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金の機晶姫、銀の機晶姫【前編】

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金の機晶姫、銀の機晶姫【前編】

リアクション


〜キラメキ〜


 ディフィア村にようやく到着すると、グレッグの背中から降りたニーフェ・アレエは改めて彼の首に腕を巻きつける。ボアやゾディスらにも改めて挨拶をすると、アシャンテ・グルームエッジにもハグして御礼を返す。それをほほえましく見守っているルーノ・アレエにシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が声をかける。

「ルー嬢、大丈夫か?」
「はい、ウィッカーの兄貴。私は、思いっきり兄貴や皆を頼りにする。それで間違ってませんか?」

 その問いかけに答える代わりに、金髪を結い上げた女性型の機晶姫は舎弟の頭を優しくなでてやる。長い金の髪をたなびかせながら、神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)はニーフェ・アレエの隣に立った。

「お茶会、参加できなかったんですが、初めまして。神楽坂 有栖といいます」
「初めまして! ニーフェ・アレエです。姉さんから有栖さんのお話は聞いてます。沢山お世話になって、あとお菓子作るのがお上手だって!」
「え、本当ですかっ! 丁度、出掛けに焼いてきたので、良ければどうぞ」

 そういって、かわいらしい包みに入ったクッキーを差し出す。甘い香りが鼻をくすぐり一口口に放り込むと優しい甘さが口いっぱいに広がる。

「わぁっ! おいしいっ」
「そういってもらえてうれしいです」
「あ、あたしもつくってきたんだよっ!」

 秋月 葵(あきづき・あおい)が地面に付き添うなツインテールを揺らして自らも包んできた紅茶クッキーを差し出した。短いお礼を言ってほおばると満面の笑みで「おいしいっ」と声を漏らす。エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が少し困ったような笑みを浮かべながらも、遺跡に向かうメンバーに声をかける。

「少し、休憩してからにしませんか?」
「そうですね」

 くすくすと笑いながら、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)も同意をして誰がということもなく村の広場を借りてのささやかなお茶会が始まった。浅葱 翡翠から貰ったコーヒーを飲みながら、フィル・アルジェントも持参したお菓子を振舞う。そこへ、赤髪の魔女、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)と青い髪をした精霊のノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が二人の姿を見つけて声をかけてくる。

「ルーノ! この間は楽しいお茶会をありがとう。また次のファッションショーも楽しみにしていますわよ?」
「ニーフェちゃん! また一緒に歌おうね!」

 いっぺんに挨拶されてそれぞれ驚いて目を丸くしたが、すぐに笑顔を向けてお茶会の思い出話に花を咲かせる。ついこの間のことなのに、もう遠い思い出のようでまた次に行われるであろうお茶会への期待を膨らませていた。そのうち、影野 陽太(かげの・ようた)かた声をかけられ、名残惜しそうにその場を後にした。


 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)もルーノ・アレエに自作のマドレーヌを振舞っていると、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)の姿を見つけ声をかける。

「ルーノさん、初めてでしたでしょうか?」
「あ、いえ。たしか、機晶姫が誘拐されたときに一度お会いしました。その後、爆弾のときにも協力していただいたとか……たしか早川 呼雪ですね?」
「おどろいた。まさか覚えているとはな」
「お世話になった方々は、可能な限り覚えるようにしている。フルネームで覚えるのも、その人を忘れないため。もちろん、その人が望むなら呼び名を買えることはありますが」
「ああ、俺はそのままでいい。エメからよく話は聞いていた。とても親しくさせてもらっている、と」
「え、そ、そんなに話しましたっけ?」

 エメ・シェンノートが少し困ったようにあたふたしていると、ルーノ・アレエはそれを見て微笑んだ。そして、睫を伏せると胸元に手を当てた。

「エメといるとここが暖かくなります。だから、これからも仲良くしてほしいです」
「我も仲良くしたいな」

 ジュースを差し入れに現れたのは毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)だった。毒島 大佐はセミロングの黒髪を耳にかけながら、ジュースのカップをルーノ・アレエに差し出す。

「お初にお目にかかる。ルーノ・アレエ。我は毒島 大佐という。毒島と呼んでほしい」
「私はプリムローズ・アレックス、よろしくお願いしますね」

 二人から握手を求められ、ルーノ・アレエは快く応じる。とすん、と軽い音を立てながら毒島 大佐はルーノ・アレエの膝の上に座ると、「お初ついでに、君のことを教えてくれないか?」と見上げながら問いかける。

「ちょっとっ! ごめんなさい、失礼なパートナーで……」
「いいえ。わかりました。うまく説明できるかわかりませんが、どうぞ聞いてください」

 そういって、ルーノ・アレエは空を見上げながらポツリポツリと話し始めた。
 それは、初めて百合園で出会った友人達の物語からだった。そして、金葡萄杯でであった仲間達、一人飛び出した彼女を心配して追ってきてくれた友人達、事情聴取のために呼ばれれば、身の危険をかえりみずに無実を晴らしてくれた。

 そして見つかった、妹のこと。彼女の機晶姫が、本来持つべきものではなかったこと。

「なるほどな」
「こうしてお話させてもらったんだから、私たちも友達です。遠慮なく頼ってね?」

 プリムローズ・アレックスの言葉にルーノ・アレエは力強く頷いた。

「今は大丈夫そうだよ」

 少し遠巻きに眺めていたエル・ウィンド(える・うぃんど)はとなりでそわそわとしていたホワイト・カラー(ほわいと・からー)にそう声をかける。頭の上のアンテナが、少し寂しげに垂れてしまった。それもすぐに、ぴんっとはって赤い眼差しをエル・ウィンドに向ける。

「はい。今は私たちにできることをしましょう!」
「ああ。そうだ」

 柔らかく微笑んだ金髪の青年は一足早く情報を集めるために村の中へと向かっていった。

 気がつくと、ルーノ・アレエの周りは人がまばらになっていた。
 ディフィア村では見知った顔も多かったためか暖かい歓迎を受けながら各々が調査に向かっていたが、大半はルーノ・アレエと共に九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )が待つ遺跡の入り口を目指した。

「まかせてね? 何かわかったらすぐに教えるよ」

 五月葉 終夏(さつきば・おりが)がウィンクをしてルーノ・アレエの手をとった。その後ろで、おどおどした様子の黒髪の女性、ルクリア・フィレンツァ(るくりあ・ふぃれんつぁ)が恐る恐る顔を出してルーノ・アレエの姿をうかがった。

「五月葉 終夏、彼女は?」
「あ、彼女? 私のパートナーでルクリア・フィレンツァ。ちょっと人見知りするんだ」
「ちょっとどころではないんだがな」

 ふ、と鼻で笑いながらニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)がさりげなくルーノ・アレエと握手を交わす。それを終えると、ルーノ・アレエは自らルクリア・フィレンツァに手を差し出した。

「初めまして。ルーノ・アレエといいます。協力してくれてありがとう」
「あ、あ、あ、あ、あの、はじめまして……のーちゃんね」
「よろしくお願いします。ルクリア・フィレンツァ」
「よ、よろしくね、あーちゃん」

 動揺しているのか、安定しないあだ名で呼びつつ手を差し出してきた。それを気に留めずにルーノ・アレエは笑顔でその手をとった。微笑みあって何か理解しあったのか、離れるときには人見知りする剣の花嫁が自ら手を振って挨拶をしていた。

「か、かわいい人ね。えーちゃんて」
「仲良くなれたみたいでよかったよ」

 薄茶色の髪の毛をかきあげながら、五月葉 終夏は微笑んだ。すると、手土産に持ってきたお饅頭を下げて意気揚々と村の中へと駆け出していった。

「本当に、たくさんの方が助けに来てくださっていますね」
「はい……いつか、この恩を皆さんに返したい。こんなに素敵な人たちに出逢えて、私はとても幸せです」

 ルーノ・アレエは微笑みながら涙を流していた。毒島 大佐が膝の上に座ったまま彼女の手をさすって慰め、エメ・シェンノートがハンカチを差し出した。気がつくと、早川 呼雪も姿を消していた。代わりといわんばかりにユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)がエメ・シェンノートの脇に控えていた。

「あれ? 呼雪君は?」
「先ほど探しにいくと……ニーフェ様は……」
「わぁ! 初めまして!」

 辺りを見回していたユニコルノ・ディセッテに向かい、ニーフェ・アレエが駆け込んできてすっかり身についたハグでの挨拶を交わす。そしてルーノ・アレエの膝の上にいる毒島 大佐ともハグで挨拶を交わすと、慌しく駆け出してしまった。その先には、沢山アイスを持ったミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が立っていた。いつの間に仲良くなったのか、にこやかに会話をしてこちらへと駆け戻ってきた。

「姉さん! これここの葡萄のアイスなんですよ」
「ルーノはしってるだろ? 金葡萄杯のときに出てた商人の店が残したレシピ、あのお店が引き継いでて売ってたんだよ。味も全くいっしょだぜ」
「そうなんですか!」
「今日は天気もいいからジュースじゃなくってアイスにしてみたぜ」

 そういわれて差し出されたアイスは、おいしそうな紫色をしていた。一口口に入れると、冷たさで身体がプルプルしてしまったが、甘酸っぱい香りと味が口いっぱいに広がって口元が思わずほころんでしまう。

「おいしいですね!」
「お前も食べるか?」
「え、ああ、ありがとう」

 少し離れてみていたガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)にも勧めると、赤い唇にアイスが運ばれると、妖艶な美女の顔がとてもかわいらしい微笑みに変わる。ひと時の休息を終えると、身支度を整え始める。

「そろそろ行かないか?」

 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が声をかけると、ようやく荷物を纏めたらしいラグナ アイン(らぐな・あいん)の後ろで、黒い装甲姿の姉にはぁはぁしているメイド機晶姫ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)の姿があった。

「あ、姉上……やはり装甲姿も素敵です……」
「ツヴァイさん!」
「なんだ、ニーフェか」

 ニーフェ・アレエに声をかけられつん、とした様子で返す。その脇にいる大きな獣三匹に目をやると、キランと輝かせて姉であるラグナ アインに向き直る。

「姉上! ボクあのワンコにのりたいですっ」
「え、でもいいのかな?」

 アシャンテ・グルームエッジは無言で頷き、それを見るなりニーフェ・アレエはラグナ ツヴァイの手をとってゾディスの背中に乗ろうと促す。

「二人乗っても……支障はない」
「それなら、いっしょに乗せてもらいましょう!」
「は!? 姉上とならともかく何でお前なんかとっ!」
「ツヴァイが仲良くなってくれてるみたいでよかった〜」
「はい、いい友達になれているようです」

 と、和やかな雰囲気を姉二人でかもし出しているのを見て歯軋りしながら、おとなしくゾディスの背中に乗せてもらうと、その後ろにニーフェ・アレエが飛び乗った。
 少女型とはいえ機晶姫二人が乗っても平然としているのをみて、「ルーノも乗らないか?」と促される。

「乗ってもいいんですか?」

 問いかけているとボアもグレッグも返事を返すように小さく泣き声を返す。ルーノ・アレエはラグナ アインの手をとると、グレッグに乗る手伝いをして、自分自身はボアの背中に乗せてもらった。

「わぁ! 佑也さんっ! すごいですよ〜!」
「おとなしく乗ってろよ。転んだら危ないからな。……悪いな」
「いや、構わない」

 如月 佑也の言葉にアシャンテ・グルームエッジは短く答える。頭だけは少女形をしたいかつい小型ロボットの機晶姫ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)はそれを羨ましそうに眺めながら、ため息をついた。

「いいなぁ。ボクも動物ロボと合体したいなぁ」
「合体してるわけじゃない」

 ため息混じりにそう返したのはパートナーのエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)だった。白髪をかきあげながら、楽しげに獣の背中に乗せてもらっているニーフェ・アレエに視線を向けると、向こうも気がついたのか満面の笑みで手を振ってくる。







 その昔、金葡萄杯という武術大会が存在していました。

 シャンバラに住む腕に自信のある者たちが集う大会です。
 大会で優勝したものは、機晶石の輝きを秘めた果実を手にし、己の武勇を示したといいます。

 その果実は黄金の煌きを持ち、見る者を魅了しました。

 金の葡萄……ヒラニプラの南にある小さな村、ディフィアで、それは見つけられました。
 機晶石を発掘するのに都合がよい土地柄でたまたま作られていた葡萄に、機晶石の輝きが移ったのではないかといわれています。
 数十年に一度、その葡萄が見つけられるとその武術大会は行われ、その果実は優勝者の手に渡ったそうです。

 ただ、その果実がどのようなものであるかは、優勝者しか知らず……また、それを研究目的のためだけに得ようとした者はいなかったのです。




「ディフィア村って、金葡萄以外で特に特徴があるわけじゃないのか」

 茶髪をぽりぽりとかきながらメモに目を通しているアンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)はため息をついた。その横でいそいそとフルーツサンドウィッチの準備をし始めたのは彼のパートナー葛城 沙耶(かつらぎ・さや)だった。

「兄様、ひとまず休憩にしましょ。朝ごはん食べてないからあたしおなかすいちゃったし」
「でも長老の家に行ってから……むぐ」

 言いかけた口にサンドウィッチを押し込められ、仕方なく口の中で租借をしはじめる。

「もう、聞き込みを始めたらいつお昼になるかわからないでしょ? 兄様ったら夢中になるとすぐにそういうの忘れちゃうんだから」
「んぐんぐ……」
「あ、君たち村長の家にいくのかい?」

 五月葉 終夏が通りがけに声をかけると、アンドリュー・カーはようやく飲み込んで頷く。遠くからニコラ・フラメルが「おーい」と声をかけながらかけこんでくると、軽く挨拶を済ませる。

「彼もディフィア村の伝承について調べてるんだって」
「あちらのご老人の家には行ってきた。村長のところはこれからか?」
「うん。ルー、纏めのほうはどう?」
「ふ、ふふ、な、何とか……」

 フードを深々と被ったルクリア・フィレンツァは土盛りながらも嬉々として言葉を返す。メモ帳の中には沢山書き込みがされている。

「村長の家に行ったら、その後は昼飯がてら一旦集まろうといっていたぞ」
「りょーかい。じゃ、アンドリューさんも一緒に行こうよ」
「助かります。僕が持ってきた情報も役に立つといいんですが」
「あたしサンドウィッチいっぱい作ってきたから、皆さんで食べましょ!」

 黒いポニーテールを揺らしながら、吸血鬼の少女はその後を追っていった。村長の家といってもたいした大きさはなく、中に住んでいるのも老人と、その夫人だけだった。彼らは温かく迎えてくれると、お茶を振舞ってくれた。