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【十二の星の華】黒の月姫(第3回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第3回/全3回)

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 婆やが買って出る。携帯をかけるとしばらくして、繋がったらしく、婆やが何事かを告げている。
「どうぞ、静麻さん」
 婆やが携帯を静麻に渡した。
「…はじめまして。俺は、閃崎 静麻といいます」
「婆やから、詳細は聞いた。…赫夜と真珠、二人は無事なのか?」
「いまのところは…」
「そうか…さて、私に聞きたい事とはなにかね」
 さすがに武家の当主だけあり、携帯電話を通してもその威厳が伝わってくる。静麻はできるだけ、淡々と話をする。
「端的に話します。真珠の両親、真一さんとルクレツィアさんの事、そして事故のこと。赫夜を引き取った理由、なぜ真珠ではなく赫夜を当主に据えたのか」
「…」
「俺は、真珠と赫夜、二人の繋がりは6年前以前にある、そんな気がしてならないんです」
「解った。君に話すことで、恐らく真珠と赫夜が救われる可能性が出てくるだろう。全て、私の知っていることは話そう」
「ありがとうございます」
「真一とルクレツィアさんの事故は、確証はないが、仕組まれた可能性があったのだ。事故の当日、本来は真一だけが車に乗る予定だったのだが、ルクレツィアさんと真珠も同乗した。そして、事故のあった車のエンジンに細工されたような跡があった。…しかし、それもルクレツィアさんの兄、ケセアレ・ヴァレンティンノの手によってもみ消された」
「…仕組まれた事故? ケセアレ・ヴァレンティンノ?」
「ケセアレはルクレツィアさんと真珠を自分の手元に置きたがった。ハッキリ言って真一が邪魔だったのだ。特に妹、ルクレツィアさんに対する執着は兄妹の域を超えていた。だが、自らの手でルクレツィアさんをも殺してしまった…ケセアレは事故で生き残った真珠を引き取ろうと必死だったが、私がいち早く、真珠を引き取った」
「それは何故ですか?」
「ケセアレはその当時から黒い噂があった。ある組織との繋がりも私は察知していた。そんなところに、私の唯一の忘れ形見、真珠をとられるわけにはいかなかったのだ…だが、どれほど愛そうとしても、真一を奪う結果になったルクレツィアさんに似てくる真珠を見るのは辛かった…」
 真言の言葉の端々には、苦悩とともに、真珠を思う祖父としての愛情がにじみ出ていた。
「赫夜を迎えたのは?」
「真一とルクレツィアさんは、ある遺跡で封印されていた赫夜を見つけ出した。…そして、その封印を解いたのだ。その時の赫夜は常識も全く知らず、野獣のような娘だった。真一とルクレツィアさんは、私の旧友で、かつ、二人の後見人でもあった弓削 光政に赫夜を預けた。もともと、剣の筋も良く、高貴な生まれだったのだろう。みるみる剣が上達し、気品すら感じさせるようになって来た。…それに私は真珠を傷つけたく無かった。真珠でには剣は使えなかった。『人殺し』の道具だと、繊細な真珠は理解したのだろう、真剣を持つことさえ出来ず、震えていたのを私は覚えている。…しかし、当主が必要なのも事実。光政の家で赫夜を見たとき、私の心は躍った。赫夜こそ、藤野の家を継ぐに値する娘だと」
「…そうでしたか。ありがとうございます。最後に。封印された赫夜に最初に触れたのは誰なのですか?」
「…それは、解らぬ…」
「ぶしつけな俺の質問に答えて下さり、ありがとうございます」
「静麻殿。…赫夜と真珠を頼む」
 武骨な老人の声がかすかに震えているのを静麻は聞き逃さなかった。

 得た情報を静麻は如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)に伝えた。
「赫夜を助けられるのは、たぶん、あんただけだ。頼んだぜ」
「…ありがとう、静麻さん」
 何かを決意する如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)。その瞳には、強い意志が宿っていた。

☆   ☆   ☆   ☆   ☆    ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



 一方、ミルザムたちと赫夜の戦いは膠着状態に陥っていた。
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は防戦のみの構えで、赫夜に立ち向かっていた。『二刀の構え』『受け太刀』で、赫夜の星双頭剣の攻撃を受け、防戦する。『ガードライン』で、ミルザムを守り、『殺気看破』、『超感覚』を使い、赫夜の攻撃を察知した。
 そこで、赫夜はカッと目を見開く。
「…『紅の魔眼』! フェルブレイドか!」
 赫夜の瞳の秘密をウィングはあらかじめ、予想してはいた。しかし、それにはっと気がつくもすでに遅く、その瞬間、赫夜の星双頭剣の攻撃力が増し、ウィングを吹き飛ばしてしまう。
「くぅ…」
 しかし、ウィングが身に付けていた『闇の輝石』のおかげで、大きなダメージを食らうことはなかった。
「さすがウィング殿…私がフェルブレイドと見越していたのだな…」
 仮面の下から、赫夜の声が響く。
「…赫夜さん、キミは闇に落ちてしまったわけではないでしょう…? キミのためにも、私はここでミルザム様の命を守る!」
 ウィングはそう、宣言した。
 そこにエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が現れ、赫夜を足止めする。
「藤野さん。あなたにも事情があるんだろう。真珠さんの命をにぎられて、無理にこんなことをしているんじゃないのか? どうして俺たちを頼らないんだ」
 赫夜は無言を貫く。
「…そうか。だが、俺はあなたに戦いを挑む。いくぞ! 蟹座の十二星華と黒の暗殺者に死を告げるために…そして、我等が友、藤野姉妹を救うために!」
 エヴァルト手合わせした時と変わらず、誠心誠意、力を込めて、打ち砕くように斬ると、赫夜が一瞬、押された形になり、後ずさった。しかし、赫夜もエヴァルトの力量を知っているので、早々に『封印解凍』を行った星双頭剣の力は不気味さを増す。
 そして、エヴァルトの星剣を破壊した力を上回った。
「思ったより、強いんだな…藤野さん!」
「エヴァルト殿もな…エヴァルト殿。頼みがある…言えた立場ではないのも解っている…」
「な、なんなんだ?」
「もし、私に何かあったときは、真珠を頼む。『十二星華』でもなく、『アッサシーナ・ネラ』でもなく、『藤野赫夜』として…!」
 ガシッと剣を十字に交わすと、二人はそのまま飛び退り、横を駆け抜けようとする赫夜をエヴァルトは足止めするために斬りつけようとするが、『アルティマ・トゥーレ』で逆にエヴァルトはその場にて、動けない状況に陥ってしまった。
「…ばかやろう! 藤野さん! あなたが真珠さんを、そしてあなた自身を助けろ!」
 エヴァルトは悔し涙を浮かべ、叫んだ。