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【十二の星の華】湯けむり! 桜! 宴会芸!

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【十二の星の華】湯けむり! 桜! 宴会芸!

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第6章


 大広間ではまだまだ宴会が続いているが、夜桜を見ながら温泉に入ろうと何人かは温泉の方へと来ていた。
 満月に照らされたしだれ桜達は淡く煌めいている。
 白濁した温泉からの湯気も月明りで美しく見える。


 温泉では先ほどまで浴びるほど日本酒を呑んでいたカナタの姿もある。
 タオルをしっかりまいて、手には杯を持っている。
 一緒に呑んでいるのはウィングだ。
 ここで呑んでいるお酒はウィングが持参したもののようだ。
「いやぁ、夜桜見物しながらの温泉……そしてお酒、雅ですねぇ」
「まったくじゃのう……おっとっと」
 カナタの空になった杯にウィングが酒を注ぐ。
 その隣では料理を作り終わった涼介がスクール水着を着て入っており、疲れを癒していた。
「先ほど多めに作ったウドのサラダ食べます?」
 おつまみを酒豪の2人に渡すと、自分はまたまったりしだした。


「ふぅ〜……夜桜見ながら、みんなで入る温泉は格別だね」
 ホイップはタオルを巻いて温泉に浸かっていた。
「温泉奉行モード発動! 湯船にタオルを浸けるんじゃあないっ!」
 温泉に入ってきた総司はいきなり一番近くにいたホイップのタオルを剥いだ。
「きゃぁっ! ……なんかこんなんばっかな気がするよ……あぅ」
 とりあえず、温泉に深く入り、見られることはなかった。
「それはわたくしがやろうと思ってましたのに!」
 ホイップの隣を陣取っていたロザリィヌが抗議の声を上げた。
 立ち上がったロザリィヌのタオルも総司は剥いでしまった。
「何なさいますの!」
 何も付けていない状態で総司に食ってかかろうとしたが、ロザリィヌはつまずき、総司もろとも転んでしまった。
 大きな胸が総司の顔を直撃。
 その衝撃で総司は奉行モードが解けた。
「はっ! 俺は一体……この美味しい状況は……!」
 ロザリィヌはゆらりと立ち上がり、総司を立たせると思いっきりアッパーで気絶させた。
「俺はタオルより水着の方が許せん! 風情がないじゃないか!」
 今しがた入ってきた正悟はそう声高に言った。
「同感ですわ! 温泉は裸の付き合い! ですが、ホイップのタオルを剥ぐなんて許せませんわ! わたくしの役目でしたのに!」
「……あれ? いつの間にか呼び捨て?」
 ホイップはロザリィヌに慣れたからか、あえて他のところは突っ込まずに呼び方に反応した。
 今までは“ホイップ様”だったのだ。
「ホイップはわたくしの妹ですわ。ですので、親しみを込めて呼び捨てにさせていただきました。ホイップもわたくしをお姉さまと呼んで下さいませ」
「えっと……ロザリィヌお姉さま?」
 ホイップは小首を傾げて、素直に呼んだ。
 その可愛さに感極まったロザリィヌは何も付けていないまま抱きついた。
「可愛くて食べてしまいたいですわーー! さ、このまま背中を流しに行きますわよ!」
 なんとか無理矢理タオルを纏ったホイップはロザリィヌに手をひかれ、湯船から出されてしまった。
「裸の付き合いは良いものだ」
 うんうんと頷き、正悟は満足そうだ。
「せっかく妹になったのですし……妹の事はお姉さまとして隅々まで知っておかなければなりませんわよね〜。おほほほっ!」
 ロザリィヌは後ろ向きに座らせたホイップの背後から手を胸に回した。
「あら、以前触った時より胸が大きくなったんじゃございませんの〜? 成長期なのかしらっ?」
 お決まりの言葉に総司は気絶しながら鼻血を出した。
 どうやって聞こえているのかは解らない。
「拙者もホイップ殿のお背中流すでござる〜」
 泡をたっぷり付けたスポンジを持って薫が2人に近づいた。
「ボクもホイップの背中流すよ! 石化のとき怪我してない? どこにも傷なんてないよね?」
 ビキニ姿のカレンが薫を押し退けた。
「わっ! やっぱりホイップの胸って……それに引き換えボクは……」
 タオルの上からでもわかるホイップの胸。
 それを目の当たりにし、自分の胸に手を当て、溜息をついた。
「大きくても大変だよ?」
「それは大きいから言えるんだよー!」
「ひゃっ!」
 ロザリィヌの手の下から手を入れ、ホイップの胸を確かめた。
 その側では防護服を着たジュレールが温泉に入っていた。
(桜を眺めながら温泉に浸かる、人間にとってはこの上ない幸福らしいが……ホイップの側にいるカレンは幸福そうな顔をしているな。確かにこの温泉に入ると魂が癒されるみたいだ)
 ジュレールは幸せそうなカレンを見て、自分も笑っていることには気が付いてはいないらしい。
「うふふふ……視覚と触覚は堪能しましたわ……あとは味覚ですわー!」
「味覚って何ーーーっ! きゃぅっ」
 ロザリィヌはホイップの耳を舐めるという行動に出た。
 顔を真っ赤にして身をよじるホイップにカレンも顔を赤くしていた。
「あぁ……えぇっと……ボクなんだかのぼせちゃったみたい。少し涼んでくるね!」
 カレンは悟られないように、その場を後にした。
「あたしもホイップちゃんと流しっこがしたい!」
 途中参加してきたのはピンクのワンピース型水着を着たミレーヌだ。
 近くで寝転がりながら見ていた薫をふんづけて、あつい部として制裁を加えてから近づく。
「って、これって流しっこ?」
 ホイップを見たミレーヌは首を傾げていたが、まっ良いかと交ざっていった。
 そのすぐ側では白のビキニを着たシルヴィアが星条旗柄のトランクス水着を直用した弟のアルフレッドの背中を普通に流していた。
「有難う!」
「良いのよ」
 うん、普通だ。
 ロザリィヌはこのあとも、黎に止められるまでは暴挙の限りを尽くしていた。
 それを間近で眺めていた薫が一番美味しいかもしれない。
 勿論、見つかってからミレーヌとシルヴィアに成敗されていた。


「詩穂はティセラちゃんの背中を流したいな!」
「それじゃあ、お願いしますわ」
 何気に夜桜を見ながら温泉に浸かっていたティセラは、詩穂の願いを聞き入れた。
「ティセラちゃん髪がキレイだよね〜……っと、アリスキッス! どう? 疲れ取れた?」
 背中を向いたティセラの背中に詩穂がアリスキッスをした。
「ええ、ありがとうございます」
 ティセラは少し驚いていたが、お礼を言った。
「ティセラちゃん!」
「はい」
「親友のパッフェルちゃんを詩穂に下さい!」
「それはパッフェル次第ですわ。それに……わたくしとライバルということですわね」
「えっ!? うっ……えええっ!?」
 ティセラの言葉にびっくりして、背中を洗っていた手が止まってしまった。
「あらあら、面白いことになっていますわね」
 セルフィーナは楽しそうに2人を眺めていた。
 その手には冷たい麦茶のグラスがあり、浴衣を着ていた。
 翼を出す為の穴が空いている浴衣だ。


 背中を流されているティセラを見ながら、自分の胸を見比べているのはコウだ。
「よく見ると肌が白くて綺麗だな……羨ましい……だが! 胸はオレの方が大きいようだな! しかし……ホイップもデカイな」
 次に見たのはロザリィヌの魔の手から解放されたホイップだった。
 1人でゆっくり入っているところへと近付いて確かめようとする。
「なんだ胸のサイズが気になるのか? そうだな……ティセラは上から90−61−92(推定)だな。ホイップは88−58−83(推定)か……。ちなみに俺の見立てではミルザムは91−60−86(推定)といったところだな」
 横から出て来て3サイズを言い当てたのは総司だ。
 いつの間にか復活していたらしい。
「サイズは解った……だが、何か履くなり、タオルを身につけるなりしろ!」
 コウは総司をお湯の中に沈めてから改めてホイップの元へと寄って行った。
「あの! 一目見たときからファンでした!」
 コウが到着する前にホイップに話しかけたのは、リースだ。
「えっ! ふぁ、ファン!?」
「はい! こうして、ゆっくりお話する機会があって嬉しいです!」
「えっと……ありがとう」
 リースはホイップに握手を求めるとホイップは素直に応じた。
「おお! これはなかなか!」
「ひゃぅ」
 背後からフェリスに胸をいきなり揉まれて、ホイップは声を上げてしまった。
「フェリスちゃん……お風呂の中で騒ぐのは良くないよ」
 リースがやんわりと注意するが、フェリスは聞く耳持たず、そのままリースの胸へと飛び付いた。
「うんうん、やっぱり大きかった!」
「きゃっ!」
 リースの胸を揉んで、今度は近くまで来ていたコウのも揉んでいく。
「何をする!」
 そして、そのままティセラの胸にも飛び込んだ。
「おおぉ! 大きい!!」
 ティセラは怒らず、優雅にその手をどけさせた。
 つぎつぎに犠牲になっていく女性達。
「あーう……フェリスちゃんが皆に迷惑かけてる……皆様、本当にすみませんです……あとできつく叱っておきますから……」
 結局リースは、謝りながら温泉を回っていく羽目になっていた。


 そろそろ夜も更け、遅い時間となってきた。
 最後まで温泉に浸かっているのはホイップだけだ。
 そんなホイップに黎が話しかけてきた。
 黎はいつもの白い制服のまま、温泉に入る事はせず、足湯だけしている。
 ホイップに冷たいお茶を差し出し、自分の分もしっかり持ってきている。
「ホイップ殿」
「ん?」
「ホイップ殿は何故、十二星華だという事を隠していたんだ?」
「うん……台風の事を知られたくなかったから……それに……みんなと一緒じゃないのに十二星華だと名乗る事は出来ない気がしたの」
 そうか、と呟くと、暫くは風の音だけが辺りを支配した。
「今後はどうしたい? 十二星華として行動を起こすのか? それとも――」
「私はみんなと一緒にいたい。みんなと一緒に笑っていたい」
「わかった……我はそれを出来るだけ叶えよう……その……家族として」
「ありがとう」
「しかし……妹の様に思っていたが、姉だったとは」
「そうだね、私の方がうんと年上だし……今度からはホイップお姉さん?」
 ホイップはからかうような声で黎に言う。
「いや、やっぱりホイップ殿は妹だな」
 ホイップはくすくす笑う。
「我はホイップ殿に話したくても出来ぬ話がある……だが、いつか状況が許したら、聞いてくれるか?」
 黎の真っ直ぐな視線を受け入れる。
「うん、聞かせてね」
 2人はもう少しだけ桜と満月と温泉を堪能して、旅館の中の割り当てられた部屋へと戻って行ったのだった。