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リアクション
村が水晶化していると報告のあったガラクの村。その村の入り口に、イルミンスールからの小隊が到着した所であった。
「待て、エヴァルト」
ドラゴニュートであるデーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)が、隊の先頭で村へ踏み入ろうとしたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)に歩み寄った。
「全員の状態を確認しよう」
トカール村にて、原因不明の症状に苦しむヴァルキリーたちを発見したのは彼らである。
校長であるエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の指示により、村での捜索活動はせずにガラクの村に向かったのだが、ヴァルキリーたちを苦しめる原因が毒物である可能性があったため、全員が顔に布を巻いていた。
「みんな、異常は無いよね!」
機晶姫であるが故に顔を出したままのロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が全員の顔を見渡してから元気に跳ねた。
「みんな大丈夫、元気みたいだよっ」
「安心は出来ぬが、とりあえず即効性、及び空気感染の恐れは無いようだな。皆、少しでも異常を感じたなら知らせる事、これを徹底して欲しい」
デーゲンハルトの声に、一同は小さく頷いてから歩みを始めた。
村に入った途端に、誰もが言葉を失った。
「これは……」
声を上げたのはエヴァルトであったが、皆が一様に驚きを得ていた。
点々と建てられたコテージの様な家屋も、広がり並ぶ畑も草木も、見えるものの全てがコーティングをされたように輝いていた。
「水晶化… 覚えがある…」
5mはある木の幹に触れながら、フリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)はゆっくりと見上げていった。
「葉の一枚一枚まで… 正に同じだ」
フリッツはかつて「水晶と化した街」の調査に参加した事があった。その街の記憶が、いま正に目の前の光景と重なり現れたような、そんな感覚を覚えていた。
「ここまで似ている、という事は…、危険だよね」
「あぁ、可能性はあろうな」
「聞いてくれ! 水晶が襲い掛かってくる可能性があるんだ、気をつけてくれ!」
「どういう事だ」
冷静な声で訊く道明寺 玲(どうみょうじ・れい)に、サーデヴァル・ジレスン(さーでばる・じれすん)は過去に「水晶の街」で、街中の水晶が形を変えて襲いかかってきた事や、破壊しても水晶は直ぐに修復してしまう事、また水晶の巨人まで現れて戦った事などを、経験を踏まえて説明した。そして話の最後には、「水晶の街」に水晶化の呪いをかけたのは鏖殺寺院と考えられている事も加えて告げた。
「鏖殺寺院?! パッフェル以外にも水晶化の力を持つ者がいた…、いや、時系列的にはパッフェルが水晶化の力を持っていた事に驚くべきなのか?」
「そうだね、私たちはイルミンスールで剣の花嫁が水晶化されていると聞いた時、真っ先に鏖殺寺院が犯人だと考えたんだ、でも、犯人は十二星華だった」
「鏖殺寺院とパッフェルが繋がっている、という事でしょうか」
「だがこれまでに寺院と十二星華の繋がりは一切見えていない。十二星華の馬鹿げた力でパッフェルが水晶化の力を手に入れただけかもしれんしな」
そう言ってフリッツが持参したビデオカメラを覗いた時、レオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)が慌てて駆け寄ってきた。
「大変です、みなさん、こちらへ」
一同がレオポルディナの後について家屋を回り込むと、そこには水晶化したヴァルキリーたちの姿があった。
「うっ…」
刻が止められている、まるで彫刻であるかのように。逃げようとしていて、また何かに立ち向かおうと剣を構えてたまま。彼女達の視線を追うと、何者かがある家屋の屋根上に居たのではないかとも推測できた。
「水晶化したヴァルキリーの扱いには気をつけるんだ、水晶の破損は体の破損を意味する」
「なるほど。よし、水晶が襲い掛かってくる事にも警戒しながら、ミルザム様が到着するまでに出来る限りの情報を集めるんだ。もちろん、一人では行動しない事、それからーーー」
エヴァルトが号令を聞き終えるより前に、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は一人、その場をそっと離れた。
水晶化した村、間違いない、彼女だわ。
パッフェルがイルミンスール魔法学校を襲撃した事件を聞いた時から、祥子は彼女に興味を持っていた。イルミンスールの森で彼女が右瞳を突き刺された時、噴き出たものは血ではなく猛毒液であった事、また彼女が漆黒のグリフォンに乗って移動していた事などを調べあげていた。今回、水晶化したガラクの村への先行調査隊がイルミンスールから派遣されると聞くと、飛びついて小隊参加を名乗り出たのであった。
「どこに隠れているのかしら♪」
祥子は笑みを浮かべながら、ガラクの滝へと歩んでいった。
「小次郎さん」
一人離れ行く祥子に瞳を向けながらリース・バーロット(りーす・ばーろっと)は戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)に耳打ちをした。
「どうします?」
「………」
家屋の影に消え行く祥子の背を見送りながら、小次郎は視線をミルザムへ戻しながらに応えた。
「放っておきましょう。状況が荒れるとすれば、やはりミルザム殿が中心となるでしょうから。彼女の護衛が第一です」
「わかりました」
小次郎は村が丸々水晶化されている現実を見ても、どうにも違和感を覚えていた。イルミンスールでの襲撃や現状を見れば、確かにパッフェルの仕業と思われるような形になっているが、実は双方の共倒れを狙っている第3の集団が居るのではないかと考えたのだ。
十二星華とクイーン・ヴァンガード。双方がかち合えば戦闘に発展してしまうという現状を利用すれば、他勢力が一人勝ちを狙ったとしても不思議は無い。
当たらなくて良い推理が小次郎の脳裏に貼り付いていた。
この考えには、ミルザム本人も賛同していた。ヴァンガード隊員ではない小次郎が同行を許されたのは、その危険性を説いたからであり、彼女を護衛を命じられたからであった。
命を狙われている、何時どこでどこの誰とも知らぬ者に襲われるかもしれない。そんな状況を生きているというのに、そして不安要素が増した事を聞かされた直後だというのに、静かに笑って見せたミルザムの表情が印象的であったことを、小次郎は一人、思い出していたのだった。
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