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【十二の星の華】秘湯迷宮へようこそ

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【十二の星の華】秘湯迷宮へようこそ

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【ルート7】

 3つ目の分かれ道を左手に曲がるとすぐに扉が現れた。
 中へと入っていくと、それなりの広さがある部屋だ。
 全員が入ったと思った瞬間、扉は勝手に閉められ、前へと進むしか道がなくなってしまった。
 さらに悪いことに、天井から大量のスライムが降ってきたのだ。
 慌てて、部屋から出るが時すでに遅し。
 スライムが付いてしまった者の服は融け始めてきた。
「ホイムゥ大丈夫?」
 ホイップを担いでバーストダッシュで誰よりも早く部屋から出た小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、ホイップを降ろしながら聞いた。
「うん、大丈夫だよ。それにしてもいきなり担がれたからびっくりしちゃった」
「あはは、ごめんね……って、ホイムゥ服! 服!」
「えっ!?」
 担いでいた美羽にスライムは全く付かなかったようだが、ホイップにはしっかりと付着していた。
 その為、折角の半纏が融けだしていた。
 このままでは下の浴衣も融けてしまうだろう。
「予備の浴衣持っていますよ」
「我も着替えなら持ってきていますわ」
 そう申し出てきたのはベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と珠樹だ。
「ありがとう」
 ちょっと泣きそうになりながら、ホイップは浴衣をベアトリーチェより受け取った。
 浴衣を美羽とベアトリーチェと珠樹に守られながら着替えた。
 浴衣を着替え終ると、珠樹が持ってきていた半纏を羽織る。
 ホイップ以外にも服を融かされてしまった人が何人かいる為、いたるところで着替えとなっていた。
「ホイップ、少し聞いてみたいことがあるのですわ」
「うん、何?」
 珠樹が神妙な顔つきでホイップに問いかけた。
「女王器は女王候補の身体を器にしてアムリアナ女王の魂を呼び戻す仕組みであったりしませんわよね?」
「うん、勿論だよ。女王器は凄く強大な魔力を秘めたアイテムなだけだよ」
「そうですか……安心しましたわ。もし器になる者がスペアボディ扱いになんてなったら悲しいですから。杞憂に終わってなによりですわ!」
 珠樹は自分が気にしていた事が解決したことで少し、晴れやかな表情になっている。
「はぁ〜……難しい事考えてたんだねぇ……タマキチは」
「た、タマキチ?」
 美羽のあだ名に面食らった顔になっている珠樹。
「すみません! 美羽さんが勝手にあだ名を――」
「いえ、ビックリはしましたが、嬉しいですわ」
 ベアトリーチェが謝ろうとしたのを遮って、珠樹は嬉しそうにしている。
 あだ名で呼ばれた事で、あまり話したことのない相手だったが仲良くなったようで嬉しく感じたのかもしれない。
 他の人の着替えも無事に済んだようで、先を急いだ。


 通路を右に曲がるとまたも扉が現れた。
 その扉の前には人1人が乗れるくらいの小さな箱があり、壁には【この箱に乗れ。さすれば道は開かれん(女性限定)】と書かれている。
「じゃあ、私が……」
「何が起こるかわかりませんわ。ここは私が――」
「いえ、ここは私が行きます」
 ホイップが申し出たのをルディ・バークレオが止め、そのルディ・バークレオをルディ・スティーヴが止めた形となった。
「何があるかわからないからこそ――」
 ホイップが乗ろうとしたのだが、それよりも早くルディ・スティーヴが箱の上に乗ってしまった。
『67キロ〜、67キロ〜! あと3人』
 迷宮中にルディ・スティーヴの体重が響き渡った。
 別に隠してはいないのだが、良い気はしない。
 しかも、まだ扉は開かない。
「あと3人ってもしかして……」
「もしかしますわね」
 ホイップとルディ・バークレオは顔を見合わせた。
「いけにえの女性があと3人必要ってことよね」
 オブジェラがずばりと言った。
 そのままオブジェラは箱へと乗った。
『53キロ〜、53キロ〜! あと2人』
 オブジェラの体重がよく聞こえた。
「じゃあ、次は私が」
 そう言って、乗ったのは月夜だ。
『50キロ〜、50キロ〜! あと1人』
「仕方ない、オレがいこう」
 コウが箱の上に乗る。
『49キロ〜、49キロ〜! あと10人』
「はぁっ!?」
 いきなり人数が増えたのを聞いて、女性陣から殺気のこもった声が出た。
 ルディ・スティーヴは無言でその箱を氷術で氷漬けにしてしまった。
 すると扉はなんと開いたのだった。
 みんなはがくりと肩を落とした。
「ねぇ、ホイップ。みんな、女王、女王って騒いでいるけれど女王ってそんなにいないと困るものなの? 大事なの?」
 扉をくぐる前にホイップは腕を茅野 菫(ちの・すみれ)に掴まれた。
「えっと……シャンバラ王国は神の力を持つ女王が統治して、初めて平和な国になるって言われてるから……」
「だいたい、王国が滅んで何千年も経っているのに誰も困ってなんかいないようだし。それにあたしが今まで見てきた限りは女王復活とか言ってさ、権力争いの材料にしてるだけじゃん。ホイップも今回、女王器である玄武甲を手に入れたら女王になりたいの? ティセラの事はおいといてさ」
「ううん、なりたくはないよ!」
「ふ〜ん……そっか。あたしはさ、前と同じ国作るよりさ、鏖殺寺院の連中もいっしょに暮らせる自由な国の方がいいと思ってるよ」
 菫はそう告げるとホイップの背中を叩いた。
「せっかく話すことが出来たんだし、これからも宜しくね! エルお兄ちゃんのことも……ね」
 菫はウィンクを1つするとホイップよりも先に駆けて行った。
「エルさんのことは大事なんですよね?」
 後ろからそう声を掛けたのはルディ・バークレオだ。
「うん」
「私はどんなことがあってもホイップさんの味方ですわ。これから先も一緒に居て下さいね」
 そう言うと、ホイップをぎゅっと抱きしめた。
「うん、ありがとう」
「勿論、エルさんもですわよ」
 ルディ・バークレオは近くにいたエルも一緒に引き寄せ、2人とも抱きしめている形になった。
(ボクは……本当にホイップちゃんを不幸にしないと言いきれるんだろうか……)
 エルは自分のすぐ近くにいるホイップの事を思い、少し思いつめた顔をした。
 その胸中にはルカルカがしたホイップへの質問がぐるぐると渦巻いていた。
 その後ろではラグナ・アールグレイが周囲を警戒していた。


 扉を抜けると三叉路に出た。
 そのうち、右は普通に通路が続き、左と真ん中は扉になっている。


 まずは右へと進んで行った。
 普通に歩いて行ったのだが、先を歩いていた菅野 葉月(すがの・はづき)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が突如消えた。
 と、思いきや、またも落とし穴だった。
「これでは動くことができませんね」
「そうだねぇ〜」
 葉月は真剣だが、ミーナは楽しそうに葉月にべったりくっついている。
 穴の中には大量のとりもちが敷いてあり、葉月が足を外そうとするが、無駄な労力を使ってしまっただけに終わってしまった。
 他の人が上から引っ張り上げようとするが、なかなかに強力で外れる気配がない。
(ワタシは葉月にくっついていられるから、このままでも良いんだけどね)
「何か言いました?」
「ううん、何も言ってないよ?」
 ミーナは心で思っていたことが小声だが出てしまっていたようだ。
「僕達は大丈夫ですから、先に進んで下さい」
「でも――」
「大丈夫ですから」
 葉月はホイップを促す。
「迷宮の外に出て、鄙さんにこれの脱出方法を聞いてから助けてくれると助かります」
「うん、わかった……すぐに戻って来るからね!」
 ホイップ達は、この落とし穴の先が行き止まりなのを確認すると、来た道を戻って行った。
 その道中、ホイップは今度は橘 恭司(たちばな・きょうじ)に話しかけられた。
「聞いても良いか?」
「う、うん」
 さっきもそんな感じで呼びとめられたのでホイップはちょっとびっくりしていた。
「ホイップやティセラは5000年前、どんな仕事をしていたんだ?」
「私やティセラは女王様の護衛だよ。私は自然災害が起きた時、被害が大きくなりそうなら封印しに向かってたりしてたけど」
 恭司はホイップの話しを興味深そうに聞いていた。
「それにしても、ホイップは金ぴか君に凄く大事にされているんだな」
「へっ?」
「こうしてホイップと話しているときは、気を使って少し離れているけど、ちゃんとホイップの事を見ているしね」
 恭司の言葉にホイップは顔を赤くしていた。