リアクション
* 今回、黒豹小隊は黒豹小隊のみで、軍議にても触れた通り二隻の船に乗り込む。 「迷信ではなく、この゛おまじない゛はオルレアンの聖女より聞いたものでしてね……」アルチュールが、共にロイの船に乗るにゃんこらに何やら言って聞かせている。「矢玉が体を避けてくれるというあり難いものなのですよ!」 ゛おまじない゛それはつまり、ディフェンスシフトのことだった。 ジャンヌの船には、ニャイールが乗り込む。ロイのパートナー、アデライード・ド・サックス(あでらいーど・どさっくす)はロイの船に乗り込むが、ジャンヌのパートナーのビーワンビスは本当にお留守番となった。全備重量3.2トンの戦車っ娘なのだから、船に乗るというわけにもいかない。 「しくしく……(あ、そうだわ。しかし、対岸から砲撃するという手が……!)」 ビーワンビスは、こっそりと、がらがら移動し始めた。 「よし。準備は万端だ」 ジャンヌは、この日までに船を整備してきた。 船A(ジャンヌ、ニャイール)は、矢盾を両舷にジグザグで張り、装甲としている。こちらだけで二門の迫撃砲(*ぶどう弾(対人榴弾))を用意。さながら、ガレー船といった趣に仕立ててある。こちらにはスモーク等が積んである。 船B(ロイ、アルチュール、アデライード)は、船Aが追い立てた敵を各個撃破する船であり、火力が搭載されているのである。 さすがに水戦に手練れた準備の仕方であることが窺える。彼女らを推挙した比島少尉の目にも狂いはなかった。 この二隻は今回は遊撃的な位置に就くことになろうか。 「ローザマリア殿等、本隊の戦い振りも見せてもらうとしようか」 * 夜襲の本隊には、ローザマリアが乗っている。 これは、湖賊から借り受けた正規の船で、やはり乗り手にも湖賊の手馴れた漕手が集められた。 それにシェルダメルダら湖賊と、舟艇白兵隊として沼舟を用いた切り込みを任務とする奇襲船が、本隊に隠れて移動し、夜陰に紛れて待機することとなる。こちらには、刀真、玉藻、セオボルト達が乗り組んでいることになる。 そして、最も小回りで船足の早いみずねこ船だ。 みずねこ船の活躍の出番は、早速訪れることとなる…… 夜襲の開始だ。 7-06 しびれっこ作戦 斥候の船によると、ブトレバの船団の本隊に行き当たる前に、敵側の見張りというべく小船団がいるようであるとのこと。 「……何ですって」 ローザマリアの用意した策は、敵船団に致命傷を与えようという大掛かりな策だ。 「……」 敵旗艦に知らさせる前に、殲滅できるだろうか……敵数は少ないが。 「俺が乗り込んで、皆殺しにしてきましょうか?」 暗がりの河面。隣の船から、刀真のそう言う声。 「三隻……んー」 派手な戦いもまずい。 「どうした?」 みずねこ船が近付いてくる。ミューレリアの声だ。 ミューレリアは、件のしびれ粉の策を持ちかけた。 しかし、風向きが悪い。 「カカオの魔法の箒に二人乗りする。風上に回るぜ。魔法の箒は、夜のステルス仕様で黒色塗り、飛行の邪魔にならないなら、ブラックコートも巻きつけて、隠密性をアップしよう。これなら、完璧だろ? 麻痺ってるトコに、攻撃を仕掛けてもらえるかな?」 「わかった。頼める? 本隊は待機しましょう。一緒に麻痺っちゃったらお終いだわ。 小さめの舟に、河の横に付けておいてもらって、しびれ粉が効いたら一気にやってもらうとするわ。……これでいいかしら」 「白兵する奴は、要マスク! 準備はしてあるぜ」 こうして敵の見張りである小船団の排除がまず行われた。 白兵も、そのままミューレリアと共にあるみずねこが行うことになった。 沼舟の一隻と、ロイのB船も、戦力の予備に、付近で待機することになった。 時間が経過する。 そろそろ、ミューレリアのしびれ粉の大量散布が行われている頃だろうか。 後方では、ローザマリアが少々気持ちを焦らされつつ待っている。 「余裕を持ってきたけれど……タイミングが大事だわ。夜が明けてしまっては何にもならない」 付近。 「風向きは……変わってないな」ロイが、前方の河を見つめている。「しびれ粉は、ここまで飛んでは来ないだろうなぁ?」 むっ。ロイはよく目を凝らした。 光。ミューレリアの合図だ。 ぎりぎりに見えている敵船影は、どれも動いていない。しびれ粉は効いているのか。 小さな船が幾つか、近付いていくようである。みずねこ達だ。 ロイは、にゃんこ達にマスクをさせ、手を挙げた。 「俺達も、行くか。後方の本隊にも、合図だ」 ロイの船が接近しても、敵の船はもう動くことはなかった。 みずねこ達はもう船の外へ出てきているところだ。 「もう、終わったのかよ?」 「みずねこ仕事早いよにゃ」 「敵船員は……全部殺したのか?」 「縛りあげたにゃ」 「……。ミューレリア殿の姿が見えんな。もしかして、散布したまではいいが、自らも被って水中に落下してるってことはないだろうな?」 船の灯りは少なく、辺りは暗がりである。ときどき、にゃーというみずねこの息洩れのような声が聞こえるくらいだ。 「……どうなのだ? ミューレリア殿は」 「ここにいるぜ」 「おぉ、ミューレリア殿。お手柄だな」ロイはほっと溜め息を付いた。 船の縁に、少女の影姿が見えている。 「しかしミューレリア殿。貴官、影だけ見てると、猫と見紛うな。仔猫ちゃんってところかな?」 「ああ。超感覚で、猫耳がマイブーム、なんだぜ」 「……ふむ」 最初の想定外の障害は、こうして静かな作戦のもとに無事排除された。 本隊が追いついてくる。 |
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