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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第2回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第2回/全3回)

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第三章 狙われた飛空艇 狙われたリフル

「ふーん、あれがティセラの言ってた飛空艇か。なかなかかっこいいじゃん」
 緑のポニーテールを風に靡かせ、蛇遣い座は堂々とその姿を現した。
「ま、ボクのマ・メール・ロアには負けるけどね。さて、それじゃあ遊んでこようっと」
 蛇遣い座は一直線に飛空艇へと向かう。その姿を、上空から双眼鏡で地上を覗いていた渋井 誠治が、発見した。
「あれは……! 出やがった!」
 誠治は、ヒルデガルトにパワーブレスをかけてもらうと、地上へと急いだ。
「やっぱり来ましたね!」
 地上では、彼女の襲撃に備えていた神代 明日香(かみしろ・あすか)が、蛇遣い座の存在にいち早く気がついた。明日香は、毒虫の群れに蛇遣い座を襲わせた。
「ふふん、ボクに毒は効かないよ」
 蛇遣い座は余裕の表情を浮かべる。しかし、明日香の狙いは他にあった。
「そんなこと分かってますよ〜」 
 明日香は毒虫の群れの影からファイアストームを放つ。だが、これも攻撃が目的ではない。周囲の温度を上げて、自分の居場所を特定されにくくするのが狙いだ。というのも、明日香は以前の戦闘経験から、蛇遣い座が熱を手掛かりに相手の位置を把握していると予想したのだ。
「この前のお返しですぅ!」
 明日香はディテクトエビルで蛇遣い座の居場所を探ると、忘却の槍の石突(※刃とは逆の先端部分)で疾風突きを放った。
「おっと」
 しかし、明日香の攻撃は、蛇遣い座の星剣に受け止められてしまう。
(熱に頼っているわけじゃない?)
「この前のお返し? ボク、キミに会ったことあったっけ」
 炎の嵐の向こうから、蛇遣い座はとぼけた顔をして現れた。
「私に膝蹴りを入れたこと、忘れたとは言わせませんよぉ!」
「覚えてないなあ」
 蛇遣い座は、「はて」と首をかしげる。明日香は、蛇遣い座から一定の距離を取るよう注意し、名乗りを上げた。
「では、今覚えてもらいましょう。私はミスティルティン騎士団所属、神代 明日香です! あなたの名は?」
「秘密〜」
「ふざけるな!」
 蛇遣い座の態度に声を荒げたのは、メイコ・雷動だ。メイコも蛇遣い座へのリベンジに燃えている。「人を馬鹿にして! その上、お前やティセラは卑怯な戦い方をしてばかりだ。アルディミアクは真っ向勝負を受けてくれたぞ。恥ずかしくないのか、蛇遣い女!」
「む」
 メイコの言葉に、蛇遣い座は顔をしかめた。
「その『蛇遣い女』ってのはやめてほしいなあ。ボクには、ちゃんとシャムシエルって名前があるんだから。あ、言っちゃった。まいっか」
 シャムシエルたちが話をしているうちに、周りにどんどん人が集まってくる。
 まともに戦っても勝ち目がないと判断したシルヴィオ・アンセルミは、情報の引き出しと時間稼ぎを兼ねてシャムシエルに話しかけた。
「やぁ、先日はアイシスやヴァンガードの仲間達が世話になったね。これも覚えてないかい? ところで、蛇使い座の十二星華が存在したという記録は今のところないようだ。君のその見事な胸は、エリュシオン製なのかな?」
 アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)は、この発言に唖然として一瞬二の句が継げなかった。
「シ、シルヴィオ……!? あなた一体何を言っているの?」
「おっと失礼。あまりにも素晴らしくてついね」
「重くて邪魔なだけだよ」
 シャムシエルは、自分の胸を上下に弾ませてみせる。シルヴィオは、率直に聞いた方がいいと判断した。
「君は、エリュシオンがティセラ達を解析して生まれた、全く新しい十二星華なんじゃないかい?」
「秘密〜」
 シャムシエルはこの質問にも答えない。
「貴女の星剣の名前は?」
 今度は月夜が尋ねた。すると、シャムシエルは星剣を愛しそうに撫でながらしゃべり始めた。
「これ? これは還襲斬星刀(かんしゅうざんせいとう)っていうんだ。かっこいいでしょ。ダガーくらいの大きさにもできるんだよ」
「見た目は大人ですが……中身はまるで子供のようですね」
 刀真は、シャムシエルの受け答えを見てそう漏らした。
「さてと、なんか時間食っちゃったな。そろそろ行かせてもらうよ」
 不意に、シャムシエルが言う。生徒たちは身構えた。そこに、誠治とヒルデガルトが合流した。
「みんな、逃がすな!」
 誠治は小型飛空艇から降り、銃型の光条兵器でシャムシエルに狙いを定める。シャムシエルは、怪しく瞳を光らせた。次の瞬間、ヒルデガルトがホーリーメイスで誠治に殴りかかる。
「うおっ!? ヒルデ姉さん何を!」
「ふふ、キミも剣の花嫁だね」
 今度は月夜の目を見るシャムシエル。途端、月夜がハンドガンを乱射し始めた。
「月夜、急にどうしたんですか!」
 刀真が慌てて跳び退る。
「一体お二人に何が……」
 アイシスは突然の事態に驚いていたが、冷静に頭をはたらかせようと試みる。シャムシエルは今何をしたか? 二人の目を見ていた気がする。そして、確かこう言っていた。『キミも剣の花嫁だね』と。
(目を見る……剣の花嫁……まさか!)
「シャムシエルは、ティセラと同じように剣の花嫁を操れるのでは!?」
「なんだって!」
「そういうことですか」
 アイシスの推理に、誠治と刀真は状況を飲み込んだ。
「へえ、よく分かったね。じゃ、バイバーイ」
 シュムシエルはあっさり自分の能力を認めると、その場を離れようとする。
「逃がすか!」
 メイコはバーストダッシュで彼女を追撃する態勢に入った。しかし、殺気看破を使用していた刀真は、遠ざかっていくシャムシエルとは別に、メイコに近づいてくる害意を感じた。メイコがそれに気がついている様子はない。
「月夜、すみません!」
 体術なら月夜に刀真が勝る。刀真はソニックブレードで月夜のハンドガンをはじき飛ばすと、メイコの体に飛びついた。
 直後、メイコの鼻先をブラインドナイブスによる一撃が掠める。
「ち」
 メイコを襲ったのは、仮面で正体を隠した男、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だった。
「ティセラ親衛隊の者だ。シャムシエル、あんたを護衛しに来た」
「護衛? 別にボク一人で十分なんだけどなあ。ま、ついてくるのは勝手だけど、邪魔はしないでよね」
 生徒たちは、ヒルデガルトと月夜の対処で手一杯だ。トライブは小型飛空艇にシャムシエルを乗せ、飛空艇へと向かって去っていく。
 誠治は仲間のサポートを受けてなんとか携帯を取り出すと、橘 カオルに素早く連絡を入れた。

「シャムシエル、あんた本当に何者だ? 少なくとも、パッフェルやセイニィからあんたの名前を聞いたことはない。一体何を目的に行動している」
 小型飛空艇の上で、トライブがシャムシエルに尋ねる。
「秘密〜。ミステリアスな方が魅力的でしょ? 謎の美女ってことにしといてよ」
「つかみ所のないやつだな……まあいい、今はあんたを護衛すると決めたんだ。信用するさ」
「信用しなくてもいいよー。あ、あそこの入り口に行って」
 シャムシエルが飛空艇の入り口を指さす。そのとき、ヘイリー・ウェイクの放った矢が彼女を襲った。シャムシエルはひらりと身をかわし、甲板に着地する。シャムシエルの目の前には、レン・オズワルドが立っていた。
「やはり来たか。これでも十二星華とは因縁があってな。おまえたちの手口なら大体想像がつく。リフルに遺跡調査を行わせたのはおまえだな。他人を利用するのはいい加減やめてもらおう」
「リフル? ああ、アレのことか。いやあ、今回の件はアレが勝手にやったことなんだけどね。だからここにボクがいるんだけど……キミには関係ないよ。そこどいて」
「そうはいかんな。この飛空艇に入るのは、俺を倒してからにしてもらおう」
 レンが銃を抜く。
「俺たち、よ!」
 その横に、ヘイリーが立った。
「めんどくさいなあ」
「シュムシエルの邪魔はさせない」
 シャムシエルとトライブも構える。最初に仕掛けたのは、ヘイリーだった。
 ヘイリーは、シャムシエル相手でも臆することなく前に出ると、爆炎波を乗せて矢を放った。シャムシエルは星剣を鞭上に変形させ、これをはたき落とす。続けざまに轟雷閃を乗せて矢を射ようとするヘイリーに、シャムシエルの戦いぶりを観察していたリネンが警告した。
「ヘイリー、返しの攻撃がくるわ!」
 リネンの言うとおり、シュムシエルの星剣がヘイリーに迫る。ヘイリーはこれを避けたが、シャムシエルにヘイリーを狙うつもりはなかった。
「よっと」
 彼女は星剣を縮めると、その反動を利用して飛空艇の入り口へと滑り込んだ。
「待て」
 レンが後を追おうとする。しかし、トライブがそれをさせなかった。
「おっと、あんたの相手はこの俺だぜ」
「おまえ、何者だ。なぜやつの味方をする」
「俺の正義は俺が決める。そのことで、あんたらと問答するつもりはない」
 甲板では、トライブがレンとヘイリーを入り口に近づけないよう立ち回る。その間に、シャムシエルは飛空艇の中を進んでいった。