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リアクション
第三章 青龍鱗の力の主
イルミンスールからの小隊に参加していたリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は、ガラクの村の中央に位置する滝壺付近の調査をしていた。
ヴァルキリーたちや家屋、木々に至るまで、村のほとんどが水晶化しているというのに、滝壺や、そこから派生した川の水は水晶化していなかった。リアトリスはこの点に違和感を覚え、滝壺付近を調べていたのだ。
「ねぇ、ここ見て」
滝壺の外壁を指さしながらリアトリスは、パートナーのカレンデュラ・シュタイン(かれんでゅら・しゅたいん)を呼んだ。
「ほら、ここ、内側と一緒に、水も水晶化してる」
「んな馬鹿な」
眉を潜めながらカレンデュラは滝壺の内壁を覗き込んだ。すると確かに、滝壺の内壁が水晶化していた。水晶部分は薄い厚みを持っているため、水も一緒に水晶化していると言ったリアトリスの言葉は、間違いではないようにも思えた。
「でも何でだ? 何で内側だけ水晶化してんだ?」
「う〜ん、なんでだろう?」
滝壺周辺も川の土手部分も水晶化されていない、水の流れる水路の内側だけが水晶化されていたのだ。………… 水路?
「川を補強した? いや、そんな事に意味があるか?」
水晶化と聞けば、十二星華のパッフェルの事が頭を過るが、もし犯人がパッフェルだとしたなら、余計に滝壺や川の内側だけを水晶化した意味が分からない。2人が川を下ってみると、内壁の水晶化は、村の端から少し下った所までで途切れていた。
「水は量が多すぎて水晶化できなかったのかなぁ?」
滝壺から派生した川は、村の端まで下ると、その幅は10m程になっていた。確かに流れも速いが、村を丸々水晶化できる力があるのだとしたら、川を塞き止める位の事は出来そうだが。水面を見つめていたカレンデュラが、ふと気付いた。
「ん? 水が赤いな」
「え? うん…… 赤?」
薄い赤、いや、紫が薄まった色だろうか。流れてくる水に、薄紫の色が混ざっている。よく見ると、村の先、水晶化が途切れた先の川岸に生えている草木が枯れていた。
「これって…… 毒、なのかな?」
毒の可能性があるのなら、迂闊に触れる事は出来ない。リアトリスとカレンデュラは更に川下へを目指し、枯れた草木を追い歩み出した。
「2人とも、お願いですぅ」
再び戻って村の中。メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)の優しい声に、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)とフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は共に飛び出した。
「はっ!」
覇気ある声と共に、セシリアは光条兵器であるモーニングスター(メイス)を大きく振り抜いた。水晶化した木の幹は、セシリアが抱きついて腕を回しても届かない程の太さがあったが、破砕音と共に簡単に砕けてしまった。
「行きます」
両手で構えたトミーガンで、フィリッパは宙を舞い落ちている木の枝を次々に狙い撃っていった。倒された木の幹が地面に着くまでには、枝の大半が胴体から切り離されていた。
メイベルは、大きな音と共に横たわった巨木に歩みよると、砕けた断面をじっと見つめた。
「外側だけでなく、内側も全て水晶になっているですぅ」
セシリアも覗き込むようにして断面を見つめた。確かに、全てが水晶化していて、年輪すら見えない。
「水晶化した街の時と同じ、よね。でも、剣の花嫁にかけられた水晶化とも違う、よね」
花嫁達の水晶化は、細胞のすべてが水晶化したわけではなかった。例え首が水晶化しても、気道が詰まる、ということはなかったのだ。生物とそれ以外では症状と現象が異なる、という事も考えられるが。
「セシリア、お願いします」
撃ち落した枝を両手一杯に抱えたフィリッパは、片足をぴょんと跳ねながら宙に向かって放り投げた。
よろけながらも、その場を駆け離れたフィリッパに笑んでから、 セシリアは宙を舞う枝に向かって火術を放った。
枝が地に落ちても、セシリアは続けて火術を放った。そうして繰り返してようやく枝の断面が赤みを帯びてきた。解け始めたようである。
合図で、火術は止められた。メイベルは断面をじっと見つめて、色々な角度から。しばらくそうしてから、小さく口を開いた。
「高温に達すれは溶ける、でも、細胞も壊れてる。これでは、ヴァルキリーや花嫁には使えないですぅ」
「そうですね、火傷ではなく、正に溶かしてしまう恐れがありますわ」
「じゃあさ、くっつけてみるのは、どうかな。こう、溶かした部分を合わせて」
「くっつけてどうするですかぁ、それは解除する事にはならないですぅよ」
「あぁ、そうか、そうだよね、あははは」
セシリアが苦い笑みを見せた時、村への来訪者たちが現れた。飛空艇の類は森中の空き地にでも置いてきたのだろう、女王候補ミルザム・ツァンダとクイーン・ヴァンガードの面々がガラクの村へ足を踏み入れた。
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