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【十二の星の華】秘湯迷宮へようこそ

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【十二の星の華】秘湯迷宮へようこそ

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 朝食が終わり、皆、一度自分の部屋へと戻って行った。
 テーブルの上にあった食べ物は全て綺麗になくなり、お皿だけが残っている。
 この大きな部屋に残ったのは鄙とルカルカ、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だ。
「聞きたかったのだが、長寿の貴方なら、石化の防止や解除の方法ご存知では?

 ダリルが鄙へと質問をする。
「確かに……我は石化の解除方法を知っている」
「では――」
「だが、材料が今現在揃わないのと、迷宮の中のトラップにはそのような感じのものを仕掛けた覚えはない」
「そう……か」
 鄙の答えを聞き、ダリルは大人しく引き下がった。
「では、何か予備の服などはないか?」
 ダリルの言葉に鄙は一度、部屋を出て行くとすぐに戻ってきた。
 その手にはこの旅館の浴衣がいくつかあった。
「これでどうだ?」
「ありがとうございます」
 ダリルは鄙の手から浴衣を受け取った。
 そこに、浴衣のまま部屋へと入ってきたのはホイップだ。
「ホイップ殿、これを……」
 鄙は浴衣以外にも何か持ってきていたらしく、ホイップの肩に濃い色のものを掛けた。
「ん?」
「迷宮内が寒かったら大変だからな。着ていくといい」
「ありがとう!」
 ホイップは肩に掛けてもらった半纏(はんてん)に腕を通した。


 その後、しばらくすると他の人達もこの部屋に集まってきた。
 橘 カオル(たちばな・かおる)は部屋に入って来るとすぐにホイップのそばへと近寄る。
「さーせんっした!!! あれ日本の余興なんでー、ほんとちょっとした一芸なんでー……あの許してくれないなら今ここで俺まわしてもいいっす!」
 角度90度。
 カオルはぴしっと腰を曲げ、頭を下げたのだ。
「えっ!?」
「昨日は……その……回しちゃって……わんわん!」
 驚いているホイップにカオルはバツが悪そうに説明した。
 狼の耳と尻尾を出し、可愛らしく首を傾げた。
「お手!」
 ルカルカは横から手を出すとカオルはすぐに反応し、お手をした。
「ねっ? おちゃめさんなの。許してあげて?」
「うん、大丈夫だよ。だから気にしないで?」
「ありがとうございますっ!」
 許してもらえると、カオルはまたも90度に腰を曲げた。


「ホイップ殿……ちょっと良いか?」
「うん、何?」
 ホイップは黎に声を掛けられた。
「ホイップ殿は玄武甲を手に入れたらどうするつもりだ?」
「オレも興味あるな」
 瓜生 コウ(うりゅう・こう)が言うと、周りにいるソア、ベア、『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)、陣、小尾田 真奈(おびた・まな)、エル、ルディ・バークレオ、ラグナ・アールグレイ(らぐな・あーるぐれい)ルディ・スティーヴ(るでぃ・すてぃーぶ)オブジェラ・クアス・アトルータ(おぶじぇらくあす・あとるーた)月詠 司(つくよみ・つかさ)シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)早川 呼雪(はやかわ・こゆき)ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)がホイップの返答に耳を傾けていた。
「うん……あのね……やっぱり、今のティセラはおかしいような気がして……確認したいことがあるの」
「玄武甲を使って……ということですか?」
 刀真は静かに聞いた。
「うん」
「玄武甲には一体どのようなチカラが秘められているのですか?」
 司がすかさず、質問をする。
「えっと……SPの無限回復と……精神系の魔法の解除……かな」
「ティセラに精神系の魔法がかけられとる……かもしれんと?」
 陣の言葉にホイップは頷いた。
 ホイップの反応に、皆は黙りこくってしまった。
「うん、わかった。ボクはホイップちゃんを手伝うよ」
「ありがとう」
 エルが伝えた言葉にホイップは安堵の表情を見せた。
「ホイップちゃん、迷宮へ一緒に行かない? ボクに君を守らせて欲しい」
「う、うん」
 エルの申し出にホイップは顔を真っ赤にして頷いた。
「私もご一緒致しますわ」
 ルディが言うと、周りからもホイップの同行を申し出る者が出た。
「はじめまして、いつもレオがお世話になってます」
「こちらこそ……えっと……ルディさんにそっくりなんですね」
 ルディ・スティーヴは、ふふっと笑った。
「ティセラについて疑問に思うことがあったのだが……さきほどのホイップの言葉でなんとなく納得したよ。エリュシオンに何か施されているのではないかという疑問がね。どうもはじめまして、レオと契約したオブジェラ・クアス・アトルータよ」
「うん、はじめまして!」
 オブジェラの言ったエリュシオンにはあえて触れていなかったが、ホイップも気にしてはいるのかもしれない。
「ホイップ、迷宮で玄武甲を手に入れたとしても、持ち帰るまで気を抜かないこと」
「うん、ありがとう。気を付けるね!」
 ソラがホイップに念を押した。
「ホイップさんは……ティセラさんが放っておけないんですね」
「……うん」
 ソアが言うと、ホイップは素直に頷いた。
「では、私も精一杯お手伝いさせて頂きますね!」
「うん!」
 ホイップの両手をぎゅっと握った。
 他にもホイップと一緒に迷宮へと行くメンバーはそれぞれ挨拶している。
「皆さま、迷宮に入る前にこちらを」
 挨拶が一通り終わると真奈が持ってきたトランシーバーを手渡していく。
 ちょうど、この部屋の中にはティセラ側の人間はいないようだ。
「携帯がつながらないと伺いましたので、こちらで連絡を」
 真奈は簡潔に説明を終えると陣の隣へと戻った。


 部屋の中で影薄くしているグラン・リージュにカレンがジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)とともに話しかけた。
「グランさん、一緒に組まない?」
「えっ!?」
 グランはカレンの言葉に驚きの声を上げた。
「一緒に玄武甲を手に入れちゃう華麗な姿を見せて、ホイップの好感度を上げちゃおうよ!」
 両手のこぶしを握り、力強く誘う。
「で、ですが……」
「一緒に行って、カレンが無理したら回復をしてくれると助かる」
 ジュレールの言葉に少し考え、口を開いた。
「そういうことでしたら……」
「決まりっ!」
 カレンはグランとジュレールの手を取り、上へと突きあげ気合いを入れた。

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 みんな迷宮へと向かうメンバーが決まったところで、お互いの作戦でも練っているのかいったん解散となった。
 この部屋に残っているのはルカルカとホイップのみ。
 エル達と一緒に行こうとしたホイップをルカルカが呼びとめたのだ。
 部屋の外ではルディ・バークレオやロザリィヌ達、一緒に向かうメンバーが待機している。
「ねぇ、ホイップ……ちょっと聞きたい事があるんだけど……良い?」
「うん、どうしたの?」
「あの……ね。剣の……花嫁って言いづらいなぁ……剣の一族の寿命ってどれくらい?」
 ホイップへと真剣な表情で質問をする。
「人間と同じくらい……だいたい80年って言われているよ」
「えっ!? でも、ホイップは5000年前から生きてるんだよね?」
「えっと……十二星華は特別なの。寿命は……ないの」
 少しさみしそうにホイップがルカルカに笑いかける。
「そんなの……」
 ルカルカは涙を溜めて、ホイップに抱きついた。
「ねぇ、今のまま人間と恋に落ちちゃって良いの?」
「え……?」
「ホイップにとっては一瞬の恋だよ? 他の人を又好きになるかもだけど、もしその人をずっと想うなら貴女は永劫の孤独地獄になるんだよ? そこ、どう考えてる?」
 ホイップから少し体を放して、じっと見つめる。
「えっと……」
「……ごめん。でもね。私はまだエルを認めてない。貴女の幸せを真に考え願ってると思う? 私なら、永劫の孤独に愛する人が残るのは嫌。幸せを願えばこそ、愛は告げれない! 告げずに、命続く限り守り愛す!」
 力強い言葉。
「逆に私が貴女でも、逝く人の心残りを想えばこそ、応えられないと思う……。だから、ホイップが今どう思っているのか知りたい」
 真っ直ぐに見つめられてホイップは少しとまどいを見せた。
 部屋の外では話しを聞いていたエルが真剣な表情でじっと聞いていた。
 ルディ・バークレオ達も同様だ。
「あのね……私、今まで恋愛対象としての好きな人っていなかったんだ。えっと、5000年前の事から人と関わらないようにしてきたのもあるんだけど……。でね、確かに私の時間の中では一瞬かもしれない……それでも、今一緒にいたいなって思うよ」
 ホイップはまた少しさみしそうに笑う。
「勿論、みんなとも! 未来を考えてないわけじゃないよ? だけど、う〜んと……みんなと一緒に生きていこうと思ったんだよ。この先も一緒に笑ったり、泣いたり、どこかに出かけたりしたい、って」
「うん、私もホイップと一緒に色んなことしたい!」
「ありがとう」
 2人の会話を聞いていたエルは真剣な表情を崩さず、その場を離れた。
 それを見た、他の人達もルカルカ達が出てくる前にと動いた。

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 迷宮へと向かう直前に到着した者がいた。

「ご協力感謝しますわ」
 ティセラの元に着いたマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)が近寄る。
「また石化出来るチャンスをくれるなんて嬉しいなぁ〜」
 マッシュはうきうきしている。
「一つ聞きたいことがある」
 シャノンが口を開いた。
「なんでしょう?」
「この前、台風をわざわざ破壊していたようだが、何故だ?」
「シャンバラ王国を災害で滅ぼすわけには参りませんもの」
「それだけか?」
「ええ」
「そうか」
 ティセラの言葉に納得したかは分からないが、協力する為の準備を始めた。
(いずれ……ティセラは背徳行為をしなくなるのかもしれないな)
 シャノンは自分の危惧を口にも表情にも出さない。


 白馬に乗ってやってきたのは鬼院 尋人(きいん・ひろと)だ。
 右手に握られている携帯にはブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)から送られてきた温泉でまったりしているという内容のメール本文とブルーズとファルが楽しそうにクラゲを作っている写メが出ていた。
「えっ!? 温泉でゆっくりするんじゃないの!?」
「ああ、玄武甲の探索だ」
 呼雪の言葉に尋人はがくりと膝を落とした。
 メールの内容からてっきり敬愛する黒崎 天音(くろさき・あまね)達と一緒に温泉に入ることが出来ると思い込んでいたようだ。
(……でも探索が早く終われば温泉に一緒に入れるかも!?)
「頑張るよ!」
 少し考え、元気を取り戻した。
「ああ。それにしても……可愛いな」
「えっ!? うっ!? ええっ!?」
 呼雪はふふっと笑い、言われた尋人は真っ赤になっている。
「コユキ……なんかまた誤解を受けるようなことを言ってると思うよ?」
「ん? そうなのか? 張りきりだしたから探索後の温泉が楽しみなのかと思っただけなのだが?」
「うん、やっぱりちょっと誤解が生まれそうな発言だよ」
 呼雪はファルにつっこまれたが、首を傾げている。
「そうだ、僕は迷宮の中には入らないから。これ、渡しておく」
 そう言うと天音はピッキング道具を呼雪に渡した。
 横では受け取ろうと思っていたファルが手を出して待っていたのだが、華麗にスルーされてしまった。
「あ、あれ〜? なんでコユキに渡すの? これでも機械修理とか得意だし、結構器用なんだから!」
 頬を膨らませて怒っている様は愛らしい。
 ファルの手をじっと見て――
(その手で……?)
 なんてことを天音は思っていた。
 結局ピッキング道具は呼雪が預かったのだった。
「そう言えばさ。そのホイップとかいう人の本名って――」
「ホイップ・アルデバランだよ」
 尋人の問いにファルが素早く答えた。
「…………愛馬であるアルデバランと名前が一緒なんだな。ちょっと親近感」
 尋人はぼそりを呟いたのだった。

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「ここが迷宮の入り口だ」
 鄙が指差したのは崖にぽっかりと空いている大きな穴だ。
 大柄な人が3人くらいは余裕で入れそうだ。
 しかし、その奥は薄暗く、外からでは一体どうなっているか全く見えない。
 旅館の裏にこんな大きな崖があったのもびっくりだ。
 それぞれ組んだチームをゆっくりと洞窟の中へと吸い込まれていく。
 あるていど、皆が入ったところでティセラ側の人物達が入って行った。
 しかし、ティセラが入る様子はなく、メイベル達に誘われお茶をすすっている。
 黎はそんな様子のティセラを挑発し、迷宮内に誘い込もうとしていたが、メイベル達が嬉しそうなのを見て、断念したようだ。
 ティセラの後ろには気配を消している者がいるようだが、まだばれていないようだ。
 迷宮の入り口では、隠れ身とブラックコートで姿を消した島村 幸(しまむら・さち)と迷彩塗装を施したブラックコートを見に纏ったメタモーフィック・ウイルスデータ(めたもーふぃっく・ういるすでーた)がいた。
 入口付近にスコップで何かをしている。

 こうして、玄武甲探索が始まった。