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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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第8章
信徒兵


 黒羊郷……
 周辺各地で、戦いが激化している。
 教導団との決戦も、近付きつつある……教導団の強さも侮れず、とくに水路では同盟国ブトレバと黒羊水軍を押して、教導団と湖賊の連合水軍が河を上ってきつつある……とも。しかし、たとえここが戦地になっても。民達は、武器を携え、教導団と戦う心積もりでいる。
 それに、黒羊郷はまだ、切り札の兵力を隠し持っている……


8-01 伐折羅の不覚

 前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)は、暴徒鎮圧の隊の募兵に応じ、出かけるようになった。
「ご武運を」
 そう言って、風次郎を見送った、パートナーの弓月 御法(ゆづき・みのり)。共に黒羊郷に滞在していた彼女は、そうして彼を待つ間、街を回ってみていた。何か、少しでも情報は得られないか。風次郎……彼のことも気になるが、暴徒が暴れているという周辺の村々も心配だ。そちらの方へ、足を向けてみようか。そう、思っていた折のことであった。
 黒羊郷の街の大通りの方から、ちょっとした騒ぎのようで声が聞こえてくる。
「何か騒ぎが……どうしたのでしょうか。一体何が?」
 弓月は、騒ぎの方へ駆けつけて見る。
「殺せ! 殺せ!」
 誰かが、馬に括り付けられ、市内を引き回されている。
「これは、一体何事でしょう?」
 見物に出てきている民の一人に聞いてみると、
「あぁ、どうやら大胆にもここ黒羊郷に潜伏していた敵……すなわち教導団のスパイだかを捕まえたって話さ」
「教導団……?!」
 弓月は、急いで、大勢集まってきている見物人の間に押し入り、通りに出てみる。すると……
「違う、拙者は教導団などではござらん!
 見よ、ただの一ドラゴニュート傭兵でござる! ええい、離せ、離せっ」
「!!」
 どうして。どうしてここに? 囚われたのは、仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)……弓月と同じく、風次郎のパートナーの、伐折羅である!
「殺せ! 殺せ!」
 教導団との戦いのために、武装している民々が、武器を振り回しながら、そう叫んでいる。
 伐折羅は、この教導団の敵どもを睨みつつ、風次郎殿すまぬ、拙者、生涯の不覚でござる……! と、渋い表情を作る。
「そ、そんな。伐折羅さん……
 こうしていては。早く、風次郎さんに知らせなければ。ああ、でも、どうすれば。伐折羅さん、どうか今しばしの辛抱を……」
 捕えられたときに、おそらく必死に抵抗を試みた筈だ、伐折羅は傷だらけであった。しかし、あの伐折羅を捕えるほどの敵とは、一体?
 この様子を、苦い表情で見守っていた者がもう一人。
 黒羊郷を訪れた、久多 隆光(くた・たかみつ)である。
 久多は、騎凛 セイカ(きりん・せいか)を救う手がかりを求めるべく、もともと彼女がその故郷として訪れたパートナー・黒羊 アンテロウム(くろひつじの・あんてろうむ)副官の消息を探りにここを訪れたのだった。
 何ていうことだ。しかし、ということは、教導の者達は、すでに黒羊郷に入っているのだろうか。ならば、その者達に、何か手がかりを聞けるかも知れない。(風次郎らは、まさにアンテロウムの死?を目撃した当の者達であった。(アンテロウムが死んでしまったのかどうかについては疑問の余地は残るが。))
 それにしても。伐折羅を括り付けた馬を引いていく黒羊兵の周囲に付き侍っている、黒い装束の者達。正規の兵とは違うのか? その目は、どこか虚ろであるようでいて、ぎらついている。尋常ではない。この者達は、一体? 信徒、黒羊教の信徒なのだろうか。
 どうすることもできない。それに、今はセイカの命がかかっている。久多は、その場を去ろうとする。しかし……。
「殺せ! 殺せ!」
「黒羊の民よ! この者は、我らが敵教導団のスパイである。此度、我らが黒羊郷を守る信徒兵が見事召し捕ったもの也!」
「おおお!」
「殺せ! 殺せ!」
「ふふ、この者、明日公開処刑に処す! 場所は黒羊湖。湖東のほとりだ」
 黒羊の兵はほくそ笑む。これで、この黒羊郷に潜伏する教導の者どもを、炙り出すことができよう。出てくるのだな、教導の犬ども!

 そして、信徒兵。
 伐折羅は苦い表情で思い出す。
 光術をものともせず、襲いかかってきた。伐折羅も歴戦の士。数人は切り伏せた筈……それでも、全く怯むことなく、だ。しかも無軌道にではない。最初に切り伏せた数人は最初から死ぬ覚悟で伐折羅の動きを封じに来たようで、それによって捕らわれるところとなってしまったのだ。



8-02 鎮圧

 その頃、風次郎は、黒羊側の募兵に応じ、付近の暴徒鎮圧に赴き、戦っていた。よもや、伐折羅が同じこの地で囚われとなっていようとは、思いもしない。
「暴徒。何ゆえ、斯様な行為を行う」
 刀を構え、間合いを詰める風次郎。暴徒に説いてみる。
 意味もなく暴力をふるうことは、恨みや憎しみを生むだけで、何の解決にもつながらない。と。
「不要な殺生は避けたいのでな」
「ちっ。うるせえ! こっちには(ご当地)十二セイカ様が付いてんだぁよ!
 何故、俺達鏖殺の兵が、こんな辺境で働かされねばならない。こんなお役目はもうご免だね!」
 鏖殺……黒羊(に送られた)兵とは。そういうことなのか。
「……。ならば」
 風次郎の容赦ない斬撃が敵を襲う。
「ひっ」
 たちまち、三人が倒された。
「暴徒をやめぬとあらば、手は抜かない。斬るまで」
 敵は、逃げ出した。
 刀を取ったまま、早足にそれを追う風次郎。
「ひーっ」
 敵は逃げ散っていく。
 そこに現れたのは……
「おかーさん」「……(No! No!)」
「子ども?」
 暴徒となった黒羊兵らと共にいた、グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)レイラ・リンジー(れいら・りんじー)であった。
 顔バレしないようにお面?をかぶっているので、風次郎にもわからない。レイラは、今回からは「……(No! No!)」をスケッチブックに書いて示している。コミュニケーション能力が進化したのだ。が、もちろんそんなことも、風次郎にはわかる由もなかった。
 何事にも手を抜けないグロリアは、暴徒になってそのまま真面目に暴徒行為を行って暴徒と一緒に戦ってきたのだった。グロリアの刃が、風次郎にも襲いかかる。
「くっ。何故、このような子どもが」幾らなんでも、子どもに刃を向けることはできない……。
「下がれ、下がらぬか。斬るぞ!」
「わーん」「……(No! No!)」
 本気で向かってくる、グロリアとレイラ。
「むぅ」
 かん、かっ。軽く刀で打ち合い、グロリアがぶんぶんと振り回す薙刀を弾く。
「う、危ない!」
 レイラのエペが刺さりそうになった。びゅん、っとそれをなぎ払う。
「えぇい、もう、容赦せぬぞ」
「おかーさん」「……(No! No!)」
 グロリアとレイラは、暴徒らと一緒に後退し、風次郎はとうとう、敵将のところまで達した。
 その後ろに隠れる、グロリアとレイラ。
「……暴徒の将。おまえが、ご当地十二セイカとかか」
「ご当地十二セイカ。蠍座のアンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)。いざ参る」
 グロリアは、気付き始めた。戦っているのは、教導団の侍、前田風次郎だと。何故、教導団の人が、黒羊側に?
 離反としたら、死刑の筈。って、私達のことなんだけど……。
 風次郎と打ち合う、アンジェリカ。すぐに、ホーリーメイスが飛ばされた。
「光条兵器。来るか」
「教導団相手だとしても、容赦はしませんよ」
「教導団相手だとしても? おまえらは……」
 風次郎のもとへ、弓月がやって来る。
「弓月。こんな戦地へ、どうしたというのだ?」
「風次郎さん……!」
「何。伐折羅が」
 風次郎はアンジェリカの光条兵器を交わし、峰打ちで相手を打った。
 暴徒鎮圧軍に、暴徒も、暴徒に担がれていたアンジェリカも、続々と捕捉されていく。
「わーん」「……(No! No!)」
「子どもが? おまえ達、暴徒に囚われていた者か? こいつら、どうします、隊長?」
「ひとまず、安全なところへ保護してやってくれ。俺は少し、用ができた。
 それから、残る暴徒達も、なるべく殺しはせず捕縛するよう……」
「その必要はない」
 黒羊司祭の男が、兵を率いて来た。
「ご苦労だな。暴徒鎮圧隊の隊長、それに傭兵ども。今日限り、おまえらの役目は終わりだ。
 あとは我々が片付ける。行け、信徒兵!」
 無表情の兵達が、一気に敵に襲いかかり、容赦無く殺していく。
「何という戦闘集団……」
「おかーさん」「……(No! No!)」「危なかったですね……」