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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第2回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第2回/全3回)

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  ☆ ☆ ☆

「あれ、あそこにいるのって、蛇遣い座じゃない?」
 飛空艇に向かうシャムシエルを見て、鏡 氷雨が意外そうな声で言った。
「あら、僥倖(ぎょうこう)ね。見て、みんな蛇遣い座の方に寄っていくわ。本当にお馬鹿さんたちなんだから。……ロザ、やりなさい」
「はーい」
 メニエスの指示を受けたロザリアスは、煙幕ファンデーションをリフルたちに投げつけ、走り出す。メニエス、氷雨、ルクスも後に続いた。
「うわ、なんだ!?」
 突然張られた煙幕に、中原 一徒は虚を突かれる。心の準備もできていないうちに、ロザリアスの先制攻撃が彼を襲った。
「邪魔だ邪魔だあ!」
「ぐっ」
 ロザリアスは間髪入れずに、隠れ身からのブラインドナイブスを見舞う。一徒はうめき声を上げて倒れ込んだ。
 そこに、殺気看破や禁猟区で危険を察知した道明寺 玲とレオポルディナ・フラウィウスが駆けつける。
「大丈夫ですか!」
 レオポルディナは、急いで一徒にヒールをかけた。素早い治療を受けた一徒が立ち上がる。
「……すまねえ。くそ、奇襲か。やるしかねえぜ!」
 玲は、一徒たちを守るため、ロザリアスの前に出てガードラインを使用した。
(羅針盤は恐らくキーアイテム。狙ってくる人がいてもおかしくないとは思っていましたが……こちらを襲ってくるということは、目標はあくまでもリフルさんということですかな? いや、今リフルさんが羅針盤を持っていないとは知らない可能性もありますな)
 玲は、羅針盤のありかを悟られないよう、飛空艇から視線を逸らす。
 早めに食事を済ませて飛空艇を見物しにいった刀真と月夜を除き、昼食を楽しんでいたメンバーは、シャムシエルがやってきていることをまだ知らない。
 玲はリフルさえ守りきれば問題ないと判断し、ロザリアスに相対した。
「そちらが危害を加えるつもりならば、実力行使もやむを得ませんな」
「ああ? くずがあたしらの邪魔しようってかあ?」
 ロザリアスと玲立ちは、激しく火花を散らし始めた。
「はぁい、ごきげんようリフル。お久しぶりね。元気だったかしら?」
 一方、メニエスはリフルたちの近くに姿を現した。
「また来てあげたわよ。それっ」
 メニエスは、挨拶代わりにブリザードを放つ。これをファイアストームでかき消したのは、リフルのピンチに駆けつけた七枷 陣だった。
「やっぱり現れやがったか、このゴミめ。おまえの悪事はよう聞いてるで。リフルちゃんの邪魔をすんなら……ぶち殺す」
「やあねえ、頭も口も悪いやつは。ついでにその顔も酷いことにしてあげる。三拍子揃って完璧ね」
 今度はサンダーブラストを放つメニエス。陣は、自分もサンダーブラストで応戦した。強烈な魔法のぶつかり合いは、周囲の生徒を巻きこんだ。たまらずリフルも後退る。
「リーズ!」
「うん!」
 陣の合図で、リーズ・ディライトがバーストダッシュを使い、メニエスの懐に潜り込む。そして、フェイント混じりにチェインスマイトを繰り出した。
「掛かったね!」
 一瞬メニエスの動きが止まったのを見て、リーズは乱撃ソニックブレードを繰り出そうとする。しかし、メニエスはフェイントにかかったわけではなかった。
「いい夢見なさい」
「うわあっ!?」
 メニエスは、チェインスマイトを杖で捌きながら、その身を蝕む妄執を繰り出していたのだ。恐ろしい幻覚に襲われ、リーズは手元が狂う。
「なかなかやるわね。久しぶりに楽しめそうだわ」
 長期戦に備え、メニエスはSPタブレットを口に含む。
「望むところだ!」
 陣は禁じられた言葉を唱え始めた。
 メニエスたちの狙いはあくまで取り巻き。混乱する戦場の中、直接リフルに接触したのは氷雨だ。
「この前の遺跡で、弱虫リフルちゃんは『自分の手で決着をつける』って言ったよね? なのに、どうして、こんなに人がいるのかな? どうして、一人で来なかったのかな? ボク、約束を守らない人なんて大嫌い。嘘つきの臆病者なんていらないよね」
 氷雨は、リフルに黒薔薇の銃を突きつける。
「言いがかりは止めてください」
 そう言ったのは源 紗那(みなもと・しゃな)だ。
「自分の手で決着をつけるということと、他人の助けを拒むことは、同義ではありません」
 だが、氷雨に紗那の話を聞く様子はない。
「それこそ屁理屈だよ。ルクス、やっちゃって」
「オッケー、マスター」
 ルクス・ナイフィードは笑顔を浮かべてさざれ石の短刀を光らせた。
「戦いは避けられないようですね……プリムラ、リフルさんを守りますよ。あの短刀で傷をつけられると石化することがあります。気をつけてください」
 紗那は庇護者のスキルを使い、リフルを守る体勢に入った。
「分かったよ」
 プリムラ・ヘリオトロープ(ぷりむら・へりおとろーぷ)は眼鏡とリボンを外し、通常時はトリプルテールの髪をストレートにする。こうすることによって、一種の自己暗示を行うのだ。意識の切り替わったプリムラは、口調ものんびりとしたものから冷たく感情を抑えたものへと変わる。
「さあ、楽しませてくれよ」
 ピアノ線をとりつけた短刀をルクスが投げつけ、戦闘が始まった。プリムラは、チャクラム型の光条兵器で短刀を弾き、これに応戦する。彼女は、中距離から近距離を維持するように立ち回った。
 紗那はリフルと即席でコンビネーションをとり、リフルが氷雨の攻撃を受けないようサポートする。リフルは、鎌による攻撃に美羽から教わった足技も組み合わせてみたが、実践で使いこなすのはまだまだ難しそうだった。
「私はまだ、英霊として復活したばかり。紗那たちのお手並みを拝見しようと思っていたのだが……どうやら、そうもいかないようであるな」
 パートナーが苦戦しているのを見て、源 義経(みなもとの・よしつね)が言った。容姿こそ牛若丸と呼ばれたころの幼いものだが、思考や言動は戦上手と評された義経のものだ。
 義経は木刀を取り出すと、パートナーに加勢した。
「あはははは! 壊れろ! リフル、おまえの世界なんか壊してやる!!」
 メニエスや氷雨が襲撃を開始すると、リース・アルフィンは突然狂ったように暴れだした。
「な、何事だ」
 リースの豹変ぶりに、白砂 司は面食らう。リースは完全に狂気に染まっていた。
 恋人である九条 風天とのすれ違い。それは表面上、先日の遺跡探索で解決したかのように見えた。だが、問題はそう単純ではなかったのだ。
 あの後リースは勝手なことをした罰を受け、自責の念に耐えきれなくなった彼女は、【義剣連盟】を脱退した。風天に叱られたのがよほどショックだったのか、そのときの彼女は既に正常な思考ができない状態だった。
『リフルが遺跡探索をするなどと言い出さなければ、こんなことにはならなかった』
 そういう結論に至ったリースは、氷雨に今回の襲撃を依頼したのだ。
「煉獄の火炎で燃え尽きろ! 紫電の雷で黒こげになれ!」
 禁じられた言葉で魔力を引き上げたリースは、メニエスと互いの隙を埋めるようにしてファイアストームやサンダーブラストを撃つ。
「く……これは、羅針盤の心配をしている場合ではないな」
 司はファイアプロテクトやエンデュアで魔法への耐性を上げ、リフルが攻撃に巻きこまれないよう、自らの体を盾にして守った。しかし、ナイトの彼がウィザードであるリースの魔法攻撃を凌ぐには限界がある。
「サクラコ、頼んだ」
「任せてくださいよ。サクラコ・カーディ、推して参ります!」
 攻撃の元を絶つべく、サクラコはリースとの距離をつめにかかる。しかし、彼女は急に自分の体が重くなるのを感じた。
「体が動かな……!」
「駄目駄目、リースにばっか気を取られてちゃ。ボクを放って置いたら、痛い目みるよ」
 サクラコの背後で、レイス・アズライトが憎たらしい笑みを浮かべた。
「リースは精神的にやばくなってるみたいだけど、僕としてもリフルみたいないい子ちゃんは嫌いなんだ。邪魔しないでね?」
 レイスは、奈落の鉄鎖で動きを止めたサクラコに、武器を振り下ろす。
「わー、怠けた罰ですか!」
「サクラコ!」
 サクラコと司が叫ぶ。
 サクラコは、昼食時になって油断してしまった自分を呪った。最初は高台から奇襲などがないか見張るつもりだったのに、警戒対象はいつの間にかリフルの成長期へと変わり、気がつけば鯛のお頭に夢中になっていた。
 だが、天はまだ彼女を見捨てていなかった。
「はあっ」
 風天が、花散里でレイスの攻撃を受け止めたのだ。彼は、目的が分からないシャムシエルを追うことより、卑劣な行為が行われているこちらに来ることを選んだのだ。
 風天は、そのままブライトシャムシールでレイスの武器を弾く。そして、息もつかせず、爆炎波の乗った疾風突きをリースに放った。予想外の攻撃に、リースは直撃を受けて崩れ落ちる。
「リース、相手が君でも容赦はしないぞ」
 彼女たちの行動は、風天の逆鱗に触れたようだ。

「シャノンさん、どうします? 蛇遣い座とリフルが別々のところで行動していますが。予想外ですね」
 シャムシエルが飛空艇内に侵入し、氷雨たちがリフルと戦っているという状況を見て、マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)が言った。
「なに、私たちの他にリフルを襲撃する者がいるなら、手間が省けるだけさ。おいしいところだけいただいておけ。私は予定通り蛇遣い座に接触する」
 シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)はそう答える。
「分かりました」
「しくじるなよ。私の顔に泥を塗ることになるのだからな」
「はい」
 こうして、マッシュはリフルの元へ、シャノンはシャムシエルの元へとそれぞれ向かった。