リアクション
第7章 水軍(そして黒羊郷へ) 黒羊郷同盟列強国の一つであり、歴戦の水軍を持つといわれてきたブトレバ。 三日月湖の東を流れる東河。ブトレバ水軍は黒羊水軍と共に、ここより攻めてきたのである。 教導団は、三日月湖地方の小勢力である湖賊と協力し、連合水軍を組織し、これにあたり、前回見事な勝利を収めたのであった。(「ヒラニプラ南部戦記・序」第4章(第四師団包囲網(2))参照。) 緒戦の勝利以降、教導団=湖賊による連合水軍の勢いは、ますます盛んであった。 まず、前回、比島少尉の進言によりこちらへの協力要請の出ていた者達の参戦が決定し、水軍は更にその戦力を大幅に増すことになった。(この比島の要請の出し方は全く的確なものであったと付け加えておかねばならない。) しかし、黒羊軍は水上砦の守りを固め、一艘の小船も通さないほどにしつつある。それはまるで巨大なダムのようなものである……そういった情報も聞かれるようになった。そうなる前に、黒羊水軍に代わって立ちはだかるブトレバ水軍を打ち破り、水上砦を突き破り……そのまま一気に黒羊郷まで攻め上がれ! 各将校からは力強い声が上がっていた。 今、教導団第四師団において最も士気の高い軍、それがこの新生水軍である、と言われつつもあった。さて、彼らは…… 7-01 黒豹小隊とみずねこ小隊 前回、教導団・比島の進言により、協力要請の出された、黒乃 音子(くろの・ねこ)率いる【黒豹小隊】と、【教導団の勝利の女神】として活躍してきた百合園のミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)。ミューレリアは、みずねこと共にバンダロハムで戦った経緯がある。 緒戦の後に、彼女らは早速、要請に応える形で参戦してくれたのだった。水軍の士気は、更に上がる。 一点、水軍に力を貸すべく黒豹小隊を率いてきたのは、隊長の黒乃ではなく、ジャンヌ・ド・ヴァロア(じゃんぬ・どばろあ)である。黒乃は、盟友である龍雷連隊の甲賀からも援軍の要請があり、分隊を率いそちらに急行したのだという。 ジャンヌの脇は、黒乃のパートナー、アルチュール・ド・リッシュモン(あるちゅーる・どりっしゅもん)、ニャイール・ド・ヴィニョル(にゃいーる・どびぃにょる)が固めており、ジャンヌは見事黒乃に扮している(もともと背格好・雰囲気共に似ている)。 「音子に代わって、黒豹小隊の先陣に立ちこの度差配致すジャンヌ・ド・ヴァロワであります。 二隻ほどお与え頂ければ、充分でありますな。そう大きい船でなくとも構いません」 戦闘指揮は、同じく黒豹小隊から来ているロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)が担当する。 そして……黒豹小隊の兵。にゃんこ達(ニャオリ兵)。 「任せろニャ」「オリ達だけで十分ニャ」 「へえ。随分、自信のおありのようね、にゃんこちゃん?」 黒豹小隊の面々と挨拶していた、第四師団で水軍を預かるローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)。 「ちょ、ちょっとにゃんこ。失礼だよ?」 ジャンヌもにゃんこをなでてなだめる。 「何ニャ。おまえ。オリ達はにゃんこじゃないよ、ニャオリ族の戦士たるぞ。侮辱するやつは、許さないよ?」 にゃんこはローザマリアにねこじゃらしの槍を突きつけた。 「勇ましいことね。よろしくね」 「よろしく頼むニャ」「褒美(餌)ははずんでニャ」 「それから、こっちのにゃんこも……」 黒豹小隊の隣に整列するのは、みずねこ小隊だ。 「ああ、こっちもよろしくだぜ」 みずねこ小隊を率いているのは、ミューレリア。 「私は水軍の指揮なんてやったことないけれど……その点は」 「みずねこに任せろニャ」 「ってことだな。ま、水上はみずねこの方が慣れてるだろ。 こっちの舟(みずねこ船)は、この中からリーダーを一人出させて、指揮を執らせるぜ」 みずねことも握手して回るローザマリア。 「あんたは……みずねこ?」 「カカオにゃ。カカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)だにゃあ。ローザマリア殿、よろしくにゃ」 「ああ、その、私のパートナーだぜ」 黒い仔猫ほどのにゃんこだ。 「そう言えばあっちにも……」 「ニャー! ミーか?」 黒乃のパートナーも猫……「ミーは猫ちゃう。ライオンやで」 ニャイールだ。 「よろしくにゃ。あと、みずねこはかなり船の操縦が上手いそうだから、黒豹小隊とか、水に慣れていない他の船に何匹か貸し出しをしてあげるにゃ」 「よろしくニャ」「よろしくニャー」 みずねことみけねこ(ジャンヌ隊の猫)が混ざり出す。 「あはは……何だか、ねこばかり増えてきたわね。もう、どれがどの猫だか……」 * 猫に居場所を追い出された湖賊の男達が、湖賊砦の酒場で飲んでいる。 教導団から派遣されてきた者らにとっても、憩いの場となっている。 全何回の長丁場を戦い抜くのだ。こういう場所があるのもいい。 さて今日の酒場のバーテンは……館山 文治(たてやま・ぶんじ)だ。 本当に、酒場には色んな変わった人がやって来る。 カウンターに座っているのは……瀬尾 水月(せのお・みずき)だ。 「水月って言葉の意味知ってるか?」 「ん?」 「人柄の爽やかな人って意味もあるが、幻のようなものって意味もあるんだ」 「ああ、……」 「ただの戯言さ。あまり気にするな」 隣では、ヴラド・ツェペシュ(ぶらど・つぇぺしゅ)が夏野に串焼きを注文している。 そして奥の席では、今日も静かに芋ケンピを味わっている、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)。先ほどまでは、刀真の姿も見えたのだが、今はない。その様子は、少しだけ荒んで見えたと言うのか……少し、今までと違う様子であったのだが。 「んむ……この芋ケンピもいい。三日月湖にも、このように芋ケンピの文化があったとは。 一つ一つの芋ケンピにこれほどの違いがある。芋ケンピ、この奥の深さ。 あ、ローザ」 ローザマリアが来た。 各隊の指揮官を引き連れ、書類等にも目を通しながら砦を案内して回っており、忙しそうだ。 「ローザ……」 「ちょ、ちょっとあれは何?」 何か大きなものが、砦の窓からこちらを覗いている。砦に入りきらない戦車(型機晶姫)のルノー ビーワンビス(るのー・びーわんびす)だ。酒場で楽しそうにやっている皆の方をじーっと見つめている。 ローザマリアに指を差され、皆に注目されて赤くなってる。(赤くなったぞ……爆発するんじゃないだろうな?) 「きゃー、皆、見つめないで。恥ずかしい」 「ビーワンビスは、船に乗せることはできないから……お留守番でありますよ?」 「そ、そんなぁ。う、うっ」 |
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