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リアクション
★ ★ ★
「いっくぜー!」
「おっまかせー!」
ゲームセンターで、姫宮 和希(ひめみや・かずき)とミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が、ちっちゃなギターのネックを振り上げる。
昔懐かしいギター演奏の音ゲーであるが、空京ではまだ現役であるらしい。
アトラス・ロックフェスティバルの興奮を思い出しながら、姫宮和希はコントローラーのレバーを弾いてギターをかき鳴らした。ゲーム機用のミニギターもどきのコントローラーなので多少勝手は違うが、出てくる音はそれなりのエレキギターの音である。
「いい感じ。おしい、もうちょっとでハイスコアだったんだぜ」
一曲弾き終わって、ミューレリア・ラングウェイが残念そうに言った。軽快にリズムを刻んだつもりだが、まだ少し乗りが足りなかったらしい。
「よし、次は上級モードで、ツインリードに挑戦だ」
「おっまかせー」
ミューレリア・ラングウェイが、ネコミミをピクピクさせて応える。
さすがに弦がないので、チョーキングなどの細かいテクニックは使えないが、コントローラーの角度によってファズがかかったりと結構音色が変化する。派手なパフォーマンスで弾けば弾くほど、いろいろな音が出せるという仕組みだ。
「いぇーい!」
「なんだか、むこうで盛りあがってる人たちがいるわね。こちらも負けずに盛りあがりましょう」
エアーホッケー台を取り囲んで、白波 理沙(しらなみ・りさ)が言った。少し離れたゲーム機では、姫宮和希とミューレリア・ラングウェイがジャンピングしたり、派手なパフォーマンスで乗りまくっている。
「ゲーム代ぐらいは俺が持とう。みんな思いっきり楽しんでくれ」
「太っ腹だね。でも、手加減はしないよ」
財布片手に言う虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)に、クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が言った。
「じゃあ、くじ引きでチーム分けだよね」
ファニー・アーベント(ふぁにー・あーべんと)が、リボンを使った即席のくじを用意して言った。二つ折りにしたリボンの端をそれぞれでもって、同じリボンをつかんだ人同士がペアという物だ。
「では、第1回戦。ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)、サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)組vs白波 理沙(しらなみ・りさ)、ファニー・アーベント(ふぁにー・あーべんと)組」
虎鶫涼が、ゲームの開始を宣言した。ゲーム機なので、試合は時間制だ。五分間でたくさんゴールした方が勝ちとなる。
「えー、よりによってジィーン君と!? 代わり映えしないなあ」
「その代わり、ストレートで勝てばいいんだよ。ホッケーは初めてだが、すぐ慣れるぜ。要は、ゴールに突っ込めばいいんだろが」
くじの結果にちょっとがっかりしているサフィ・ゼラズニイとは対照的に、ジィーン・ギルワルドはすでにやる気まんまんだった。
「敵は強そうだけど、チームワークは悪そうよね。終わったわね。私たちに勝てるかしら」(V)
「守りは任せてだもん」
白波理沙とファニー・アーベントの方は、自信に満ちて落ち着いている。
試合は、パワーゲームとなった。
果敢に責めたてる白波理沙の攻撃を、ジィーン・ギルワルドが力任せに突き返す。馬鹿正直の飛んでくるパックは分かりやすいが、受けるファニー・アーベントのマレットを持つ手が痺れるほどだ。
「少しは手加減してよね」
たまに意表を突いて直接シュートしながらファニー・アーベントが叫んだ。
戦いは点の取り合いとなったが、真正面から打ち合う他の三人の隙を突いて、変則的なシュートで点を稼いだサフィ・ゼラズニイのおかげで、四対三と、ジィーン・ギルワルド、サフィ・ゼラズニイ組が辛勝する。
「残念。負けちゃったかー」
「でも、楽しかったよね」
さすがに全力の戦いで、負けた白波理沙とファニー・アーベントも悔いはないというところだ。
続く第二試合は、フィール・ルーイガー(ふぃーる・るーいがー)、レアティータ・レム(れあてぃーた・れむ)組vs白波 舞(しらなみ・まい)、クライス・クリンプト組だ。
「えっと……、このティーポットの蓋……みたいなので打ち返すんですよね……」
「多分それでいいと思うんだけれど」
マレットを持ってちょっとおどおどしているフィール・ルーイガーに、レアティータ・レムが自信なさそうに答えた。
「私も、あんまりしたことないのよ」
「大丈夫。さてと、それじゃ、勝ちに行きましょう」
同様にあまり自信がなさそうな白波舞に対して、クライス・クリンプトは自信満々だった。
どうも、先ほどとの戦いとは対照的に、超初心者の戦いとなりそうである。
「では、舞さん、パス行きますよ……と見せかけて、シュート!!」
開始早々、クライス・クリンプトのフェイントシュートが炸裂する。
「きゃあ……」
「反則……違うの?」
容赦のない先制攻撃に、フィール・ルーイガー組はすでにパニックである。
「いけますよ。一気に勝ってしまおうよね」
勝利を確信したクライス・クリンプトが、白波舞に声をかけた。
「え、えーと……」
そうは言われても、白波舞としては、状況がよく分かっていない。
「きゃー、また来ます……」
「来るな、来るなー!」
再び襲い来るクライス・クリンプトのシュートに、フィール・ルーイガーとレアティータ・レムが無茶苦茶にマレットを動かした。
「えいえい!」
カン。カン。
「ええっと……えいっ」
スカッ。ガコン。
「へっ!?」
白波舞が豪快に空振りした。打ち返されてきたパックが、ゴールに吸い込まれていく。
「入ったー」
フィール・ルーイガー組がだきあって喜んだ。
「やばい、僕が頑張らないと、ゴールはがら空きかも」
クライス・クリンプトは気を引き締めた。
戦いは、一進一退で、それでも四対六で白波舞組が勝利した。
「いえーい……はれっ!?」
勝利のハイタッチを白波舞としようとして、クライス・クリンプトがスカる。
「いつ負けたの?」
「ありがとうございました」
まだルールが飲み込めていないレアティータ・レムの横で、フィール・ルーイガーがぺこりとお辞儀をした。
次は、アンネリーゼ・シュライエント(あんねりーぜ・しゅらいえんと)、虎鶫涼組vsランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)、カイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)組の戦いだ。
「いよいよ、真打ち登場というところだな」
「何でもかんでも打ち返せばいいんだよねー。アンネリーゼ、やっちゃうんだもん」
最後の組とあって、待ちくたびれていたアンネリーゼ・シュライエントたちはやる気まんまんだ。
「初めてだけど、がんがん打ち返せばいいんだよな」
「ランディと似たようなものだが、俺たちが組んだんなら、勝ちはもらったぜ」
ビギナーとはいえ、ゲームとかスポーツでは引けはとらないと、ランディ・ガネス組も自信満々だった。
試合は、およそ守りなんか無視の総力戦となった。打ち返せなければゴールである。最大の防御は攻撃なのだ。
「七対九……、なんでこんなに点が入るんだよ」
クライス・クリンプトが唖然とする中で決着がついた。勝者は、ランディ・ガネス組だ。
とはいえ、三組では数が半端になるので、敗者組の中でもっとも高得点をあげたアンネリーゼ・シュライエント組が敗者復活となる。
「では、準決勝」
白波理沙の宣言で、準決勝が始まる。
ジィーン・ギルワルド、サフィ・ゼラズニイ組vsアンネリーゼ・シュライエント、虎鶫涼組だ。
試合は、ジィーン・ギルワルドとアンネリーゼ・シュライエントの激しい打ち合いの下、サフィ・ゼラズニイと虎鶫涼が必死に守るという構図になった。
両者一歩も譲らず、四対四の同点で時間が迫った。
激しい打ち合いのスピードで、めまぐるしくパックがいききする。それはもう、テンポよくリズムを刻んでいるという感じだ。
「あまりむきになるのもなんですから、ゲームは楽しみましょう」
最後の最後で、虎鶫涼がフッと肩の力を抜いた。突然、パックのスピードが落ちる。
「あっ!」
ジィーン・ギルワルドがスカった。予想していなかった出来事に、サフィ・ゼラズニイも追従できない。
ゴール。
四対五で、アンネリーゼ・シュライエント組が辛勝した。
「やった、決勝なんだもん!」
得意満面で、アンネリーゼ・シュライエントが叫んだ。
準決勝第二試合は、白波舞、クライス・クリンプト組vsランディ・ガネス、カイル・イシュタル組の戦いだ。
これまた初心者同士の戦いとなったが、白波舞以外は、敵を倒す気まんまんだった。
試合は、ランディ・ガネスとカイル・イシュタルの猛攻が続いた。完全に気圧された白波舞とクライス・クリンプトはお互いのマレットをぴったりと合わせたまま、防戦一方である。
ところが、あまりにもランディ・ガネスたちのシュートがもの凄いため、弾かれたリターンも通常のシュートなみのスピードで返ってくる。なまじ攻撃に特化した分、守りは甘かった。ゴールできないと、自分の方のゴールにパックが吸い込まれていくのだ。
「ランディ、少しは守れ!」
「そういうのは、あんたに任せるぜ」
言い合いつつも、ランディ・ガネスたちは攻撃の手を緩めなかった。
その失点のほとんどが自殺点であったような気もするが、結果は七対八で、ランディ・ガネス組の辛勝であった。
「決勝はリターンマッチか」
「受けてたとうじゃねえか」
奇しくも準決勝と同じ組み合わせになって、両者が対峙した。
さすがに、ここまで来ると四人ともエアーホッケーに慣れてきたようである。ちゃんと攻撃と防御を使い分けられるようになってきている。
「クッション使え、クッション」
「いったん止めて、止めて」
「いいブロックです」
「どっちも負けないでー」
一進一退でゲームが進んでいく。
時間切れでエアーが止まる直前、ランディ・ガネスの力押しの一撃がゴールに突き刺さった。
試合終了。
三対四。僅差で、ランディ・ガネスとカイル・イシュタルの優勝となった。
「やった、一番だぜ!!」
優勝した二人が、息もぴったりに持っていたマレットを打ち合わせて、カチンと小気味いい音をたてた。
「証拠写真……じゃなかった、記念写真撮ろうぜ!」
嬉しくてたまらないランディ・ガネスの提案で、一同はプリクラを撮ることとなった。
「あそこあそこ」
虎鶫涼にだっこされた、レアティータ・レムがプリクラコーナーを指して言った。
いくつかあるブースの一つでは、クレーンゲームで手に入れた特大ジェイダス人形をかかえたミューレリア・ラングウェイが姫宮和希とくっついてポーズをとっている。
虎鶫涼は試合のペアごとに別れると、記念のプリクラを撮って楽しそうに交換していった。
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