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リアクション
第四章 雪だるま王国の陰謀
ウサギ探しを約束したバニー☆ファイブ達と別れた護衛組は、再びウサギ探索へと戻っていた。大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)はそんな護衛組に混じってウサギを探しているのだが、これがまた心中では複雑なのであった。というのも、彼は生粋の軍人体質である。ソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)から護衛任務のことを聞いた大洞は、なるほど、要人の護衛か、これは気合を入れて挑まねば……! と思っていたのだが、いざ着いてみれば娘っ子とウサギの追いかけっこである。大洞は溜め息を吐きたい滅入った気分を落ち着かせて、プリッツの護衛をしているのだった。
「あら、じゃあ、お菓子作りはお父様に習いましたの?」
「ええ、そうなんです」
ソフィアは大洞とは対照的に、プリッツの護衛を楽しんでいるようであった。
大洞は神経を集中させながらも思う。こんなの見つかるはずもないだろうと。しかし、そこは口に出さないのが彼の軍人たる性格ゆえか。彼はプリッツの気が済むまで付き合う覚悟であった。
そんな大洞は、ふと冷えるような音を聞いた。しっ――と護衛組の全員に伝える。ぴたっと止まった空気の中で、風にも似た音が全員の耳に届く。大洞は、この先で何かがあると思った。
護衛組は音に注意を払いながら、先へと進んだ。すると、前方の薄闇の中に人影を見つけた。
乳白金の髪色をしたツインテール娘――四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は、迷宮のマッピングをしている最中であった。彼女は自筆の地図を片手に、うんうんと唸っている。彼女の横では、褐色肌が特徴的なエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)が銃型HCに浮かぶ地図と自筆の地図とを照らし合わせていた。
護衛組が彼女に近づこうとすると、唯乃ははっとなって振り返った。
「誰……!」
彼女は身を引いた。そして、確認のように呟く。
「あちゃー、見つかっちゃったかぁ」
唯乃は頭を抱え、エラノールと顔を見合わせると、プリッツ達に背を向けて逃げ出した。
「あ、ちょ、ちょっと待ってっ!」
プリッツ達は慌てて唯乃を追いかけた。
彼女達が逃げた先は一本道である。すぐにも追いつくはず――と、思って辿り着いた先は、一つの巨大な部屋だった。そこはドーム状になっており、まるで何かの集会が行われる場所のようでもあった。護衛組はその大きさに驚いたが、それ以上に驚愕だったのは――冬のように凍える寒さだったことである。
「な、なんだこりゃあ……!」
鈴木を初めとして、護衛組は皆がくがくと震え出した。
寒さの原因は――まるで野球ボールのようにどんどん氷術を放つ、やかましい集団であった。
「ハーハッハ! さぁ、どんどん凍らせてしまうのです! やれ放てっ、いざ放て!」
「拙者も頑張るでござるよー!」
氷術集団の先頭に立つクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)と童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)は、プリッツ達の存在など気づいておらず、どんどん氷術を放っていった。彼らの指示に従って、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)、アルフォニア・ディーゼ(あるふぉにあ・でぃーぜ)、ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)、アルマンデル・グリモワール(あるまんでる・ぐりもわーる)という氷術メンバーも、波状攻撃を放つ。いわば、氷の風のハリケーンというわけだ。呪文によって増幅された魔力が、よりいっそう激しい氷術を生み出しているのである。
プリッツ達はまるで冷蔵庫の中に閉じ込められたかのような寒さで、凍え死ぬかと思うほどだった。そんなとき、がたがたと震えていたプリッツ達は、集団の中に先ほど逃げ出した四方天唯乃を見つけた。彼女は、氷術の連続使用で疲れる仲間に声援を送る、小動物のような少女へと向かっていた。
「ふれー! ふれー! 雪だるま王国ー!」
どうやら歌には仲間の疲れを癒す効果があるらしいが、一見するとそれは応援歌にしか聞こえなかった。そんな応援歌を歌う少女の傍へ辿り着いた唯乃は、彼女にプリッツ達の方を指し示した。なるほど、どうやら報告に戻ったようである。リーダー格と思われる小動物少女は、無表情のままプリッツ達のもとへとやってきて、人差し指を眼前に突き出した。
「何者です!」
プリッツにしては珍しく、こっちの台詞……というツッコミが浮かんだ。とはいえ、それを口に出すことはしない。彼女はやはり戸惑った笑顔で少女に事情を説明した。
「なるほど、そうでしたか」
赤羽 美央(あかばね・みお)は納得したように頷いた。
話によると、彼女は雪だるま王国という非公式自称国家の王らしい。なぜ雪だるま……? と思わなくはないが、それは突っ込まないのが筋というものだ。
「ハッハー、残念ながら、ミー達のところにウサギはやってきていませーん!」
ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)は未央の横で、薔薇とライトブレードを掲げながら言った。
「うるさいです」
「ぎゃー!」
未央がジョセフの足を踏み潰すと、ジョセフはウサギさながらにぴょんぴょんと跳ね回った。
「まぁ、私達のこのドーム部屋氷室化計画を邪魔しないのであれば、お手伝いするのは全然構いませんよ」
「本当ですかっ!?」
プリッツは未央の心優しい言葉に胸を打たれた。
しかし、とりあえずは、この寒さをどうにかしてもらわないと始まらない。プリッツに頼まれた未央は護衛組の皆にもアイスプロテクトをかける。と――彼女の後ろに控えていた鬼崎 朔(きざき・さく)の耳がぴくりと動いた。
「陛下、何かが近づいてきます」
「なんですと……?」
未央は鬼崎の視線を追った。だが、その気配に誰もが気づいたとき、時は既に遅かった。
ドーム部屋へと突入してきたのは、数多くのモンスター達であった。なぜ、突然……!? 鬼崎は思考を巡らせたが、その答えはすぐに分かった。
「ハハハハハハ! いや、実に素晴らしい氷のアート!」
モンスター達は高笑いするクロセルのほうを睨みつけていた。
……なるほど。彼のやかましさに睡眠か何かを邪魔された、というわけか。騎士団長でありながらヒーローのお約束を重んじる彼の行動が、今回は仇になったようだった。
鬼崎は高周波ブレードを構えた。来るなら来い。陛下には指一本触れさせん。
戦闘は、始まった。
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神和 綺人(かんなぎ・あやと)は女に見紛うような顔をしていながらも、その身に鋼のような芯を持った少年であった。冷静に物事を客観視し、状況を判断することが出来る。事実、彼はモンスターの襲撃を感じ取るやいなや、プリッツを背後に逃がしたのだった。
ベオウルフの爪が綺人を襲う。切っ先が眼前に迫るが、綺人はその目は軌道を予測していた。
ここだ……! 綺人はごく僅かな動作で切っ先を避け、村雨丸を突き出した。
「ユーリ!」
「おう、任しとけ」
刀の先が敵を貫こうとするその瞬間、後衛に控えていたユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)がパワーブレスを唱えた。刀に宿る力の流れは、まるで抗う竜のように奔流する。
刃がベオウルフを貫く――と思ったとき、即座に綺人は軌道を変えた。プリッツに血なまぐさいところを見せるわけにもいかない。そう思ったからである。刃はベオウルフの横の壁を破壊した。奔流する力は壁の表面を粉々に砕き崩す。べオウルフはその力に圧倒され、本能的に逃げ去った。続けて他のモンスターも綺人を狙うが、そこを防いだのは神和 瀬織(かんなぎ・せお)であった。
「いきます」
彼女は破壊力抜群のサンダーブラストを放った。うねる魔力は敵を包み込み、そして、雷電を巻き起こす。近くにいたモンスター達は我先にと逃げ出した。
「すごい……」
彼女達の戦闘光景を見ていたプリッツは呆然と呟いた。
「そりゃあ、アヤですから!」
プリッツの傍で彼女を守っていたクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は、見惚れたように言った。
綺人は、そんな彼女に照れくさそうな笑みを浮かべた。
「おいおい、見せ付けてる場合じゃないぜ」
綺人の横に飛び退いてきた橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、悪戯な顔で言った。彼は襲い掛かってきたモンスターを見事な身体捌きで蹴り飛ばす。そんな彼の横では、橘 綾音(たちばな・あやね)が松明を振り回していた。
「えいっ、えいっ」
「綾音、君はあっちでプリッツを守ってくれ」
いつの間に仲良くなっていたのか、恭司は綾音に指示を出した。そして、彼は綺人とともに身構える。
「あそこにリーダー格がいるようだ」
「あの鎧を着込んだモンスターですか?」
「ああ、その通り。といっても、いくつかいるみたいだがな」
恭司の視線が向かう先――皮鎧を身につけたベオウルフに、綺人は的を絞った。
彼の手がぼんやりと光ったと思ったとき、氷の部屋に輝くは雷の刃だった。蛇のようにうねうねと飛翔した雷は、見事にリーダー格のベオウルフを焼き尽くす。恭司はすぐにそのベオウルフのもとへと駆け、追撃の蹴りを与えた。
「やるじゃないか」
恭司の言葉に、綺人は不敵でありながも照れくさそうな笑みを浮かべた。
そんな彼らから離れていたプリッツの前では、綾音とクリスが敵を追い払っている。
「こっちに来ないでくださいー!」
「来たらなぎ倒して差し上げますよ!」
松明をぶんぶんを振る綾音と、巨大な斧を持つクリスによって、モンスター達は近づけずにいた。それにしても、数だけは多いものである。どうにかならないものかと、誰もが思っていた。
新月 ミカヅキ(しんげつ・みかづき))、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)、尼崎 里也(あまがさき・りや)。彼女達は知らぬ間に入れられていた「白魔隊」として、迫り来るモンスターの脅威から雪だるま王国の者達を守っていた。そのサポートをするのは、氷術波状攻撃部隊である。
「頑張ります……」
レイナは呟いて、敵を弱らせるべくどんどん氷術を放っていく。
「さて、わしの力はどんなものか」
「ボクもいくよー!」
アルマンデル、アルフォニアの二人も、レイナに着き従うように氷術攻撃を行っていた。
氷術で弱った敵を各個撃破するのはウルフィオナである。彼女はまるで流水のように流れる動作で、蹴り技を繰り出していく。それはまるで氷上の舞子のように美しかった。
もちろん、白魔隊もウルフィオナに負けてはいない。格闘術ならば、スカサハは荒々しいながらも見事な破壊力である。加速ブースターを用いてジョット機のごとく加速したスカサハの拳は、モンスターの身体にめり込んでその身を吹き飛ばす。美しいか否かは別とすれば、その威力は素晴らしいものだった。木葉のように敵を薙ぎ倒していくのは、尼崎の刀であった。近代的な高周波ブレードながらも、彼女は敵の攻撃を見事に見切り、返す刀で斬り裂いていく。言わばそれは、柳のそれであった。風に逆らうことはない。しかし、柳は必ず戻るものだというわけだ。
尼崎の斬っていくモンスターにかるーいとどめを刺すのは、ミカヅキであった。彼は光学迷彩とブラックコートで気配を消しながら、ひょこひょこと歩いて弱っているモンスターを倒していくという、実に地味な戦い方をしていた。いや、これもまた一つの戦法なのだろう。
――白魔隊や氷術部隊にやられていく中、難を逃れたモンスターがいた。それはリーダー格のオークであった。さすがはリーダー格といったところだろうか。オークは僅かな頭を使って、敵のリーダーを倒してやろうという結論を導き出したのである。
雪だるま王国女王陛下、赤羽未央に危険が迫る……! と思ったとき、オークの持っていた斧を狂人的に弾き返したのは、鬼崎であった。オークは彼女を見た。まさか、モンスターである自分がモンスターを見るとは思っていなかっただろう。
鬼崎の纏うオーラは、まさに鬼人のそれであった。非情で、冷酷な、見る者を凍りつかせる顔は、モンスターをも震え上がらせる。陛下に攻撃を企てるとは、生かしておけん。彼女の目はそう語っていた。
オークはまるで泣きじゃくる子供のようにぶるぶると震え、脱兎の如く逃げ出した。鬼崎の殺気を感じたモンスター達は、次々と逃げ出していく。やがて、ドーム部屋の中のモンスター達は、その全てが殺気に追い払われた。
ぞくっとする鬼崎の顔を見て、仲間達は思った。彼女を怒らせてはならない、と。
鬼崎の怒りがようやく落ち着いた頃、護衛組は雪だるま王国の国民に別れを告げるところだった。
「それじゃあ、女王陛下さん。私達は先を急ぎます」
「ウサギさんを見つけたときは、ちゃんと捕まえておきます。安心してください」
未央とプリッツは微笑みを交し合った。
まるで、本当の女王と冒険者との会話のようだが――目的はウサギと氷室化であることはあしからず。
果たして、ウサギがどこに逃げたのか。それは誰にも分からなかった。
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