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【金鷲党事件 一】 ~『絆』を結ぶ晩餐会~ (第1回/全2回)

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【金鷲党事件 一】 ~『絆』を結ぶ晩餐会~ (第1回/全2回)

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序章 開会

「皆さん、どうか今夜は、思い切り楽しんで下さい。そして、出来るだけ多くの方々と、その楽しい時間を共有して下さい。それで皆さんが、1人でも多くの友人を得る事ができれば、私にとってこれに勝る喜びはありません」
 紫を基調とした豪奢な振袖に身を包んだ少女が、そう言って優雅に頭を下げると、会場中から割れんばかりの拍手が巻き起こった。
 今ちょうど、主催者である五十鈴宮円華による、晩餐会開会の挨拶が終わった所だった。

「円華さんの挨拶、ステキでしたねー!」
 うっとりした顔でそう言ったのは、蒼空学園報道部所属の2年生、森下冬希(もりしたふゆき)である。くりくりした眼にまんまるのメガネが印象的な、どこか『いたずらっ子』を彷彿とさせる少女だ。
 会場で借りたのだろう、あまり飾りのない、落ち着いたカンジの淡いブルーのイブニングドレスを着ている。ネックレスやイヤリングに加えて、『報道』と書かれた腕章を身に着けているのが、いかにも彼女らしい。
「確かにね。彼女の、この会に寄せる決意の程が伝わってくる、いい挨拶だった」
 そう言って頷いたのは、同じ蒼空学園の社会科教師、御上真之介(みかみしんのすけ)である。
 御上は、もはやトレードマークとなっている分厚いビン底メガネに、やはり会場で借りたタキシードといういでたちだったが、彼の場合、どこかタキシードに『着られている』感が否めなかった。メガネのせいもあるのだが、とても28歳には見えない。うっかりすると、学生にでも間違えられそうな勢いだった。

「でも、まさか総奉行ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)まで来るとは思いませんでした。この前の報道では、参加しないって言ってたのに……」
 意外そうに、森下が言った。
「これまで公表しなかったのは、テロを警戒してのことなんだろうけど……。まさか本当に参加するとはね」
 御上が、厳しい顔で応える。
 「本日、私に取って、本当に嬉しいお客様が駆けつけて下さいました。葦原明倫館総奉行、ハイナ・ウィルソンさんです!」
という円華の言葉に続いて彼女が壇上に登った時には、会場中にどよめきと緊張が走ったものだ。
「ハイナさんが来た途端、そこら中でひそひそ話が始まりましたからね。きっとあれ、警備の人達ですよ、みんな。そりゃ、金鷲党が犯行予告している現場に、その金鷲党の最大の敵であるハイナ・ウィルソンが現れたんだから、驚くのもしょうがないと思うけど。でも、あんなに露骨に話してたら、私服の意味ないですよねぇ?」
 如何にも問題だ、とでも言う様にまくし立てる森下。
「そうだね……」
 曖昧にそう答えながら、御上の意識は思考の海に沈んで行こうとしていた。
(警備担当者が驚いていたと言う事は、ハイナの出席は主催者側にとっても想定外だったと言う事になる。勿論、上層部には最初から予定の事項であって、情報漏洩を恐れて末端まで伝えなかった可能性はある……。しかし、仮にそうだとしても、警備に与える影響は大きいだろう。しかも、あえて自分の存在を誇示するような真似までして……)

「ねぇ先生、どこに行きましょうか?」
 突然の声に、御上は顔を上げた。いつの間にか自分の世界に入ってしまったらしい。森下が、不満そうな顔をしている。
「あ、あぁ、そうだね。どこにしようか?」
 御上は慌てて、入場時に渡された会場図を開いた。

 会場である空京海浜庭園は、空京港に隣接する埋立地に作られた、広大な庭園である。
「地球の文化をシャンバラの人々に伝える」事を目的に、日系の企業グループが建設したもので、園内を5つに区切り、フランス式、イギリス式、イタリア式、日本式、中国式の5種類の庭園が配されている他、船舶の停泊が可能な港まで備えている。今回はこの港に客船「まほろば」が横付けされ、6番目の会場となっていた。

「浜離宮位はあるな……」
「『浜離宮』って、なんですか?」
「知らない?浜離宮恩賜庭園。東京都の新橋の近くにある、大きい公園。海と繋がってる池があったりしてさ。明治時代には迎賓館があったりしたんだけど……」
「すみません、私、静岡県出身なんで……」
 森下が手を振って否定する。
「でも、海と繋がってるなんて、確かにちょっと似てますねー」
「こっちは池どころか港だけどね」
 そう言って、御上は笑った。
 
「ご歓談中のところ、失礼致します。御上様でいらっしゃいますか?」
 突然の声に振り返ると、そこには、タキシード姿の男が立っていた。以前何度か見かけたことのある、五十鈴宮家の者だ。
「は、はい。御上ですが……?」
「円華様が御上様にお会いしたいとおっしゃっておられまして……、少々、お時間よろしいでしょうか?」
「えっ、円華さんが?分かりました。すぐに行きます」
 御上にとって、今日この会に出席した一番の目的は、円華と会う事である。御上は一も二もなく了承した。
「え!御上先生、円華さんとお知り合いなんですか!?」
「あ、い、いや。まぁ、その……」
 思わず言いよどむ御上。森下君のことだ。自分が円華と知り合いだとわかったら、「先生、円華さんに独占インタビューさせて下さい!それがムリなら、せめて同席だけでも!!」とか言って迫ってくるに決まってる。今日は、それだけは避けたかった。
「ごめん、森下君!また後でね!!」
パンッ!と手を合わせると、御上は一目散に逃げ出した。
「え、ちょっと!先生、御上先生!こ、コラーッ、待てー!!」
 待てと言われて待つ奴はいない。御上は、そのまま人混みへと姿を消した。