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リアクション
★ ★ ★
「ひな、これなんかどうでしょうか」
ガラス製のシャンバラ宮殿のライトをさして、御堂 緋音(みどう・あかね)が桐生 ひな(きりゅう・ひな)に訊ねた。
「うーん、凄いけど、ちょっと大きすぎて邪魔かも。誰かにプレゼントするんでしょう?」
「ええ、そうなんですが……」
さすがに、桐生ひな本人への誕生日プレゼントだとは口には出せずに、御堂緋音は答えた。
「そうだなあ、夢を追う人なら、この間ヒラニプラの山で見つかったっていう遺跡飛空戦艦『ヒラニプラシップ(仮名)』の1/100プラモデルとか」
「それって、凄く大きそうですが」
いくらなんでもプラモデル化されるの早すぎるだろう。パラミタの業者は、どこまで商売に貪欲なのだろうか。
「じゃあ、熱い人なら『パワードスーツ戦隊のジオラマ用キット』とか。これなんか、五体セットで、一応縞々とかの彩色済みですよ」
「パイロットがついていると、それはそれでちょっと嫌な感じが……」
背景がお城セットのようだが、鎧ふうで似合うと言えば似合うし、メカメカしくって不似合いだと言えば不似合いなジオラマだ。
「たとえば、ひなならどんな物がほしいのですか?」
「そうですねえ。形に残る物がいいですけれど、心に残る物もいいですよねー。ここしばらくはパラミタから出たことがありませんでしたから、地球への小旅行のツアー券なんていうのもいいかも。パラミタから出たことのないお友達だったら、これが最高でしよう。私の一押しです」
「うーん、旅行券ですかあ」
当然、桐生ひなは地球出身だから、どちらかといえば帰省ということになる。それは、少し主旨が違うような。どうしたものかと、御堂緋音は考え込んだ。
「そんなに悩んでるんなら、いったん食事でもしましょう。お腹がいっぱいになれば、いいアイディアが湧いてくるかもしれないですよ」
そう言って、桐生ひなは御堂緋音を食事に誘った。
屋上には、定番のフードコーナーが並んでいる。
お茶漬けとお好み焼きを頼むと、桐生ひなと御堂緋音は一つのテーブルで仲良く食事を始めた。
入れ替わるように食事を終えた蓮見朱里たちが、併設された屋上遊園地の方へむかう。
「わあ、一度これに乗ってみたかったんだよね」
観覧車を見あげて、蓮見朱里がどきどきしながら言った。
「乗ってみるか」
エルシュ・ラグランツが同意して、二人ずつ小さなゴンドラの中に乗り込む。
ゆっくりと、大きな車輪が回っていった。
★ ★ ★
「だから、その格好は困るんですったらあ」
「何よ、お客様にその態度は。見なさい、殿方の熱い視線を。みんな、私を支持しているんだもん」
デパートの警備員に、屋上の隅に引きずられていった雷霆リナリエッタが言い返した。
「まったく、お仕事とはいえ、無粋ですね。ここは吸精幻夜で……」
「はーい、そこの君、暴れると御主人様に怒られちゃうよー」
すかさず雷霆リナリエッタを助けに入ろうとしたベファーナ・ディ・カルボーネだったが、応援に駆けつけてきた別の警備員に、あっさりとその身を蝕む妄執で拘束されてしまった。
「ああ、リナ、ふまないでください。痛い痛い……」
床にひれ伏したベファーナ・ディ・カルボーネが頭をかかえて悲鳴をあげる。
「キミは、いつもこの人に何をしているのかね?」
見かねて、警備員が雷霆リナリエッタに訊ねた。
「失礼なんだもん。何もしてないもん」
顔を真っ赤にして、雷霆リナリエッタが答えた。
「うーん」
本当だろうかと、二人の警備員があからさまに首をかしげて悩む。
「ほ、本当よ! こんなふうに踏んだりしないんだから……」
地面でごろごろしているベファーナ・ディ・カルボーネを足先でつつきながら、雷霆リナリエッタが力説した。だが、その行動はまずいだろう。
「なんだなんだ、なんで水着の姉ちゃんが男蹴飛ばしてるんだ?」
卵と液体洗剤の入ったビニール袋と、お徳用箱詰めティッシュ五個セットを両手にぶら下げて持った弐識 太郎(にしき・たろう)が、騒ぎを聞きつけて首を突っ込んできた。
弐識太郎は、いつもはキマクでストリートファイトに明け暮れている。今日はたまさか空京デパートに買い物に来ていたのだが、ラッキーだとそのときは思った。こういうもめ事は、三度の飯よりも好きなのである。
「違うんだもん。私は何もしてないのにこの人たちが……」
雷霆リナリエッタが、適当にいいわけを並べる。
「分かった。いや、よく分からないが、俺に任せておけ」
安請け合いすると、弐識太郎は問答無用で警備員たちに突っかかっていった。
「こらキミ、勘違いを……」
戸惑う警備員に強烈な回し蹴りで先制攻撃を行う。
吹っ飛ばされた警備員が、観覧車の制御小屋に突っ込んでいった。中の機械が故障したのか、観覧車の回転が止まった。
「あれ?」
一番高い所近くて突然止まった観覧車に、蓮見朱里が驚いて周囲を見回した。
「落ち着いて、朱里。これくらいの高さであれば、朱里をだきかかえて飛び降りるぐらいは造作もないことだよ」
アイン・ブラウが落ち着くようにと言った。
機晶姫はある程度の飛翔能力を持っている。もちろん、長距離飛行はオプション無しでは無理であるが、十メートルやそこらの垂直移動なら、人一人をかかえていても何も問題はない。
「そうよね、アインがいるんだもん。何も心配することはないんだよね」
自分に言い聞かせるように、蓮見朱里はつぶやいた。
「ねえ、さっき買ってもらった指輪なんだけれど……」
止まってしまったような時間の中で、蓮見朱里はおずおずとアイン・ブラウに話しかけた。
アクセサリー売り場に行ったときに、スーツの御礼と言うことで、アイン・ブラウに指輪を買ってもらったのである。アイン・ブラウは何も考えていなかったので、それをうながされるままに蓮見朱里の左手の薬指に填めたのだった。
「さっきの左手の薬指の指輪はね、結婚を誓いあうって意味なの……、だから……、私でよければ……、アインさえ迷惑でなければ……、お嫁さんにしてもらっても……いいかな?」
途切れ途切れに言葉を紡ぎながら蓮見朱里がアイン・ブラウに訊ねた。
「そうですか。また一つ朱里に教えてもらいました。できれば、これからもいろいろと教えてほしいと思います。一緒に……」
「動かないですねえ」
すぐ隣のゴンドラで二つの影が重なっていったころ、ディオロス・アルカウスはエルシュ・ラグランツを見つめてつぶやいた。
「いや、そうでもないさ」
空京の街を見下ろしながら、エルシュ・ラグランツはつぶやいた。
「実は、俺……転校考えてるんだ」
「そうですか」
ディオロス・アルカウスはそれだけ言って、ニッコリと微笑んだ。
「今日は、みんなにとって、人生の記念日となるでしょう」
4.タシガンの小部屋
「買い物は嬉しいんですけれどー、正直何を買ったらいいのか分からないですー。さとぅるんとの生活で、それほど困ることはないですしー」
クリスティア・アーゲルタイン(くりすてぃあ・あーげるたいん)が、キラキラと光を反射しながら言った。身体の表面がクリアパーツで構成されているために、金属の機晶姫とはまた違う印象を与える。
「遠慮することはないんだよ。いろいろな生活用品がみんなと共用じゃ大変だろ」
「それじゃあ……」
サトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)に言われて、クリスティア・アーゲルタインが考えた。
「身体を磨くための大きくて目の細かいシリコンクロスがほしいです。それから、できれば充填補修材を作るための薬とか……」
「じゃあ、それは買おう。でも、他にもいろいろ、たとえば着るものとかも買わないと。レンやカー姉がやってきたときなんか、お輿入れとか言って家財道具一式持ってきたんだよ」
「はいはーい、レンレンは、チャイナドレスなら選べるよ。ロングとかミニとか……」
燕 蓮果(えん・れんか)が手を挙げて名乗りをあげた。
「レンに任せては、極端に偏ってしまうわね。いいでしょう。私が選んであげます。ついでですから、サトゥも着せ替えて遊びましょう」
「わーい」
カーリー・ディアディール(かーりー・でぃあでぃーる)の言葉に、燕蓮果が両手を挙げて喜ぶ。
「じゃあ、レンレンは、アクセサリー選ぶよ。これ、女の子にとって大事ね」
「それはいいですが、僕の着せ替え遊びは却下ですからね、カー姉。服とかは二人に任せますから、僕はタンスとかの家具を用意しましょう」
まとめて買い物ができるようにと、タシガンでは珍しいホームセンターへとでかける。衣料品センターも隣に建っていてショッピングパーク化しているので、買い物には便利だ。タシガン古参の吸血鬼たちはこういった地球の文化には眉を顰めがちだが、いちいちツァンダや空京まででかけなければならないのは不便だと思うのでサトゥルヌス・ルーンティアとしては歓迎している。
「これなんかどうでしょう」
籐のタンスを選んで、サトゥルヌス・ルーンティアが聞いた。クリスティア・アーゲルタインの身体の造りでは指先がすべりがちだろうから、こういった木製で取っ手などがしっかりついている物の方が使いやすいだろう。
「ついでに、ベッドも強化スプリングの入ったマットレスの、がっしりとした物を選ばないと。いっそ、高反発性ウレタンの物にでもするかな」
「ええと、よく分からないので、お任せしますー」
楽しそうに買い物を進めるサトゥルヌス・ルーンティアに、ちょっと戸惑い気味にクリスティア・アーゲルタインが言った。
「そうそう。そういうのはサトゥに任せて、女の子はやっぱり服よね」
カーリー・ディアディールはそう言うと、ファッションセンターの方にクリスティア・アーゲルタインを引っぱっていった。
「うんうん、やっぱり、クリスにはレースふんだんのゴチックな服が似合うわ」
目の粗いレースであちこちがシースルーとなった黒いドレスをクリスティア・アーゲルタインに試着させて、カーリー・ディアディールは満足そうだった。服自体が身体を被う面積は大きいものの、スケスケなので露出度は結構高い。
「ええと、かりかり、なんだか、こういう物は着慣れないのでー」
軽く身体を動かしながら、クリスティア・アーゲルタインが言った。ゆったりとしたレースの部分がそのたびにゆれて、クリスティア・アーゲルタインの身体の光を微妙に変化させる。
「誰がかりかりかよ。女の子は、もっと自分の身体のことをよく知らないと」
「アクセサリー、集めてきたよ」
センスよく決まったかと思われたところへ、燕蓮果が戻ってきた。両手いっぱいに、派手なデコレーションのついた髪飾りなどをかかえている。それはいいのだが、ショートケーキのついたかんざしとか、文字通りドーナツ型の腕輪とか、やはり偏りすぎだ。
「ええとー、れっち、とりあえず、服でもうお腹いっぱいなのでー」
さすがに、やんわりとクリスティア・アーゲルタインが断った。
「おーい、そっちはもう終わった……。うん、いい感じじゃないか。で、レンは何をかかえているんだ? お腹でもすいたのか?」
家具の配達の手配をすませて合流したサトゥルヌス・ルーンティアが、燕蓮果のかかえている小物たちを見て首をかしげた。
「じゃあ、さっさと終わらせようよ。そして、レストランに食事にでも行こう。ああ、クリスはそのままでいいから。その方が素敵だ」(V)
サトゥルヌス・ルーンティアが、クリスティア・アーゲルタインにそのままのドレスで来るように言った。
「えー、でもー」
「今日の主役だからね。着飾らなくっちゃ。さあ、どうぞおいでくださいませ、お姫様。ボクたちの輪の中へ」
そう言って手をとると、サトゥルヌス・ルーンティアは、クリスティア・アーゲルタインを三人の輪の中へと導いた。
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