|
|
リアクション
6-06 奪回
東河船着点奪回に向かうレーゼマン、ラハエルらは、後方に布陣するロザリンドら救護班と合流し、治療を終えた彼女らを連れ、目的地に向かった。敵を排除し、陣を設営すれば、彼女らはそこで任務にあたれることになるし、兵の休息も、それに退路が確保できることで安息も得られるだろう。
教導団の部隊が兵を下ろした東河の船着点は現在、敵将ブラッディマッドモカ(ぶらっでぃまっどもか)がカラス兵100を率いて駐屯。ここへ、レーゼマンを指揮官とする制圧部隊200(レーゼセイバーズ100、梅琳歩兵100)が殺到した。これに救護班&輜重隊の100が加わっているが、そちらは実戦力とは考えず後方支援に徹させようとレーゼマンは判断し指示を送った。
すぐに、敵味方入り乱れての混戦状態となった。だが、数においても、兵の練度においても、こちらのが勝っている。勝利は難しくはないだろう。
「えぇぃ! 敵兵を後ろに回らせるな、歩兵は輜重隊を守れよ。
レーゼセイバーズ、てぃぃっ!!」
レーゼセイバーズが、カラス兵どもを次々と斬り下げていく。
「むう、敵を上空へ逃がすな。弓隊、てぇぇぃ!!」
空が矢の雨に覆われる。ぼとぼとと落下し果てるカラス兵。
「はぁ、はぁ、……く!」
物心ついた頃には特殊部隊に入れられ、ボロ雑巾の如く扱われていたというラハエル。すでに訓練は積んでいるが、まだ慣れない実戦を必死で戦う。
「ラハエル。大丈夫か、無理をせず、輜重隊の守備に回るのだ!」
「ああ、レーゼマンさん。このくらい!」
「ラハエル、上だ!」
「!」
真上から飛来するカラスを、アサルトカービンで撃ち抜く。
パートナーのレトゥナ・カリカーチャ(れとぅな・かりかーちゃ)も、彼を助け周囲のカラス兵をひたすらに、斬りまくっている。
「レトゥナ! 後方へ」
「ラハエル、わかったよ! 光条兵器は?」
「この程度。オレはまだ、これで……」カービンで、すがってくるカラスを打ち払う。「十分だぜ!」
地面がカラス兵の死骸に黒く染まりつつある。
「よし、勝利は目前だ」
レーゼマンは、周囲を見渡す。
「貴様……! おいその眼鏡。名のある将と見たぞ。貴様、道ずれにしてやる。
鴉賊の将ブラッディマッドモカ!」
「ふん……」レーゼマンは眼鏡の位置を正し、銃に手をかける。「悪あがきはよしたまえ。もう勝敗は決したのだよ。鋼鉄の獅子の将レーゼマン・グリーンフィールである」
「トァ!」
鴉将の繰り出す槍。かなりのスピードだ。交わしつつ、後退していくレーゼマン。
「むぅ。やるな……しかし」
「レーゼ殿!」「レーゼ殿!」
レーゼセイバーズの投げ付ける剣が回転し鴉の背に幾つも突き立った。
「ググ、……鋼鉄の獅子め……いずれのその骸を我々鴉が啄ばんでくれよう」
レーゼマンの機関銃が敵将の体をぶち抜いた。
「鴉の出番はもう、終わりなのだよ」
「……」
敵将は倒れた。あちこちで黒い羽が舞い散っている。しかしもう動く敵はいない。
「ふぅ……ここは、我々鋼鉄の獅子が押さえた」
「レーゼマンさん!」
ラハエルが駆け付ける。ロザリンドも一緒だ。
「ラハエル。輜重隊は?」
「もちろん、守ってみせましたよ」ラハエルは笑顔で言った。今までは後方の守備に徹してきたが、今日は何匹も襲い来る敵を斬り殺した。その勝利に少し酔ってもいたかも知れない。まだ少し、胸がどきどきとしていた。「損害は、有りません」
レーゼマンが、ラハエルの肩を、ぽんと叩いた。「よくやった。……私もだがな」見事な勝利だ。
だが、まだラハエルの本当の任務は、これからである。
「ロザリンドさん……?」
ロザリンドは、動かない黒に敷き詰められた地を見つめながら、河の方に歩いていた。
「ああ、ここもまた、ひどい戦場ですね……」
「ロザリンド殿。まだ、そちらへ行ってはいかんぞ。河に近付いては危ない。
ナマズ兵はカラスどもの援軍に出てこなかった。おそらく、東河を死守している筈だ。潜ってひそんでおるやも知れぬ」
「はっ。……あ、は、はい。すみません……」
最後尾を守っていた金住も、やって来た。
「レーゼ少尉」
「おぉ、金住少尉。ご無事か」
「ええ。あ、今は……懲罰人事なので、一兵卒であります」
「そうか。ともかく、これより仮陣営の設営をこのラハエルにやらせる。
金住殿、ナマズへの対策も練らねばならぬし、少し相談致そう。ラハエル・テイラー、まず幕舎の設営を頼む」
「はい」
「レーゼ少尉。自分は兵士として、敵の侵攻に備えようと思います。自分に些かの案があります。
それが済めば、すぐに河の方の警戒にあたるつもりであります」
「そ、そうだな。私も休んでおられんな、うん」
その間にも、ラハエルは早速、設営に取りかかっていた。
特殊部隊での経験を生かし、スムーズな設営ができるよう、指示を出していく。
「よぅし、ラハエル。私レーゼマン・グリーンフィールも手伝うぞ。これは、どこへ運ぶ? こっちであろうか」
「あっ。レーゼマンさん。それは違います。あちらです」
「そっ、そうだな……。
む。ロザリンド殿……」
カラス兵の遺骸の片付けも行われている。陣の設営もある、速やかに打ち捨ててしまわねば。ここは敵地なのだ。埋葬などはできない。
ロザリンドはその真ん中で、祈るように立ち尽くしていた。
「(ロザリンド殿。大丈夫であろうか? 少々、休息してもらっていた方がいいのかも知れぬが……。)
ロザリンド殿? ともかく、そのようなとこに立っていては……」
「あ、す、すみません。私、皆さんの邪魔に……手伝います。
あ、レーゼセイバーズさん、その方、まだ息があるのでは」
「エ。このカラスでありますか? もう助かりませんよ」「さあ、運べ」「運べー」
「あ、ええ……そうですね」
そのとき、ロザリンドの足首を、何かが触った。
「オイ、貴様……」
消えそうな小声のくぐもった声。
「! (い、生きていらっしゃいます……?)」
ロザリンドも、つい小声で返した。
「……。(俺を助けろ……)」