳とは穏やかじゃない言葉が出てきたけど、ここで少し話題を変えてみようっ! 美術品破壊の犯人と言われていたカンバス・ウォーカーについて。マイク、代わるね」
「は、はいっ! 代わりました! 私からは、カンバスさんについてお伝えしますっ」
 勇から渡されたマイクを緊張しながら受け取ったのは東雲 いちる(しののめ・いちる)
 少しわたわたとしながらも、ここまで来てもらった美術商の一人にマイクを向けた。
「カンバスさんに美術品を盗まれてしまったとお聞きしているのですが?」
「あっはっは。そうな、カンバス・ウォーカー一味って名乗ってやがったよ」
 初老の美術商はカラカラと笑った。
「心配ではないんですか?」
「心配――そうよなぁ、そりゃあ心配さ。でもな、今この空京で美術品が安全な所なんて、あるかい?」
 いちるは首を傾げてみせる。
「あの一味、ご丁寧にこんな物まで残していきやがったしな」
 画商が取り出した薄桃色の便せんには、『後でちゃんとお返しします』と書かれていた。
「それに、あいつらが妙にカンバスを推すしな」
 画商の視線を追った先では、十数人の、明らかに絵描きと分かる絵の具まみれの男達が肩を組み『カンバスなら大丈夫っ!』と声を揃えた。
「ま、何の根拠もないけどな」
 画商はまた笑った。
 それから、内緒話でもするようにいちるの耳元に口を寄せる。
「実は俺んとこはな、前にもカンバスに絵を盗まれてるんだ。でも、返ってきた。あいつなら、今回も返しに来るだろ」
 その言葉に、いちるもにっこりと微笑みを浮かべる。
「以上、カンバスさんについてでした」

「はい」
 いちるからマイクを返し受け、勇は表情を引き締める。
「生徒達――特に蒼空学園の生徒達によると言われていた像破壊事件。そして美術品破壊事件の犯人と思われていたカンバス・ウォーカー。十二星華ティセラの存在に、剣の花嫁を洗脳する機晶石……ボクが報道したのは、ただの正確な情報。でもみんな、この事件、どう思う?」
 一呼吸、ためをつくる。
「判断するのは、みんな自身だよ」
 人差し指を立てて、勇は顔を突き出した。
「オッケー。ラルフ、ちゃんと撮れた?」
 そのまましばらく静止していた体を動かして、勇はラルフ・アンガー(らるふ・あんがー)に聞いた。
「あなたの姿はちゃんと映っていますから大丈夫だと思いますが……」
 インターネットに繋がった端末とwebカメラを確認しながら、ラルフは少し自信なさげな返事を返す。
「よっし、じゃあこれ、すぐに流そう」
「環境的には、空京全体に広めるのが精一杯になりそうですが……」
「一人でも多くの人に知ってもらう。それが始まりだよっ! 誤った情報が世の中に出回るって事許せないんだからねっ。さ、やるぞー」
 勇は、気合を確かめるように腕をぐるぐると回してみせた。
「あなたが心おきなく取材できるよう気を配るのがパートナーの私の役目。とは言え、まさかカメラマンまでやることになるとは……ホントに、サポートのしがいがありますね」
 小さく、ラルフは苦笑した。

「ずいぶん余裕ではありませんか」
 少し離れたところから、リポートの様子を見守っていたクー・フーリン(くー・ふーりん)は、そばで腕組みをしていたギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)に声をかけた。
「次々に色々なところへ飛び込んでいくものだな。いちるは」
 目線だけはいちるのいる方をながめ、ギルベルトはクーに静かな声を返した。
「画家の皆さんから美術商まで引っ張り出してついにはインターネットとはいえ報道リポート。カンバス・ウォーカーの正しい情報を伝えるという意味では、良いアピールになったでしょうね」
 クーは、おかしそうにクスクスと笑った。
「画家や画商にとってカンバス・ウォーカーは他人だな?」
「そうでしょうね。怪盗ですから、言ってみれば他人より尚悪いですね」
「だが『信じて』いる」
「不思議な話ですね」
「他人同士が信じあえるのだ。パートナー同士が信じ合えないなどというのは、バカげたこと――そうだな」
「ほほう?」
 淡々としたギルベルトの声にクーは興味深そうな表情を浮かべる。
「ギルさーん、クーさん」
 そこへ、リポートを終えたいちるが戻ってきた。
「えへへ、カメラで、撮られちゃいましたっ。すごく緊張するんですね――でも、これでカンバスさんへの誤解、少しは無くなりますよねっ」
 頬は紅潮させながら、嬉しそうな声を上げる。
 ギルベルトはそのこめかみに拳をあてると、ぐりぐりとひねった。
「あ、あうう縲怩ネにするんですかぁ縲怐v
「調子に乗るなよ?」
 その様子に、クーは柔らかな笑みを浮かべた。